一人社長の役員報酬(給料)の決め方|社会保険料まで入れた手順
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
一人社長の役員報酬は、会社に残す利益、個人の手取りの生活費、社会保険料の3つを並べて金額を決め、設立の日から3か月以内に1年分の額を決議します。決めた額は、その事業年度の間、毎月同じ額で払い続けます。年収いくらが正解という一律の目安はありません。この記事では、決め方の手順、間違えやすい点、期限、社会保険料の例、税金の動き、0円や少額にした場合、翌期の見直しを、国税庁・日本年金機構・協会けんぽの公表資料(2026年10月時点)で整理します。
一人社長の役員報酬はどう決める?
結論: 手取りで必要な生活費から下限を、売上が伸びない場合でも払える額から上限を決め、その間で税金と社会保険料の合計を比べて選びます。決めたら設立から3か月以内に決議します。
決め方の5つの手順
役員報酬は、次の順に決めます。
下限と上限の決め方
下限は、手取りで必要な生活費に、引かれる社会保険料と税金を足した額面です。個人の貯蓄で補える期間があれば、下限は下がります。
上限は、売上が伸びなかった場合でも、報酬と会社が負担する社会保険料を払い、納税と運転資金が残る額です。報酬は期の途中で自由に増減できないため、楽観した売上の見込みでなく、伸びなかった場合の数字で置きます。
下限と上限の間で3つの水準を試算し、生活費を満たしながら会社に資金が残る水準を選びます。
設立初年度の見込みの置き方
設立初年度の事業年度は、1年に満たないことが多くなります。報酬は月額で決め、払う月数は設立から最初の決算日までの月数です。利益の見込みも、この月数分で置きます。入金が始まるまでは報酬だけが毎月出ていくため、最初の数か月を越えられるかを必ず見ます。
役員報酬の設定でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、手取りをそのまま額面に置く、売上が伸びない場合を見ない、社会保険料を入れずに比べる、の3つです。どれも期の途中で直せず、手元の資金や会社の経費に響きます。
設立して数か月たち、決めた報酬では手取りが足りず、会社から現金を引き出していたと気づいて相談に来られる方が少なくありません。
手取りをそのまま額面に置く
手取りで月30万円が要るからと、額面も30万円に置く間違いです。額面30万円のとき、社会保険料の本人負担は月42,570円で、所得税と住民税も引かれます(東京の協会けんぽの料率で計算した説明用の金額です)。手取りは30万円を大きく下回ります。
足りない分を会社から引き出すと、会社が社長に貸したお金として、役員貸付金が決算書に残ります。決算書に役員貸付金が残ると、融資の審査で説明を求められます。
売上が伸びない場合を見ない
売上が立つ前提で高めに置くと、伸びなかったときに資金が足りなくなります。期の途中に下げようとしても、資金繰りの都合は減額が認められる事由に当たりません(法人税基本通達9-2-13)。認められない減額をすると、下げる前に払った分のうち、下げた後の金額を超える部分が損金の額に算入できません。損金とは、法人税の計算で会社の経費にあたるものです。
社会保険料を入れずに比べる
役員報酬を上げると、会社の法人税は減りますが、社会保険料は会社と本人の両方で増えます。税金だけで比べると、上げたほうが得に見えます。比べるのは、税金と社会保険料を足した合計です。
税理士が確認する順番
税理士は、設立の日から決議の期限日を出し、伸びなかった場合の売上で3つの水準の合計を並べ、入金が遅れる月の資金繰りを見ます。
設立の日が分かる登記事項証明書と、売上と経費の見込みをお持ちいただければ、決議の期限日と、毎月の資金繰りに耐えられる水準を一緒に確かめます。
役員報酬はいつまでに決める?
