役員の社会保険の加入義務とは?非常勤役員の判断基準を解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
会社から労務の対償として報酬を受けている役員は、代表取締役でも非常勤の取締役でも、健康保険と厚生年金保険の加入対象です。報酬を受けていない役員は対象外です。非常勤という肩書きでは決まらず、経営に参画する経常的な労務の提供があるか、報酬がその対価として経常的に払われているかを、実態で判断します。この記事では、日本年金機構の疑義照会回答と、厚生労働省の令和8年3月18日付の通知(同年9月14日に一部改正)に沿って、判断の基準と手続き、保険料を整理します(2026年10月時点)。個別の加入の可否は、年金事務所または社会保険労務士が判断する領域です。
役員の社会保険は加入が必要?
結論: 会社から報酬を受けている役員は、代表取締役でも非常勤でも、健康保険と厚生年金保険の被保険者になります。報酬を受けていない役員は、被保険者になりません。
報酬を受ける役員は対象になる
厚生労働省の令和8年3月18日付の通知は、法人の役員について「当該法人から労務の対償として報酬を受けている者は、当該法人に使用される者として被保険者の資格を取得させる」と示しています。根拠は昭和24年7月28日保発第74号通知で、雇用契約のない代表取締役も同じ扱いです。
日本年金機構は、適用事業所を「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」としており、一人会社でも、代表者が報酬を受けていれば加入します。
報酬を受けていない役員は対象外
労務の対償としての報酬がなければ、被保険者になりません。国民健康保険と国民年金に入ります。報酬を0円にするかどうかは、生活費の出し方や会社の税金にも関わります。
役員の状況別の早見表
| 役員の状況 | 健康保険・厚生年金保険 | 理由 |
|---|---|---|
| 代表取締役が毎月報酬を受けている | 対象 | 労務の対償としての報酬がある |
| 取締役が毎月報酬を受け、経営の判断に関わる | 対象 | 経営に参画する経常的な労務と、その対価がある |
| 報酬を受けていない役員 | 対象外 | 労務の対償としての報酬がない |
| 役員会に出席するだけの役員、求めに応じて意見を述べるだけの役員 | 適用なしと判断される | 通知が適用なしの形に挙げている |
役員の加入判断でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、非常勤という肩書きで外す、出勤していないから外す、報酬が少ないから外す、2社の役員を兼ねても届け出ない、の4つです。間違えると、遡って加入の手続きと保険料の納付が必要になります。
配偶者や親族を非常勤の役員にして報酬を払っているのに、社会保険に入れていなかったと気づいて相談に来られる方が少なくありません。
肩書き・出勤・報酬の額で外している
非常勤かどうかも、出勤しているかどうかも、判断の基準ではありません。毎週決まった曜日に出社して経理を担当している役員は、登記が非常勤でも、経営に参画する経常的な労務を提供しています。出勤していないことや報酬が少ないことも、それだけでは外す理由になりません。
2社の役員を兼ねても届け出ていない
2社以上で加入の要件を満たす役員は、本人が届出を出します。会社が出す届出ではないため、期限を過ぎる例があります。
役員の一覧と、役員ごとの報酬が分かる給与台帳、役員会の議事録をお持ちいただければ、報酬と経営への関わりを役員ごとに整理し、社会保険労務士に確かめるべき役員を絞り込みます。
非常勤役員が加入対象になる基準は?
