赤字決算のメリットとデメリット
「赤字なら税金がかからないので、いっそそのほうが楽ではないですか」「赤字だと銀行の見方が変わると聞いて不安です」――決算の着地が見えてきた時期に、この2つをよくいただきます。
結論からお伝えすると、赤字決算には法人税の負担がなくなり、生じた欠損金を10年間繰り越せるという側面があります。一方で、赤字でも出ていく税金があり、金融機関の評価は下がり、自社株の評価では逆に働く場合もあります。赤字は結果であって、目的にするものではないというのが実務での考え方です。
税理士法人Light UPでは、赤字になりそうな期にこそ、その赤字を将来どう使うかまで決めておくべきだと考えています。繰り越すのか、前期の税金を取り戻すのか。選ぶ手が2つあります。
この記事では、赤字でも払う税金、欠損金の繰越控除と繰戻し還付の使い分け、赤字が響く場面、そしてあえて赤字にする判断の危うさまで整理します。
赤字決算とは課税所得がマイナスの状態
結論: 税務でいう赤字とは、益金から損金を引いた課税所得がマイナスになった状態を指します。会計上の当期純損失とは計算の範囲が違うため、決算書が赤字でも税務上は所得が出ていることがあります。
決算書の当期純損失と、法人税申告書の欠損金額は一致しません。交際費の損金不算入、役員給与の否認、引当金の調整といった加算・減算を経て、税務上の数字が出るためです。
「赤字なのに税金が出ました」というご相談は、この差から生まれます。見るべきは損益計算書ではなく申告書の別表四です。
会計上の赤字と税務上の欠損金、営業赤字と経常赤字
会計上の利益から出発し、税法のルールに合わせて調整した結果が課税所得です。調整項目が多い会社ほど、両者の差は開きます。
調整の大きさを見たあとは、赤字がどの段階で出ているかを見ます。
本業で赤字なのか、支払利息などを引いた後で赤字なのか。金融機関も税理士も、まずここを分けて見ます。
営業段階で赤字なら事業の構造の問題、営業黒字で経常赤字なら財務の問題です。手を打つ場所が変わります。
一時的な赤字か、続く赤字か
役員退職金の支給、店舗の閉鎖損失、大型の設備投資に伴う償却負担。これらは翌期に繰り返されません。
同じ赤字でも、意味はまったく違います。決算書を出す前に、どちらなのかを自分の言葉で説明できるようにしておきます。
続く赤字であれば、翌期の計画にその前提を入れておく必要があります。一時的な損失であれば、その内容と金額を決算書とは別に整理しておくと、金融機関への説明がそのまま通ります。どちらなのかを決めるのは、決算が固まる前です。
赤字でも出ていく税金がある
結論: 法人税は課税所得がなければ発生しませんが、法人住民税の均等割、消費税、源泉所得税、固定資産税、社会保険料は赤字でも支払います。赤字だから支出がゼロになるわけではありません。
| 税・保険料 | 赤字のときの扱い |
|---|---|
| 法人税・法人事業税(所得割) | 課税所得がなければ発生しません |
| 法人住民税の均等割 | 赤字でも発生します。資本金等1,000万円以下・従業者50人以下で年7万円が目安 |
| 消費税 | 預かった消費税が支払った消費税を上回れば納付します |
| 源泉所得税 | 給与を支払っていれば納付義務があります |
| 固定資産税・償却資産税 | 資産を保有していれば発生します |
| 社会保険料 | 給与を支払っていれば発生します |
均等割は毎年かかる
法人住民税の均等割は、所得の有無にかかわらず課されます。総務省の税率一覧表によると、資本金等の額1,000万円以下・従業者50人以下の区分では、市町村民税の均等割が標準税率で年5万円、道府県民税が2万円です。
会社を持っている限り、この固定費は続きます。休眠にしても、届出をしなければ課税されることがあります。
消費税は利益と関係がなく、防衛特別法人税は黒字化後にかかる
消費税は預かった税額から支払った税額を引いて計算するもので、利益とは別の仕組みです。赤字でも納付が生じます。
赤字の期に消費税の納付が重なると、資金繰りが厳しくなります。ここが実務で最も詰まる場面です。
令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、基準法人税額をもとに計算する防衛特別法人税が始まっています。基準法人税額から年500万円を控除した残額に4%を乗じる仕組みです。
法人税が発生しない赤字の期には、この税も生じません。黒字化した後に影響が出てくる項目として、頭に置いておきます。
欠損金は10年間繰り越せる
結論: 青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金は、10年間繰り越して将来の所得から控除できます。資本金1億円以下の中小法人等であれば、所得金額の全額まで控除できます。
