個人事業主の法人化|タイミングと判断基準
「利益が800万円を超えたら法人化」——よく聞く目安ですが、これだけで判断すると高い確率で外れます。税率だけを見た数字であり、社会保険料も、消費税の扱いも、2026年に変わった控除も入っていないためです。
結論からお伝えすると、法人化の損得は税率・社会保険料・消費税・事務コストの4つを同時に並べないと出ません。そして2026年から2027年にかけては、この4つのうち3つが動いています。
税理士法人Light UPでは、法人化のご相談を「いくらから」ではなく「今の数字を法人にしたらどうなるか」の試算から始めています。同じ利益でも、家族構成と業種と加入している保険で答えが変わるためです。
この記事では、法人化で変わる4つの要素から、2026年分から適用される所得控除の見直し、2割特例の終了と3割特例の創設、設立費用、そして法人化しないほうがよい場合までを、国税庁・財務省・総務省・日本年金機構の公表資料に沿って整理します。
法人化で変わる4つのこと
結論: 法人化で変わるのは税率だけではありません。社会保険、消費税、事務コストが同時に動くため、この4つを並べて初めて損得が出ます。
税率の構造が変わり、社会保険の加入義務が生じる
個人の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がります。法人税は所得の大きさで2段階しかありません。利益が大きいほど法人有利、小さいほど個人有利という単純な構造がここにあります。
個人事業主は国民健康保険と国民年金ですが、法人になると役員1人でも社会保険の適用事業所になります。保険料の会社負担が新たに発生するのが、法人化で最も見落とされる項目です。
消費税の扱いが変わり、事務コストが増える
法人を新たに設立すると、原則として設立1期目と2期目は基準期間がないため納税義務が免除されます。ただし例外が多く、インボイス登録をしている場合は当てはまりません。
税の話が終わると、次は手間の話になります。
決算と法人税申告、社会保険の手続き、法人住民税の均等割が加わります。赤字でも出ていくお金があるという点は、個人事業との決定的な違いです。
税率の構造を数字で比べる
結論: 個人の所得税は5%から45%の7段階、法人税は中小法人で15%と23.2%の2段階です。この差が法人化の出発点になります。
所得税と法人税の税率、住民税と事業税も乗ること
国税庁は所得税の税率について「分離課税に対するものなどを除くと、5パーセントから45パーセントの7段階に区分されています」と説明しています。法人税は資本金1億円以下の中小法人で、年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です。
| 課税所得 | 所得税率 | 中小法人の法人税率 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 15% |
| 330万円以下 | 10% | 15% |
| 695万円以下 | 20% | 15% |
| 900万円以下 | 23% | 15% |
| 1,800万円以下 | 33% | 15%(800万円以下)/23.2% |
| 4,000万円以下 | 40% | 23.2% |
| 4,000万円超 | 45% | 23.2% |
上の表は所得税と法人税だけです。個人には住民税と個人事業税が、法人には法人住民税と法人事業税が別に課されます。実効的な負担で比べないと判断を誤ります。
所得を2つに分けられる。防衛特別法人税が加わる
法人化すると、会社の利益と役員報酬に所得を分けられます。どちらにも低い税率帯が用意されるため、分けること自体に意味が生まれます。ただし役員報酬は期首から3か月以内に決めた金額を1年間変えられません。
令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、法人税額から年500万円を控除した額に4%を乗じた防衛特別法人税が課されます。中小企業では税額が生じないことも多い一方、税額が0でも申告は必要です。
2026年分から個人側の控除が変わった
結論: 令和8年分の所得税から、基礎控除と給与所得控除が引き上げられました。個人事業のままでも法人化しても、手取りの計算が変わっています。
基礎控除が62万円に、給与所得控除の最低保障額は69万円