結論: 設立の日から3か月を経過する日までに、1年分の額を決議します。その後は、事業年度の間、毎月同じ額を払い続けます。
設立から3か月以内の期限
役員給与は、原則として損金の額に算入できません。例外の1つが、毎月同額で払う定期同額給与です(法人税法34条)。国税庁のタックスアンサーNo.5211によると、給与の改定が認められるのは、事業年度の開始の日から3か月を経過する日までです。設立初年度は、設立の日が事業年度の開始の日にあたります。
3か月を過ぎてから増額すると、増やした部分が損金の額に算入できません。会社は経費にならない分に法人税を払い、受け取った社長は給与として所得税の課税を受けます。同じお金に両方の負担がかかるため、期限は動かしません。
毎月同額で払う
定期同額給与は、1か月以下の一定の期間ごとに、毎回同じ額で払う給与です。額面が同額か、源泉所得税や社会保険料を引いた後の額が同額なら足ります(国税庁タックスアンサーNo.5211)。毎月25日のように支給日を決め、会社の口座から社長の口座へ振り込みます。
決議と議事録
取締役の報酬は、定款に定めがなければ、株主総会の決議で定めます(会社法第361条第1項)。株主も取締役も自分ひとりの会社でも、決議の記録として議事録を作ります。書くのは、決議した日、対象の役員、毎月の金額、支給の開始月です。
社会保険料はいくらかかる?
結論: 法人は社長1人でも健康保険と厚生年金保険の適用事業所になり、報酬を受ける社長は被保険者になります。東京の協会けんぽで報酬月額30万円なら、保険料は会社と本人の合計で月85,140円です。
一人社長も加入する
日本年金機構は、適用事業所に、株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)を挙げています。報酬を受ける社長は、国民健康保険と国民年金から、会社の健康保険と厚生年金保険に切り替わります。
届出は、会社の新規適用届と、社長の資格取得届です。どちらも事実の発生から5日以内に出します。
報酬月額別の保険料の例
保険料は、標準報酬月額に料率を掛けて決まります。標準報酬月額とは、報酬月額を等級に区切った額です。東京支部の令和8年度の料率は、健康保険9.85%、厚生年金保険18.3%、子ども・子育て支援金0.23%で、会社と本人で半分ずつ負担します。
| 報酬月額 | 標準報酬月額 | 保険料の合計 | 本人の負担 | 会社の負担 |
|---|---|---|---|---|
| 10万円 | 98,000円 | 27,812円 | 13,906円 | 14,259円 |
| 20万円 | 200,000円 | 56,760円 | 28,380円 | 29,100円 |
| 30万円 | 300,000円 | 85,140円 | 42,570円 | 43,650円 |
| 50万円 | 500,000円 | 141,900円 | 70,950円 | 72,750円 |
円未満を四捨五入した、40歳未満の説明用の金額です。40歳から64歳は、介護保険料率1.62%が加わります。会社の負担には、会社だけが払う子ども・子育て拠出金(標準報酬月額の0.36%)を入れています。健康保険料率は都道府県ごとに違います。
会社の負担も自分の負担
一人社長は、会社の負担分も実質的に自分の負担です。表の30万円なら、本人と会社を合わせて月に86,220円が出ていきます。
配偶者や子は、年間収入が原則130万円未満(19歳以上23歳未満は150万円未満)なら、健康保険の被扶養者にでき、その分の保険料はかかりません。
報酬を上げると税金はどう動く?
結論: 報酬を上げると、会社の法人税は減り、個人の所得税・住民税と社会保険料は増えます。比べるのは、この3つを足した合計と、手元に残る額です。
会社側で減るもの
役員報酬は損金の額に算入できるため、報酬を上げた分だけ会社の所得が減ります。中小法人の法人税率は、年800万円以下の部分が15%です(国税庁タックスアンサーNo.5759、令和8年4月1日現在)。このほかに地方法人税、法人住民税、事業税がかかります。
個人側で増えるもの
受け取った役員報酬は給与所得になり、給与所得控除が引かれます。令和8年分と令和9年分は、給与収入が220万円以下なら74万円、220万円超360万円以下なら収入×30%+8万円です(国税庁タックスアンサーNo.1410)。基礎控除は、合計所得金額が489万円以下のとき104万円で、社会保険料は本人負担の全額を所得から引けます。
月20万円と30万円の例で、課税所得を並べます(独身で扶養家族がなく、ほかの控除がない場合の説明用の金額です)。
| 月20万円 | 月30万円 | |
|---|---|---|
| 年間の報酬 | 2,400,000円 | 3,600,000円 |
| 給与所得控除 | 800,000円 | 1,160,000円 |
| 社会保険料(本人の負担・年間) | 340,560円 | 510,840円 |
| 基礎控除 | 1,040,000円 | 1,040,000円 |
| 課税所得 | 約219,000円 | 約889,000円 |
所得税は、課税所得が195万円以下の部分に5%を掛けて出します。月30万円でも、所得税は年に4万円台です。一方、社会保険料の本人負担は年に約51万円です。一人社長の報酬が月30万円前後のときは、税金より社会保険料のほうが重くなります。
0円や少額にするとどうなる?
