法人成りの社会保険|加入手続きと負担
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「法人にしたら、社会保険は自分だけでも入るのですか」。法人成りを終えた方から、設立後にいただくご質問です。手続の期限が短いこともあり、後から気づいて慌てるという場面が少なくありません。
結論からお伝えすると、法人は従業員がいなくても社会保険の適用事業所になります。役員報酬を支払っている社長1人の会社でも対象です。そして、新規適用届の提出期限は事実の発生から5日以内と定められています。
税理士法人Light UPでは、法人成りのご相談で、税務の届出と社会保険の届出を1枚の表にしてお渡ししています。税務署への届出は意識されやすい一方、年金事務所への届出は抜けやすいためです。
この記事では、加入が義務になる根拠、必要な届出と期限、保険料の計算の仕組み、国民健康保険からの切替え、役員報酬の設定が保険料に与える影響、そして加入後に毎年発生する手続を整理します。
法人は加入が義務になる
結論: 従業員の人数にかかわらず、法人は健康保険と厚生年金保険の適用事業所です。個人事業とは扱いが違います。
条文上の根拠
厚生年金保険法6条1項は、適用事業所として「国、地方公共団体又は法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの」を挙げています。e-Gov 法令検索で条文を確認できます。健康保険法3条3項も同じ構造で、法人の事業所を適用事業所としています。個人事業では法定17業種で常時5人以上を使用する場合に限られるのに対し(2022年10月から弁護士や税理士などの士業が加わりました)、法人にはこの人数の要件がありません。この違いが、法人成りで負担が変わる最大の理由です。
社長1人でも対象になる
条文の「常時従業員を使用するもの」という文言から、社長1人の会社は対象外だと考える方がいます。しかし、法人の代表者は法人に使用されている者として扱われるため、役員報酬を支払っていれば適用の対象です。報酬がゼロであれば被保険者にならないという整理になりますが、その場合は生活の原資を別に用意する必要があります。役員報酬を支払いながら社会保険に入らないという選択はできません。
加入していないとどうなるか
未加入が判明すると、遡って加入を求められることがあります。遡及の期間は最大2年で、その間の保険料をまとめて納めることになります。建設業では許可の要件にも関わるため、影響は保険料だけにとどまりません。取引先から加入状況の確認を求められる業種も増えています。設立の段階で手続を済ませておくのが確実です。
必要な届出と期限
結論: 新規適用届、資格取得届、被扶養者異動届の3つが基本です。いずれも事実の発生から5日以内が期限とされています。
新規適用届
会社が適用事業所になったことを届け出るものです。登記事項証明書(原本)と、法人番号指定通知書の写しを添えて、事業所の所在地を管轄する年金事務所へ提出します。登記が完了してから取得する書類があるため、設立後すぐに動く必要があります。登記事項証明書は法務局で取得しますが、登記の完了までに1週間程度かかることがあります。期限との関係で、登記申請の段階から日程を意識しておく必要があります。
被保険者資格取得届
役員と従業員それぞれについて提出します。この届出で、報酬月額をもとに標準報酬月額が決まります。設立時の報酬をどう設定するかが、そのまま保険料の水準になるということです。基礎年金番号またはマイナンバーの記載が必要なので、従業員がいる場合は事前に確認しておきます。役員報酬を期首から3か月以内に決議する予定であれば、その内容と整合させます。
健康保険被扶養者(異動)届
配偶者や子どもなど、扶養する家族がいる場合に提出します。被扶養者になれば、その人の分の保険料はかかりません。認定には収入の要件があり、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)で、被保険者の年間収入の2分の1未満であることが原則です。令和7年10月1日以後に認定を受ける19歳以上23歳未満の親族(被保険者の配偶者を除く)については、収入の基準が150万円未満になります。配偶者については、同時に国民年金の第3号被保険者の届出にもなります。この場合、配偶者は保険料の負担なく国民年金の記録が積まれます。
| 届出 | 提出先 | 期限 | 主な添付書類 |
|---|---|---|---|
| 新規適用届 | 年金事務所 | 事実の発生から5日以内 | 登記事項証明書(原本) |
| 被保険者資格取得届 | 年金事務所 | 事実の発生から5日以内 | 定期券の写し等(必要な場合) |
| 被扶養者(異動)届 | 年金事務所 | 事実の発生から5日以内 | 続柄と収入を確認できる書類 |
| 国民健康保険の喪失届 | 市区町村 | 資格喪失から14日以内 | 健康保険証(新旧) |
保険料はどう計算されるか
結論: 標準報酬月額に保険料率を掛けます。会社と個人で折半しますが、一人社長の会社では実質的に全額を負担することになります。
標準報酬月額の決まり方
