労働保険の年度更新|6月に行う手続き

「毎年6月に労働保険の封筒が届くのですが、正直、何を計算している書類なのか分かっていません」。「去年と同じ欄に同じような数字を書いて出しているだけで、合っているのか自信がありません」――従業員を雇って数年たった会社から、この2つはよくいただくご相談です。

労働保険の年度更新は、前の年度の保険料を実額で確定させる精算と、新しい年度の保険料を見込みで前払いする申告を、1枚の申告書でまとめて行う手続きです。期間は毎年6月1日から7月10日まで。厚生労働省の案内によれば、令和8年度は6月1日(月)から7月10日(金)が手続期間でした。

税理士法人Light UPでは、年度更新でつまずくのは計算式ではなく、その手前の賃金総額に何を入れるかだと考えています。所得税では非課税になる通勤手当も、労働保険では賃金に算入します。この一点を取り違えたまま何年も申告を続けている会社は、決して珍しくありません。

この記事では、年度更新の仕組みと期間、保険料の計算、令和8年度の料率、賃金に入れるものと入れないもの、分割納付や口座振替、そして会計処理までを、給与計算と記帳を代行している立場から整理します。

年度更新は前年度の精算と当年度の前払いを同時に行う

結論: 労働保険の年度更新は、前年度の保険料を実際の賃金で確定させ、あわせて当年度の保険料を見込みで申告・納付する手続きです。毎年6月1日から7月10日までの間に、1枚の申告書で両方を行います。

先に納めてあとで精算する。概算と確定が1枚に載る

労働保険料は、年度が始まった時点では金額が決まりません。その1年間にいくら賃金を払うかが、まだ分からないからです。

そこで見込額で先に納め、年度が終わってから実額で計算し直します。所得税の予定納税や法人税の中間納付と同じ発想だと考えてください。

申告書には、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料が並んで載ります。前年度に納めすぎていればその分が差し引かれ、足りなければ上乗せされます。

計算が2つ走っているので、書類は複雑に見えます。ただ、やっていることは精算と前払いの2つだけです。

根拠は徴収法の第15条と第19条。1人でも雇っていれば対象

e-Gov 法令検索で読める労働保険の保険料の徴収等に関する法律は、第15条で概算保険料について「保険年度の六月一日から四十日以内」に申告書を添えて納付すると定め、第19条で確定保険料の申告書も同じく次の保険年度の6月1日から40日以内に提出すると定めています。

6月1日から40日を数えると7月10日です。世に言う7月10日期限は、条文の日数計算から出ています。

労働保険は、労災保険と雇用保険を合わせた呼び名です。労災保険はパート・アルバイトを含めて労働者を1人でも雇えば適用され、雇用保険は所定労働時間などの条件に当てはまる人が被保険者になります。

役員だけの会社には年度更新の手続きがありません。人を雇った年から、この6月の作業が毎年入ってきます。

年度更新は1年をまたいで進む
1

4月・年度の始まり
新しい保険年度が始まる。この時点では1年間の賃金総額が確定していないため、保険料の額はまだ決まらない
2

4月から翌3月・賃金の集計期間
毎月の給与と賞与を賃金台帳に記録していく。ここが翌年6月の申告のもとになる
3

6月1日から7月10日・年度更新
前年度の確定保険料を計算して精算し、同じ申告書で当年度の概算保険料を申告・納付する
4

7月10日以降・分割納付
概算保険料が40万円以上なら第2期・第3期に分けて納める。口座振替なら振替日はさらに後ろにずれる

労働保険料は賃金総額に料率を掛けて計算する

結論: 労働保険料の基本の計算式は、賃金総額に一般保険料率を掛けるだけです。一般保険料率は、事業の種類ごとに決まる労災保険率と、全国一律の雇用保険率を足した率になります。

計算式は1行で済む。一般保険料率は2つの率の合計

徴収法第11条は、一般保険料の額を「賃金総額に次条の規定による一般保険料に係る保険料率を乗じて得た額」と定めています。掛け算が1回あるだけです。

複雑に見えるのは計算式ではなく、賃金総額をどう出すかのほうです。

同じ法律の第12条は、一般保険料率について、労災保険と雇用保険の両方の保険関係が成立している事業では「労災保険率と雇用保険率とを加えた率」とし、どちらか一方だけが成立している事業ではその一方の率とすると定めています。

