住民税の特別徴収|会社が給与から天引きして納める手続き
「うちは小さい会社なので、住民税は本人に払ってもらっています」。「退職した人の住民税をどう扱えばいいのか、毎回調べ直しています」――従業員を雇い始めた会社から、この2つはよくいただくご相談です。
結論からお伝えすると、住民税の特別徴収とは、会社が従業員の給与から住民税を天引きし、本人に代わって市区町村へ納める仕組みです。地方税法上、給与を支払って所得税を源泉徴収する義務がある事業主は、原則として特別徴収義務者に指定されます。本人に払ってもらうという選択は、原則としてできません。
税理士法人Light UPでは、特別徴収でつまずくのは金額の計算ではなく、入社・退職のときの切り替えだと考えています。年税額は市区町村が計算して通知してくるため、会社が税額を出す場面はありません。難しいのは、人が動いたときの手続きのほうです。
この記事では、特別徴収の仕組みと1年の流れ、納期の特例、入社・退職時の扱い、そして所得税の源泉徴収との違いを、実際に給与計算を代行している立場から整理します。
特別徴収は会社が住民税を天引きして納める仕組み
結論: 住民税の特別徴収とは、市区町村が計算した従業員の住民税額を、会社が毎月の給与から差し引いて代わりに納入する制度です。会社は特別徴収義務者として、徴収と納入の義務を負います。
税額を計算するのは市区町村。給与を支払う事業主が対象になる
所得税と大きく違うのは、会社が税額を計算しない点です。市区町村が前年の所得をもとに年税額を計算し、会社へ通知します。
会社が行うのは、通知された金額を給与から差し引いて納めることだけです。税額表を引く作業はありません。
e-Gov 法令検索で確認できる地方税法第321条の4は、市町村が「所得税法第百八十三条の規定により給与の支払をする際所得税を徴収して納付する義務がある者」を条例により特別徴収義務者として指定し、これに徴収させなければならないと定めています。
つまり、源泉徴収義務者であれば特別徴収義務者になります。従業員の人数や会社の規模による除外はありません。
本人納付を選べるわけではない。前年に給与を受けていた人が対象
「従業員が自分で払いたいと言っている」というお話を伺うことがあります。しかし特別徴収は法令上の義務で、会社と本人の合意で普通徴収に切り替えられる性質のものではありません。
普通徴収が認められるのは、後述する限られた場合だけです。
同法第321条の3は、前年中に給与の支払を受けた者で、かつ当該年度の初日において給与の支払を受けている者を給与所得者として、特別徴収の対象にすると定めています。
新卒で入社した1年目の従業員には、前年の所得がないため住民税が発生しません。2年目の6月から天引きが始まります。
1年の流れは6月から翌年5月まで
結論: 特別徴収の年度は6月から翌年5月までの12か月です。5月頃に市区町村から税額決定通知書が届き、6月支給の給与から新しい年税額の12分の1を差し引き始めます。
年間のスケジュールと、端数は6月に寄せられること
特別徴収の1年は、6月に始まって翌年5月に終わります。税額の通知が届くのが5月、最初の天引きが6月です。この区切りが所得税とずれているため、年度の頭で混乱が起きやすくなります。
| 時期 | 会社が行うこと |
|---|---|
| 1月31日まで | 給与支払報告書を従業員の住所地の市区町村へ提出 |
| 5月頃 | 特別徴収税額の決定通知書が届く(会社用・本人用) |
| 5月中 | 本人用の通知を従業員へ配付し、給与システムへ新税額を登録 |
| 6月支給分から | 新しい年度の税額を天引き開始 |
| 毎月10日 | 前月に徴収した税額を市区町村へ納入 |
| 翌年5月支給分 | その年度の最終月 |
年税額を12で割ると端数が出ます。この端数は6月分に上乗せされる扱いが一般的で、6月だけ金額が大きくなります。
7月から翌年5月までは同じ金額が続きます。従業員から「6月だけ多い」と質問を受けたときは、この端数の説明で足ります。
納期限は徴収した月の翌月10日。市区町村ごとに納入する
地方税法第321条の5は、特別徴収義務者が「給与の支払をする際毎月徴収し、その徴収した月の翌月の十日までに、これを当該市町村に納入する義務を負う」と定めています。
6月に天引きした分は7月10日までに納入します。期限が土日祝日の場合は翌開庁日です。
従業員の住所地が複数の市区町村にまたがっていれば、その数だけ納入先が増えます。1人だけ別の市に住んでいる場合でも、その市への納入が発生します。
納付書は市区町村ごとに届きます。eLTAXを使えば、複数の自治体への納入をまとめて処理できます。
