貸倒引当金の考え方|中小企業の特例
「うちも計上できると聞いたけれど、そもそも対象になるのか分からない」「毎年入れているが、翌期に戻すなら意味があるのか」――決算の打合せで貸倒引当金の話になると、この2つが必ず出てきます。
結論からお伝えすると、貸倒引当金を使えるのは資本金1億円以下の法人など、法人税法52条1項が挙げる法人に限られます。そのうえで中小企業には、租税特別措置法57条の9により、実績を計算せずに業種ごとの法定繰入率で繰入限度額を出せる特例が認められています。ただし翌期には全額を益金に戻すため、税負担が消えるわけではなく、繰り延べる仕組みです。
税理士法人Light UPでは、貸倒引当金は節税策として持ち出すものではなく、債権の中身を毎期見直すための道具だと考えています。計上額そのものより、どの債権が危ないかを毎年洗い出す作業のほうに価値があります。
この記事では、使える法人の範囲、個別評価と一括評価の違い、法定繰入率の具体的な数値、実質的に債権とみられない金額の控除、洗替えの仕組み、そして令和8年度税制改正大綱に入った見直しまで、決算の現場で問われる順に整理します。
貸倒引当金を使える法人は限られている
結論: 貸倒引当金の繰入額を損金に算入できるのは、法人税法52条1項が挙げる法人だけです。資本金1億円以下の普通法人、公益法人等・協同組合等、人格のない社団等、銀行・保険会社などに限られます。
「引当金は誰でも計上できるもの」と思われがちですが、法人税では平成24年度の改正で対象法人が絞られました。会計上は債権の回収可能性を見積もって引当てるのが原則でも、税務上損金にできる法人は別に定められている、という二階建ての構造です。
条文が挙げる法人の区分
e-Govで法人税法52条1項を確認すると、対象となる内国法人が3つの号に分かれています。1号が中小法人等、2号が銀行・保険会社等、3号がリース資産の対価に係る金銭債権を有する法人など金融取引に関わる法人です。
このうち中小企業に関係するのは1号で、さらにイ・ロ・ハの3つに分かれます。
- イ:普通法人(投資法人・特定目的会社を除く)のうち、資本金の額または出資金の額が1億円以下であるもの、または資本や出資を有しないもの
- ロ:公益法人等または協同組合等
- ハ:人格のない社団等
多くの中小企業はイに当たります。資本金1億円という線引きが、貸倒引当金を使えるかどうかの入口です。
資本金1億円以下でも除かれる場合
イの括弧書きには除外規定があります。法人税法66条5項2号または3号に掲げる法人に該当するもの、および大通算法人は除かれる、という内容です。
具体的には、資本金5億円以上の大法人による完全支配関係がある子法人などが該当します。資本金1,000万円の子会社であっても、親会社が資本金5億円以上なら対象外です。
「うちは資本金300万円だから当然使える」というお声をよくいただきますが、資本関係を確認しないまま計上している会社が実際にあります。グループに入った年度は、まずここを見直す必要があります。
適用除外事業者は法定繰入率を使えない
もう一段の絞りがあります。租税特別措置法57条の9の法定繰入率の特例は、適用除外事業者に該当する中小法人には使えません。
適用除外事業者とは、その事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人を指します。資本金は1億円以下でも、所得が大きい会社はこの特例から外れる、という設計です。
該当する会社は多くありませんが、業績が急に伸びた年度は確認しておきたい点です。
個別評価と一括評価という2つの枠
結論: 貸倒引当金には、危ない債権を1件ずつ評価する個別評価金銭債権と、売掛金全体をまとめて評価する一括評価金銭債権の2つの枠があります。両者は別々に計算し、併用できます。
決算の打合せで混乱が起きるのは、この2つを分けずに話しているときです。まず、どちらの話をしているのかを切り分けます。
個別評価金銭債権の枠と、一括評価金銭債権の枠