報酬月額を等級表に当てはめて、標準報酬月額を決めます。健康保険は第1級から第50級まで、厚生年金保険は第1級から第32級までの区分です。健康保険法40条は第1級の標準報酬月額を58,000円と定め、厚生年金保険法20条は第1級を88,000円と定めています。厚生年金には下限があるため、報酬を極端に下げても保険料はゼロにならないということです。上限もあり、厚生年金では報酬が一定以上になると保険料は頭打ちになります。
保険料率
厚生年金保険の保険料率は、厚生年金保険法81条4項により1000分の183、つまり18.3パーセントで固定されています。健康保険の料率は保険者によって違い、協会けんぽでは都道府県ごとに定められています。介護保険の第2号被保険者に該当する40歳以上65歳未満の方は、介護保険料も加わります。合計するとおおむね30パーセント前後という水準です。この半分が会社負担、半分が個人負担になります。
一人社長の実質負担
会社と個人で折半すると言っても、一人社長の会社では会社が負担する分も自分の会社の資金から出ていきます。手元の資金という観点では、全額を負担しているのと同じです。国民健康保険と国民年金の合計と比べるときは、労使合計の金額で比べる必要があります。会社負担分は法人の損金になるため、その分だけ法人税は減りますが、現金は確実に出ていきます。
国民健康保険からの切替え
結論: 自動では切り替わりません。市区町村への喪失の届出が別に必要です。年金事務所での手続だけで完了したと考えると、国民健康保険料の請求が続きます。国民年金のほうは第2号被保険者へ自動で切り替わるため、対応が分かれます。
二重に払ってしまう例
法人の健康保険に加入しても、市区町村へ国民健康保険の喪失を届け出なければ、国民健康保険料の請求が続きます。気づかずに数か月分を二重に払っていたという例は珍しくありません。新しい健康保険証が届いたら、古い保険証を持って市区町村の窓口で手続をします。オンラインや郵送で受け付けている自治体もあります。世帯の中で自分だけが法人の健康保険に移る場合は、残る家族の国民健康保険料も計算し直されます。世帯全体の保険料が変わるため、通知が届いたら金額を確認してください。
国民年金からの切替え
厚生年金保険の被保険者になると、国民年金は第2号被保険者に切り替わります。こちらは年金事務所への届出で処理されるため、市区町村での手続は不要です。健康保険は自分で手続が要り、年金は自動で切り替わるという違いを押さえておくと混乱しません。ただし、配偶者を第3号被保険者にする場合は、被扶養者異動届の提出が必要です。
切替えの時期
資格取得日は、通常は会社の設立日または報酬の支払いが始まった日です。国民健康保険はその前日までの分が対象になります。月の途中で切り替わる場合、その月の保険料がどちらに帰属するかは資格の得喪の日で決まります。健康保険では、資格を取得した月は新しい保険で1か月分、喪失した月は旧保険では発生しないという扱いになります。二重に発生することは制度上ありませんが、届出が遅れると請求は続きます。
役員報酬の設定と保険料
結論: 報酬を低くすれば保険料は下がりますが、下限があり、将来の年金額にも影響します。無理な設定は別の問題を生みます。
報酬を下げても保険料はゼロにならない
厚生年金保険法20条の等級表の第1級は88,000円です。報酬をこれ未満に設定しても、標準報酬月額は88,000円として扱われます。保険料には下限があるということです。健康保険の第1級は58,000円で、こちらも同様です。役員報酬をゼロにすれば被保険者になりませんが、生活費を会社から受け取れなくなります。他に給与所得があって、そちらで社会保険に加入しているという場合を除けば、現実的な選択にはなりません。設立当初に売上が立たない時期だけ報酬をゼロにするという形は取れます。
生活費が不足すると別の問題が起きる
保険料を抑える目的で報酬を低く設定し、不足分を会社から借りる形にすると、役員貸付金が積み上がります。役員貸付金は金融機関の評価で不利に働くほか、利息の計上も必要になります。融資を受ける予定があるなら、この形は避けたほうがよいと思います。生活に必要な額を先に決め、そこから調整するという順序が現実的です。役員貸付金には認定利息の計上も必要になるため、事務の手間も増えます。決算書に貸付金が並ぶこと自体が、説明を求められる材料になります。
将来の年金額への影響
厚生年金の受給額は、加入期間中の報酬に連動します。報酬を低く設定した期間が長いほど、将来受け取る額は小さくなります。目先の保険料と将来の受給額はつながっているという点を踏まえて設定してください。あわせて、傷病手当金や出産手当金の額も標準報酬月額をもとに計算されるため、在職中の保障にも影響します。
加入後に毎年発生する手続
結論: 算定基礎届、月額変更届、賞与支払届。この3つが定例の手続です。加入したら終わりではなく、毎年7月の算定基礎届で標準報酬月額を決め直すことになります。従業員を雇えば、資格の取得と喪失の手続も加わります。
算定基礎届
毎年7月に提出するもので、4月・5月・6月に支払った報酬をもとに標準報酬月額を決め直します。ここで決まった額が、その年の9月から翌年8月まで適用されます。役員報酬を期首に決めた場合、次の算定基礎届で保険料が更新されるという流れです。提出しないと保険料の計算が正しく行われないため、毎年欠かせない手続になります。
