一人親方の法人化のタイミングは?建設業のメリット・デメリット
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
一人親方が法人化するタイミングは、取引先から法人を求められたとき、許可が必要な規模の工事を請け負うとき、従業員を雇うときです。どれにも当てはまらないなら、急ぐ理由はありません。当てはまるなら、税金の損得を比べる前に、建設業許可・社会保険・労災保険の3つを法人化の日程に組み込みます。この記事では、メリットとデメリット、許可の引き継ぎ、社会保険と労災保険の切替え、インボイス、手続きの順番を、国土交通省や国税庁などの公表資料(2026年10月時点)で整理します。
一人親方は法人化したほうがよい?
結論: 取引先が法人との契約を求めている、許可が必要な規模の工事を請け負う、従業員を雇う、のどれかに当てはまれば、法人化を検討する時期です。税金の損得は、その後に比べます。
法人化を考える4つの場面
| 場面 | 法人化で変わること | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 取引先が法人との契約や保険の加入を求めている | 法人として契約し、加入先の保険が変わる | 求められているのは法人か、保険か |
| 許可が必要な工事を請け負いたい | 許可を法人の名義で持つ | 許可を新しく取るか、引き継ぐか |
| 従業員を雇いたい | 社会保険と労災保険の手続きが要る | 雇う時期と人数 |
| 利益が安定している | 役員報酬を給与として受け取る | 社会保険料まで入れた手取りの比較 |
メリットとデメリットの早見表
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 法人との契約を条件にする取引先の要件を満たせる |
| メリット | 役員報酬が給与として扱われ、給与所得控除(令和8年分の最低保障額は74万円)を差し引ける |
| デメリット | 社長1人でも社会保険に加入し、会社の保険料負担が毎年出る |
| デメリット | 赤字の年も法人住民税の均等割(利益に関係なく納める税金)を納める |
| デメリット | 決算書と申告書を毎年作り、個人名義の許可の引き継ぎも要る |
利益が小さいうちは、税金の差より均等割と社会保険料の増加が上回ることがあります。売上1,000万円は消費税の納税義務の基準で、法人化の目安ではありません。いくらから得になるかは、役員報酬の額と家族の健康保険で変わります。
一人親方の法人化でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、税金の比較から始める、資本金を許可の要件に合わせない、許可と労災保険の手続きを忘れる、の3つです。間違えると、増資のやり直しや許可の空白、保険のない期間が生じます。
元請に法人化を求められて設立したあとに、許可や労災保険の手続きが抜けていたと気づき、相談に来られる方が少なくありません。
税金の比較から始める
税額の試算は、資本金、役員報酬、社会保険の加入先を前提にします。取引先の条件、許可、保険が決まる前に試算すると、前提が変わるたびに作り直しです。
資本金を許可の要件に合わせない
許可を取る予定があるのに税金の面だけで資本金を決めると、設立後に増資と変更登記をやり直します。一般建設業の財産的基礎には、自己資本500万円以上などの要件があります。
許可と労災保険の手続きを忘れる
個人名義の建設業許可は、法人を作っても自動では移りません。承継の前に認可を受けないと、許可に空白が生じます。一人親方の労災保険の特別加入も、法人化の日に自動では切り替わらず、手続きが抜けた期間の事故は給付を受けられません。
税理士が確認する順番
建設業許可の申請は行政書士、労災保険の手続きは社会保険労務士が担当する分野です。税理士は、設立日と資本金を軸に、全体の日程を組みます。
直近の確定申告書と、建設業許可の通知書、加入している労災保険の団体の書類をお持ちいただければ、資本金の額と設立日、役員報酬を入れた手取りの比較、税務署への届出の期限を順に確かめます。
建設業許可は法人化でどうなる?