財務省の令和8年度税制改正の大綱によると、合計所得金額が2,350万円以下である個人の基礎控除は62万円になりました。令和8年分以後の所得税について適用されます。
同じく、給与所得控除の最低保障額が65万円から69万円に引き上げられました。さらに、令和8年および令和9年については最低保障額を5万円引き上げる特例が創設されています。
中所得層には加算がある。分岐点が動いたという意味
合計所得金額が655万円以下の場合、基礎控除の額に加算があります。令和8年分および令和9年分では、合計所得金額489万円以下で42万円、489万円超で5万円の加算です。令和10年分以後は37万円になります。
これらの見直しにより、個人事業のままで手元に残る金額が変わりました。過去の記事やシミュレーションの分岐点は、そのままでは使えません。判断には最新の数字での試算が必要です。
社会保険が最大の変数
結論: 法人化の損得を最も大きく左右するのは社会保険料です。税金が減っても、社会保険料の増加でそれ以上に出ていく場合があります。
法人は役員1人でも強制適用。保険料率の水準
日本年金機構は、厚生年金保険の適用事業所となるのを「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」と説明しています。従業員がいなくても、報酬を受け取る役員がいれば加入対象です。
厚生年金保険の保険料率は18.3%で、事業主と被保険者が半分ずつ負担します。健康保険は全国健康保険協会の令和8年度の平均保険料率が9.9%、介護保険料率が1.62%、子ども・子育て支援金率が0.23%です。
合計すると報酬の3割前後が保険料になり、その半分を会社が負担します。役員報酬を月50万円にすると、会社と個人を合わせて年間およそ180万円規模の保険料が発生する計算です。
個人事業のままの場合と、年金の受取額は増えること
国民年金保険料は令和8年度で月額17,920円です。国民健康保険は自治体と所得で変わりますが、上限が設けられています。所得が高い層ほど、国民健康保険のほうが負担が軽くなる場面があります。
厚生年金に加入すれば、将来受け取る年金は国民年金だけの場合より増えます。保険料の増加を負担とだけ見るか、将来の受取と合わせて見るかで結論は変わります。
扶養に入れられる人数
法人の社会保険では、要件を満たす家族を被扶養者として保険料の追加負担なく加入させられます。国民健康保険には扶養の仕組みがなく、世帯人数が多いほど法人側が有利になりやすい構造です。
扶養に入れられるかどうかは、収入の基準と同居かどうかで判定されます。国民健康保険には扶養という仕組みがないため、家族の人数が多い世帯ほど法人化で差が出やすくなります。世帯の構成を並べてから試算することです。
個人事業税と法人事業税の違い
結論: 個人事業税には年290万円の事業主控除がありますが、法人事業税にはありません。一方で個人事業税は法定業種にしかかからず、業種によっては課されません。
個人事業税は法定業種にだけかかる。税額の計算方法
総務省の説明によると、個人事業主は事業別に3つに分類され、「物品販売業や製造業などに代表される37業種」が第1種事業、畜産業・水産業・薪炭製造業の3業種が第2種事業、医業や弁護士業に代表される30業種が第3種事業とされています。合計70業種が対象で、ほとんどの事業が該当します。
総務省は個人事業税の額を「不動産や事業によって得た所得から事業主控除額等を引いた金額に対して3~5%の税率を乗じた額」と説明しています。事業主控除の額は年290万円です。
事業主控除がなくなる意味と、課されていない業種
法人化すると個人事業税に代わって法人事業税が課され、年290万円の事業主控除はなくなります。所得が小さいうちは、この控除の分だけ個人が有利になります。
システム開発やライターなど、法定業種に当てはまらないと判断される事業では個人事業税が課されていない場合があります。この場合、法人化によって法人事業税が新たに発生することになります。現在の納税通知書を確認してから試算する必要があります。
法人にすると必ず出ていくお金
結論: 法人は赤字でも法人住民税の均等割がかかります。加えて決算・申告の事務コストが毎年発生します。
法人住民税の均等割と、決算・申告の負担
