融資と決算書|赤字でも融資を受けるには
「去年赤字だったので、相談に行く前からあきらめています」「決算書のどこを見られているのか、そもそも分かりません」――融資のご相談では、この2つがよく出てきます。
結論からお伝えすると、赤字であることそのものが融資を止めるわけではありません。金融機関が見ているのは、返済に回せる現金がどれだけ生まれるかという一点で、赤字はその判断材料のひとつにすぎません。実際、営業利益に減価償却費を足した金額がプラスであれば、返済原資は残っています。問題になるのは、赤字の理由を説明できないことと、実態の貸借対照表が債務超過になっていることです。
税理士法人Light UPでは、決算書は税金を計算するための書類であると同時に、金融機関に対する自社の名刺だと考えています。税負担を抑えるためだけに数字を作ると、資金調達の場面で不利になります。
この記事では、金融機関が決算書のどこを見ているか、実態の貸借対照表に引き直される仕組み、赤字でも融資が出るケースと出にくいケース、そして赤字のときに用意する資料まで整理します。
決算書は返済能力を測るための共通言語
結論: 金融機関は決算書をもとに、返済に充てられる現金がどれだけ生まれるかを判断します。決算書は税額を計算するための書類であると同時に、資金調達の場面では会社の実力を示す唯一の共通資料になります。
融資の申込みで最初に求められるのは、決算書2期分から3期分です。事業の説明を聞く前に、まず数字を見る。それが金融機関の手順です。
数字は加工されていない過去の記録として扱われます。だからこそ、期中の説明よりも重く見られます。
決算書だけが確定した数字として扱われる
過去は決算書、現在は試算表、未来は事業計画書。この3つで会社を判断します。
このうち決算書だけが、税務申告を経た確定した数字です。言い訳のきかない資料として扱われるのは、そのためです。
税務申告のための決算書は、法人税法のルールに従って作られています。金融機関は、そこからさらに実態に近づける調整を加えて評価します。
回収できない売掛金、動かない在庫、社長への貸付金。これらは帳簿上の資産ですが、返済能力を測る場面では資産と見なされません。
赤字は理由とセットで評価される
赤字という事実だけでは、判断材料になりません。何によって赤字になったのか、それは続くのか、一度きりなのか。ここまで説明できて初めて評価が定まります。
一時的な要因であれば、その内容と金額を切り分けて説明できます。同じ理由が翌期以降も続くのであれば、話は変わります。決算書を提出する前に、この説明を自分の言葉で用意しておくことです。
見られているのは4つの区分
結論: 金融機関の定量評価は、安全性・収益性・成長性・返済能力の4区分で行われます。このうち返済能力を示す債務償還年数は、新規の借入ができるかどうかを最も左右する指標です。
| 区分 | 代表的な指標 | 何を見ているか |
|---|---|---|
| 安全性 | 自己資本比率、流動比率 | 借入に耐える体力があるか |
| 収益性 | 売上高経常利益率、総資本経常利益率 | 稼ぐ力があるか |
| 成長性 | 売上高増加率、経常利益増加率 | 事業が伸びているか |
| 返済能力 | 債務償還年数、営業利益+減価償却費 | 借りた資金を返せるか |
債務償還年数がいちばん重い。自己資本比率と債務超過
有利子負債から現預金を引いた金額を、営業利益に減価償却費を足した金額で割ると、いま借りている資金を返し終わるまでの年数が出ます。
業種によって見方は変わりますが、10年を超えると新規の借入は難しくなる傾向があります。自社の年数を先に計算してから相談に行く。これができると、話の進み方が変わります。
純資産が総資産に占める割合が自己資本比率です。これがマイナス、つまり債務超過になると、評価は大きく下がります。
赤字が続いて累積の欠損が資本金を食いつぶすと、この状態になります。単年度の赤字より、債務超過かどうかのほうが重く見られます。
非財務の面も見られている
数字だけで決まるわけではありません。経済産業省が公表しているローカルベンチマークは、経営者、事業、企業を取り巻く環境・関係者、内部管理体制という4つの視点で非財務面も整理する枠組みです。
同庁の資料では、この枠組みは「企業の経営者等と金融機関・支援機関等が同じ目線で対話を行うための基本的な枠組み」と説明されています。決算書が弱いときほど、こちらで補える部分があります。
