後継者不足で事業承継が進まないとき|選べる道
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「子どもは会社を継ぐ気がありません」。「従業員に譲りたいのですが、株を買う資金がないと言われました」――後継者についてのご相談は、この2つから始まることがほとんどです。
結論からお伝えすると、後継者がいない状態から選べる道は4つです。親族内承継、従業員承継、第三者承継、そして廃業。このうち親族内が難しいと分かった段階で、残る3つを比べることになります。問題は、どれも決断から実行までに年単位の時間がかかることで、先送りするほど選べる道が減っていくという構造にあります。
税理士法人Light UPでは、このご相談を受けたとき、何年後にどうしていたいかを先に決めるようにしています。時期が決まらないと、どの道が現実的かも決まらないためです。
この記事では、後継者不在の現状、4つの選択肢とそれぞれの入口、従業員承継で資金が壁になる理由、廃業を選ぶ場合の手順、そして何もしないまま時間が過ぎたときに起きることまでを、実際に中小企業の承継を扱っている立場から整理します。
後継者不在は半数以上の会社が抱えている
結論: 後継者不在率は改善傾向にありますが、依然として半数以上の会社に後継者がいません。特別な状況ではなく、多くの会社が同じ課題に直面しています。
不在率は下がってきている
後継者不在率は2018年の67.2パーセントをピークに減少し、2023年は54.5パーセントとなりました。前年比で3.5ポイントの低下です。第三者承継が選択肢として定着してきたことや、支援の仕組みが整ってきたことが背景にあります。ただし依然として半数以上の会社に後継者がいない状態で、改善したとはいえ課題が解消したわけではありません。改善の中身を見ると、親族内での承継が増えたというより、第三者への承継が現実的な選択肢として広がったことによる部分が大きくなっています。つまり、社内に後継者がいないという状況自体は大きく変わっていません。
経営者の年齢は上がり続けている
中小企業基盤整備機構の事業評価報告書によると、中小企業経営者の平均年齢は全国平均で63.8歳となり、前年の63.0歳を0.8歳上回って過去最高を更新しました。年齢が上がるほど、承継の準備に使える時間は短くなります。準備に必要な時間と、残された時間が逆方向に動いているという構図です。60代に入った時点で検討を始めても、決して早すぎることはありません。平均年齢が63.8歳ということは、その年齢でまだ現役の経営者が多いということでもあります。周囲も同じ状況なので危機感が持ちにくく、それがさらに先送りを招きます。
相談する相手がいないまま時間が過ぎる
後継者がいないことは、社内でも社外でも話しにくい話題です。従業員に動揺が広がる、取引先の見方が変わる、金融機関の対応が変わる。こうした懸念から、誰にも相談しないまま年数が経つことがあります。話しにくさが先送りの最大の理由になっているという実感があります。守秘の枠内で相談できる相手を持つことが、最初の一歩になります。顧問税理士や公的な支援機関には守秘義務があるため、情報が外に出る心配なく相談できます。まず状況を言葉にしてみるだけでも、考えが整理されます。
選択肢は4つある
結論: 親族内承継、従業員承継、第三者承継、廃業の4つです。それぞれ準備に必要な期間も、必要になる資金も、社内への影響も違います。
4つを同じ土俵で比べる
多くの場合、親族内承継を前提に考えていた時期が長く、それが難しいと分かってから他を検討することになります。しかし残る3つも、それぞれ数年の準備を要します。難しいと分かった時点ですぐ次を検討することが、選択肢を残すことにつながります。1つの道を諦めてから次を考え始めるまでの空白期間が、実際にはもっとも時間を失っている部分です。この空白は数か月ではなく、数年に及ぶことがあります。断られた記憶が重いほど、次の検討に入るまでの時間も長くなる傾向があります。
| 選択肢 | 必要な期間の目安 | 主な論点 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 5年から10年 | 自社株の評価と移転、遺留分、納税資金 |
| 従業員承継 | 3年から5年 | 株式の買取資金、経営者保証の引継ぎ |
| 第三者承継 | 1年から3年 | 相手探し、企業価値の評価、条件交渉 |
| 廃業 | 1年から2年 | 従業員の処遇、取引先への説明、資産の処分 |
廃業も選択肢の1つとして扱う