取引先に更生手続や破産手続などの事由が生じている債権を、1件ずつ評価します。相手先が具体的に危ない状態にあることが前提で、繰入限度額もその状態に応じて計算します。
言い換えると、火が出ている場所を名指しで見る枠です。
個別評価金銭債権を除いた売掛金・貸付金などを、まとめて評価します。特定の取引先が危ないかどうかとは関係なく、債権全体に一定率を掛けて限度額を出します。
こちらは、火事が起きる確率を建物全体で見積もる火災保険に近い考え方です。中小企業が毎期計上しているのは、たいていこちらです。
2つは別々に計算する
個別評価の対象になった債権は、一括評価の対象から外れます。二重に引き当てることはできません。
決算では、まず個別評価に当たる債権がないかを確認し、残りを一括評価に回すという順序で進めます。
計算を分けておくと、決算のたびに同じ手順が使えます。個別評価に当たる債権が出るのは事由が生じた年だけで、一括評価は毎期の作業です。この違いを債権の台帳に反映しておけば、翌期の洗替えでも迷いません。
一括評価の対象になる債権・ならない債権
結論: 一括評価金銭債権に当たるのは売掛金・貸付金など、益金に算入された未収入金を含む債権です。敷金・保証金・前渡金・預貯金の未収利子などは対象になりません。
金額の大きい残高でも、性質によっては対象から外れます。ここを取り違えると、繰入限度額そのものが違ってきます。
| 一括評価の対象になる | 対象にならない |
|---|---|
| 売掛金、貸付金 | 預貯金およびその未収利子、公社債の未収利子 |
| 未収の譲渡代金・加工料・請負金・手数料・保管料・地代家賃等で益金算入済みのもの | 保証金、敷金、預け金 |
| 他人のために立替払をした立替金 | 手付金、前渡金など資産の取得代価に充てるもの |
| 益金算入済みの未収の損害賠償金 | 前払給料、概算払旅費、前渡交際費など将来精算される前払 |
| 保証債務を履行した場合の求償権 | 仕入割戻しの未収金 |
| 裏書譲渡した受取手形(財務諸表の注記等で確認できる場合) | 雇用保険法等に基づく給付金等の未収金 |
対象になる主な債権と、対象から外れる債権
国税庁のタックスアンサーNo.5500は、一括評価金銭債権を「売掛金、貸付金その他これらに準ずる金銭債権で、個別評価金銭債権を除いたもの」と定義しています。
未収入金のうち、すでに益金に算入されているものは対象に含まれます。逆に言えば、まだ売上に立てていない金額は入りません。
つまずきやすいのは保証金と敷金です。店舗を複数構えている会社では数千万円になることもありますが、これらは対象になりません。将来返ってくる預け金であって、売上の未回収ではないからです。
前渡金も同じ理屈で外れます。仕入先に払った前渡金は、資産を取得するために出した金額であって、回収すべき債権ではありません。
グループ会社への債権
租税特別措置法57条の9第1項は、法定繰入率を使う場合の一括評価金銭債権から、完全支配関係がある他の法人に対する金銭債権を除くと定めています。
100%子会社への貸付金や売掛金は、法定繰入率の計算に含められないということです。グループ内取引の比重が大きい会社では、対象額が思ったより小さくなります。
確認するのは、持株比率が100パーセントに達しているかどうかです。完全支配関係に当たらない資本関係であれば、対象から外れません。グループ内取引の比重が大きい会社では、この判定だけで繰入限度額が大きく動きます。
一括評価の繰入限度額を計算する2つの方法
結論: 一括評価の繰入限度額は、原則として過去3年の実績から求めた貸倒実績率を使います。中小企業は租税特別措置法57条の9により、業種ごとの法定繰入率を使う方法も選べます。
どちらか有利なほうを選べる形になっています。実際には、貸倒れの実績がほとんどない会社では法定繰入率のほうが大きくなります。
原則としての貸倒実績率
