非常勤役員の報酬|金額の決め方と実務
「月5万円くらいでよいでしょうか」。非常勤役員の報酬について、こうしたご質問をいただきます。相場を尋ねられているのですが、この問いに答える基準は金額そのものではありません。
結論からお伝えすると、非常勤役員の報酬は職務の内容と対価としての相当性で決まります。常勤か非常勤かという区分に応じた相場があるわけではなく、何を担っているかから積み上げることになります。
税理士法人Light UPでは、非常勤役員の報酬を設定する際、担当する職務を先に文書にするようご案内しています。金額の根拠は、そこからしか作れないためです。
この記事では、非常勤役員の報酬の考え方、定期同額給与の要件、家族を非常勤役員にする場合の注意点、みなし役員との関係、そして議事録の書き方を整理します。社会保険の加入判定は別の記事にまとめています。
非常勤役員とは何か
結論: 会社法にも税法にも、非常勤役員という区分の定義はありません。実態としての勤務の形を指す呼び方です。
法律上の区分ではない
会社法は取締役や監査役という役職を定めていますが、常勤と非常勤という区分は置いていません。税法にも同じく定義はなく、あるのは役員かどうか、使用人兼務役員に当たるかどうかという区分です。非常勤という呼び方は、実態としての勤務の形を表しているにすぎません。したがって、非常勤だから報酬はこの水準、という基準が法令に書かれているわけではありません。金額の妥当性は、常勤と同じ枠組みで判断されます。
呼び方より実態
社内で非常勤役員と呼んでいても、実際には毎日出社して重要な決裁を行っているなら、実態は常勤です。逆に、常勤役員として登録していても、月に数回の出社で助言のみを行っているなら、実態は非常勤に近くなります。呼称ではなく、何をしているかで判断されるという原則は、税務でも社会保険でも共通しています。
想定される役割
社外から経営に関与する役割、専門的な知見を提供する役割、家族が経理や総務の一部を担う役割。非常勤役員として想定される形はいくつかあります。役割によって、相当な報酬の水準も変わります。専門的な判断を担う役割と、限られた事務を担う役割では、対価としての性質が違います。まず自社の非常勤役員が何を担っているかを整理することが出発点になります。
報酬の額はどう考えるか
結論: 職務の内容から積み上げます。常勤役員との均衡と、同種の職務を外部に委託した場合との比較が材料になります。
職務の対価であること
役員報酬が損金になるには、その職務の対価として相当であることが前提です。法人税法34条2項は、不相当に高額な部分の金額は損金の額に算入しないと定めています。e-Gov 法令検索で条文を確認できます。非常勤であっても、この判断の枠組みは同じです。実際に担っている職務の内容から、金額が相当かどうかが見られます。
常勤役員との均衡
同じ会社の常勤役員の報酬と比べて、職務の内容と時間に応じた水準になっているかを確認します。常勤役員が月80万円で、週に1度出社する非常勤役員が月70万円であれば、その差の説明が必要になります。社内での相対的な位置づけが、判断の材料のひとつになります。ただし、担当する職務の性質が違う場合は、時間だけで比べられません。専門的な判断を担う役割であれば、時間に比例しない水準もあり得ます。
外部に委託した場合との比較
同じ職務を外部の専門家に委託した場合、いくらかかるかという視点も材料になります。月1回の経営会議への出席と助言であれば、その内容に見合う水準があるはずです。外部に頼めば同じ金額を払うのかという問いは、金額の妥当性を考えるうえで分かりやすい基準になります。顧問契約の相場が参考になる場面もあります。ただし、役員には会社法上の責任が伴う点で、外部の委託とは性質が違います。責任の重さも、報酬の水準を考える材料のひとつです。
記録が根拠になる
金額の根拠は、議事録と職務の記録から作ります。何を担当し、いつどの判断に関与したか。この記録がなければ、金額の妥当性を説明できません。非常勤という性質上、日常的に出社しているわけではないため、記録の重要性はむしろ高くなります。会議の議事録、助言の内容を記した資料、やりとりの記録。これらを残しておく運用が必要です。
| 判断の材料 | 見る内容 |
|---|---|
| 職務の内容 | 何を担当し、どの判断に関与しているか |
| 従事の時間と頻度 | 月何回の出社か、会議への出席状況はどうか |
| 常勤役員との均衡 | 同じ会社のなかで、職務と報酬が釣り合っているか |
| 外部委託との比較 | 同じ職務を外部に委託した場合の水準 |
| 記録の有無 | 議事録、助言の記録、やりとりの記録 |
定期同額給与の要件は同じ
結論: 非常勤であっても、毎月同額を支払う必要があります。出社した回数に応じて変動させると要件から外れます。
毎月同額であること
損金に算入できる役員給与の類型のひとつが定期同額給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であることが要件です。出社が月1回の月と月3回の月で報酬を変えると、この要件を満たしません。非常勤役員の場合、稼働に波があることが多いため、この点は意識しておく必要があります。年間を通じた平均的な稼働を前提に、一定額を設定するという形になります。
改定の期限も同じ