決算書の提出後に区分が見直される
結論: 金融機関は取引先を債務者区分に分けて管理しており、決算書を受け取るたびに見直します。区分が下がると新規の融資が難しくなるため、決算の内容は次の1年間の資金調達の前提を決めることになります。
区分はおおむね、正常先、要注意先(うち要管理先)、破綻懸念先、実質破綻先、破綻先という並びで整理されます。名称や運用は金融機関ごとに違いますが、考え方は共通しています。
決算後2〜3か月で反映される。区分が下がると起きること
決算書を提出すると、その内容をもとに区分が見直されます。3月決算の会社なら、5月から6月ごろに次の1年間の位置づけが決まる形です。
このタイミングを知っておくと、決算の着地を早めに読む理由が分かります。決算日の直前ではなく、3か月前から動くのはこのためです。
新規の融資が止まる、金利の条件が変わる、追加の資料を求められる。いずれも借り手側から見れば、急に対応が変わったように感じられます。
実際には、決算書を出した時点で決まっていたことが後から表れているだけです。
下がった区分を戻すには
1期の改善では戻りません。改善計画を作り、その進捗を継続して報告し、2期から3期かけて実績を積むことになります。
このとき、中小企業活性化協議会や認定支援機関の支援を受けられる制度があります。自力だけで抱え込まない選択肢があることは知っておいてください。
1期の改善では戻りません。2期続けて数字が良くなったところで見直されます。
実態の貸借対照表に引き直される
結論: 金融機関は、決算書の資産を実態の価値に修正した実態貸借対照表を作って評価します。回収できない売掛金や役員貸付金は資産から除かれ、帳簿上は資産超過でも実質的に債務超過と判断されることがあります。
ここを知らないまま、帳簿の純資産だけを見て大丈夫だと考えている経営者は多くいます。
資産から引かれるものと、社長からの借入金の扱い
- 役員貸付金・仮払金:回収の見込みが立たない資金として、資産から除かれます
- 不良債権:長期間動いていない売掛金は、回収不能とみなされることがあります
- 不良在庫:何年も動いていない在庫は、実際の価値まで引き下げられます
- 保険積立金や不動産に含み損があれば、その分も調整されます
一方で、社長個人から会社への借入金は、実質的に返済を求められない資金として資本に近い扱いをされる場合があります。
このため、社長借入が多い会社では、帳簿より実態のほうが良く出ることがあります。マイナスの調整だけではないという点は知っておいてください。
役員貸付金は評価を下げる
会社から社長個人への貸付金は、金融機関がいちばん嫌う項目のひとつです。返ってこない資金と見なされるうえ、会社と個人の区分ができていない証拠として読まれます。
中小企業庁は、経営者保証に関するガイドラインの3要件のひとつを「資産の所有やお金のやりとりに関して、法人と経営者が明確に区分・分離されている」と示しています。役員貸付金があると、この要件から離れることになります。
赤字でも融資が出るケース
結論: 赤字の原因が一時的なもので、営業利益に減価償却費を足した金額がプラスであれば、返済原資は残っています。設備投資・役員退職金・特別損失による赤字は、説明できれば評価に響きにくい類型です。
減価償却前の利益が残っている。一度きりの損失による赤字
減価償却費は現金の出ていかない費用です。会計上は赤字でも、減価償却費を足し戻すとプラスになる会社は少なくありません。
設備投資をした直後は、償却の負担が重くのしかかります。この構造を説明できれば、赤字の意味が変わって伝わります。
役員退職金の支給、店舗の閉鎖にともなう損失、災害による被害。これらは翌期に繰り返されるものではありません。
決算書のどこにその金額が入っているのかを示し、それを除いた場合の利益を並べます。この1枚があるかないかで、説明にかかる時間が変わります。
創業期の赤字と、社長借入を戻すと黒字になる場合
事業を始めて間もない時期の赤字は、織り込み済みとして見られます。判断の中心は、計画に対する進捗です。
同じ赤字でも、中身が違えば見方は変わります。
社長への支払利息や地代家賃を止めれば黒字になる、という会社もあります。実態としての稼ぐ力を示す材料になります。
ただし説明が複雑になるため、資料として整理しておかないと伝わりません。
赤字でも出にくいケース