結論: 判断の基準は、経営に参画する経常的な労務の提供があるかと、報酬がその対価として経常的に払われているかの2つです。出勤の頻度や報酬の額だけでは決まりません。
判断の2つの基準
日本年金機構の疑義照会回答(法人の代表者の被保険者資格について)は、「法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断されたい」としています。令和8年3月の通知も、同じ2つを基準にしています。週の所定労働時間で線を引く物差しは、役員にはありません。
判断の材料
疑義照会回答は、判断の材料として、定期的な出勤、多くの職を兼ねていないか、業務の内容、報酬の決定に至った経過などを挙げています。材料の例は一例で優先順位はなく、複数の材料から実態に基づいて総合的に判断するとしています。
適用なしと判断される形
令和8年3月の通知は、最終的には個別の実態で判断するとしたうえで、基本的に次のいずれかに当たる場合は、適用はないと判断するとしています。
出勤していないだけでは決まらない
疑義照会回答は、定期的な出勤について「経常的な労務の提供を判断する一つの要素であり、定期的な出勤がないことだけをもって、被保険者資格がないとするものではありません」と答えています。代表者の職務は、事業所に出勤したうえでの労務の提供に限られないためです。
報酬が少ない役員も加入対象になる?
結論: 報酬が少ないことだけを理由に、資格を外すことは妥当でないとされています。金額の下限は決まっていません。ただし、業務の内容に見合わない極端な額は調査されます。
少額だけでは外せない
疑義照会回答は、経営の状況に応じて報酬を下げた場合は今後支払われる見込みがあり一時的と考えられるため、低い報酬金額をもって資格を喪失させることは妥当でないとしています。最低金額を決め、下回れば資格がないとする運用も、妥当ではないと答えています。
業務に見合わない額は調査される
業務の内容に対して1円の報酬しかないなど、ふさわしいか疑わしい場合は、報酬が決まった経過や、多くの職を兼ねていないかといった働き方を調べて判断します。額が極端に不自然なときに、説明を求められます。会議の旅費や立替経費の弁償だけを受け取る場合は、もともと報酬ではありません。
個人事業主の役員は加入できる?
結論: 会費などの名目で役員報酬を上回る額を会社に払っている個人事業主は、原則として被保険者と認められません。
令和8年3月18日の通知
社会保険料の削減を掲げて個人事業主等を法人の役員にし、会費等と称して役員報酬を上回る額を払わせる事業所があり、通知は、役員報酬を上回る会費等を払っている場合は、実質的に業務の対価に見合った報酬を受けているとは言えず、原則として経常的な支払いとは認められないとしています。実態がないと確認された場合は、資格喪失の届出を出させ、被保険者の資格を喪失させます。
認められない業務の形と9月の改正
通知は、アンケートへの回答や勉強会への参加など単なる自己研さん、単なる活動報告や情報共有、事業の紹介についての単なる協力やお願いは、経営に参画する経常的な労務の提供に当たらないとしています。経営に参画しているかは、指揮命令権を持つ職員の有無、決裁権を持つ所管業務の有無、役員間の取りまとめや代表者への報告業務の有無、会議以外の業務と出勤頻度で見ます。対象は個人事業主等ですが、一般の非常勤役員の実態を見るときにも参考になります。
9月14日の改正で、会費等は勉強費、広告費、参加料、コンサルタント料、協力金、委託費など名称を問わないと定められました。会費等が報酬と同額か下回っていても、報酬の多くを占め、他の個人事業主の役員との相互互助的な連携にすぎない活動なら、使用関係が認められない可能性があります。
2社の役員を兼ねるときの手続きは?
結論: 2社以上で加入の要件を満たすときは、本人が主となる事業所を選び、事実の発生から10日以内に所属選択・二以上事業所勤務届を出します。保険料は報酬を合算して決まります。
届出は本人が10日以内に出す
届出の名前は、健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届です。日本年金機構は、被保険者本人が提出するとしています。
保険料は報酬を合算して按分する
各事業所で受ける報酬月額を合算して標準報酬月額を決め、各事業所の報酬月額に応じて按分します。たとえば、A社で30万円、B社で20万円の報酬なら、合算した50万円で保険料を決め、A社とB社が3対2で負担します(説明用の金額です)。
役員の社会保険料はいくら?