金額を変更できるのは、事業年度開始の日から3か月を経過する日までの改定などに限られます。非常勤役員だからといって、期の途中で自由に変えられるわけではありません。就任した時期によっては、その期は決められた額のままということになります。期の途中で就任した場合は、臨時改定事由に当たるかを確認します。新たに就任した役員について、就任の時から支給を始めること自体は問題になりません。問題になるのは、既に就任している役員の報酬を期の途中で変える場合です。
賞与を出す場合
非常勤役員に賞与を支払って損金にするには、事前確定届出給与の届出が必要です。届出の期限も常勤と同じで、株主総会等の決議の日から1か月を経過する日と、事業年度開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です。届け出た日に届け出た額を支払わなければ、全額が損金になりません。稼働の見込みが立たない役員について、賞与で調整するという設計は取りにくくなります。
家族を非常勤役員にする場合
結論: 実際に業務に従事していることが前提です。名義だけの役員への報酬は、損金にならない可能性があります。
実態が問われやすい場面
配偶者や親族を非常勤役員にして報酬を支払う形は、所得の分散という点で効果があります。ただし、実際に業務に従事していない場合、その報酬は職務の対価とは言えません。不相当に高額な部分として、損金にならない可能性があります。金額が小さければ問題にならないという理解は正確ではなく、実態がなければ金額の大小を問いません。
何を担っているかを具体化する
経理の確認、取引先との関係の維持、人事に関する助言。担っている業務があるなら、それを具体的に書き出します。業務の名前だけでなく、いつ何をしたかまで記録することが根拠になります。月に1度、担当した内容を1行ずつ書き残すだけでも、説明の材料になります。後から作ることはできないため、運用として定着させる必要があります。
社会保険の判定は別に確認する
非常勤役員であっても、実態によっては社会保険の加入対象になる場合があります。判定は勤務の実態で行われ、呼称では決まりません。報酬の設定と、社会保険の加入判定は別の論点です。加入が必要になれば保険料が発生し、想定していた負担と変わります。詳しくは、役員の社会保険加入義務を扱った記事にまとめています。加入すれば会社負担分も生じるため、報酬の額を決める段階で見込んでおく必要があります。後から判明すると、資金繰りの見込みも変わります。
みなし役員という論点
登記上は役員でなくても、実質的に経営に従事している一定の親族などは、税務上の役員として扱われます。これがみなし役員です。逆に、みなし役員に該当する家族へ賞与を支払っても、事前確定届出給与の届出がなければ損金になりません。登記の有無だけで判断できないという点は、家族が関わる会社では確認が必要です。
顧問や業務委託との使い分け
結論: 経営に関与するなら役員、特定の業務を委託するなら業務委託。契約の形で扱いが変わります。
役員は委任、業務委託は請負または委任
会社と役員の関係は委任で、民法643条の委任の規定が準用されます。一方、業務委託契約は、その内容によって請負にも委任にもなります。役員は会社の機関として意思決定に関与するのに対し、業務委託は特定の業務を提供するという違いです。何を期待するかによって、選ぶ形が変わります。役員には善管注意義務があり、会社に損害を与えれば責任を問われる立場になります。この責任の重さは、業務委託にはないものです。
税務上の扱いも違う
役員報酬は定期同額給与などの要件を満たさなければ損金になりません。業務委託の報酬は、役務の提供を受けた期の費用になり、金額の変動にも制約がありません。稼働に波がある関与なら、業務委託のほうが実態に合う場面もあります。ただし、実質的に経営に従事しているのであれば、契約の名称にかかわらず役員報酬として扱われる可能性があります。
消費税と源泉徴収も変わる
役員報酬は給与として扱われ、消費税の課税仕入れになりません。源泉徴収は給与所得の税額表で行います。業務委託の報酬は、相手が事業者であれば課税仕入れになり、源泉徴収の要否は業務の内容によります。同じ金額でも、会社の負担と手続が変わります。契約の形を決める段階で確認が要ります。役員報酬であれば社会保険の加入判定も生じますが、業務委託であればその論点はありません。手続の量という面では、業務委託のほうが軽くなります。
議事録の書き方
結論: 金額だけでなく、職務の内容と、その水準にした理由まで記載します。金額だけの議事録では、根拠を尋ねられたときに答えられません。就任のタイミングで職務を文書にしておけば、そのまま説明の材料になります。
決議の記載事項
役員報酬の総額は株主総会で決議し、個々の役員への配分は取締役会または取締役の過半数の決定などで決めます。議事録には、決議した金額とともに、各役員の職務の内容を記載しておきます。金額だけの議事録では、根拠を示せません。非常勤役員については、担当する職務と関与の頻度を具体的に書いておくと、後の説明が容易になります。
就任のときに整える
非常勤役員が就任するタイミングで、職務の内容を文書にしておきます。就任の登記に加えて、何を担うかを決めた記録を残すという形です。後から作ると、実態との対応を示しにくくなります。委任契約書を作成する方法もあります。会社と役員の関係は委任なので、契約の形で職務の範囲を明確にしておくことに問題はありません。就任いただく側にとっても、何を期待されているかが明確になるという利点があります。範囲が曖昧なまま就任すると、後から認識の食い違いが生じます。