総務省の税率一覧表によると、資本金等の額1,000万円以下・従業者50人以下の区分では、市町村民税の均等割が標準税率で年5万円です。道府県民税の均等割2万円と合わせて年7万円が目安になります。自治体によっては超過課税で上乗せされます。
法人税の申告書は個人の確定申告より複雑で、税理士に依頼するのが一般的です。この費用を年間コストとして織り込んでおく必要があります。
社会保険の手続きと、会社のお金を自由に使えなくなること
算定基礎届、賞与支払届、資格取得・喪失の手続きが毎年発生します。人数が少なくても、手続きの種類は変わりません。
手続きの負担と並んで、お金の使い方そのものも変わります。
個人事業では事業用の口座から生活費を引き出せますが、法人では役員報酬か貸付金になります。この不自由さを負担と感じるかどうかは、実際に運用してみないと分からない部分です。
消費税で見た法人化のタイミング
結論: 法人を新設すると、原則として設立1期目と2期目は消費税の納税義務が免除されます。ただしインボイス登録をしていると、この免除は受けられません。
基準期間という考え方と、免除されない場合
国税庁によると、基準期間(法人は前々事業年度、個人は前々年)の課税売上高が1,000万円以下であれば、原則として納税義務が免除されます。新設法人は1期目と2期目に基準期間がありません。
設立時の資本金が1,000万円以上、特定期間の課税売上高が1,000万円超、特定新規設立法人に該当する——これらに当てはまると免除されません。資本金を1,000万円未満にしておくのは、この理由によるものです。
インボイス登録があると免除されない。特定期間は給与でも判定できる
国税庁は「適格請求書発行事業者の登録を受けている場合には、納税義務は免除されません」と明記しています。すでにインボイス登録している個人事業主が法人化する場合、新会社も登録すれば1期目から課税事業者になります。
特定期間の1,000万円判定は、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額で行うこともでき、どちらを使うかは納税者の任意です。設立初年度の設計次第で扱いが変わる部分になります。
2割特例の終了と3割特例の創設
結論: 2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。後継の3割特例は個人事業者だけが対象で、法人は使えません。
2割特例は令和8年9月30日で終わり、3割特例は個人事業者だけ
国税庁の令和8年度税制改正の案内によると、現行の2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。12月決算の法人なら令和8年12月期が最後です。
新たに創設された3割特例は、個人事業者である適格請求書発行事業者の令和9年分および令和10年分の消費税申告が対象です。課税標準額に対する消費税額の3割を納付税額にできます。法人は対象外と明示されています。
法人化のタイミングに直結する
インボイス登録をしている個人事業主が令和9年または令和10年に法人化すると、その年から3割特例を使えなくなります。逆に言えば、令和10年分まで個人で続ければ、この2年間は納付税額を抑えられます。
法人化の判断に、これまでになかった2年分の消費税という変数が加わったことになります。売上規模によっては、税率や社会保険料より大きな金額差になる場合もあります。
簡易課税へ移る道も広がった
2割特例や3割特例の適用を受けた事業者が、その適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できることになりました。令和8年10月1日以後に終了する課税期間から適用されます。
特例が終わった後の受け皿を、後から選べるという点で実務的な意味があります。
免税事業者との取引も変わる
結論: 免税事業者からの仕入れについて一定割合を控除できる経過措置は、令和8年10月から段階的に縮小します。仕入先に免税事業者が多い事業ほど影響を受けます。
控除割合が7割・5割・3割へ。控除限度額が1億円に下がった
国税庁によると、この経過措置は適用期限が2年延長されたうえで控除可能割合が見直され、令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から30%、令和13年10月以後は0%となります。