法人税法施行令96条6項は、一括評価の繰入限度額を、期末の一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に貸倒実績率を乗じた金額としています。
貸倒実績率は、前三年内事業年度(その事業年度開始の日前3年以内に開始した各事業年度)の貸倒れの実績をもとに算出します。小数点以下4位未満の端数があるときは切り上げます。
長年ほとんど貸倒れが出ていない会社では、この率がゼロに近くなります。実態を映しているとも言えますが、限度額もほぼゼロになります。
中小企業の特例としての法定繰入率
租税特別措置法57条の9第1項は、中小企業者等について、一括評価金銭債権の帳簿価額の合計額に「政令で定める割合を乗じて計算した金額」を繰入限度額とすることができると定めています。この政令で定める割合が法定繰入率です。
実績を集計しなくても、業種で決まった率を使えます。過去のデータを遡って集計する手間がかからないのは、経理担当が1人か2人の会社では実務上大きい違いです。
なお、この特例には適用期限が設けられていません。毎年の改正で延長を確認する必要がある措置とは、その点が異なります。
業種別の法定繰入率
租税特別措置法施行令33条の7第4項は、法定繰入率を次のように定めています。
| 主たる事業 | 法定繰入率 |
|---|---|
| 卸売業・小売業(飲食店業・料理店業を含む。割賦販売小売業を除く) | 1,000分の10 |
| 製造業(電気業・ガス業・熱供給業・水道業・修理業を含む) | 1,000分の8 |
| 金融業・保険業 | 1,000分の3 |
| 割賦販売小売業、包括信用購入あつせん業、個別信用購入あつせん業 | 1,000分の7 |
| 上記以外の事業 | 1,000分の6 |
割賦販売小売業の率は、かつて1,000分の13でした。平成27年度の改正で段階的に引き下げられ、現在は1,000分の7です。古い資料をそのまま参照して13で計算している例を見かけるため、根拠を確認しておきたいところです。
判定は主たる事業で行います。建設業は卸売業でも製造業でもないため、その他の事業として1,000分の6になります。サービス業も同じです。
実質的に債権とみられない金額の控除
法定繰入率を使う場合、そのまま債権残高に率を掛けるわけではありません。租税特別措置法施行令33条の7第2項は、債務者から受け入れた金額があるためその全部または一部が実質的に債権とみられない金銭債権について、その債権とみられない部分の金額を控除すると定めています。
同じ相手に売掛金と買掛金の両方がある場合、相殺できる部分は実質的に債権ではない、という考え方です。相手先ごとに売掛金と買掛金・受入保証金などを突き合わせ、少ないほうの金額を控除します。
平成27年4月1日に存する法人は、簡便法も選べます。平成27年4月1日から平成29年3月31日までの期間内に開始した各事業年度の実績から割合を出し、その割合を期末の債権額に掛けて控除額とする方法です。相手先ごとの突合が要らないため、実務ではこちらを使う会社が多くあります。
この控除を忘れると繰入限度額を過大に計算することになり、否認の対象になります。法定繰入率を選んだときこそ、この一手間が要るという点は押さえておきたいところです。
有利判定の進め方
貸倒実績率と法定繰入率のどちらを使うかは、毎期選べます。前期に法定繰入率を使ったから今期もそうしなければならない、ということはありません。
判定は単純で、両方の率を計算して大きいほうを採ります。ただし法定繰入率の側では実質的に債権とみられない金額の控除がかかるため、率だけを比べても答えは出ません。控除後の金額で比べる必要があります。
個別評価の4つの区分
結論: 個別評価金銭債権の繰入限度額は、法人税法施行令96条1項が4つの区分に分けて定めています。更生計画認可の決定などがあった場合、債務超過が続く場合、破産手続開始の申立て等があった場合、外国政府等に対する債権の場合です。
取引先の資金繰りが怪しくなったとき、どの段階で引当てができるのかを分ける規定です。噂の段階では引き当てられません。