廃業を失敗と捉える必要はありません。事業が黒字であっても、引き継ぐ相手がいなければ選ぶことになる道です。むしろ、資金が残っているうちに計画的に閉じるほうが、従業員にも取引先にも影響が小さくなります。追い込まれてからの廃業と、選んで行う廃業は別のものです。判断の材料として、4つを並べて比べる意味があります。資金が残っている状態であれば、従業員に十分な退職金を払い、取引先にも引き継ぎ先を紹介できます。同じ廃業でも、経営者の納得感がまったく違うものになります。
親族内に候補がいないか再確認する
結論: 意思確認をしないまま、継ぐ気がないと決めつけている場合があります。条件が変われば考えが変わることもあるため、確認の仕方を見直す価値があります。
聞き方で答えが変わる
会社を継ぐかという聞き方は、人生の全部を引き受けるかという問いに聞こえます。一方、5年後に一度戻って様子を見る気はあるか、いまの仕事を続けながら役員として関わる形はどうか、という聞き方であれば答えが変わることもあります。選択肢を狭めた問いには、狭い答えしか返ってこないということです。会社を継ぐという言葉には、経営責任、借入の保証、住む場所、家族の生活といったものが全部含まれて聞こえます。段階を分けて示せば、判断もしやすくなります。まず役員として関わる、数年後に代表を交代する、といった道筋を具体的に示すことに意味があります。
継がない理由を具体的に聞く
借入の個人保証が重い、業界の先行きが不安、いまの仕事を辞めたくない。理由が分かれば、対処できるものとできないものが分かれます。経営者保証については、ガイドラインに基づいて外せる場合もあります。理由が分かって初めて、変えられるかどうかが判断できるという順序です。漠然と断られた状態で終わらせないことに意味があります。保証が理由であれば金融機関と協議できますし、業界の先行きが理由であれば事業の見通しを共有することができます。理由を聞かないまま次の道を探すと、対処できたはずの障害を見逃すことになります。
期限を決めて確認する
いつまでに結論を出すかを決めずに話し合いを続けると、何年も同じ状態が続きます。半年後に一度結論を出す、という期限を設けたうえで話すほうが、双方にとって前に進みます。結論が出ないことも1つの結論として扱い、その場合は次の選択肢へ移ります。期限を切ることは相手を追い込むためではなく、双方が前に進むためのものです。何度も同じ話を蒸し返すほうが、関係にとっても負担になります。半年後に一度結論を出すという形であれば、相手も真剣に考える時間を取れます。
従業員承継は資金が壁になる
結論: 役員や従業員に譲る場合、経営を任せることはできても、株式の買取資金を用意できないという問題が生じます。ここが最大の論点になります。
株式を買う資金がない
自社株の評価額が数千万円になることは珍しくありません。従業員個人がその資金を用意することは通常できないため、金融機関からの借入や、持株会社を設立して買い取る方法が検討されます。経営を任せられることと、株式を持てることは別だという整理から始まります。株式を持たないまま経営だけを任せる形もありますが、その場合は所有と経営が分かれた状態が続きます。将来的に前経営者の相続が発生すれば、株式が相続人に渡ることになります。経営を任せた相手と株主が別々になる状態は、いずれ整理が必要になります。
経営者保証の引継ぎ
会社の借入に経営者保証が付いている場合、承継する側がその保証を引き継ぐかという問題が生じます。個人の資産を担保に入れることになるため、これが理由で承継を断られることもあります。経営者保証に関するガイドラインに基づき、一定の要件を満たせば保証を外せる場合があります。保証をどうするかを先に金融機関と話すことが、承継の可否を左右します。ガイドラインでは、法人と個人の資産が明確に区分されていること、財務基盤が強化されていること、金融機関に適時適切に情報が開示されていることが要件として挙げられています。これらを満たすための準備そのものが、会社の状態を良くすることにもつながります。
段階的に移す方法
一度に全株式を移すのではなく、数年かけて少しずつ移す方法もあります。役員として経営に関与しながら、毎年一定数の株式を取得していく形です。資金の負担が分散され、経営の引継ぎも段階的に進みます。時間を使えることが、従業員承継の条件になるということです。この方法を採るには、経営者に時間の余裕があることが前提になります。逆にいえば、時間さえあれば資金の壁は下げられます。60代の前半から準備を始めれば、5年かけて移すという設計も現実的になります。
第三者承継は相談の窓口から始まる
結論: 社外に引き継ぐ場合、まず相談できる窓口があります。公的な支援機関と民間の仲介会社があり、それぞれ性質が違います。
事業承継・引継ぎ支援センター
