スキャナ保存の要件|紙の書類を電子化する
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「領収書をスキャンして原本を捨ててよいですか」。「タイムスタンプがないと駄目だと聞きました」――スキャナ保存についてのご相談は、この2つに集まります。
結論からお伝えすると、スキャナ保存には要件があり、それを満たせば紙の原本を保存しなくてよくなります。そしてタイムスタンプは必須ではありません。電子帳簿保存法施行規則2条6項2号は、タイムスタンプを付す方法と、訂正または削除の履歴が確認できるシステムを使う方法のいずれかを求めており、後者であればタイムスタンプは要りません。
税理士法人Light UPでは、スキャナ保存のご相談を受けたとき、まず要件を1つずつ確認するようにしています。要件は複数あり、どれか1つでも欠けると原本を捨てられないためです。
この記事では、スキャナ保存の要件、解像度や階調といった具体的な数値、タイムスタンプの代替、重要書類と一般書類の違い、そして始めるまでの手順を、実際に中小企業の帳簿を扱っている立場から整理します。
スキャナ保存は任意の制度
結論: 電子帳簿保存法の3つの区分のうち、義務になっているのは電子取引のデータ保存だけです。スキャナ保存は任意で、要件を満たした場合に紙の原本の保存に代えられます。
対象になるのは受け取った紙の書類
スキャナ保存の対象は、取引の相手から受け取った書類や、自社が作成して交付した書類の写しです。領収書、請求書、契約書、納品書などが該当します。一方、自社で作成した帳簿や、決算に関して作成した書類はスキャナ保存の対象ではありません。紙でやりとりした証憑を電子化する制度だと捉えると、範囲が整理しやすくなります。国税関係書類の保存期間は法人で7年間、欠損金が生じた事業年度については10年間です。この期間ずっと紙で保管すると、保管場所の負担が積み上がります。スキャナ保存はその負担を下げるための制度だといえます。
電子取引とは別の制度
メールで受け取った請求書のPDFや、ウェブサイトからダウンロードした領収書は電子取引に該当し、こちらはデータのまま保存することが義務づけられています。スキャナ保存は、あくまで紙で受け取ったものを電子化する制度です。同じ会社の中で2つの制度が並行して動くことになるため、どちらに当たるかを取引ごとに判断する必要があります。判断の基準は単純で、紙で受け取ったならスキャナ保存、データで受け取ったなら電子取引です。同じ取引先から月によって紙とデータの両方で届くこともあるため、受け取った形で分けることになります。
要件を満たさなければ原本は捨てられない
要件のどれか1つでも欠けている場合、スキャナ保存として認められません。その場合、電子化したデータを保存していても、紙の原本を保存する義務が残ります。中途半端な運用がもっとも負担が大きいという結果になるため、始めるなら要件を確認したうえで進める必要があります。電子化の作業をしたうえで紙も保管することになり、手間だけが増える形です。なお、令和4年1月から事前の承認制度は廃止されており、税務署の承認を受けずに始められるようになっています。
入力の期間に制限がある
結論: 書類を受け取ってから電子化するまでの期間に定めがあります。速やかに行うか、規程を定めたうえで業務の通常の期間を経過した後に速やかに行うかのいずれかです。
条文が定める2つの方法
e-Gov 法令検索で電子帳簿保存法施行規則2条6項1号を引くと、入力の方法として2つが挙げられています。イは「当該国税関係書類に係る記録事項の入力をその作成又は受領後、速やかに行うこと」、ロは「その業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに行うこと(当該国税関係書類の作成又は受領から当該入力までの各事務の処理に関する規程を定めている場合に限る。)」です。規程を定めればロの方法が使えるということです。速やかにという表現について、国税庁はおおむね7日以内という考え方を示しています。業務の処理に係る通常の期間は最長2か月とされており、規程を定めればその期間を経過した後、さらに7日以内に入力すればよい形になります。
規程を定めれば月次でまとめられる
イの方法だけだと、書類を受け取るたびに速やかに読み取る運用になります。一方、事務処理規程を定めてロの方法によれば、業務の通常の期間を経過した後に速やかに入力すればよくなります。月に一度まとめて読み取る運用にする場合は、この規程が前提になります。規程は手続を緩めるための書類であり、作らなければ制約が厳しくなります。月末にまとめて処理する運用を想定しているのであれば、規程は事実上必須だといえます。作成の手間は数時間程度で、国税庁が公開しているサンプルを修正すれば済みます。