一般の会社は両方が成立しているので、2つを足した率を使います。

賃金総額は前年度4月から3月まで

確定保険料の計算に使う賃金総額は、前年の4月1日から当年3月31日までに支払った賃金の合計です。徴収法第11条第2項は、この賃金総額を「事業主がその事業に使用するすべての労働者に支払う賃金の総額」と定義しています。

会社の事業年度ではなく、4月から3月の区切りです。3月決算以外の会社では、決算期と集計期間がずれます。

負担の割合は保険ごとに違う

労災保険料は全額が会社負担です。労働者から控除しません。

雇用保険料は労使で分け合いますが、きれいな折半ではありません。徴収法第31条は、被保険者が負担する額を、雇用保険率に応ずる部分の額から二事業率に相当する額を差し引いた残りの2分の1と定めています。雇用保険二事業(雇用安定事業及び能力開発事業)の分は、会社だけが負担する構造です。

計算の例

その他の各種事業(労災保険率3/1,000)で、賃金総額が3,000万円の会社を考えます。雇用保険率が13.5/1,000(うち労働者負担分5/1,000)であれば、一般保険料率は16.5/1,000です。

3,000万円 × 16.5/1,000 = 49万5,000円。このうち従業員の負担は 3,000万円 × 5/1,000 = 15万円で、残りの34万5,000円が会社の負担になります。

同じ労働保険でも、労災と雇用は性格が違う
労災保険
保険料は全額が会社負担で、給与から控除しない
料率は事業の種類ごとに決まる
パート・アルバイトを含む全労働者が対象
加入手続きの窓口は労働基準監督署
雇用保険
保険料は会社と本人で分担する。二事業の分は会社のみ
料率は全国一律で、年度ごとに見直される
対象は雇用保険の被保険者だけ
加入手続きの窓口はハローワーク

令和8年度の雇用保険料率は13.5/1,000へ下がった

結論: 厚生労働省が公表した令和8年度の雇用保険料率は、一般の事業で合計13.5/1,000です。令和7年度の14.5/1,000から1/1,000引き下げられ、労働者負担は5/1,000、事業主負担は8.5/1,000になりました。

事業の3区分で率が変わる。下がったのは失業等給付の部分

厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」による、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの率は次のとおりです。

事業の種類 労働者負担 事業主負担 合計
一般の事業 5/1,000 8.5/1,000 13.5/1,000
農林水産・清酒製造の事業 6/1,000 9.5/1,000 15.5/1,000
建設の事業 6/1,000 10.5/1,000 16.5/1,000

同じ資料によれば、令和7年度は一般の事業で合計14.5/1,000、農林水産・清酒製造の事業で16.5/1,000、建設の事業で17.5/1,000でした。

厚生労働省の同資料では、引き下げられたのは失業等給付等の保険料率で、労働者負担・事業主負担ともに5/1,000に変更されたと示されています。事業主だけが負担する雇用保険二事業の保険料率は3.5/1,000(建設の事業は4.5/1,000)で据え置きです。

事業主負担の8.5/1,000は、失業等給付分の5/1,000と二事業分の3.5/1,000を足したものです。内訳が分かると、なぜ折半にならないのかが見えてきます。

園芸サービスなどは一般の事業の率。4月にさかのぼって適用される

農林水産の事業に見えても、一般の事業の率が使われるものがあります。厚生労働省の同じ案内には、園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖および特定の船員を雇用する事業について、一般の事業の率が適用されると注記されています。

自社がどの区分かは、思い込みで決めずに労働保険番号や過去の申告書で確かめる価値があります。

料率は年度単位で切り替わります。令和8年度分は、令和8年4月1日以降に支払う賃金から新しい率です。

給与ソフトの料率設定を4月の給与計算までに直していないと、従業員から控除した額と申告書の額がずれます。年度更新のときにまとめて調整する会社もありますが、本来は毎月の控除で合わせるものです。