各都道府県に設置されている公的な相談窓口です。中小企業庁の資料によれば、令和5年度に事業引継ぎの成約件数が2,023件、譲渡相談が8,950件に達しています。相談は無料で、規模の小さい会社も対象になります。まず相談してみるという入口として使いやすいのが特徴で、その後に民間の仲介会社へつなぐこともあります。譲渡相談が8,950件に対して成約が2,023件という数字は、相談したからといって必ず相手が見つかるわけではないことも示しています。それでも、無料で状況を整理できる場として使う価値があります。
民間の仲介会社
一定以上の規模がある会社では、民間の仲介会社を使うことが多くなります。相手探しから条件交渉まで一貫して支援を受けられますが、手数料が発生します。手数料の体系は会社によって違い、着手金、中間金、成功報酬という構成が一般的です。手数料の総額と、支払いの時期を先に確認することが、比較の出発点になります。成約しなかった場合に着手金が戻るかどうかも、契約前に確認しておく項目です。複数の会社から話を聞いて比べることもできます。1社だけの説明で決めないほうが、条件の妥当性を判断しやすくなります。
準備しておく資料
相談の段階で求められるのは、直近3期分の決算書、株主名簿、従業員の構成、主な取引先の状況です。これらが整理されていないと、相談そのものが進みません。日ごろの決算と帳簿の整備が、そのまま準備になるという関係にあります。売却の可能性を考え始めた時点で、資料を揃えておく価値があります。買い手は決算書の数字だけでなく、その数字がどう作られているかを見ます。会計処理が毎期一貫していること、簿外の債務がないことは、条件に直接影響します。
廃業を選ぶ場合
結論: 廃業には時間と費用がかかります。資金が残っているうちに計画的に進めるほうが、従業員にも取引先にも影響が小さくなります。
手順と期間
会社を閉じるには、解散の決議と登記、官報への公告、債権者への対応、資産の処分、従業員の解雇と精算、そして清算結了の登記という手順を踏みます。解散事業年度と清算事業年度のそれぞれで確定申告も必要です。完了までに1年から2年かかるのが通常で、思い立ってすぐ終わるものではありません。官報への公告には債権者が申し出るための期間として2か月以上が必要とされており、この期間は短縮できません。登記や申告の費用も発生するため、資金の見積りもあわせて必要になります。
資産が残っているうちに決める
資金が尽きてからの廃業は、従業員への退職金も取引先への支払いも十分にできない状態になります。事業が黒字のうちに、あるいは資産が残っているうちに決めるほうが、関係する人への影響を抑えられます。廃業の判断は早いほど選択肢が多いという関係は、他の3つの道と同じです。設備や在庫は、事業が動いているうちのほうが高く売れます。取引先との関係も、余裕を持って伝えるほうが引き継ぎ先を紹介できます。追い込まれてからでは、これらがすべて難しくなります。
事業だけを譲る方法もある
会社を閉じる場合でも、事業の一部や設備、取引先との関係だけを他社に譲れることがあります。会社ごとの承継が難しくても、事業単位であれば引き受け手が見つかる場合です。会社を残すことと、事業を残すことは別だと捉えると、選択肢が広がります。従業員の受け入れ先を含めて相談できることもあります。会社全体を引き受けるとなると簿外の債務や過去の経緯まで引き受けることになりますが、事業だけであれば範囲を限定できます。買い手にとっても検討しやすい形になります。
何もしないと選択肢が減っていく
結論: 決めないまま時間が過ぎると、経営者の年齢、業績、従業員の年齢構成のすべてが、選択肢を狭める方向に動きます。
業績が落ちると相手が見つかりにくくなる
第三者承継では、買い手が事業の将来性を見ます。業績が下がってから相手を探し始めると、条件は厳しくなります。設備が老朽化し、従業員の平均年齢が上がり、取引先が減っていく。時間が経つほど、譲る側の条件は悪くなるという方向に働きます。黒字のうちに動くほうが、選択肢も条件も広がります。業績が良い時期に売る話を進めることには抵抗があるかもしれませんが、条件という点ではその時期がもっとも有利です。まだ早いと感じるくらいが、実際には適切な時期であることが多くあります。
経営者が動けなくなる可能性
病気や事故で経営者が突然動けなくなった場合、準備をしていない会社では意思決定が止まります。株式が経営者個人に集中していれば、相続が発生するまで株主総会も開けない状態になり得ます。準備は自分のためではなく、会社と従業員のためという側面があります。最低限、株式の状況と借入の内容を誰かが把握している状態にしておく必要があります。金融機関との取引、保証の内容、主要な契約。これらが1人の頭の中にしかない状態は、会社にとってのリスクそのものです。
決めるだけでも状況が変わる
