個人事業主の税務調査とは?選ばれ方と連絡が来たときの対応を解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
個人事業主にも税務調査は来ます。国税庁が令和7年12月に公表した令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)の所得税の調査等は73万6千件で、その9割を超える68万9千件は、文書や電話、来署の依頼で申告の見直しを求める簡易な接触(行政指導)でした。実地調査は4万7千件です。
この記事では、選ばれ方、連絡が来たときの確かめ方、家族への給与・自宅兼事務所の経費・売上の帳簿という個人事業ならではの論点、白色申告と青色申告の違いを、国税庁の公表資料(2026年10月時点)で整理します。
個人事業主にも税務調査は来る?
結論: 来ます。令和6事務年度の所得税の調査等は73万6千件で、実地調査は4万7千件、残りの68万9千件は文書や電話などで見直しを求める簡易な接触(行政指導)です。
令和6事務年度の件数
国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月)が示す、所得税の調査等の件数は次のとおりです。
| 区分 | 令和6事務年度 | 前事務年度 |
|---|---|---|
| 調査等の合計 | 73万6千件 | 60万5千件 |
| うち非違があった件数 | 36万9千件 | 31万1千件 |
| 実地調査 | 4万7千件 | 4万8千件 |
| 簡易な接触 | 68万9千件 | 55万8千件 |
追徴税額は、調査等の合計で1,431億円(前事務年度1,398億円)と過去最高でした。件数が増えたのは簡易な接触です。
この資料は件数の公表で、個人事業主のうち何%に調査が来るかという確率は出ていません。
簡易な接触という行政指導
国税庁は、簡易な接触を「原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するもの」と説明しています。申告書に計算誤りや記載漏れがあると思われる人に、見直しを求める行政指導です。
件数には、更正の請求に基づく減額更正や、添付書類の提出依頼も含まれます(国税庁の注記)。ただし、申告漏れ等の非違があった36万9千件のうち32万9千件は、簡易な接触で見つかったものです。
税務調査の対応でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、行政指導と調査の取り違え、家族への給与と届出のずれ、自宅兼事務所の按分根拠の不足、売上の記録の不備の4つです。どれも、追加の税金や加算税の割合が上がる原因になります。
連絡が来てから慌てて通帳や領収書を探し始める個人事業の方が少なくありません。先に確かめておきたいのは、次の4つです。
行政指導と調査の取り違え
国税庁の事務運営指針は、調査または行政指導に当たる行為をするときは、対面・電話・書面の別を問わず、どちらの事務として行うかを明示すると定めています。電話や封書が届いたら、まず、どちらの手続かを確かめます。
行政指導は、自発的な見直しの要請です。見直して誤りがあり、自主的に修正申告書を出したときは、延滞税は納めますが、過少申告加算税はかかりません。当初の申告が期限後申告だったときは、無申告加算税が原則5%かかります(国税庁FAQ問2)。
調査の通知を受けたあとに修正申告をすると、過少申告加算税がかかります(国税通則法65条)。同じ誤りでも、どの段階で正すかで、加算税の扱いが変わります。
家族への給与と届出のずれ
生計を一にする配偶者や親族に払った給与は、原則として必要経費になりません。例外が、青色申告の青色事業専従者給与と、白色申告の事業専従者控除です(タックスアンサーNo.2075、令和8年4月1日現在法令等)。
| 項目 | 青色事業専従者給与 | 白色の事業専従者控除 |
|---|---|---|
| 認められる金額 | 届出書に書いた金額の範囲内で、労務の対価として相当な額 | 配偶者は最高86万円、配偶者以外は1人につき最高50万円(控除前の事業所得等の金額を、専従者の数に1を足した数で割った額が低ければ、その額) |
| 手続 | 届出書をその年の3月15日までに出す(新たに開業した年や専従者が増えた年は、その日から2か月以内)。金額を増やすときは変更届出書を遅滞なく出す | 確定申告書に、控除を受ける旨と金額を書く |
どちらも、その年の12月31日現在で15歳以上で、その年を通じて6か月を超えて専ら事業に従事していることが条件です。