労災保険率は事業の種類ごとに決まる

結論: 労災保険率は事業の種類ごとに定められており、厚生労働省の案内では令和8年度は令和7年度と同率です。事務所中心の業種は3/1,000前後、災害の危険が高い業種は数十倍の水準になります。

代表的な業種の率と、業種の判定を誤ったときの差

厚生労働省「令和8年度の労災保険率等について」に掲載された率のうち、中小企業に関係の深いものを抜き出すと次のようになります。

事業の種類 労災保険率
金融業、保険業又は不動産業 2.5/1,000
通信業、放送業、新聞業又は出版業 2.5/1,000
卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 3/1,000
その他の各種事業 3/1,000
ビルメンテナンス業 6/1,000
倉庫業、警備業、消毒又は害虫駆除の事業又はゴルフ場の事業 6.5/1,000
建築事業(既設建築物設備工事業を除く) 9.5/1,000
林業 52/1,000

同じ資料の率を見ると、低いほうは2.5/1,000、いちばん高い金属鉱業などは88/1,000です。事業の種類の判定を誤ると、保険料の水準そのものが変わります。

事業内容を変えたときや、新しい部門を立ち上げたときは、労働保険番号に紐づく事業の種類が実態と合っているかを見直す機会になります。

建設業の労務費率と、特別加入にフリーランス向けが加わったこと

請負による建設の事業では、賃金総額を正確に把握しにくい場合があります。同じ厚生労働省の資料では、その場合に請負金額へ乗じる労務費率が示されており、建築事業は23%、道路新設事業は19%です。

建設業は労災保険と雇用保険で申告の単位が分かれる二元適用事業でもあるため、申告書自体が2枚になります。

厚生労働省の同資料では、フリーランス法の改正に伴い徴収則が改正され、第2種特別加入保険料率に特定フリーランス事業の区分が追加されたことが示されています。

外注として仕事を受けている人が特別加入する道が広がりました。発注する側の会社にとっても、業務委託先の労災の扱いは無関係ではありません。

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賃金総額に入れるかどうかで迷いやすいもの

結論: 労働保険の賃金総額には、通勤手当・賞与・住宅手当・休業手当が入り、退職金・解雇予告手当・出張旅費・慶弔見舞金は入りません。判断は名称ではなく、労働の対償として支払われたかどうかで決まります。

通勤手当は所得税と扱いが逆になる

いちばん多い取り違えがこれです。厚生労働省の労働保険料の算定基礎となる賃金早見表では、通勤手当や定期券・回数券等が、賃金総額に算入するものとして挙げられています。

一方、国税庁の取扱いでは、通勤手当は一定の限度額まで所得税の非課税です。所得税で非課税になる手当も、労働保険では賃金として数えます。給与ソフトの課税支給額だけを合計すると、この分が丸ごと抜け落ちます。

退職金と前払い退職金、休業手当と休業補償費

同じ早見表では、退職を事由として支払われる退職金は算入しないものに区分されています。ところが、在職中に退職金相当額を給与や賞与へ上乗せして払う、いわゆる前払い退職金は算入するものに挙げられています。

名前は同じ退職金でも、支払うタイミングと性格で扱いが分かれます。

労働基準法第26条にもとづく休業手当は賃金として算入します。業務災害や通勤災害に係る休業補償費は算入しません。

会社都合で休ませたときの支払いは賃金、労災の給付にあたるものは賃金ではない。そういう線引きです。

算入するもの・しないものの一覧と、未払いでも確定していれば入れること

賃金総額に算入する 賃金総額に算入しない
基本給・固定給等の基本賃金 退職金(退職を事由として支払うもの)
超過勤務手当・深夜手当・休日手当 解雇予告手当(労働基準法第20条にもとづくもの)
賞与 休業補償費(業務災害・通勤災害に係るもの)
通勤手当・定期券・回数券 出張旅費・宿泊費・赴任手当(実費弁償的なもの)
扶養手当・家族手当・住宅手当 結婚祝金・死亡弔慰金・災害見舞金・私傷病見舞金
役職手当・技能手当・地域手当 制服
休業手当(労働基準法第26条にもとづくもの) 会社が全額負担する生命保険の掛金
前払い退職金 財産形成貯蓄のため事業主が負担する奨励金等