結論: 個人名義の建設業許可は、法人を作っても自動では移りません。法人を作る前に認可を受けると、許可の空白なしに地位を引き継げます。許可を新しく取るなら、一般建設業は自己資本500万円以上などが要件です。
許可が必要な工事の金額
許可は、軽微な建設工事だけを請け負うなら要りません。軽微な建設工事は、建築一式工事以外なら1件の請負代金が500万円未満、建築一式工事なら1,500万円未満か延べ面積150㎡未満の木造住宅工事です(消費税を含む金額。国土交通省)。
個人の許可を法人に引き継ぐ認可
令和2年10月1日から、建設業者の地位を事業譲渡などで引き継ぐときは、事前に認可を受ける制度が始まりました。近畿地方整備局の手引き(令和8年1月)は、認可の対象に「個人から法人への法人成」を含めています。
- 認可は、承継の前に受ける。法人が許可の要件を備えていることが、審査で見られる
- 国土交通大臣許可は、承継予定日の90日前までに申請する(標準処理期間は90日)。知事許可は都道府県の手引きで確かめる
設立日は、申請から90日ほど先に置きます。
資本金と財産的基礎
許可を取るには、財産的基礎の要件を満たします。青森県の手引き(令和7年2月1日更新)は、次のとおり整理しています。
| 区分 | 財産的基礎の要件 |
|---|---|
| 一般建設業 | 次のいずれか:自己資本500万円以上/500万円以上の資金調達能力/直前5年間許可を受けて継続して営業した実績 |
| 特定建設業 | 次のすべて:欠損の額が資本金の額の20%以内/流動比率75%以上/資本金2,000万円以上かつ自己資本4,000万円以上 |
設立したばかりの会社は決算書がなく、設立時の資本金が自己資本の裏づけになります。許可を取る予定があるなら、資本金は500万円以上で設立します。証明の書類は申請先で違うため、設立前に窓口で確かめます。
資本金は、消費税の扱いにも関わります。1,000万円以上の法人は、設立1期目から課税事業者です(消費税法12条の2)。500万円なら、許可の要件を満たしたまま、設立1期目と2期目は原則免税の範囲に収まります。
社会保険は法人化でどう変わる?
結論: 法人は社長1人でも、健康保険と厚生年金保険に加入する適用事業所になります。建設業許可の要件にも、健康保険・厚生年金保険・雇用保険への加入が入っています。
一人親方と法人の保険の違い
e-Gov 法令検索の厚生年金保険法6条1項2号は、「法人の事業所又は事務所であつて、常時従業員を使用するもの」を適用事業所と定めています。個人の事業所は、建設業なら常時5人以上の従業員を使用するときに適用事業所になります(同項1号)。国土交通省の資料は、加入先を次のように整理しています。
| 一人親方(個人事業主) | 役員のみの法人 | |
|---|---|---|
| 医療保険 | 国民健康保険、または国民健康保険組合(建設国保など) | 協会けんぽ、健康保険組合、または適用除外の承認を受けた国民健康保険組合(建設国保など) |
| 年金保険 | 国民年金 | 厚生年金保険 |
法人になっても建設国保を続けるには、年金事務所で健康保険の適用除外の承認を受けます。厚生年金保険には加入します。条件は組合ごとに違うため、法人化の前に組合へ確かめます。
取引先が確認する保険
国土交通省は、令和2年10月から、建設業者の社会保険の加入を建設業許可・更新の要件にしました。元請企業は、適切な保険の加入を確認できない作業員を、特段の理由がない限り現場に入れません(令和2年9月30日の通知)。
この適切な保険には、請負として働く一人親方の国民健康保険(または建設国保)と国民年金が含まれます。社会保険に入るためだけに法人化する必要はありません。求められているのが法人との契約か、保険の加入かを、先に聞きます。
保険料の負担
厚生年金保険料率は18.3%で、事業主と本人が半分ずつ負担します。標準報酬月額が30万円なら、本人と会社がそれぞれ月27,450円です(説明用の金額です)。国民年金保険料は、令和8年度が月17,920円の定額です(日本年金機構)。
労災保険はどう切り替える?