毎年の見直しでも残す
報酬を据え置く場合でも、その旨を決議して議事録に残します。何も決議せずに支払い続ける形は、手続の面で不備が生じます。変えないという判断も、記録に残すということです。あわせて、その年に担当した職務の内容を確認しておけば、実態と報酬の対応を毎年確認する機会にもなります。職務の範囲が変わっているのに報酬が据え置きのままという状態も生じます。年に1度、実態と記載の対応を見直す時間を取ってください。
就任と退任の実務
結論: 就任の登記、報酬の決議、そして社会保険の判定。この3つを同じ時期に確認します。登記だけを済ませて報酬の決議を忘れるという例が実際にあります。任期の管理も、非常勤役員では漏れやすい部分です。
就任のときに行うこと
株主総会で選任し、就任の承諾を得て、2週間以内に変更登記を申請します。あわせて、報酬の額を決議し、職務の内容を文書にします。社会保険の加入判定も、この時期に確認します。登記だけを済ませて報酬の決議を忘れるという例があるため、一覧にして順に確認する方法が確実です。決議がないまま報酬を支払っていると、会社法の手続の面で不備が生じます。就任の登記と同じ時期に、報酬の決議と職務の文書化まで済ませておくのが確実です。
任期の管理
取締役の任期は原則2年、監査役は4年ですが、非公開会社では定款で最長10年まで伸長できます。任期が満了すれば、再任の決議と登記が必要です。任期満了に気づかず登記を怠ると、過料の対象になります。非常勤役員は日常的に関わる機会が少ないため、任期の管理が漏れやすい部分でもあります。役員の任期を一覧にして管理しておくと確実です。
退任のときの扱い
退任する場合も、2週間以内に変更登記を申請します。退職金を支給する場合は、株主総会の決議が必要です。非常勤役員への退職金についても、在任期間と報酬の水準から算定した金額の範囲に収める必要があります。在任期間が長くても、報酬が低ければ算定の基礎も小さくなります。功績倍率法を使う場合、最終報酬月額が計算の起点になるためです。
事例:職務を書き出したことで金額が変わった会社
製造業の会社から、非常勤役員の報酬についてご相談をいただきました。社外の方に取締役として就任いただく予定でした。
月10万円を想定されていました。
金額の根拠は、他社の例を聞いた水準とのことでした。
そこで、その方に何を担っていただくかを整理しました。月1回の経営会議への出席、新規事業の技術的な助言、そして取引先の紹介です。技術的な助言については、その分野での実績が明確にありました。
書き出してみると、月1回の出席だけでは済まない関与が含まれていました。新規事業の技術的な助言は、会議の場だけでなく随時のやりとりも想定されます。
同じ内容を技術顧問として外部に委託した場合の水準と比べ、金額を見直しました。あわせて、委任契約書に職務の範囲を明記し、月次で関与の記録を残す運用を作っています。
金額から入るのではなく、職務から入るというだけで、話の進み方が変わりました。就任いただく側にとっても、何を期待されているかが明確になります。
よくある質問
非常勤役員の報酬に相場はありますか?
出社した回数で報酬を変えてもよいですか?
家族を非常勤役員にしてもよいですか?
社会保険には加入しますか?
賞与を支払うことはできますか?
議事録には何を書けばよいですか?
まとめ:金額ではなく職務から積み上げる
非常勤役員の報酬に、法令上の基準はありません。会社法にも税法にも常勤と非常勤という区分の定義がないためです。非常勤だからこの水準という相場は、そもそも存在しません。
判断の枠組みは常勤と同じで、職務の対価として相当かどうかが問われます。材料になるのは、職務の内容、従事の頻度、常勤役員との均衡、そして同じ職務を外部に委託した場合との比較です。
手続の面でも、定期同額給与の要件は常勤と変わりません。毎月同額を支払う必要があり、出社の回数に応じて変動させると要件から外れます。改定の期限も、事業年度開始の日から3か月を経過する日までです。
家族を非常勤役員にする場合は、実際に業務に従事していることが前提になります。名義だけの役員への報酬は、金額の大小を問わず職務の対価とは言えません。担当する業務を具体的に書き出し、従事の記録を残すことが根拠になります。
議事録には、金額だけでなく職務の内容と根拠まで記載してください。就任のタイミングで職務を文書にしておけば、そのまま説明の材料になります。後から作ると、実態との対応を示しにくくなります。
なお、社会保険の加入判定は報酬の設定とは別の論点です。実態から判断されるため、加入の要否は別に確認する必要があります。
税理士法人Light UPでは、役員報酬の設定と、その根拠を残す運用についてのご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「法人税法」(昭和四十年法律第三十四号)第34条
- e-Gov 法令検索「法人税法施行令」(昭和四十年政令第九十七号)第7条、第69条、第70条、第71条
- e-Gov 法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)第330条、第332条、第336条、第361条、第915条
- e-Gov 法令検索「民法」(明治二十九年法律第八十九号)第643条