規程に書く内容
規程には、書類を受け取ってから読み取るまでの各事務の処理について定めます。誰がいつ受け取り、いつ読み取り、誰が確認するのか。担当者と期間を具体的に書くことで、その期間内であれば速やかとみなされます。責任者を定めることが求められるため、担当が不在の場合の代替も決めておく必要があります。1人しか担当がいない状態でその人が2週間休むと、規程に定めた期間を超えてしまうことがあります。規程は実際に守れる内容にしておくことが前提です。
読み取りの要件は解像度と階調
結論: スキャナの性能について、解像度と階調の数値が条文で定められています。一般的な複合機やスマートフォンであれば満たせる水準です。
200dpi以上、256階調以上
同項2号イは、スキャナの要件として2つの数値を定めています。1つめは「解像度が、日本産業規格Z六〇一六附属書AのA・一・二に規定する一般文書のスキャニング時の解像度である二十五・四ミリメートル当たり二百ドット以上で読み取るものであること」です。25.4ミリメートルは1インチなので、200dpi以上という意味になります。2つめは「赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ二百五十六階調以上で読み取るものであること」で、いわゆるフルカラーです。この2つの数値は複合機の設定画面で確認できます。既定値が150dpiになっている機種もあるため、導入の前に1度確認しておく必要があります。
スマートフォンでの撮影も認められる
条文はスキャナを装置として定めていますが、この要件を満たせばスマートフォンやデジタルカメラでの撮影も認められます。近年の端末であれば解像度も階調も十分に満たします。外出先で受け取った領収書をその場で撮影する運用も可能で、これが現場の負担を大きく下げます。ただし撮影の際に文字が読める状態であることは必要で、ぶれや影で判読できなければ意味がありません。感熱紙のレシートは時間が経つと文字が薄くなるため、受け取ってから数日以内に読み取るほうが確実です。この点でも、速やかに入力する運用には合理性があります。
出力できる状態も要件になる
同項4号は、保存する場所に電子計算機、プログラム、映像面の最大径が35センチメートル以上のカラーディスプレイ、カラープリンタ、そしてこれらの操作説明書を備え付けることを求めています。出力する際は整然とした形式で、書類と同程度に明瞭であること、拡大縮小ができること、そして日本産業規格Z八三〇五に規定する4ポイントの大きさの文字を認識できることが必要です。保存だけでなく、見られる状態を保つことも要件だということです。35センチメートルという数値は、対角14インチ程度に相当します。一般的なノートパソコンの画面であれば満たしますが、小型の端末だけで運用している場合は確認が要ります。
| 要件 | 定められている内容 |
|---|---|
| 解像度 | 25.4ミリメートル当たり200ドット以上(200dpi以上) |
| 階調 | 赤・緑・青がそれぞれ256階調以上(フルカラー) |
| ディスプレイ | 映像面の最大径35センチメートル以上のカラーディスプレイ |
| プリンタ | カラープリンタ |
| 出力の状態 | 整然とした形式、書類と同程度に明瞭、拡大縮小が可能 |
| 文字の認識 | 日本産業規格Z八三〇五に規定する4ポイントの文字を認識できること |
タイムスタンプは必須ではない
結論: 訂正または削除の履歴が確認できるシステム、あるいは訂正削除ができないシステムを使えば、タイムスタンプは不要です。条文はどちらかを満たせばよいという構成になっています。
条文の構成を確認する
同項2号は、ロでタイムスタンプの付与を、ハで訂正削除の履歴に関するシステムの要件を定めています。ハは「当該国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができること」または「訂正又は削除を行うことができないこと」のいずれかを満たすシステムであることを求めています。多くのクラウド会計サービスがこの要件を満たしているため、タイムスタンプの契約をしなくても運用できます。タイムスタンプは1件あたりの従量制や月額の契約になることが多く、件数が多い会社では費用も積み上がります。システムの仕様で代替できるのであれば、その分の費用は不要です。
タイムスタンプが不要になる場合
2号の柱書には、1号イまたはロの方法により入力したことを確認できる場合は、ロに掲げる要件つまりタイムスタンプを除くという定めがあります。入力の日時が記録として残るシステムを使っていれば、タイムスタンプを付す必要がないということです。古い情報ではタイムスタンプが必須とされていることがあるため、現行の条文で確認する価値があります。制度は令和3年度と令和5年度の税制改正で要件が緩和されており、それ以前の解説が今も検索結果に残っています。年の記載がない記事は、いつ書かれたものか分かりません。