(厚生労働省「労働保険料の算定基礎となる賃金早見表」の例示をもとに整理)

一覧で判断できないものは、支払いが確定しているかどうかで見ます。

賃金総額は、実際に払った額だけではありません。その年度に支払うことが確定している賃金も含めます。

3月分の給与を4月に払っている会社では、3月分は前年度の賃金に入ります。給与の締め日と支払日がずれている会社ほど、ここで数字が動きます。

賃金かどうかは、名称ではなく性質で決まる
01
労働の対償か
働いたことへの対価として払うものは賃金。祝金や見舞金のように、恩恵的・任意に払うものは賃金にならない
02
支払いが義務づけられているか
労働協約・就業規則・労働契約で支払うと決めているものは賃金。支給するかどうかを会社が都度決めるものは外れる
03
実費の弁償か
出張旅費や宿泊費のように、立て替えた実費を返す性格のものは賃金にならない。通勤手当は実費に見えても賃金に入る
04
支払う時期はいつか
同じ退職金でも、退職時に払えば賃金から外れ、在職中に給与へ上乗せして払えば賃金に入る

労災保険と雇用保険で数える人の範囲が違う

結論: 同じ申告書の中でも、労災保険はパート・アルバイトを含む全労働者の賃金を集計し、雇用保険は被保険者だけの賃金を集計します。2つの欄の金額が一致しない会社のほうが多数です。

労災保険は雇った人すべて、雇用保険は被保険者だけ

労災保険は、雇用形態を問わず労働者を対象とします。1日だけ働いた人も、週2日のパートも、賃金総額に含めます。

外国人であっても、労働者であれば対象です。

雇用保険の集計対象は、雇用保険に加入している人です。所定労働時間が短くて加入対象から外れるパートは、雇用保険側の賃金総額に入りません。

同じ人の賃金が、労災の欄には入り雇用の欄には入らない。これが2つの金額がずれる理由です。

役員は原則として対象外。同居の親族も原則は外れる

法人の役員は労働者ではないため、原則として労働保険の対象になりません。役員報酬は賃金総額に含めません。

ただし、部長職を兼ねる使用人兼務役員のように、労働者としての実態がある場合は扱いが変わります。ここは実態で判断する領域なので、迷ったら労働基準監督署やハローワークに事実関係を示して確認する道があります。

事業主と同居している親族も、原則として労働者に該当しません。ただし、他の従業員と同じ就業実態があり、賃金もその働きに応じて支払われている場合は、労働者として扱われることがあります。

家族経営の会社では、ここを整理しないまま申告している例をよく見ます。

概算保険料が40万円以上なら3回に分けて納められる

結論: 概算保険料が40万円以上なら、申告書を出すときに申請することで3回に分けて納付できます。労災保険と雇用保険のどちらか一方だけが成立している事業では、20万円以上が基準です。

分割できる条件と、3つの期と納期限

徴収法施行規則第27条は、延納の対象を、概算保険料の額が「四十万円(労災保険に係る保険関係又は雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業については、二十万円)以上のもの」または労働保険事務組合に労働保険事務の処理を委託しているものと定めています。

事務組合に委託していれば、金額の条件に届かなくても分割できます。中小企業が事務組合を使う理由のひとつがこれです。

対象期間 納期限 事務組合に委託している場合
第1期 4月1日〜7月31日 7月10日 7月10日
第2期 8月1日〜11月30日 10月31日 11月14日
第3期 12月1日〜翌年3月31日 翌年1月31日 翌年2月14日

同じ規則は、概算保険料の額を期の数で割った額を各期分とすると定めています。期限が土日祝にあたる年度は、その後の最初の営業日にずれます。令和8年度は10月31日が土曜のため第2期は11月2日(月)、1月31日も土曜のため第3期は2月1日(月)です。