結論: 赤字が複数期続いている、債務超過に陥っている、税金や社会保険料を滞納している場合は、融資のハードルが大きく上がります。滞納は理由を問わず影響が大きい項目です。
3期以上続く赤字、実質的な債務超過、税金・社会保険料の滞納
単年度の赤字は説明できますが、続く赤字は事業の構造の問題と見られます。この場合は、新規融資よりも改善計画の相談が先になります。
実態の貸借対照表で純資産がマイナスになっていると、返済能力そのものが疑われます。解消までの道筋を示す計画が必要です。
これは最も重い項目です。公的な支払いを止めている会社に、新たな資金は出しにくい。滞納がある場合は、まず納付の相談を先に済ませます。
分割納付の合意があり、それを守っている状態であれば、説明の余地は残ります。
決算書の数字が動く
前期と当期で科目の使い方が変わっている、修正申告が続いている。こうした状態は、数字そのものの信頼度を下げます。
前期と当期で説明のつかない増減があると、数字そのものの信頼が下がります。科目の使い方を毎期変えないこと、大きく動いた項目には理由を用意しておくことです。決算書は3期分を並べて見られます。1期だけ整えても、前後との差でかえって目立ちます。
減価償却をめぐる誤解
結論: 中小企業では減価償却費を任意で計上できますが、償却を止めて利益を出した決算書は、金融機関に償却不足を戻して評価されます。表面上の黒字は、この調整で消えます。
赤字を避けるために減価償却を止める。この判断は、実務でよく見かけます。
法人税申告書の別表十六には、償却限度額と実際の償却額が記載されています。金融機関はここを見て、不足額を利益から差し引きます。
つまり、表面上の黒字は評価に反映されません。それどころか、数字を作ったという印象が残ります。
償却を止めれば当期の税負担は増え、利益は大きく見えます。税務上は不利で、金融機関の評価も改善しない。どちらの目的にも届かないという結果になりがちです。
償却を行い、その結果として赤字になったのであれば、減価償却費を足し戻した金額を示します。こちらのほうが説明としては強くなります。
赤字のときに用意する3点セット
結論: 赤字決算で融資を相談する場合は、赤字の原因を示す資料、改善の見通しを示す計画、そして現在の状況を示す試算表と資金繰り表を用意します。この3つが揃っていれば、話は前に進みます。
- 原因を1枚にまとめる:どの科目でいくら発生したのか、それは一時的か構造的かを書きます
- 改善策と時期を示す:すでに実行したこと、これから行うこと、その効果が出る時期を並べます
- 試算表を出す:直近の月次で、改善が数字に表れ始めているかを示します
- 資金繰り表を添える:返済を続けられることを、月ごとの現金の動きで示します
- 想定される質問への答えを用意します
悪い情報こそ先に出す
赤字を小さく見せようとすると、後から追加の質問が続きます。先に出して、原因と対策をセットで説明したほうが早く進みます。
隠して発覚した場合、その1件だけでなく説明全体の信頼が下がります。融資の審査は、決算書の数字だけでなく期中のやり取りも含めた信頼で成り立っています。悪い情報を隠していたことが後から分かると、次に良い話をしても素直に受け止めてもらえなくなります。
すでに動いていることを示す
計画だけを出すより、すでに手を打っていることを示すほうが伝わります。固定費の削減、不採算取引の見直し、単価の改定。小さくても実行済みの事実には重みがあります。
いつ、何を、どれだけ実行したのかを日付入りで示せると、説明に具体性が出ます。「これから頑張ります」ではなく「すでにここまでやりました」という順番で伝えるほうが、赤字の説明では相手に伝わりやすくなります。
相談先による違い
結論: 融資の相談先には、信用保証協会の保証を付ける民間金融機関、日本政策金融公庫、そして制度融資があります。赤字のときは、保証や公的制度を使える窓口のほうが道が残ります。
| 相談先 | 特徴 | 赤字時の見られ方 |
|---|---|---|
| 民間金融機関のプロパー融資 | 保証なし。金融機関が全額のリスクを負う | 最も厳しい。実績のある会社向け |
| 信用保証協会付き融資 | 協会が原則80%を保証 | 制度の枠内であれば相談の余地が広い |
| 日本政策金融公庫 | 政策的な役割を持つ | 創業期や再挑戦の局面で選択肢になる |