間違いは、届出書を出していない、届出書の金額を超えて払っている、実際には働いていないの3つです。過大な部分や認められない部分は必要経費にならず、その分、所得が増えて追加の税金が出ます。専従者として給与を受ける人は、配偶者控除や扶養控除の対象にもなれません。
自宅兼事務所の按分根拠の不足
自宅の家賃や水道光熱費、通信費、車の費用は、家事用と事業用の両方に関わるため、事業の分だけを必要経費にします。国税庁は、取引の記録などに基づいて、事業の遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合の、その区分できる金額に限ると説明しています(タックスアンサーNo.2210)。
割合そのものより、なぜその割合なのかを説明できるかが問われます。事業で使う部屋の床面積や、車の走行距離の記録を算定した年に1枚残しておけば、翌年以降も同じ説明が使えます。区分できない部分は必要経費にならず、所得が増えます。
売上の帳簿と通帳の不備
事業所得のある方は、白色申告でも記帳と帳簿書類の保存が必要です(タックスアンサーNo.2080)。
売上の帳簿が整っていないと、加算税の割合が上がります。令和5年分以後の所得税では、売上に関する帳簿の提示を求められて出さなかった場合や、帳簿の売上の記載が本来の金額の2分の1未満の場合は、過少申告加算税・無申告加算税の割合が10%加重されます。3分の2未満の場合は5%の加重です。災害で帳簿を失ったなど、納税者の責めに帰すべき事由がないときは除かれます(国税通則法65条4項、国税庁Q&A)。
国税庁の調査事例には、売上に係る書類をすべて破棄していたため、取引先への反面調査で収入を把握され、破棄が隠蔽行為に当たるとして重加算税が課された例があります。
事業用と生活用の口座が同じだと、事業の入出金を分けて説明する作業が要ります。国税庁のFAQは、法人の例で、代表者名義の個人預金に事業との関連が疑われる場合は、通帳の提示を求めることも質問検査の範囲に含まれると説明しています(問7)。分けていない期間は、事業の入出金に印を付けておきます。
税理士が確認する順番
税理士は、連絡を受けた個人事業主の資料を、次の順に確かめます。
直近の確定申告書の控えと帳簿・通帳をお持ちいただければ、売上の記録のつながりと、家族への給与・自宅の按分の根拠を一緒に確かめます。
どんな個人事業主が選ばれる?
結論: 国税庁は、資料情報や申告内容の分析で、申告漏れ等が見込まれる個人を選んでいます。無申告、ネット取引、暗号資産は、重点の分野として公表されています。
選定の材料になる資料情報
実地調査のうち着眼調査は、資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人に、短期間で行う調査です。特別調査・一般調査は、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案が対象です。選定にはAIも活用されています。
資料情報には、取引先が出す支払調書や国外送金等調書などがあり、申告の内容と突き合わされます。
無申告者への調査
国税庁は、無申告者に対して、簡易な接触も使って調査していると公表しています。令和6事務年度の所得税の無申告者への実地調査(特別・一般)は4,812件で、1件当たりの申告漏れ所得金額は2,992万円と、実地調査(特別・一般)全体の1,486万円の2倍でした。
国税庁の調査事例には、従業員名義で店を営業していても、売上の管理や経営方針の決定をしていた人が実質的な所得者として課税された例があります。
申告していない年がある場合、調査の事前通知の前に自主的に期限後申告をすると、無申告加算税は税額の5%です。事前通知のあとは10%から始まり、税額が大きいほど割合が上がります(タックスアンサーNo.2024)。
ネット取引と暗号資産
国税庁は、ネット広告(アフィリエイトなど)やネット通販などの取引を行う個人と、暗号資産(仮想通貨)の取引を行う個人に対して、資料情報の収集・分析を進め、積極的に調査していると公表しています。
| 区分 | 令和6事務年度の実地調査(特別・一般) | 1件当たりの数字 |
|---|---|---|
| ネット取引などの新しい分野 | 1,155件 | 申告漏れ所得金額 1,595万円 |
| 暗号資産等の取引 | 613件 | 追徴税額 745万円(全体の299万円の2.5倍) |
消費税の調査件数
個人事業者の消費税の調査等は、令和6事務年度に18万5千件で、前事務年度の12万件から増えました。うち簡易な接触が15万7千件、実地調査が2万8千件です。
白色申告と青色申告の違いは?