途中で加入した年は使えないことがある。申請は申告書を出すときに

同じ第27条には、その保険年度の10月1日以降に保険関係が成立した事業を除く、という括弧書きがあります。年度の後半に人を雇い始めた会社は、初年度は一括で納めることになります。

2年目からは通常どおり分割の対象です。

延納は自動では始まりません。徴収法第18条は、延納を「事業主の申請に基づき」政府が認めるものとしています。申告書の該当欄で分割を選ぶ形です。

出したあとから分割へ変えることはできないため、資金繰りを見てから提出する順番になります。

概算保険料を分割で納められるか
概算保険料が40万円以上
3回に分けて納付できる。労災か雇用のどちらか一方だけが成立している事業は20万円以上が基準
労働保険事務組合に委託している
金額の条件に届かなくても分割できる。第2期・第3期の納期限も11月14日・翌年2月14日と半月ほど後ろになる
その年度の10月1日以降に加入した
初年度は分割の対象から外れ、一括で納める。2年目からは通常どおり分割できる

口座振替を使うと納付日が約2か月後ろにずれる

結論: 労働保険料は口座振替で納められます。厚生労働省の案内によれば、令和8年度の第1期の口座振替納付日は9月7日で、振替を使わない場合の納期限である7月10日より約2か月後ろになります。

令和8年度の振替日と納期限。資金繰りの観点で見た意味

納付の期日を後ろにずらせる仕組みがあります。口座振替を使う方法で、申込みをすれば納期限より約2か月遅い日に引き落とされます。資金の余裕が薄い時期に重なる会社ほど、この差は大きくなります。

納期 第1期 第2期 第3期
口座振替納付日 9月7日(月) 11月16日(月) 翌年2月15日(月)
振替を使わない場合の納期限 7月10日(金) 11月2日(月) 翌年2月1日(月)
申込締切日 2月25日(水) 8月14日(金) 10月13日(火)

第2期・第3期は、延納が認められた場合に対象となる振替日です。

同じ額を納めるのに、支払日が約2か月後ろにずれます。手数料はかかりません。

夏の賞与と重なる時期に大きな支払いが集中する会社では、この2か月の差が資金繰り表の見え方を変えます。導入していない会社が意外に多い仕組みです。

申込は納期ごとに締切がある。申告書を出さないと第1期が振り替えられない

厚生労働省の案内では、申込は口座を開設している金融機関の窓口へ申込用紙を提出する方式で、令和8年度の第2期からの振替開始を希望する場合の締切は8月14日と示されています。翌年度の第1期から始めたい場合は、その年度の2月下旬が締切です。

郵送では受け付けられません。届出印の確認が要るためです。

同じ案内には、年度更新手続期間中(6月1日から7月10日まで)に申告書の提出がない場合、第1期分の口座振替納付処理を行うことができないと注記されています。

口座振替を申し込んでいても、申告そのものが遅れると振替は動きません。順番は申告が先です。

口座振替を使い始めるまで
1

申込用紙を用意する
労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書に記入する。3枚複写になっている
2

金融機関の窓口へ提出する
届出印の確認が必要なため郵送は不可。希望する納期の締切日までに提出する。手数料はかからない
3

年度更新の申告書を期間内に出す
6月1日から7月10日までに申告書の提出がないと、第1期分の振替処理が行われない
4

振替日に引き落とされる
令和8年度の第1期は9月7日。振替を使わない場合の納期限である7月10日より約2か月後ろになる

電子申請が義務の会社には紙の申告書が届かない

結論: 資本金等が1億円を超える法人などは、労働保険の年度更新を電子申請で行う義務があります。厚生労働省の案内によれば、義務の対象となる事業場には、令和8年度の年度更新から紙の申告書が送付されなくなりました。