従業員10人未満なら納入を年2回にまとめられる
結論: 給与の支払を受ける人が常時10人未満の事業所は、市区町村長の承認を受けることで、特別徴収税額の納入を年2回にまとめられます。毎月の納入作業がなくなるため、小規模な会社の多くが利用しています。
納期の特例の中身
地方税法第321条の5の2は、給与の支払を受ける者が常時10人未満である事務所等について、市町村長の承認を受けた場合には「六月から十一月まで及び十二月から翌年五月までの各期間」に徴収した税額を、各期間の最終月の翌月10日までに納入できると定めています。
つまり、6月から11月分は12月10日まで、12月から5月分は6月10日までです。
承認の申請が要る
自動的に適用されるわけではなく、市区町村へ申請して承認を受けます。承認された月によって、最初の期間の扱いが変わります。
所得税の納期の特例(源泉所得税を年2回にする制度)とは別の手続きです。両方を使いたい場合は、それぞれに申請します。区切る期間も納期限も違うため、同じものとして管理すると期限を取り違えます。
資金の管理には注意が要る。10人以上になったら取消しの届出
半年分をまとめて納めるため、1回あたりの金額が大きくなります。預り金として区分せずに使ってしまうと、納期に足りなくなります。
天引きした住民税は、会社の口座を通過するだけのお金だと考えてください。
従業員が増えて常時10人以上になった場合は、その旨を市区町村へ届け出ます。承認は取り消され、毎月納入に戻ります。
人数の数え方は、給与の支払を受ける人の常時の数です。繁忙期だけ増えるアルバイトの扱いは自治体に確認します。
入社した人は切替の届出で特別徴収に移す
結論: 中途入社した従業員の住民税を特別徴収に切り替えるには、「特別徴収切替届出書」を本人の住所地の市区町村へ提出します。すでに納期限が過ぎた分は、本人が普通徴収で納めます。
前職から引き継ぐ場合と、普通徴収から切り替える場合
前職で特別徴収されていた人が退職から1か月以内に入社した場合、前の会社が提出する給与所得者異動届出書によって引き継がれることがあります。この場合、新しい会社に税額の通知が届きます。
引き継ぎがうまくいかないと、二重に徴収したり、逆に誰も徴収していない期間ができたりします。
入社した従業員が普通徴収の納付書を持っている場合、まだ納期限が来ていない分を特別徴収に切り替えられます。切替届出書に、未納の期別を記載して提出します。
すでに本人が納めた分は対象外です。
新卒1年目は対象にならない。手続きは早めに出す
前年に所得がなければ住民税は発生しません。新卒で入社した年は天引きがなく、2年目の6月から始まります。
「1年目の給与明細に住民税がないのはなぜか」という質問は、毎年この時期に出ます。
対象になる人が分かったら、あとは出す時期です。
切替届出書の処理には時間がかかります。提出から通知が届くまで1か月ほど見ておくと、給与計算の段取りが崩れません。
退職した人の扱いは時期で変わる
結論: 退職した従業員の住民税は、退職した時期によって扱いが分かれます。1月1日から4月30日までに退職した場合は、原則としてその年度の残額を一括徴収します。
時期別の扱いと、1月から4月の退職は一括徴収が原則
退職者の住民税は、退職の時期で扱いが変わります。1月から4月と、6月から12月では手続きも金額も違います。まず時期ごとの扱いを並べて見ておきます。
| 退職の時期 | 残額の扱い |
|---|---|
| 6月1日〜12月31日 | 原則は普通徴収へ切替。本人の申出があれば一括徴収も可 |
| 1月1日〜4月30日 | 原則として一括徴収(最後の給与や退職手当から差し引く) |
| 5月中 | 5月分を通常どおり徴収して終了 |
地方税法第321条の5第2項の但し書きは、退職の事由がその年の翌年1月1日から4月30日までの間に発生した場合には、5月31日までに支払われる給与または退職手当等が残額を超えるときに限り、その支払の際に徴収すると定めています。
年度末に近い時期の退職では、残りの月数分をまとめて差し引くことになります。
給与から引ききれない場合と、異動届出書の期限
最後の給与が残額に満たない場合は、引ける範囲までを徴収し、残りは普通徴収に切り替わります。本人宛てに納付書が届きます。
退職時に「最後の手取りが思ったより少ない」と言われることがあるため、事前に説明しておくと行き違いが減ります。
従業員が退職したときは、給与所得者異動届出書を本人の住所地の市区町村へ提出します。提出期限は、退職した日の属する月の翌月10日です。