更生計画認可の決定などがあった場合
法人税法施行令96条1項1号が挙げるのは、更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可の決定などに基づいて、弁済を猶予され、または賦払により弁済されることとなった場合です。
このとき繰入限度額は、金銭債権の額のうち、その事由が生じた日の属する事業年度終了の日の翌日から5年を経過する日までに弁済されることとなっている金額以外の金額になります。担保権の実行などで取立ての見込みがあると認められる部分は除きます。
5年より先に返ってくる予定の部分は引き当てられる、という切り方です。
債務超過が続き好転の見通しがない場合
2号は、債務超過の状態が相当期間継続し、かつその営む事業に好転の見通しがないこと、災害や経済事情の急変により多大な損害が生じたことなどにより、債権の一部について取立ての見込みがないと認められる場合です。
繰入限度額はその一部の金額に相当する金額。法的手続に入っていなくても、実態として回収できないと判断できる場合の枠です。
判断が主観に寄りやすいため、決算書や取引の状況など、判断の根拠を残しておく必要があります。
破産手続開始の申立て等があった場合
3号が挙げるのは、更生手続開始の申立て、再生手続開始の申立て、破産手続開始の申立て、特別清算開始の申立てです。認可の決定ではなく、申立ての段階を捉えています。
繰入限度額は、金銭債権の額から、実質的に債権とみられない部分の金額と、担保権の実行や保証機関による保証債務の履行などで取立ての見込みがあると認められる部分を除いた金額の50%相当額です。
申立ての段階では半分まで、認可決定の段階では5年基準で、と精度が上がるにつれて計算方法も変わる構造になっています。
書類の保存という要件
e-Govで法人税法施行令96条2項を引くと、これらの事実が生じている場合の但し書きが置かれています。「当該事実が生じていることを証する書類その他の財務省令で定める書類の保存がされていないときは、当該金銭債権に係る同項の規定の適用については、当該事実は、生じていないものとみなす」。
裁判所の受理証明、更生計画認可決定の写し、取引先からの通知文書など、事実を裏づける書類を必ず保管します。あわせて、法人税法52条3項は、確定申告書に繰入額の損金算入に関する明細の記載がある場合に限り適用すると定めています。書類と申告書の両方が揃ってはじめて損金になる、と考えておくのが安全です。
洗替えの仕組み
結論: 貸倒引当金は、繰り入れた翌事業年度に全額を益金に算入し、あらためてその期の残高で計算し直します。これを洗替えといい、税負担は消えるのではなく繰り延べられます。
「毎年入れているのに、税金が減った実感がない」というご相談の答えがここにあります。
翌期に全額を益金に算入する
前期に繰り入れた貸倒引当金は、当期に全額を戻し入れます。そのうえで当期末の債権残高から、あらためて繰入限度額を計算して繰り入れます。
前期100万円、当期120万円だとすると、当期の損益に反映されるのは差額の20万円です。毎期同じ規模の債権残高であれば、影響はほぼ出ません。
洗替えは毎期繰り返されるため、2年目以降は前期の戻入と当期の繰入の差額だけが損益に出ます。制度としては毎年あらためて計算し直すのですが、決算書に現れるのは差額という理解で足ります。
影響が出るのは導入した年度。債権が増えた年度と減った年度
はじめて計上した年度だけは、戻し入れる金額がないため、繰入額の全額が損金になります。以後は差額だけの動きです。
つまり、貸倒引当金は一度だけ課税を先送りする仕組みだと理解しておくのが正確です。継続的に税負担が下がる制度ではありません。
売上が伸びて売掛金が増えた年度は、繰入額が前期より大きくなるため差額が損金に立ちます。逆に売上が落ちて売掛金が減った年度は、戻入額のほうが大きくなり、差額が利益として出てきます。