一の適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額が、その年またはその事業年度で1億円(改正前10億円)を超える場合、その超えた部分については経過措置が適用されません。令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
法人化とあわせて仕入先を確認する
法人化のタイミングで取引条件を見直すなら、仕入先の登録状況を確認しておくと判断材料が増えます。控除割合が下がるほど、免税事業者との取引コストは上がります。
確認するのは、主要な仕入先や外注先が登録事業者かどうかです。登録がない相手との取引が多いほど、控除できない部分が積み上がります。法人化の試算に、この差額も入れておくことになります。
経費の範囲がどう広がるか
結論: 法人化すると、役員報酬・退職金・社宅・生命保険など、個人事業では使えない選択肢が増えます。ただし、どれも要件があります。
自分への給与を経費にでき、役員退職金という選択肢も生まれる
個人事業では事業主自身への給与は必要経費になりませんが、法人では役員報酬として損金にできます。受け取る側では給与所得控除が使えるため、同じ金額でも課税所得が下がります。
法人は退職金を支給できます。退職所得は他の所得と分離して課税され、勤続年数に応じた控除もあります。引退時のまとまった資金を、相対的に低い負担で受け取れる仕組みです。
社宅と生命保険、出張旅費規程
役員社宅は賃貸料相当額の計算が必要ですが、家賃の一部を会社の費用にできます。法人契約の生命保険も、契約形態によって取扱いが変わります。いずれも要件を外すと役員給与として扱われるため、事前の確認が必要です。
法人では出張日当を規程に基づいて支給できます。個人事業主本人には使えない仕組みで、法人化して初めて選べるようになります。
赤字と繰越の扱いが変わる
結論: 欠損金を繰り越せる期間が長くなります。開業初期に損失が出る事業では、この差が数年後に現れます。
繰越期間の違いと、中小法人は全額を控除できること
青色申告をしている個人事業主の純損失の繰越は3年ですが、法人の欠損金の繰越控除は10年です。設備投資が先行する事業では、この7年の差が意味を持ちます。
法人の欠損金は、中小法人等であればその事業年度の所得金額の全額まで控除できます。所得が出た年に一気に相殺できるため、利益の振れが大きい事業と相性が良い仕組みです。
青色申告特別控除は個人の強み
一方、個人には青色申告特別控除があります。国税庁によると、正規の簿記の原則により記帳し、電子帳簿保存または電子申告の要件を満たせば65万円の控除が受けられます。法人にはこれに相当する控除はありません。
法人にはこの控除がありません。個人事業で65万円の控除を受けている状態と、法人にして役員報酬から給与所得控除を引く状態を並べて比べることになります。どちらが有利かは、所得の水準と家族への分散の有無で変わります。
信用力と資金調達
結論: 法人のほうが取引先や金融機関から評価されやすい場面があります。ただし、設立しただけで評価が上がるわけではありません。
大手企業や官公庁との取引で、法人であることが条件になっている場合があります。この場合、損得の計算より前に法人化が必要条件になります。
法人は決算書が整い、事業と個人の資金が分離されるため、審査の材料が揃いやすくなります。ただし設立直後は実績がないため、個人事業時代の申告書を提出して説明することになります。
求人において、法人であること、社会保険が完備されていることが応募の判断材料になります。人を雇う予定がある事業では、この点が法人化の理由になることもあります。
法人化しないほうがよい場合
結論: 利益が小さい、事業の先行きが不透明、事務負担を負えない——この3つのどれかに当てはまるなら、個人事業を続けるほうが合理的です。
利益が小さい場合と、利益の見通しが不安定な場合
均等割と税理士報酬を合わせた固定費を上回るだけの効果が出ないなら、法人化する意味は薄くなります。税率差だけで固定費を回収できるかが最初の確認点です。
金額の問題だけでなく、見通しが立つかどうかも判断に入ります。
役員報酬は期首から3か月以内に決めた金額を1年間変えられません。売上の振れが大きい事業では、この制約が資金繰りを圧迫します。
3割特例を使える個人事業主と、事務負担を負えない場合