国税庁は欠損金の繰越控除の対象を「青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額」と示しています。白色申告では使えないため、青色申告の承認を受けていることが前提です。
中小法人等は所得の全額まで使え、繰越期間は10年
大法人では控除の限度が所得金額の50%とされていますが、資本金1億円以下の中小法人等は所得金額の全額まで控除できます。
1,000万円の欠損金がある会社が翌期に800万円の所得を出した場合、その800万円すべてを相殺できます。残る200万円は、さらに翌期以降へ繰り越されます。
平成30年4月1日以後に開始した事業年度に生じた欠損金は、10年間繰り越せます。それより前の欠損金は9年です。
10年あるとはいえ、使い切れずに期限切れとなる会社もあります。繰越額が積み上がっている状態は、健全ではありません。
毎期の申告が条件になる
繰越控除を受けるには、欠損金が生じた事業年度に青色申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出している必要があります。
申告を出し忘れた期があると、そこで繰越が途切れます。赤字だから申告しなくてよい、ということにはなりません。
途切れた繰越しは、後から復活させることができません。休眠に近い状態の会社でも、申告書だけは毎期出しておくことです。事業を再開して黒字になった年に、過去の赤字を使えるかどうかが変わります。
前期の税金を取り戻す繰戻し還付
結論: 中小企業者等は、欠損金を前期に繰り戻して、前期に納付した法人税の還付を請求できます。国税庁は対象を「欠損事業年度の前1年以内に開始した事業年度」と示しており、翌期以降を待たずに現金が戻る点が繰越しとの違いです。
現金がその期に戻る。使うための条件
繰越控除は将来の黒字を待つ必要がありますが、繰戻し還付は前期に納めた税金が戻ります。資金繰りが厳しい局面では、この差が大きく働きます。
現金が戻る仕組みであるぶん、使える場面は限られます。
- 前期・当期ともに青色申告書を提出していること
- 欠損事業年度の確定申告書を期限内に提出していること
- 確定申告書と同時に還付請求書を提出すること
- 原則として資本金1億円以下の中小企業者等であること
法人税だけが対象で、請求すると内容を確認される
還付されるのは法人税(および地方法人税)です。法人住民税や法人事業税には繰戻し還付の制度がなく、こちらは繰越しでの調整になります。
前期に納めた税額のすべてが戻るわけではない、という点は押さえておいてください。
還付の請求があった場合、税務署はその基礎となった事実について調査を行うこととされています。これは制度上の手続きであり、必ず実地の調査が入るという意味ではありません。
とはいえ、根拠を示せる資料は揃えておきます。
繰越しと繰戻しのどちらを選ぶか
結論: 前期に納税があり、当期の資金繰りが厳しいなら繰戻し還付、翌期以降に大きな黒字が見込めるなら繰越控除が向きます。両方を同時に使うこともでき、一部を還付、残りを繰越しとすることも可能です。
| 状況 | 向いている方法 | 理由 |
|---|---|---|
| 前期に納税があり、いま資金が厳しい | 繰戻し還付 | 現金がその期のうちに戻る |
| 前期は赤字または納税が少ない | 繰越控除 | 戻す先の税額がない |
| 翌期に大きな黒字が見込める | 繰越控除 | 税率の高い所得と相殺できる |
| 業績の回復が読めない | 繰戻し還付 | 使えるうちに現金化する |
10年待てるかどうか。併用もできる
繰越しは将来の黒字が前提です。黒字化の見通しが立たない会社では、繰り越しても使えないまま期限が来ます。
確実に手元に入る現金と、不確実な将来の節税。この比較で決める場面が多くあります。
どちらか一方を選ばなければならないわけでもありません。
欠損金の一部を還付に充て、残りを繰り越すこともできます。前期の納税額に限りがある場合は、この形になります。
決めるのは申告のとき
どちらを選ぶかは、確定申告書を出す段階で決めます。還付請求書は確定申告書と同時に提出する必要があるため、後から切り替えることはできません。
決算の数字が固まった時点で、翌期以降の見通しとあわせて判断する場面です。
判断に必要なのは、前期の納税額と、翌期以降の見通しの2つです。前期の納税額が小さければ、繰戻しで戻る金額も小さくなります。決算の数字が固まった段階で、この2つを並べて決めることになります。
赤字が響く場面
結論: 赤字決算は、金融機関の評価、取引先の与信、そして許認可や入札の要件で影響します。単年度の赤字より、複数期の継続や債務超過のほうが重く見られます。