業績が下がった年に利益が乗る形になるため、赤字決算を見込んでいる会社では、この動きを織り込んで着地を見る必要があります。
令和8年度税制改正大綱に入った見直し
結論: 令和8年度税制改正の大綱では、個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入事由に、事業再生に関する法律による権利変更決議が加えられます。繰入限度額は5年以内に弁済されることとなっている金額以外の金額です。
企業再生に関する税制の見直しの一部として盛り込まれた内容です。
権利変更決議が繰入事由に加わる
令和8年度税制改正大綱は、繰入事由に「金銭債権に係る債務者について生じた円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律の規定による権利変更決議に基づいてその弁済を猶予され、又は賦払により弁済されること」を加えるとしています。
裁判所の手続を経ない事業再生の枠組みでも、権利変更が決議されれば個別評価の対象に入るということです。
限度額の考え方は既存の区分と同じ
大綱は、その場合の繰入限度額を「その金銭債権の額のうち5年以内に弁済されることとなっている金額以外の金額」としています。法人税法施行令96条1項1号と同じ切り方です。
あわせて、欠損金の繰越控除で控除限度額が所得の全額となる事実にも、この権利変更決議が加えられます。取引先の再生に付き合う債権者側の税務が整理される方向、と読み取れます。
決算での進め方
結論: 貸倒引当金は、債権残高の洗い出し、個別評価対象の抽出、一括評価の有利判定、申告書への記載という順で進めます。決算日を過ぎてから慌てて計算する項目ではありません。
5段階の手順。つまずきやすいのは残高の洗い出しと控除額の把握
毎期の作業として型にしてしまえば、負担はさほど大きくありません。
- 債権残高の洗い出し(決算日の1〜2か月前)。売掛金・未収入金・貸付金の残高を相手先ごとに並べます。保証金・敷金・前渡金が混ざっていないかをここで外します
- 個別評価対象の抽出(同時期)。回収が滞っている先、法的手続に入った先を拾い、裏づけとなる書類を集めます
- 実質的に債権とみられない金額の把握。同じ相手に買掛金や受入保証金がある先を突き合わせます。簡便法を使う場合は、基準年度の割合を確認します
- 有利判定。貸倒実績率と法定繰入率のそれぞれで繰入限度額を計算し、大きいほうを採ります
- 申告書への記載。別表への記載と、個別評価の裏づけ書類の保存を確認します
つまずきやすいのは1と3です。「売掛金の合計に率を掛けるだけだと思っていました」というお声は多いのですが、残高の中身を分けないと正しい金額になりません。
回収不能債権は貸倒損失も検討する
引当てで止めるべきか、貸倒損失として落とすべきかは別の判断です。すでに回収不能が確定している債権は、引当金ではなく貸倒損失の検討に進みます。
引当金は見込額を計上する制度で、確定した損失を処理する制度ではありません。この2つを混同したまま毎期引当金だけを積んでいると、実態と帳簿が離れていきます。
貸倒損失として落とせるのは法人税基本通達9-6-1から9-6-3までの3つの場合に限られ、区分によって損金経理が要件になるかどうかも変わります。
よくある相談事例
建設会社:法定繰入率を10で計算していた
「うちは建設業だから、卸売と同じ10でいいですよね」。売上15億円の建設会社からのご相談でした。
租税特別措置法施行令33条の7第4項が1,000分の10としているのは卸売業・小売業で、建設業は含まれていません。その他の事業として1,000分の6になります。
過去の申告書を確認したところ、3期にわたって10で計算していました。差額は決して小さくありません。修正の要否と今後の処理をあわせて整理し、業種判定の根拠を経理の手順書に書き加えています。
食品卸:保証金まで債権に含めていた
決算前の確認で、一括評価金銭債権の集計表に取引先への差入保証金が入っているのを見つけました。金額は2,000万円ほど。