結論: 報酬を0円にすると社会保険の被保険者にならず、生活費を会社から出すと役員貸付金が残ります。少額でも報酬を払えば被保険者になり、保険料は等級の下限から始まります。
報酬0円の場合
日本年金機構の疑義照会回答は、昭和24年の通知を引き、法人から労務の対償として報酬を受けている役員を被保険者とします。報酬を受けない社長は被保険者にならず、国民健康保険と国民年金に入ります(配偶者の被扶養者になる場合を除く)。
生活費は、個人の貯蓄から出します。会社から出せば役員貸付金になり、決算書に長く残ります。損金も生まれないため、会社の利益はそのまま法人税の対象です。
少額の報酬の場合
少額でも報酬を受けていれば、被保険者になります。同じ回答は、報酬が低いことだけを理由に資格を失わせるのは妥当でない、としています。ただし、1円のように業務の内容に不相応な報酬は、決め方の経過や働き方を調べて判断されます。
標準報酬月額の下限は、健康保険が58,000円、厚生年金保険が88,000円です。報酬が月8万円でも、厚生年金保険は88,000円で計算します。
翌期はどう見直す?
結論: 決算で1年分の数字が出たら、翌期の期首から3か月以内に、実績に合わせて金額を改定します。上げる前に、社会保険料の増加と資金繰りを確かめます。
翌期首から3か月以内の改定
改定は、翌期の事業年度の開始の日から3か月を経過する日までに決議します(国税庁タックスアンサーNo.5211)。初年度に低めに置いた場合は、この時期に引き上げるかを決めます。
報酬を上げると、標準報酬月額の等級が上がり、翌期以降も社会保険料の負担が続きます。上げ幅は、売上が伸びなかった年でも払える範囲に収めます。
賞与で調整する場合
期の途中の増額では利益を調整できません。賞与で出すなら、事前確定届出給与として支給の時期と金額を届け出ます。新設法人の届出期限は、設立の日以後2か月を経過する日です(国税庁タックスアンサーNo.5211)。
よくある質問
設立直後は役員報酬を0円にしてもよいですか?
決めた役員報酬は、途中で変えられますか?
一人社長の役員報酬の相場は、いくらですか?
まとめ:手取りと資金繰りで決めよう
- 役員報酬は、設立の日から3か月以内に1年分を決議し、事業年度の間は毎月同額で払います
- 下限は手取りで必要な生活費、上限は売上が伸びなかった場合でも払える額で、その間を3つの水準で試算します
- 比べるのは、法人税、所得税・住民税、社会保険料を足した合計です。月30万円前後では、税金より社会保険料のほうが重くなります
- 報酬を0円にすると社会保険の被保険者にならず、生活費を会社から出すと役員貸付金が残ります
設立前後で報酬の額を決めかねている方、社会保険料まで入れた試算が必要な方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。設立の日と売上の見込みを確認し、決議の期限日と、3つの水準の税金と社会保険料の合計を整理します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.1410「給与所得控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.5759「法人税の税率」
- 国税庁 法人税基本通達9-2-13、法人税法34条、法人税法施行令69条、会社法 第361条
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」
- 日本年金機構 疑義照会回答(厚生年金保険 適用)
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)東京支部「令和8年3月分からの保険料率」、令和8年度の保険料額表(東京)
- 日本年金機構「保険料額表(令和2年9月分~)」
- 日本年金機構「19歳以上23歳未満の方の被扶養者認定における年間収入要件が変わります」