結論: 一人親方の労災保険の特別加入は、法人化と同時には切り替わりません。従業員を雇うなら労働保険に加入し、代表者は事業主として別の特別加入にします。切替えの日は、設立日に合わせます。
一人親方の特別加入と法人の違い
e-Gov 法令検索で確かめられるとおり、労災保険は労働者を使用する事業に適用されます(労働者災害補償保険法3条)。一人親方は労働者ではないため、「労働者を使用しないで行うことを常態とする者」として、特別加入団体を通じて入ります(同法33条3号)。
法人の代表者も、労働者ではありません。従業員を雇わず代表者1人だけの会社でどの枠に入り続けるかは、加入団体と労働基準監督署に、設立前に確かめます。
従業員を雇う場合
従業員を雇うと、事業主は労働保険の手続きをします。代表者自身は、労働保険事務組合に労働保険の事務を委託することで特別加入できます(同法33条1号。事業主が法人のときは代表者が対象)。
切替えを日程に入れる
一人親方としての加入をやめた日と、新しい枠で始まる日の間に空白があると、その間の事故は給付を受けられません。予定日は、加入団体や社会保険労務士に早めに伝えます。
元請との取引とインボイスはどう考える?
結論: 法人化と、適格請求書発行事業者の登録は、別の手続きです。個人の登録は法人に引き継がれず、法人として登録申請します。設立1期目と2期目が免税でも、登録すると課税事業者です。
登録は法人として新しく申請する
個人と法人は別の事業者なので、個人の登録は法人に引き継がれません。設立後にあらためて申請し、登録番号も新しく付きます。資本金1,000万円未満の法人は、設立事業年度とその翌事業年度が原則免税ですが(国税庁)、登録すると課税事業者です。
2割特例と3割特例は法人化で変わる
国税庁の案内は、2割特例の適用期間を「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」としています。令和8年10月以後に設立する法人は、最初の課税期間がこの期間に入らず、使えません。
個人事業者は、令和9年分と令和10年分に限り3割特例を使えます。法人は対象外です(令和8年度税制改正の大綱)。
元請が登録を求める理由
元請は、登録のない下請への支払について、仕入税額控除を全額は受けられません。控除できる割合は、令和8年10月1日から令和10年9月30日までが70%、その後は50%、30%と下がり、令和13年10月1日以後はゼロです(国税庁、令和8年9月)。
法人化はどんな順番で進める?
結論: 取引先の条件、許可、資本金と設立日、設立登記、届出の順です。設立後の届出は期限が短いため、設立日から逆算します。
設立後の届出の期限
| 届出 | 期限 | 出す先 |
|---|---|---|
| 法人設立届出書 | 設立の日以後2か月以内 | 税務署 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払事務所等を設けてから1か月以内 | 税務署 |
| 青色申告の承認申請書 | 設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度の終了日のうち、早い日の前日まで | 税務署 |
| 健康保険・厚生年金保険の新規適用届 | 事実の発生から5日以内 | 年金事務所 |
青色申告の承認申請書は、期限を過ぎると、最初の事業年度は青色申告ができません(国税庁、日本年金機構)。
よくある質問
一人親方は法人化したほうがよいですか?
法人化すると、建設業許可はどうなりますか?
法人になると、労災保険の特別加入はどうなりますか?
まとめ:許可と保険を先に、税金は後で比べよう
- 法人化を考える時期は、取引先が法人を求めたとき、許可が必要な工事を請け負うとき、人を雇うとき
- 個人名義の建設業許可は、法人を作る前に認可を受けて引き継ぐ
- 法人は社長1人でも健康保険と厚生年金保険に加入する。請負の一人親方の国民健康保険と国民年金も、適切な保険に含まれる
- 労災保険の特別加入は、法人化の日に自動では切り替わらない。設立日に合わせて手続きする
- 適格請求書発行事業者の登録は、法人として新しく申請する
取引先から法人化を求められている方、許可を持ったまま法人にする予定の方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の確定申告書と許可の通知書を確認し、資本金と設立日、役員報酬を入れた手取りの比較を整理します。
出典
- 国土交通省「建設業の許可とは」、近畿地方整備局「認可申請の手引き」(令和8年1月)
- 青森県「建設業許可の要件」(令和7年2月1日更新)
- 国土交通省「社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインの改訂等について」(令和2年9月30日)と「適切な保険」
- e-Gov 法令検索「厚生年金保険法」第6条、「労働者災害補償保険法」第3条・第33条、「消費税法」第12条の2・第57条
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表」「国民年金保険料」「新規適用届」
- 国税庁「法人税のあらまし」、2割特例の案内、「令和8年度税制改正特集」(令和8年9月)
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」