義務の対象は、資本金、出資金または銀行等保有株式取得機構に納付する拠出金の額が1億円を超える法人、相互会社、投資法人、特定目的会社です。

中小企業の多くは対象外ですが、増資で資本金が1億円を超えた会社は、その時点から扱いが変わります。

これまでは義務の対象でも紙の申告書が届いていました。令和8年度からは、代わりに電子申請情報通知書等が、定形郵便サイズの茶封筒で送られます。

大きな封筒が届かないことを、手続きが不要になったと受け取ってしまう。制度が変わった年に起きやすい行き違いです。

電子申請は、義務の対象でなくても利用できます。申告は電子申請、納付は口座振替という組み合わせにすれば、窓口へ出向く用事がなくなります。

顧問の社会保険労務士がいる会社では、代理での電子申請に対応しているかを聞いておくと段取りが決めやすくなります。

期限に遅れると追徴金と延滞金の対象になる

結論: 申告をしないまま政府が保険料を決定した場合、徴収法第21条により納付すべき額の10%の追徴金が徴収されます。納付が遅れた分には、督促を受けたときに延滞金が加算されます。

追徴金は10%

e-Gov 法令検索で読める徴収法第21条は、事業主が労働保険料またはその不足額を納付しなければならない場合に、「その納付すべき額(その額に千円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)に百分の十を乗じて得た額の追徴金を徴収する」と定めています。

同条には例外もあります。天災その他やむを得ない理由による場合は徴収されず、不足額が1,000円未満のときも追徴金は徴収されません。

延滞金は年14.6%

同じ法律の第28条は、督促をしたときに、納期限の翌日から完納の日の前日までの日数に応じて年14.6%(納期限の翌日から2月を経過する日までの期間は年7.3%)の割合で延滞金を徴収すると定めています。

ただし同条では、督促状に指定した期限までに完納したときは延滞金を徴収しないとされています。督促状が届いた段階で動けば、加算を避けられる余地があります。

気づいた時点で申告する。未手続の期間にも保険は動いている

期限を過ぎたからといって、申告できなくなるわけではありません。手続期間を過ぎても申告書は受け付けられます。

放置している期間が長いほど、確定と概算が何年分も積み上がって金額が大きくなります。気づいた時点で管轄の労働局へ事情を伝えて手続きを進めるのが、結果としていちばん軽く済む進め方です。

労働保険は、労働者を雇った時点で保険関係が成立します。申告していなくても、成立の日にさかのぼって保険料を納めることになります。

労災が起きたあとに未手続だったことが分かると、給付に要した費用の一部を事業主から徴収する制度もあります。手続きの遅れは、保険料だけの問題にとどまりません。

概算が多すぎたときは還付と充当のどちらかを選ぶ

結論: 前年度の概算保険料が確定保険料を上回った場合、超過額は還付を請求するか、当年度の概算保険料に充てるかを選べます。請求をしなければ、原則として充当されます。

徴収法施行規則第36条は、確定保険料申告書を提出する際などに超過額の還付を請求したときは、その超過額を還付するものと定めています。

還付は自動では起きません。申告書の該当欄で還付を選ぶ形になります。

同じ規則の第37条は、還付の請求がない場合、超過額を次の保険年度の概算保険料や未納の労働保険料などに充当すると定めています。

実務では充当を選ぶ会社が多数です。手続きが1つ減り、当年度に納める現金も減るからです。

充当は納付額を減らすだけなので、現金が戻ってくるわけではありません。手元資金を厚くしたい年は、還付を選ぶ判断もあります。

どちらを選んでも保険料の総額は変わりません。現金がいつ動くかだけの違いです。

会計処理は概算払いと確定の2回に分けて考える

結論: 労働保険料の会計処理は、概算保険料を納めた時点と、翌年度に確定して精算する時点の2回に分かれます。従業員負担分は預り金、会社負担分は法定福利費で処理するのが基本の形です。

納付した時点と、確定した時点

概算保険料を納めた時点では、まだ費用が確定していません。全額を前払費用(または立替金)で受けておき、月々の給与で従業員から控除する分を預り金と相殺していく方法が、実務では扱いやすいでしょう。