金融機関の評価と、取引先の与信
決算書を提出すると、その内容をもとに取引先としての区分が見直されます。赤字が続けば新規の融資は難しくなり、条件も変わります。
ただし赤字イコール融資不可ではありません。原因が一時的で、営業利益に減価償却費を足した金額がプラスであれば、返済原資は残っています。
継続的な取引では、相手方が決算内容を確認することがあります。上場企業との取引や、大きな受注の前には求められる場面があります。
入札や許認可の要件と、補助金の審査
公共工事の入札参加資格では、経営状況の評価が点数に反映されます。建設業許可の財産的基礎の要件など、決算内容が要件になっているものもあります。
補助金の申請では、事業を継続できる体力があるかを確認されます。決算内容が極端に悪い状態では、採択後に事業を実施できないと判断される可能性があります。
赤字であること自体が失格になるわけではありませんが、資金の手当てをどうするかは説明できるようにしておきます。
債務超過に至っているか
累積の赤字が資本金を超えると、債務超過になります。ここまで来ると、単年度の赤字とは別の問題として扱われます。
債務超過かどうかは、貸借対照表の純資産の欄で分かります。ここがマイナスであれば、融資の場面では実質的に別の扱いになります。単年度の赤字とは切り分けて、解消までの計画を数字で持っておくことです。金額と期間の見通しがあれば、話の進み方が変わります。
あえて赤字にする判断の危うさ
結論: 税負担を避けるために赤字にする判断は、資金の流出と評価の低下という代償を伴います。100万円の税金を避けるために、それ以上の現金が出ていく構造になりがちです。
税率を超えて現金が出る。償却を止めて黒字に見せるのも同じ
経費を使えば税金は減りますが、使った金額のほうが減った税額より大きくなります。実効税率がおおむね3割とすれば、100万円使って戻るのは30万円ほどです。
必要な支出であれば問題ありませんが、税金を減らすためだけの支出では手元の現金が減ります。
逆に、赤字を避けるために減価償却を止める会社もあります。金融機関は申告書の別表十六から償却不足を確認し、その分を差し引いて評価します。
表面上の黒字は評価に反映されず、税負担だけが増える結果になりがちです。
評価は数年残る
決算書は3期分をまとめて見られます。1期だけ数字を作っても、前後と並べれば違和感が残ります。
その場の税額より、3期並べたときの姿を優先する。これが実務での判断です。
3期を並べたとき、極端に動いている科目があれば説明を求められます。逆に、赤字であっても推移に一貫性があり、原因を説明できる決算書は読み手に伝わります。単年度の見え方を作ることより、説明のつく数字を積み重ねるほうが結果は安定します。
自社株の評価では逆に働くことがある
結論: 赤字の期は自社株の評価額が下がると考えられがちですが、配当・利益・簿価純資産のうち2つがゼロになると比準要素数1の会社に該当し、かえって評価額が上がる場合があります。
事業承継を控えた会社では、この点を確認せずに贈与を進めると結果が反対になります。
直前期末で配当・利益・簿価純資産のうち2つがゼロになり、直前々期末でも2つ以上がゼロだと、この判定に該当します。該当すると類似業種比準価額を25%しか使えず、残り75%は純資産価額で評価します。
含み益のある会社では、赤字の期のほうが評価額が高く出ることになります。
株価が安いはずのタイミングで、実際には高い評価額が出る。事業承継の実務では実際に起きる事故です。
赤字の期に株式を動かす予定があるなら、必ず事前に試算します。
赤字の中身を分解して見る
結論: 同じ赤字でも、売上の減少によるものか、原価率の悪化によるものか、固定費の増加によるものかで打つ手が変わります。損益計算書を上から順に前期と並べると、どこで差がついたかが見えます。
赤字という一語で括ると、対策が「経費削減」しか出てきません。分解すると、やるべきことが具体的になります。
売上・粗利・固定費の3段で見る。固定費は戻すのに時間がかかる
前期と当期を並べ、売上高、売上総利益、販売費及び一般管理費の3つで差額を出します。どこが最も動いたかが、赤字の主因です。
売上が変わらないのに粗利が減っていれば、仕入価格か値引きの問題。粗利が同じで赤字なら、固定費が増えています。
人件費、家賃、リース料。増やすのは一度の判断ですが、減らすには時間と交渉が要ります。
固定費の増加による赤字は、翌期も続く前提で計画を立てる。一時的な損失による赤字と、ここが決定的に違う点です。
撤退の判断を数字で持つ
複数の店舗や事業がある場合、部門別に分けて見ます。全体では赤字でも、特定の部門だけが原因ということは珍しくありません。