インボイス登録をしていて、令和9年分・令和10年分に3割特例を使える見込みがあるなら、その2年間は個人で続けるほうが有利になる場合があります。売上規模と法人化のメリットを並べて比較する場面です。
決算・申告・社会保険の手続きは、誰かがやらなければ回りません。外注するならその費用を、自分でやるならその時間を、コストとして数える必要があります。
判断の手順
結論: 現状の数字を並べ、法人化した場合を試算し、固定費と比べる——この3段階で判断します。感覚ではなく金額で比べます。
現状の数字を出し、法人化した場合を試算する
直近の確定申告書から、次の順に拾います。
- 事業所得の金額(青色申告特別控除を引く前と後の両方)
- 所得税・住民税・個人事業税の年額
- 国民健康保険料・国民年金保険料の年額
- 上記を差し引いた手取り
手取りがいくらかを先に確定させないと、比較の基準ができません。
役員報酬をいくらにするかで結果が変わるため、複数の水準で試算します。次の5つをすべて足すのが要点です。
- 法人税・地方法人税(年800万円以下は15%、超える部分は23.2%)
- 法人住民税・法人事業税(均等割を含む)
- 役員報酬にかかる所得税・住民税
- 社会保険料の会社負担
- 社会保険料の本人負担
4と5を落とすと、法人化が実際より有利に見えます。この2つを入れ忘れた試算が、最も多い失敗です。
固定費と差額を比べ、数字以外の要素を足す
税と保険料の差額から、均等割・税理士報酬・手続きの手間を引きます。残った金額がプラスかどうかが判断の軸になります。年7万円の均等割と税理士報酬を合わせた固定費を、税率差だけで回収できるかを見ます。
取引先の要件、採用の予定、事業承継の見通し、消費税の特例——数字に出ない要素を最後に足します。これらが決め手になる場合も少なくありません。
3年分で比べる
1年だけで比べると、設立年の免税期間や特例の有無に結論が引きずられます。3年分を並べると、固定費の重さと税率差の影響が両方見えるようになります。
1年だけの比較では、設立の費用や初年度の手続きの負担が過大に見えます。逆に、消費税の免税期間だけを見て判断すると、その後の負担が抜けます。3年分を並べると、どちらも平準化された形で見えます。
設立の手続きと費用
結論: 株式会社と合同会社では設立費用が違います。登録免許税だけで9万円の差があります。
登録免許税と、定款認証の有無
国税庁の税額表によると、株式会社の設立登記は資本金の額の1,000分の7(15万円に満たないときは15万円)、合同会社は同じく1,000分の7(6万円に満たないときは6万円)です。
株式会社は公証人による定款認証が必要で、資本金の額に応じた手数料がかかります。合同会社は認証が不要です。電子定款にすれば印紙税4万円は不要になります。
資本金をいくらにするかと、設立後の届出
消費税の免除を考えると1,000万円未満に抑えるのが一般的です。一方、金融機関からの評価や許認可の要件で一定額が求められる場合もあります。
登記が完了したら、次の順で届出を進めます。
- 税務署:法人設立届出書、青色申告の承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
- 都道府県税事務所・市町村:法人設立届出書
- 年金事務所:新規適用届、被保険者資格取得届
- 労働基準監督署・ハローワーク(従業員を雇う場合):労働保険の成立届、雇用保険の適用事業所設置届
青色申告の承認申請には期限があり、遅れると1期目から青色申告ができません。設立日から3か月を経過した日と、1期目の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までに提出します。
法人化のタイミング
結論: 期の途中でも設立できますが、決算月の設定と消費税の扱いを踏まえると、選ぶ余地があります。
決算月をどう決めるか、個人事業の廃業手続き
繁忙期を避ける、消費税の免除期間を長く取る、在庫が少ない月にする——決め方はいくつかあります。設立月の前月を決算月にすると、1期目が最も長く取れます。
新しい会社の形が決まったら、これまでの事業をどう終えるかです。
個人事業の廃業届、青色申告の取りやめ届出書、事業廃止届出書(消費税)を提出します。設立と廃業の時期がずれると、両方の申告が必要な年が生じます。
資産と契約の引き継ぎ、許認可の取り直し