結論: 白色申告にも記帳と帳簿書類の保存の義務があり、売上の帳簿に係る加算税の加重も適用されます。違いは、記帳の水準、特別控除、家族への給与の扱いです。
帳簿の水準と保存期間
青色申告の記帳は、正規の簿記(一般的には複式簿記)が原則で、簡易な記帳も認められます。帳簿書類は原則7年間、請求書や納品書などは5年間保存します(タックスアンサーNo.2070)。
白色申告は、日々の合計金額をまとめて書くなど、簡易な記帳でかまいません。保存期間は、収入金額や必要経費を記載した帳簿が7年、ほかの帳簿や書類が5年です(同No.2080)。記帳の細かさは違っても、保存の義務は同じです。
青色申告だけの特典
青色申告特別控除は、正規の簿記で記帳すると55万円、電子帳簿保存かe-Taxによる申告も行うと65万円、それ以外の青色申告は10万円です(令和8年分まで。タックスアンサーNo.2072)。令和9年分以後は、金額と要件が変わります。
自宅兼事務所の調査はどこで行う?
結論: 調査を始める場所は、事前通知で伝えられます。場所や日時の変更は、合理的な理由を付けて求められます。検査の対象は、事業に関する帳簿書類その他の物件です。
事前通知で伝えられる場所と日時
実地の調査では、国税通則法74条の9により、調査を始める日時と場所、目的、対象の税目と期間、対象の帳簿書類その他の物件などが、あらかじめ通知されます。通知は原則電話です(国税庁FAQ問12)。
日時や場所の変更は、合理的な理由を付けて求めると、税務署が協議するよう努めることになっています(同条2項)。ただし、事前通知をしないこともあります(同法74条の10)。
検査の対象になる事業の帳簿書類
質問検査の対象は、その人の事業に関する帳簿書類その他の物件です(同法74条の2)。通知された対象以外に非違が疑われるときは、その事項も質問検査等の対象になります(74条の9第4項)。
帳簿書類は、住所地や事業所の所在地に整理して保存する決まりです(タックスアンサーNo.2080)。自宅が事務所を兼ねている場合は、通知された期間の帳簿・通帳・請求書と、按分の根拠を、すぐ出せる場所にそろえておきます。
よくある質問
売上が少なくても税務調査は来ますか?
白色申告なら税務調査は来ませんか?
電話で「修正申告をしてください」と言われました。調査ですか?
事前通知の日程が合わないときは、断れますか?
まとめ:記録を残して、行政指導か調査かを確かめよう
- 令和6事務年度の所得税の調査等73万6千件のうち、68万9千件は簡易な接触(行政指導)
- 連絡が来たら、行政指導か調査かを確かめる。行政指導で自主的に修正申告すると、過少申告加算税はかからない
- 家族への給与は届出書と勤務の実態、自宅の経費は按分の根拠、売上は帳簿と通帳で説明できるようにしておく
- 白色申告にも、記帳と保存の義務と、売上の帳簿に係る加算税の加重がある
税務署からの連絡を受けて何から手を付けるか迷っている方、白色申告のままで帳簿や家族への給与に不安がある方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の申告書の控えと帳簿・通帳から、売上の記録と按分・給与の根拠を整理します。
出典
- 国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月)
- 国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
- 国税庁 タックスアンサー No.2024・No.2070・No.2072・No.2075・No.2080・No.2210
- 国税庁「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置に関するQ&A」(令和4年10月)
- 国税通則法65条・74条の2・74条の9・74条の10(e-Gov法令検索)