いったん全額を法定福利費で処理し、決算で前払分を振り替える会社もあります。どちらでも構いませんが、毎年同じ方法を続けることが大事です。

翌年度の年度更新で確定額が出たら、前払いしていた額との差額を精算します。不足していれば法定福利費を追加し、超過していれば戻します。

期をまたぐ処理なので、前期にどう処理したかを見ずに当期だけを見ると、必ず合わなくなります。

従業員負担分は費用ではない。控除額は本人に知らせる義務がある

従業員から控除した雇用保険料は、会社の費用ではなく預り金です。給与から預かって、まとめて国へ納めているだけだからです。

ここを法定福利費に混ぜると、人件費の実態が見えなくなります。

徴収法第32条は、事業主が被保険者の負担すべき額を賃金から控除できるとしたうえで、「労働保険料控除に関する計算書を作成し、その控除額を当該被保険者に知らせなければならない」と定めています。

給与明細に雇用保険料の欄があれば、通常はこの求めを満たします。明細に項目を立てずに一括で引いている会社は、見直す価値があります。

申告書の作成は社会保険労務士、賃金データと会計は税理士

結論: 労働保険の申告書の作成と提出の代行は、社会保険労務士の業務です。税理士や経理代行が担うのは、その前段にある賃金データの整備と、納付後の会計処理・資金繰りになります。

業務の分かれ目と、税理士側で用意できるもの

社会保険労務士法は、労働社会保険諸法令にもとづく申請書等の作成と提出の代行を、社会保険労務士の業務と定めています。年度更新の申告書はここに含まれます。

税理士が申告書を作って出すことはできません。ここは制度上の線引きです。

一方、申告書に書く数字のもとになる賃金台帳や賃金集計表は、給与計算と記帳の延長線上にあります。毎月の給与データが整っていれば、6月に慌てて1年分を数え直す作業は要らなくなります。

前払費用と法定福利費の振り替え、納付資金の見通しも、会計側の仕事です。

連携がないと同じ数字を2度作ることになる

給与計算を社内で行い、記帳を税理士に、労働保険の手続きを社会保険労務士に、と分かれている会社は多いものです。それぞれが別々に賃金を集計していると、同じ数字を3か所で作ることになります。

「毎年6月は同じ資料を2か所に送っている」というお声は、実際によくいただきます。賃金台帳を1つに定め、そこから両方が数字を取る形に整えるだけで、作業はかなり軽くなります。

年度更新をめぐる役割の分かれ目
社会保険労務士が担う
年度更新申告書の作成と提出の代行
労働保険の加入・変更・脱退の手続き
労働保険事務組合への委託に関する手続き
労働保険の適用や被保険者資格の判断
税理士・経理代行が担う
賃金台帳と賃金集計表の整備
概算払いと確定精算の会計処理
従業員負担分の預り金の管理
納付資金の見通しと分割・口座振替の選択

よくある相談事例

年度更新をめぐるご相談は、6月に集中します。中でも多いのが次の3つです。

従業員が増えた年に、概算が実態と合わなくなった

従業員10名の会社から、「去年と同じ賃金見込みで出したら、翌年に大きな不足が出ました」というご相談でした。期の途中で5名を採用しており、賃金総額が前年の1.5倍になっていた例です。

概算保険料は前年度の賃金総額をそのまま使えますが、大きく増える見込みがあるなら見込額で申告する道もあります。整理したのは2点。1つは採用計画と賃金の見込みを6月時点でどこまで確度高く置けるか。もう1つは、不足が出たときに翌年の資金繰りがどうなるかの試算です。結果として、増員が確定している分だけを織り込む形に落ち着きました。

通勤手当を集計から落としていた

「給与ソフトの課税支給額を合計して申告していました」。個人事業から法人化した会社で、数年にわたって通勤手当が賃金総額から抜けていました。

所得税の非課税と労働保険の賃金は、別の物差しです。給与ソフトの集計表には課税・非課税の区分がありますが、労働保険の賃金総額はその区分と一致しません。過去分の取扱いを労働局に確認したうえで、翌年からは労働保険用の集計表を別に出す運用へ切り替えました。

役員報酬を賃金に入れていた

一人社長の会社が、法人化の初年度に自分の役員報酬を賃金総額に含めて申告していた例です。従業員1名分の賃金だけを書けばよいところに、役員報酬が乗っていました。

保険料を多く納めていたことになります。担当の方からは「そもそも自分が労働保険の対象かどうかを考えたことがなかった」という言葉がありました。役員が労働保険の対象になるかどうかは、実態で決まります。判断が分かれる場面では、労働基準監督署へ事実関係を示して確認するのが確実です。