| 自治体の制度融資 | 自治体・金融機関・保証協会の3者 | 利子や保証料の補助がある場合がある |
取引先の倒産、災害、業況の悪化といった事由に該当すれば、一般保証とは別枠の保証を受けられます。利用には市区町村の認定が必要です。
赤字の原因が外部要因にある場合、この枠に該当しないかを確認する価値があります。
新しい窓口を探す前に、いま取引のある金融機関に相談します。決算内容を把握している相手のほうが、事情を理解したうえで検討してもらえます。
決算前にできること
結論: 赤字を避けるための操作ではなく、実態を正しく表す決算にすることが、結果として評価につながります。決算日の2〜3か月前から着地の見込みを立てておくと、打てる手が残ります。
着地を早めに読み、科目を整理する
期末の1か月前に赤字が判明しても、できることはほとんどありません。3か月前であれば、資産の整理や回収の前倒しといった選択肢が残ります。
役員貸付金、仮払金、長期未収入金。決算書に残ると評価を下げる科目は、期中に整理できないかを検討します。
期末の残高がそのまま評価の対象になる。この点を意識しておくと、月次の処理も変わってきます。
税負担を軽くするか、評価を上げるか
利益を圧縮すれば税負担は軽くなりますが、決算書の見え方は悪くなります。近い時期に融資を予定しているなら、この判断は変わります。
税負担と決算書の見え方は、多くの場合トレードオフの関係にあります。どちらを優先するかは、その期だけでなく、翌期以降に融資を使う予定があるかどうかまで見て決めることです。融資の予定がないなら税負担を軽くする判断で構いませんが、翌期に大きな投資を控えているなら話は変わります。
よくある相談事例
製造業|設備投資による赤字/小売業|減価償却を止めて黒字にしていた
新しい機械を導入した翌期に赤字となり、融資を断られたご相談でした。減価償却費を足し戻すとプラスになる状態でしたが、その説明が資料になっていませんでした。
償却前の利益を並べた1枚を作り、設備の稼働状況と受注残を添えたところ、相談が前に進んでいます。数字そのものは変えていません。
赤字を避けるため、数年にわたり減価償却を計上していなかった会社です。別表十六から償却不足が読み取れる状態で、金融機関の評価には反映されていませんでした。
正しく償却したうえで、償却前の利益を説明する形に切り替えました。当面は決算上の赤字が出ますが、説明はしやすくなっています。
建設業|役員貸付金が残ったままだった/飲食業|社会保険料の滞納
社長個人への貸付金が長年計上されていた会社です。融資の相談のたびに指摘を受けていました。
役員報酬の水準を見直しながら数年かけて解消する計画を立て、その進捗を毎期報告する運用に変えています。すぐには消えない項目です。
赤字の相談として来られましたが、社会保険料の滞納があることが分かりました。この状態では、新規の融資は難しいと判断されます。
まず年金事務所と分割納付の相談を進め、合意した内容を守っている実績を作ることから始めました。順序としては、こちらが先でした。
よくある質問
赤字だと融資は受けられませんか?
何期連続の赤字までなら大丈夫ですか?
減価償却を止めて黒字にするのは有効ですか?
税金を滞納していても相談できますか?
決算書のどこを直せば評価が上がりますか?
まとめ:赤字そのものより、説明できるかどうか
- 金融機関が見ているのは、返済に回せる現金がどれだけ生まれるかです
- 評価は安全性・収益性・成長性・返済能力の4区分。なかでも債務償還年数が重く働きます
- 決算書は実態の貸借対照表に引き直されます。役員貸付金・不良債権・不良在庫は資産から除かれます
- 営業利益に減価償却費を足した金額がプラスなら、赤字でも返済原資は残っています
- 減価償却を止めて作った黒字は、償却不足を戻されて評価に反映されません
- 赤字のときは、原因・改善策・試算表と資金繰り表の3点を揃えて相談します
やらないほうがよいのは、赤字を小さく見せる工夫に時間を使うことです。同じ時間を、原因と対策を1枚にまとめる作業に充てたほうが、結果として話が進みます。
決算書がどう見られているかの確認や、赤字決算での相談の進め方について、税理士法人Light UPの無料相談でご一緒します。
【メタディスクリプション】
融資審査で決算書のどこが見られているかを、4つの評価区分と実態貸借対照表の考え方から整理しました。赤字でも融資が出るケースと必要な資料も解説します。