月額変更届
報酬に大きな変動があったときに提出します。固定的な賃金が変わり、それを含む3か月の平均で標準報酬月額に2等級以上の差が生じ、かつ各月の支払基礎日数が一定以上である場合が対象です。役員報酬を改定した場合も、この要件に当たれば提出が必要です。算定基礎届を待たずに保険料が変わります。変動があった月から数えて4か月目に、新しい標準報酬月額が適用されます。届出をしないままにすると、実際の報酬と保険料が合わない状態が続きます。
賞与支払届
賞与を支払ったときに提出します。役員に事前確定届出給与として賞与を支払う場合も、社会保険では賞与として扱われるため届出が必要です。税務上の取扱いと社会保険の取扱いは別という点に注意が必要です。標準賞与額には上限があり、健康保険は年度の累計573万円、厚生年金は1か月あたり150万円が上限とされています。
手続を自分でやるか委託するか
結論: 人数が少ないうちは自分でも回りますが、届出の期限と種類が多いため、抜けが生じやすい部分です。
自分で行う場合
年金事務所の窓口で相談しながら進められます。電子申請にも対応しており、法人であれば手続を自宅や事務所から行えます。最初の新規適用と資格取得は年金事務所に相談しながら進めるのが確実です。2年目以降は算定基礎届が中心になるため、負担は下がります。電子申請には法人向けの認証が必要なので、その準備も設立時に済ませておくと後が楽になります。届出の書式は日本年金機構のサイトから入手できます。
委託する場合
社会保険の手続は社会保険労務士の業務です。給与計算とあわせて依頼すると、報酬の変更と月額変更届の連動が自動的に処理されます。手続の期限を管理する負担がなくなるという点が、委託の実質的な効果です。従業員を採用する予定があるなら、入社と退職のたびに手続が発生するため、早い段階で体制を決めておくと運用が安定します。
事例:国民健康保険を止め忘れていた方
法人成りをされた方から、設立から4か月後にご相談をいただきました。資金の動きを確認していたところ、国民健康保険料の引落しが続いていることに気づいたという内容です。
法人の健康保険には設立の翌月に加入済みでした。
新しい保険証も手元にありました。
原因は単純で、市区町村への喪失の届出をしていなかったことです。健康保険の加入は年金事務所への手続で完了しますが、国民健康保険をやめる手続は市区町村で別に行う必要があります。この2つが別の窓口であることが知られていませんでした。
対応として、市区町村へ喪失の届出を行い、遡って還付を受けています。手続の際は、新しい健康保険証の写しを提出しました。
税務署と年金事務所の届出は済ませていたのに、市区町村の手続だけが残っていたという形です。法人成りでは届出先が3か所に分かれるため、一覧にして消し込む方法が確実だと思います。
よくある質問
社長1人の会社でも社会保険に入る必要がありますか?
手続の期限はいつまでですか?
保険料はいくらになりますか?
国民健康保険は自動でやめられますか?
役員報酬を低くすれば保険料は下がりますか?
家族を扶養に入れられますか?
まとめ:届出先は3か所に分かれる
法人成りをすると、従業員がいなくても社会保険の適用事業所になります。厚生年金保険法6条1項と健康保険法3条3項により、法人には人数の要件がないためです。役員報酬を支払っている社長1人の会社も対象になります。
手続で最も注意が要るのは期限です。新規適用届、資格取得届、被扶養者異動届は、いずれも事実の発生から5日以内。新規適用届には登記事項証明書の原本が必要なので、登記の完了から逆算して動く必要があります。
そして、届出先が3か所に分かれます。税務署(法人設立届出書など)、年金事務所(社会保険)、市区町村(国民健康保険の喪失)。このうち市区町村の手続が抜けると、国民健康保険料の請求が続きます。一覧にして順に消し込む方法が確実です。
保険料は標準報酬月額に約30パーセントを掛けた水準で、会社と個人で折半します。一人社長の会社では実質的に全額の負担になるため、法人化の試算には必ず労使合計の金額を入れてください。
役員報酬を低く設定すれば保険料は下がりますが、下限があり、将来の年金額にも影響します。生活に必要な額を先に決め、そこから調整するという順序が現実的です。
税理士法人Light UPでは、法人成りの届出について、税務と社会保険の両方をまとめてご案内しています。お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「厚生年金保険法」(昭和二十九年法律第百十五号)第6条、第20条、第81条
- e-Gov 法令検索「健康保険法」(大正十一年法律第七十号)第3条、第40条、第45条
- e-Gov 法令検索「国民年金法」(昭和三十四年法律第百四十一号)第7条
- e-Gov 法令検索「国民健康保険法」(昭和三十三年法律第百九十二号)第6条
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」
- 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」