そのとき、その部門をやめれば黒字になるのかを計算します。共通の固定費が残るため、単純に赤字部門を引けばよいとは限りません。
計算では、その部門をやめた後にどれだけの固定費が残るかを先に置きます。家賃や本部の人件費は、部門を閉じても消えません。残る固定費を引いてもなお全体が改善するのであれば、撤退の判断に数字の裏づけがつきます。
赤字になったときの手順
結論: 赤字が見えたら、原因の切り分け、繰越しと繰戻しの選択、資金繰りの確認、金融機関への説明という順で進めます。決算日を過ぎてからでは選べる手が限られます。
- 原因を分ける:一時的な損失によるものか、事業の構造によるものかを切り分けます
- 申告の方法を選ぶ:繰戻し還付を使うか、繰越しにするか、併用するかを決めます
- 資金繰りを確認する:赤字でも消費税・源泉所得税・社会保険料の支払は続きます
- 金融機関へ先に説明する:決算書が届く前に、原因と対策を口頭で伝えておきます
- 翌期の計画を作り、改善の道筋を数字で示します
決算日の2〜3か月前に着地を読み、申告は必ず出す
期末を過ぎてからできることは、ほとんどありません。3か月前であれば、資産の整理や回収の前倒しといった選択肢が残ります。
早く読めたとしても、やることが変わらない手続きがあります。赤字の年ほど落としやすいのが、この一手です。提出そのものが要件になっているためです。
赤字でも申告は必要です。提出が途切れると欠損金の繰越しができなくなり、均等割の課税も残ります。
役員報酬を下げるのは翌期から
赤字だから役員報酬を減らしたい、という判断はよくあります。ただし期の途中の減額は、業績悪化改定事由などの限られた場合を除いて損金になりません。
一時的な資金繰りの都合は、この事由に含まれないとされています。減額を検討するなら、翌期の期首から3か月以内が原則の場面です。
期の途中で下げてしまうと、減額後の金額との差額が損金になりません。資金繰りのために減らしたつもりが、税務上は支給したものとして扱われ、負担だけが残ります。減らす必要があるなら、翌期の期首を待つのが原則です。
よくある相談事例
製造業|繰戻し還付を知らずに繰り越していた/小売業|減価償却を止めた
前期に納税があり、当期が赤字になった会社です。当初は繰越控除だけを予定していましたが、資金繰りが厳しい状況でした。
繰戻し還付を使い、前期の法人税の一部が還付されています。将来の節税より、いま戻る現金のほうが必要な局面でした。
数年にわたり減価償却を計上せず、表面上の黒字を維持していた会社です。融資の相談で償却不足を指摘され、評価には反映されていませんでした。
正しく償却したうえで、償却前の利益を説明する形に切り替えています。当面は決算上の赤字が出ますが、説明はしやすくなりました。
建設業|入札の点数に影響していた/卸売業|赤字の期に贈与しようとしていた
公共工事の入札参加資格の審査で、赤字が点数に反映されたケースです。融資への影響ばかりを気にしていて、こちらは想定していませんでした。
決算内容が要件になっている制度がないかを、事前に確認する運用に変えています。
事業承継のため、株価が下がった赤字の期に贈与を予定していた会社です。試算したところ、比準要素数1の会社に該当し、評価額はむしろ高く出る状態でした。
翌期に少額でも配当を出す方向で組み直しています。試算せずに実行していたら、逆の結果になっていました。
よくある質問
赤字だと税金は一切かかりませんか?
欠損金は何年繰り越せますか?
繰戻し還付を使うと税務調査が来ますか?
赤字にすれば節税になりますか?
赤字が続くと会社はどうなりますか?
まとめ:赤字は結果として受け止め、使い道を決める
- 税務上の赤字は課税所得がマイナスの状態です。決算書の当期純損失とは一致しません
- 赤字でも、均等割・消費税・源泉所得税・固定資産税・社会保険料は支払います
- 欠損金は10年間繰り越せます。中小法人等は所得の全額まで控除できます
- 前期に納税があるなら、繰戻し還付で現金をその期に戻す選択肢があります
- 税金を減らすための支出は、税額より大きな現金を失います
- 赤字の期は自社株の評価が下がるとは限りません。贈与の前に必ず試算します
次の一歩としては、いま繰り越している欠損金の残高と、その期限を確認してみてください。使い切れずに消える見込みなら、そこから逆算した計画が要ります。
赤字決算の申告方法の選択や、翌期に向けた立て直しについて、税理士法人Light UPの無料相談でご一緒します。
【メタディスクリプション】
赤字決算のメリットとデメリットを、欠損金の繰越控除と繰戻し還付の使い分けから整理しました。赤字でも払う税金や、自社株評価への影響も解説します。