事業用資産を法人へ引き継ぐ方法は、売買・現物出資・賃貸の3つがあります。消費税や譲渡所得の扱いが変わるため、金額が大きいものは事前に確認します。
引き継ぐのは資産や契約だけではありません。
建設業・飲食業・古物商など、許認可が必要な事業では法人として取り直しになります。取得までの期間を逆算しないと、事業が止まります。
法人化した後の最初の1年
結論: 設立直後にやることが集中します。特に役員報酬と青色申告の申請は、期限を過ぎると1年間取り返しがつきません。
役員報酬を3か月以内に決め、社会保険の手続きを済ませる
定期同額給与として損金にするには、会計期間開始の日から3か月を経過する日までに金額を決める必要があります。新設法人ではこの3か月が設立直後に来ます。
期限のある手続きは、税務のほうだけではありません。設立の直後にまとめて片づけておくほうが、後の負担が軽くなります。
新規適用届を年金事務所へ提出し、役員の資格取得手続きを行います。国民健康保険からの切替も同時に必要です。
帳簿と経費の切り分け、初回の決算に向けた準備
個人の口座と法人の口座を分け、個人的な支出が法人の帳簿に混ざらないようにします。ここが曖昧だと、役員給与として否認される原因になります。
日々の処理が整うと、そのまま決算の準備になります。1年目でつまずくのは、たいてい期中の切り分けが曖昧だった会社です。
決算の2か月前には着地の見込みを立てます。設立初年度は前期比較ができないため、月次の数字を積み上げる習慣が特に重要になります。
法人化のご相談事例
結論: 実際のご相談では、税率差より社会保険料と消費税が結論を変えることが多くあります。ここでは典型的な4つの場面を紹介します。
情報通信業|法人化を1年見送った例/建設業|取引先の要件で法人化した例
利益は法人化の目安を超えていましたが、インボイス登録済みで令和9年分・令和10年分に3割特例が使える見込みでした。2年分の消費税の差と、法人化による税率差を比べ、時期をずらす判断をしています。
元請から法人であることを求められ、損得の計算より先に必要性が決まった会社です。設立後は、社会保険の会社負担を織り込んだ役員報酬に設計し直しました。
小売業|社会保険料で結論が変わった例/調剤薬局|承継を見据えて法人化した例
税金だけを見ると法人化が有利でしたが、家族が扶養に入れる人数と国民健康保険料の水準を入れて計算すると差が縮まりました。世帯の状況まで入れないと結論が出ない典型例です。
事業を子に引き継ぐ見通しがあり、個人事業のままでは資産と許認可の引き継ぎが煩雑になる状況でした。目先の損得より承継のしやすさを優先し、早めに法人化しています。
よくある質問
利益がいくらになったら法人化を考えればいいですか?
法人化すれば必ず手取りは増えますか?
2割特例が終わると、法人化の判断に影響はありますか?
法人化すると、消費税は2年間免除されますか?
株式会社と合同会社では、どちらがいいですか?
期の途中で法人化してもいいですか?
個人事業の資産を法人に移すには、どうすればいいですか?
2026年の税制改正で、法人化の判断は変わりましたか?
まとめ:法人化は4つの要素を同時に並べて判断する
- 法人化で変わるのは税率・社会保険・消費税・事務コストの4つです。税率だけを見ると判断を誤ります
- 所得税は5%から45%の7段階、中小法人の法人税は15%と23.2%の2段階です。所得を会社と役員報酬に分けられることにも意味があります
- 社会保険料は法人化で最も大きく動く項目です。厚生年金18.3%、健康保険は令和8年度で平均9.9%、その半分を会社が負担します
- 法人は赤字でも法人住民税の均等割がかかります。標準税率で年7万円が目安です
- 令和8年分から基礎控除62万円・給与所得控除の最低保障額69万円となり、個人側の手取りの計算が変わりました
- 2割特例は令和8年9月30日までの課税期間で終了し、3割特例は個人事業者の令和9年分・令和10年分のみが対象です。法人は使えません
- 判断は、現状の数字を出す→法人化した場合を試算する→固定費と比べる、の順で進めます
法人化は、決めてしまうと戻すのが難しい選択です。今の数字で法人にしたらどうなるか、税理士法人Light UPの無料相談で具体的に試算するところからお手伝いします。
【メタディスクリプション】
個人事業主の法人化を、税率・社会保険料・消費税・事務コストの4軸と、2026年の税制改正を踏まえて整理しました。