選ぶときに確認する点
システムを選ぶ際は、訂正削除の履歴が残るか、入力の日時が記録されるか、検索の機能が要件を満たすかを確認します。電子帳簿保存法に対応していると表示されている製品でも、対応する範囲が違うことがあります。どの要件をどう満たすのかを、機能ごとに確認するほうが確実です。電子取引には対応しているがスキャナ保存には対応していない、という製品もあります。3つの区分のどれに対応しているかを、製品の説明で確認してください。
検索の要件は3つだが緩められる
結論: 検索の要件は日付・金額・取引先の3項目ですが、ダウンロードの求めに応じられる場合は範囲指定と組合せの要件が不要になります。
条文が定める3つの機能
同項5号は、検索の機能としてイからハの3つを定めています。イは「取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索の条件として設定することができること」、ロは「日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること」、ハは「二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること」です。検索の条件は日付・金額・取引先の3つで、これは電子取引の保存要件と共通しています。2つの制度で同じ3項目が使われているため、片方に対応していればもう片方の考え方もそのまま持ち込めます。
ダウンロードに応じれば2つが不要になる
同項の柱書には、税務当局による電磁的記録の提示または提出の要求に応じることができるようにしている場合は、5号のロとハに係る部分の要件を除くという定めがあります。求めがあればデータを提供できる状態にしていれば、範囲指定と組合せの機能は不要になるということです。ファイル名に日付・金額・取引先を入れる方法でも足りる場合があるのは、この規定によります。ただしファイル名で管理する方法は件数が増えると破綻しやすく、月に100件を超えるようであればシステムに任せるほうが現実的です。
帳簿との関連性も要件
同項3号は、書類の電磁的記録と、それに関連する帳簿の記録事項との間で、相互に関連性を確認できるようにしておくことを求めています。伝票番号や取引番号を双方に記録しておく方法が一般的です。書類だけを保存しても要件を満たさないという点は見落とされやすく、システムの選定に影響します。会計ソフトの中で証憑を仕訳に紐づける機能があれば、この要件は自然に満たせます。別のシステムで保存する場合は、番号による対応づけを自分で設計する必要があります。
重要書類と一般書類で要件が違う
結論: 資金や物の流れに直結する重要書類と、それ以外の一般書類では要件が異なります。一般書類のほうが緩やかです。
一般書類はグレースケールでよい
同条7項は、国税庁長官が定める書類を一般書類とし、要件の一部を緩めています。階調については「赤色、緑色及び青色の階調がそれぞれ」を「白色から黒色までの階調が」と読み替えるとされており、グレースケールでの読み取りが認められます。ディスプレイとプリンタについても、カラーである必要がなくなります。グレースケールでよいということは、複合機の設定を変えるだけで対応できるということでもあります。データの容量も小さくなるため、保存の負担が下がります。
入力期間の制限がなくなる
同項では、6項1号と3号に掲げる要件にかかわらず、事務の手続を明らかにした書類を備え付けることで保存できるとされています。入力期間の制限と帳簿との関連性の要件が外れるということです。過去に受け取った書類をまとめて電子化する場合も、一般書類であればこの方法が使えます。備え付ける書類には、事務の責任者が定められている必要があります。数年分の見積書が保管されている場合、まとめて読み取って原本を廃棄できるということです。保管場所の負担を下げる効果はこちらのほうが大きいこともあります。
どちらに当たるかの区分
重要書類は、契約書、領収書、請求書、納品書といった資金や物の流れに直結するものです。一般書類は、見積書、注文書、検収書など、それ以外の書類が該当します。同じ取引でも書類の種類で要件が変わるため、対象を決める段階で区分しておく必要があります。区分に迷う書類があれば、重要書類として扱っておけば要件を満たせます。緩い側に寄せて判断を誤るより、厳しい側で運用するほうが安全です。
原本を捨てられるタイミング
結論: 要件を満たしたスキャナ保存を行っていれば、原本の保存は不要になります。ただし読み取りの結果が要件を満たしているかの確認を経てからです。
確認してから廃棄する