よくある質問

従業員が1人もいなくなった年も、年度更新は必要ですか?
必要です。その年度に賃金の支払いがあれば確定保険料の申告が要りますし、支払いがなくてもゼロで申告します。事業を廃止して保険関係そのものが消滅した場合は、消滅した日から50日以内に確定保険料の申告を行う流れになります。
概算保険料は前年度と同じ額でよいのでしょうか?
賃金総額の見込みが前年度の2倍を超えるか、2分の1を下回る場合を除き、前年度の賃金総額をそのまま見込額として使えます。多くの会社はこの扱いで前年度と同じ数字を書いています。人員が大きく動く年だけ、見込みを立て直す形になります。
申告書を出したあとに賃金の集計ミスに気づきました。どうなりますか?
訂正の申告ができます。管轄の労働局または労働基準監督署に連絡して手続きを進めます。放置して政府による決定を受けると追徴金の対象になり得るため、気づいた時点で動くほうが結果は軽くなります。
労働保険事務組合に委託すると何が変わりますか?
申告や納付の事務を組合が代わりに行い、概算保険料の額にかかわらず分割納付ができます。納期限も第2期が11月14日、第3期が翌年2月14日と半月ほど後ろになります。あわせて、本来は労働保険の対象外である事業主や役員が労災保険へ特別加入する道も開けます。
年度更新の書類は税理士に頼めますか?
申告書の作成と提出の代行は社会保険労務士の業務のため、税理士がお引き受けできる範囲ではありません。ただし、申告書のもとになる賃金台帳・賃金集計表の作成、納めた保険料の会計処理、納付資金の見通しは税理士や経理代行の領域です。役割を分けたうえで数字のもとを1つにしておくと、二重の入力が減ります。

まとめ:数字を作る場所を1つにする

  • 年度更新は、前年度の確定保険料の精算と当年度の概算保険料の前払いを、1枚の申告書で行う手続き
  • 期間は毎年6月1日から7月10日まで。令和8年度は6月1日(月)から7月10日(金)だった
  • 令和8年度の雇用保険料率は一般の事業で13.5/1,000。労災保険率は令和7年度と同率
  • 賃金総額でつまずくのは通勤手当と前払い退職金。所得税の非課税の区分とは一致しない
  • 概算保険料が40万円以上なら3回に分けられる。口座振替なら第1期の引き落としは9月7日

先に手を付けるべきは料率の確認ではありません。賃金台帳が1年分そろっているか、給与の締めと支払いのずれをどう扱っているか。この2つが決まっていれば、集計は半日で終わります。

やらなくてよいこともあります。6月に1年分の給与明細を並べて数え直す作業は、毎月の給与計算のときに集計表を残しておけば不要になります。

税理士法人Light UPでは、給与計算と記帳をあわせたご相談をお受けしています。労働保険の手続き自体は社会保険労務士の領域ですが、その前段にある賃金データの整え方や、保険料の会計処理・資金繰りは私たちの担当です。どこから手を付けるか迷っているという段階でも、無料相談からお寄せください。

給与・源泉・年末調整のご相談は初回無料です。実際の数字を見ながら、自社の場合はどうなるかをそのままお話しできます。

出典

  • e-Gov 法令検索「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」(第11条・第12条・第15条・第18条・第19条・第21条・第28条・第31条・第32条)
  • e-Gov 法令検索「労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則」(第27条・第36条・第37条)
  • 厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」
  • 厚生労働省「令和8年度の労災保険率等について」
  • 厚生労働省「労働保険年度更新に係るお知らせ」
  • 厚生労働省「労働保険料等の口座振替納付」
  • 厚生労働省「労働保険料の算定基礎となる賃金早見表」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2582「電車・バス通勤者の通勤手当」

※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。雇用保険料率は年度ごとに見直され、労災保険率も改定されることがあります。手続きの詳細や個別の判断は、管轄の労働局・労働基準監督署、または社会保険労務士にご確認ください。

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