国税庁のタックスアンサーNo.5500が示すとおり、保証金・敷金・預け金は一括評価金銭債権に当たりません。集計表の作り方をたどると、総勘定元帳から流動資産の残高を機械的に拾っていたことが分かりました。
科目の並びを見直し、対象になる科目とならない科目を色分けした一覧を作成。翌期からは集計の時点で外れる形にしています。
ソフトウェア会社:グループ会社への売掛金が大半だった
親会社への受託開発が売上の8割を占める会社から、法定繰入率で計算してほしいというご依頼を受けました。
租税特別措置法57条の9第1項は、完全支配関係がある他の法人に対する金銭債権を一括評価金銭債権から除くと定めています。この会社は親会社の100%子会社だったため、売掛金の大半が計算の対象から外れます。
さらに親会社の資本金が5億円を超えていたため、法人税法52条1項1号イの除外規定にも当たり、貸倒引当金そのものを使えない立場でした。ここは正直にお伝えし、決算対策の組み立てを別の論点に切り替えています。
印刷会社:取引先の破産申立てで50%を引き当てた
長年の取引先から突然連絡が途絶え、しばらくして破産手続開始の申立てがあったと知らされたケース。売掛金は800万円ほど残っていました。
法人税法施行令96条1項3号により、実質的に債権とみられない部分と取立ての見込みがある部分を除いた金額の50%相当額が繰入限度額になります。この会社は同じ相手に買掛金が120万円あったため、その分を先に差し引いて計算しました。
裁判所の受理証明を取り寄せ、申告書の別表と一緒に保管。残りの半分をどう扱うかは、手続の進行を見ながら翌期以降に判断する形にしています。
よくある質問
貸倒引当金は必ず計上しなければなりませんか?
資本金1億円以下なら必ず使えますか?
建設業やサービス業の法定繰入率はいくつですか?
貸倒引当金を計上すると、税金は毎年減りますか?
敷金や前渡金も債権に含めてよいですか?
取引先が危ないと聞いた段階で個別評価できますか?
実質的に債権とみられない金額の控除は必ず必要ですか?
まとめ:使えるかどうかの確認から始まる
- 貸倒引当金を損金に算入できる法人は、法人税法52条1項が挙げる法人に限られます。資本金1億円以下でも、大法人による完全支配関係がある子法人などは除かれます
- 個別評価金銭債権と一括評価金銭債権は別の枠です。個別評価の対象になった債権は、一括評価から外れます
- 一括評価の繰入限度額は、貸倒実績率と法定繰入率のいずれか有利なほうで計算します。法定繰入率は業種で決まり、建設業やサービス業は1,000分の6です
- 法定繰入率を使う場合は、実質的に債権とみられない金額の控除が必要です。この一手間を忘れると限度額が過大になります
- 個別評価は、事実を証する書類の保存が要件です。確定申告書への明細の記載も損金算入の条件になります
- 洗替えにより翌期に全額を益金へ戻すため、税負担は消えるのではなく繰り延べられます
優先順位を付けるなら、まず確認すべきは自社が対象法人に当たるかどうか。次に集計表の中身です。率をどちらにするかは、そのあとの話になります。
避けたいのは、前期の集計表をそのまま複製して数字だけ入れ替える運用。債権の性質も資本関係も年によって変わるため、複製を続けているうちに前提が古くなります。
次の一歩として、直近の決算書から売掛金・未収入金・貸付金の残高を相手先ごとに並べ、保証金や前渡金が混ざっていないかを見てみてください。この1枚があれば、有利判定はその場でできます。
自社が貸倒引当金の対象になるか、どちらの計算方法が適しているかは、資本関係と債権の中身によって変わります。税理士法人Light UPの無料相談では、決算書と債権の内訳を拝見したうえで、集計の仕方から一緒に整理します。
【メタディスクリプション】
貸倒引当金を使える法人の範囲と、中小企業の法定繰入率の特例を法人税法52条・租税特別措置法57条の9に沿って整理します。業種別の繰入率、実質的に債権とみられない金額の控除、洗替えの仕組みまで解説します。