読み取ったデータが判読できるか、必要な項目が記録されているか、システムに正しく取り込まれているか。これらを確認してから原本を廃棄します。読み取りに失敗していた場合、原本を捨てた後では取り返しがつきません。確認する担当者と手順を決めておくことが、実務では重要になります。読み取った直後に画面で確認する運用にしておけば、失敗にその場で気づけます。1か月分をまとめて確認する形だと、不備が見つかったときに原本を探し直すことになります。
災害等の場合の取扱い
同条8項は、災害その他やむを得ない事情により要件に従った保存ができなかったことを証明した場合について、要件にかかわらず保存を認める趣旨の定めを置いています。予期しない事態への配慮ですが、通常の運用でこれに頼ることはできません。システムの障害や担当者の急な不在は、やむを得ない事情に当たらないと考えておくほうが安全です。日常の運用が要件を満たしていることが前提になります。
始めるまでの手順
結論: 対象を絞って小さく始めるほうが定着します。すべての書類を一度に電子化しようとすると、要件の確認だけで止まります。
対象を絞る
まずは領収書だけ、あるいは特定の取引先の請求書だけというように、対象を絞って始めます。運用が定着してから範囲を広げれば、途中で止まることが避けられます。すべてを一度に切り替える必要はないということです。紙で保存する書類とスキャナ保存する書類が混在しても問題ありません。1か月ほど試験的に運用して要件を満たせているか確認してから、原本の廃棄を始めるという進め方が現実的です。
規程を作る
事務処理規程は、国税庁がサンプルを公開しています。自社の実態に合わせて修正して使えます。誰がいつ読み取り、誰が確認するのかを具体的に書きます。規程は運用の実態と一致していることが前提なので、書いたとおりに動けるかを確認してから定めてください。理想的な手順を書いても、実際に守れなければ意味がありません。7日以内という期間が守れないのであれば、規程を定めて2か月の枠を使う設計にします。
事例:タイムスタンプが必要だと思って止まっていた会社
従業員19名の卸売業の会社から、領収書の保管についてご相談をいただきました。毎月かなりの量の紙が発生し、保管場所が不足しているという内容です。
スキャナ保存を検討したことはあったものの、途中で止まっていました。
理由は、タイムスタンプの費用でした。
調べた際にタイムスタンプが必須だという情報を見て、その契約に費用がかかることから見送っていたということです。実際には、電子帳簿保存法施行規則2条6項2号ハにより、訂正または削除の履歴を確認できるシステムを使えばタイムスタンプは不要です。
使用していた会計ソフトを確認したところ、この要件を満たしていました。あわせて、入力した日時も記録として残る仕様でした。
対応として、まず領収書だけを対象に始めました。事務処理規程は国税庁のサンプルをもとに作成し、月次でまとめて読み取る運用にしています。制度の情報を原本で確認していれば、数年早く始められたという事例です。
よくある質問
スキャナ保存は義務ですか?
タイムスタンプは必要ですか?
スマートフォンで撮影してもよいですか?
原本はいつ捨てられますか?
すべての書類を対象にする必要がありますか?
まとめ:要件を原本で確認してから始める
スキャナ保存で最初に確認すべきなのは、タイムスタンプが必須ではないという点です。電子帳簿保存法施行規則2条6項2号は、タイムスタンプを付す方法と、訂正削除の履歴を確認できるシステムを使う方法のいずれかを求めています。多くのクラウド会計サービスが後者を満たすため、追加の契約なしに始められます。
要件の数値も条文で確認できます。解像度は25.4ミリメートル当たり200ドット以上、階調は赤・緑・青がそれぞれ256階調以上。これらは一般的な複合機やスマートフォンで満たせる水準です。
検索の要件についても、ダウンロードの求めに応じられる場合は範囲指定と組合せが不要になります。要件が多いように見えても、実際に対応が必要な部分は限られています。
そして、始めるなら対象を絞ることです。領収書だけ、特定の取引先だけ。すべてを一度に切り替える必要はありません。運用が定着してから範囲を広げるほうが、途中で止まらずに済みます。
税理士法人Light UPでは、電子帳簿保存法への対応についてご相談を承っています。要件の確認から規程の作成まで、お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律施行規則」(平成十年大蔵省令第四十三号)第2条
- e-Gov 法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(平成十年法律第二十五号)第4条
- 国税庁「電子帳簿保存法関係」