この届出を出さないと、退職後も会社に納付書が届き続けます。
転職先が決まっている場合
転職先で特別徴収を継続する場合は、異動届出書に転職先の情報を記載します。本人が転職先に伝えていないと引き継がれないため、退職時に確認しておきます。
転職先へ引き継ぐ場合は、異動届出書に転職先の情報を記載します。本人と転職先の双方に確認したうえで出すことになります。手続きが間に合わなければ、いったん普通徴収に切り替えて本人が納める形になります。
普通徴収が認められる場合は限られる
結論: 特別徴収は原則ですが、給与が少なく税額を引ききれない場合や、退職が決まっている場合など、限られた事由に該当するときは普通徴収が認められます。事由ごとの符号を記載して届け出ます。
主な普通徴収の事由と、事由がなければ認められないこと
多くの自治体が、次のような場合を普通徴収の対象として案内しています。
- 給与の支払を受ける人が常時2人以下の事業所
- 他の事業所で特別徴収されている(乙欄該当者)
- 給与が少なく税額を引ききれない
- 給与の支払が不定期
- 退職者または5月末までに退職予定の人
- 専従者給与のみを受けている人
「事務が煩雑だから」という理由では普通徴収になりません。総務省と各自治体は、特別徴収の徹底を進めてきた経緯があります。
事業所単位ではなく、従業員ごとに事由を判定します。
符号は自治体の様式で確認する。迷うときは市区町村へ
給与支払報告書の摘要欄に、普通徴収を希望する事由の符号を記載します。符号の付け方は自治体の手引きで確認します。
事由に当たるかどうかの判断は、自治体の様式で確かめます。同じ事由でも、記載する符号が違うことがあります。
該当するかどうかの判断は自治体によって運用に幅があります。個別の事情がある場合は、給与支払報告書の提出前に問い合わせるほうが確実です。
起点になるのは1月末の給与支払報告書
結論: 特別徴収の税額は、会社が提出する給与支払報告書をもとに計算されます。提出期限は1月31日で、この提出が翌年度の特別徴収の起点になります。
提出の義務は法律に定められ、退職者の分も提出する
地方税法第317条の6は、1月1日現在において給与の支払をする者で所得税を徴収する義務があるものは、「同月三十一日までに、総務省令で定めるところにより」給与支払報告書を作成し、市町村長に提出しなければならないと定めています。
提出先は、従業員の1月1日現在の住所地の市区町村です。
同条第3項は、給与の支払を受けなくなった者についても、その翌年1月31日までに給与支払報告書を提出しなければならないと定めています。ただし、その年に支払った給与の総額が30万円以下である場合は提出を要しません。
在職者だけを出せばよい、というものではありません。
源泉徴収票と内容は同じ。提出が遅れると通知も遅れる
給与支払報告書と源泉徴収票は、記載する内容がほぼ同じです。提出先が市区町村か税務署かで呼び名が変わります。
給与計算ソフトからは、同じデータで両方が出力されます。
内容が同じでも、出す先と時期が違います。
1月末の提出が遅れると、5月の税額決定通知が届かず、6月からの天引きが始められません。年末調整の作業と合わせて、1月中に終える段取りを組みます。
所得税の源泉徴収とは仕組みが違う
結論: 所得税の源泉徴収は会社が税額を計算して毎月納めますが、住民税の特別徴収は市区町村が計算した金額を会社が取り次ぐだけです。年末調整に相当する精算も住民税にはありません。
2つの制度の比較と、前年の所得にかかる分かりにくさ
同じ天引きでも、所得税と住民税では前提が違います。所得税はその月の給与に対して計算し、住民税は前年の所得に対して市区町村が計算します。この違いが、実務での分かりにくさの元になっています。
| 項目 | 所得税の源泉徴収 | 住民税の特別徴収 |
|---|---|---|
| 税額の計算 | 会社が税額表で計算 | 市区町村が計算して通知 |
| 対象の期間 | その月の給与 | 前年の所得 |
| 年度の区切り | 1月〜12月 | 6月〜翌年5月 |
| 精算 | 年末調整で精算 | 精算は不要 |
| 納付先 | 税務署(国) | 従業員の住所地の市区町村 |
| 納期の特例 | 7月10日・翌年1月20日 | 12月10日・6月10日 |
| 入社1年目 | 初月から発生 | 前年に所得がなければ発生しない |
住民税は前年の所得に対してかかります。収入が大きく減った年でも、前年が高ければ住民税は高いままです。
退職した従業員から「働いていないのに納付書が来た」という問い合わせが会社に入ることがありますが、これは前年分の税金です。