方向性を決めておけば、それに向けた準備が始まります。第三者承継を選ぶなら決算書の整備、従業員承継を選ぶなら候補者の育成、廃業を選ぶなら資産の整理。方向が決まらないと、どの準備も始められないという点が、先送りのもっとも大きな損失です。逆にいえば、方向さえ決まれば準備は進み始めます。決断できないまま数年を過ごすより、暫定的にでも方向を決めて動くほうが、結果的に選択肢が広がります。
決めるまでの時間の見積り
結論: 何年後にどうしていたいかを先に決めると、いつまでに何を判断すべきかが逆算できます。時期を決めないまま検討を続けても進みません。
引退の時期から逆算する
70歳で引退したいのであれば、第三者承継なら67歳、従業員承継なら65歳、親族内承継なら60歳には動き始めている必要があります。必要な準備期間が違うため、逆算の起点も違うということです。年齢を紙に書いて、そこから引き算するだけで、いま何をすべきかが見えてきます。引退の年齢を決めていない場合は、仮の年齢を置いて計算してみてください。数字にすると、残された時間が具体的に見えてきます。
まず情報を集める段階を置く
いきなり結論を出す必要はありません。事業承継・引継ぎ支援センターに相談する、自社株の評価額を出してみる、従業員の意向を確認する。こうした情報収集の段階を半年ほど置いたうえで、方向を決めるという進め方が現実的です。判断の材料を揃えることと、決断することを分けると、動き出しやすくなります。決断しなければならないと考えるから動けないのであって、まず調べるだけならすぐに始められます。自社株の評価を出す、支援センターに電話をする。どちらも数日で着手できることです。
事例:親族内を諦めてから3年かかった製造業の会社
従業員22名の製造業の会社から、事業承継のご相談をいただきました。経営者は当時68歳で、業績は安定していました。
長男に打診したのは60代前半でしたが、断られていました。その後は具体的な検討をしないまま、数年が経過していました。
断られた理由を、聞いていませんでした。
改めて確認したところ、理由は借入の個人保証でした。会社の借入は約8,000万円で、その保証を引き受けることに不安があったということです。事業の内容や将来性を否定していたわけではありませんでした。
金融機関と経営者保証について協議し、財務の状況を踏まえて一部の借入について保証を外せる見通しが立ちました。あわせて、長男が役員として関わる形から始め、段階的に株式を移す計画を作りました。
結果として親族内承継の方向で進んでいますが、最初に理由を聞いていれば、数年早く動けたという事例です。断られた時点で理由を確認し、対処できるものかどうかを見極めることに意味があります。
よくある質問
後継者がいない会社はどれくらいありますか?
従業員に譲りたいのですが、株を買う資金がないと言われました。どうすればよいですか?
第三者に譲るにはどこに相談すればよいですか?
廃業にはどれくらいかかりますか?
まだ元気なので急がなくてもよいですか?
まとめ:時期を決めれば道が決まる
後継者がいない状態から選べる道は、親族内承継、従業員承継、第三者承継、廃業の4つです。それぞれ必要な期間が違い、第三者承継なら1年から3年、従業員承継なら3年から5年、親族内承継なら5年から10年が目安になります。
このため、何年後にどうしていたいかを先に決めることが出発点になります。引退したい年齢から逆算すれば、いつまでに判断すべきかが決まり、どの道が現実的かも見えてきます。
親族に断られている場合は、その理由を確認する価値があります。借入の個人保証が理由であれば、経営者保証に関するガイドラインに基づいて対処できる場合があります。漠然と断られた状態のまま次の道を探し始めると、対処できたはずの障害を見逃すことになります。
そして、決めないまま時間が過ぎることが最大の損失です。業績が落ち、設備が古くなり、従業員の年齢が上がるほど、選べる道は減っていきます。方向が決まらないと、どの準備も始められません。結論を出す前に、まず情報を集める段階を置くだけでも状況は動きます。
税理士法人Light UPでは、自社株の評価から承継の方向性の検討まで、守秘の枠内でご相談を承っています。誰にも相談できずにお困りの段階でも、お気軽にお問い合わせください。
出典
- 中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター」(令和5年度の事業引継ぎ成約件数2,023件、譲渡相談8,950件)
- 中小企業基盤整備機構「事業評価報告書」(中小企業経営者の平均年齢63.8歳)
- 中小企業庁「中小企業白書」
- 「経営者保証に関するガイドライン」(経営者保証に関するガイドライン研究会)
- e-Gov 法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)第471条、第475条