結論: 厚生年金保険料率は18.3%で、会社と本人が半分ずつ負担します。健康保険料率は都道府県や健康保険組合ごとに異なります。
料率と標準報酬月額
日本年金機構によると、厚生年金保険料率は18.3%で固定されています。保険料は、報酬をそのまま使わず、標準報酬月額の等級に当てはめて計算します。厚生年金保険の標準報酬月額は32等級で、下限は8万8,000円、上限は65万円です。役員報酬が月100万円でも、厚生年金保険の計算は65万円で頭打ちになります。
保険料は労使折半ですから、厚生年金保険だけで標準報酬月額の9.15%が、会社と本人にそれぞれかかります。役員報酬を決めるときは、会社が負担する保険料も入れて比べます。
年齢と他の保険の扱い
日本年金機構によると、厚生年金保険の被保険者は、適用事業所に常用的に使用される70歳未満の方です。70歳になると、原則として健康保険だけの加入になります。
雇用保険は、ハローワークが、代表取締役と業務執行権を持つ取締役は被保険者にならず、その他の役員も原則として被保険者にならないとしています。労災保険も、労働者でない役員は対象外で、従業員を雇う会社は、労働保険事務組合に事務を委託して特別加入できます(奈良労働局のリーフレット)。
未加入と分かったときの対応は?
結論: 加入が必要だった役員は、遡って加入の手続きをし、保険料を納めます。先に役員ごとの実態を記録で整理し、迷う役員は年金事務所か社会保険労務士に確かめます。
遡って加入手続きと保険料の納付
年金事務所の確認で、加入すべき実態があったと判断されると、その時点まで遡って資格取得の手続きをします。会社が負担する保険料も、遡った期間の分が一度に発生します。未加入の期間は、厚生年金保険の加入期間に入らず、将来の老齢厚生年金の額にも影響します。
役員ごとに実態を記録で整理する
税理士は、役員の一覧と報酬の支払い状況、出勤や役員会への出席の記録、他社の役職の順に確かめ、判断が分かれる役員を社会保険労務士につなぎます。加入の可否の判断と届出の代理は、社会保険労務士の業務です。加入が決まったら、役員報酬の水準も見直します。
よくある質問
非常勤の役員なら、社会保険に入らなくてよいですか?
役員報酬が月1万円でも、加入が必要ですか?
令和8年10月の短時間労働者の適用拡大は、役員にも関係しますか?
まとめ:実態を記録で説明できるようにしよう
- 会社から報酬を受けている役員は、代表取締役でも非常勤でも、健康保険と厚生年金保険の加入対象です。報酬を受けていない役員は対象外です
- 非常勤の役員は、経営に参画する経常的な労務の提供と、報酬の対価性の2つで、実態を見て判断されます
- 出勤がないことだけ、報酬が低いことだけを理由に、資格を外すことは妥当でないとされています
- 会費等が報酬を上回る個人事業主の役員は、令和8年3月の通知で、原則として被保険者と認められません
- 2社の役員を兼ねるときは、本人が10日以内に届出を出し、報酬を合算して保険料が決まります
役員に報酬を払っていて社会保険の加入の要否に迷っている方、非常勤の役員や親族の役員の扱いを整理したい方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。役員の一覧と報酬の支払い状況を確認し、判断が分かれる役員を絞り込みます。
出典
- 日本年金機構「主な疑義照会と回答について(厚生年金保険 適用)」法人の代表者の被保険者資格について
- 厚生労働省 保保発0318第1号・年管管発0318第1号「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(令和8年3月18日)
- 厚生労働省 保保発0914第1号・年管管発0914第1号「同通知の一部改正」(令和8年9月14日)
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」「厚生年金保険の保険料」
- 日本年金機構「複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き」
- 日本年金機構「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」
- ハローワーク「雇用保険の被保険者の種類と要件」、奈良労働局「労災保険の特別加入制度」
- 日本年金機構「2026(令和8)年10月に社会保険の短時間労働者に係る賃金要件が撤廃されました」