納期の特例の基準日も違う。年末調整の結果は翌年度に反映される
所得税は7月10日と翌年1月20日、住民税は12月10日と6月10日です。同じ年2回でも時期が違うため、混同すると納付漏れになります。
年末調整で所得税を精算しても、その年の住民税には影響しません。年末調整の結果が反映されるのは、翌年6月からの住民税です。
住民税は1年遅れて追いかけてくると考えておくと、従業員への説明もしやすくなります。
納入が遅れると延滞金と加算金がかかる
結論: 特別徴収した税額を期限までに納入しないと、延滞金が課されます。天引きした住民税は従業員から預かったお金であるため、資金繰りの都合で滞納すると影響が大きくなります。
延滞金の計算と、督促と滞納処分
納期限の翌日から納入の日までの日数に応じて計算されます。割合は地方税法で定められ、年度ごとに見直されます。
納入がないと督促状が送られ、それでも納入されない場合は滞納処分の対象になります。従業員から預かった税金であるため、扱いは厳しくなります。
金融機関の融資審査で、公租公課の未納がないかを確認されることもあります。納税証明の提出を求められる場面で、滞納があると話が止まります。
従業員には請求が回らない。資金繰りへの組み込み方
天引きしたのに納入していない場合でも、その分の住民税は納付済みとして扱われます。会社が徴収した時点で、従業員の納税義務は果たされているためです。
未納の責任は特別徴収義務者である会社に残ります。従業員に二重に請求されることはありません。
納期の特例を使っている会社ほど、半年分がまとまって出ていきます。預り金の残高を毎月確認し、納期に備えておく運用が現実的でしょう。
給与計算のたびに、天引きした住民税の累計を確認する。この一手間で滞納は防げます。
事例:退職者の処理が滞っていた会社
従業員20名の会社から、市区町村から届く納付書の金額が合わないというご相談をいただきました。「退職した人の分がまだ請求されている気がするのですが、確認の仕方が分かりません」というお話でした。
調べたところ、過去1年で退職した5名のうち3名について、給与所得者異動届出書が提出されていませんでした。会社に納付書が届き続けていた状態です。
まず、退職日を確認して届出書をまとめて提出しました。あわせて、退職した時期に応じた残額の扱いを整理しています。1月に退職した1名については、一括徴収すべきだった分が処理されていませんでした。
その後、退職手続きのチェックリストに異動届出書の提出を加えました。退職日の翌月10日という期限も一緒に記載しています。
現在は納付書の金額と社内の集計が一致する状態です。担当者からは「退職の手続きは社会保険ばかり気にしていて、住民税が抜けていました」という言葉がありました。
よくある質問
従業員が自分で納めたいと言っているのですが、普通徴収にできますか?
従業員が1人だけでも特別徴収は必要ですか?
6月だけ天引き額が多いのはなぜでしょうか?
従業員が引っ越した場合、納入先は変わりますか?
納期の特例は所得税と一緒に申請できますか?
まとめ:計算より、人が動いたときの手続き
- 特別徴収は、市区町村が計算した住民税を会社が給与から天引きして納める仕組み
- 源泉徴収義務者は原則として特別徴収義務者になる。本人の希望では普通徴収にできない
- 年度は6月から翌年5月まで。納期限は徴収した月の翌月10日
- 常時10人未満なら承認を受けて年2回(12月10日・6月10日)にまとめられる
- 退職者の扱いは時期で変わる。1月から4月の退職は原則として一括徴収
先に整えるべきは、税額の確認ではなく入退社時のチェックリストです。年税額は市区町村が計算してくるため会社が間違える余地は小さく、実際に事故が起きるのは異動届出書の提出漏れです。
やらなくてよいこともあります。従業員ごとに税額を検算する必要はありません。通知された金額をそのまま登録すれば足ります。
税理士法人Light UPでは、給与計算と年末調整、法定調書までを含めたご相談をお受けしています。人を雇い始めたばかりで手続きの全体像が見えない――そうしたご相談は無料相談からお気軽にお寄せください。
出典
- e-Gov 法令検索「地方税法」(第317条の6・第321条の3・第321条の4・第321条の5・第321条の5の2)
- 国税庁 タックスアンサー No.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。普通徴収が認められる事由や申請の様式は市区町村により運用が異なるため、提出先の自治体の案内をご確認ください。




