個人住民税の特別徴収とは?入社・退職時の手続きを解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
住民税の特別徴収とは、市区町村が決めた従業員の住民税を、会社が毎月の給与から天引きし、翌月10日までに市区町村へ納める仕組みです。所得税を源泉徴収している会社は、原則として特別徴収をする会社(特別徴収義務者)に指定されます。従業員の希望では外せません。税額は市区町村が計算して通知するため、会社が計算する場面はありません。会社に必要な手続きは、毎年1月の給与支払報告書の提出、入社・退職のときの届出、納期の特例の申請の3つです。この記事では、令和8年10月時点の地方税法と地方税共同機構(eLTAXの運営元)の案内に沿って、手続きの順番と間違えやすい点を整理します。様式や窓口は市区町村ごとに違うため、従業員の住所地の市区町村の案内で確かめてください。
特別徴収は会社の義務?
結論: 給与から所得税を源泉徴収している会社は、原則として住民税の特別徴収をする義務があります。従業員の希望や会社の事務負担を理由に、普通徴収へ切り替えることはできません。
特別徴収をする会社
地方税法321条の4は、所得税法183条により給与から所得税を徴収して納める義務がある者を、市町村が条例で特別徴収義務者に指定し、徴収させなければならないと定めています。会社の規模や人数による除外はありません。
特別徴収の対象になる従業員
対象は、前年中に給与を受け、かつ年度の初日(4月1日)にも給与を受けている従業員です(地方税法321条の3)。新卒1年目は、前年に所得がなければ住民税がかからず、天引きは2年目の6月からです。
普通徴収が認められる理由
普通徴収は、従業員が納付書で自分で納める方法です。総務省の個人住民税検討会の資料は、多くの市区町村が設けている申出の理由を次のように整理しています。どの理由を認めるかは市区町村ごとに違い、理由に当たっても、直ちに普通徴収が認められるわけではありません。
| 申出の理由 | 内容 |
|---|---|
| 乙欄適用者 | 他の事業所で特別徴収されている |
| 給与が少ない | 毎月の給与が少なく、税額を引けない |
| 支払が不定期 | 給与の支払が不定期 |
| 事業専従者 | 個人事業主の専従者として給与を受けている |
| 退職・休職 | 退職者、5月末日までの退職予定者、休職者 |
| 従業員が2人以下 | 上の理由に当たる人を除いて、総従業員数が2人以下 |
申出の方法は、給与支払報告書の摘要欄に符号を書く、普通徴収切替理由書を付けるなど、市区町村ごとに違います。
特別徴収の手続きでよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、退職の届出書の出し忘れ、退職時期ごとの一括徴収の取り違え、転職先への引き継ぎの期限、納期の特例の申請先の4つです。
年度の途中で人が入れ替わった会社から、退職者の住民税の扱いがわからないと相談に来られる方が少なくありません。つまずくのは、金額の計算ではなく届出です。
退職の届出書の出し忘れ
従業員が退職などで給与を受けなくなったときは、給与所得者異動届出書を、その事由が発生した日の属する月の翌月10日までに提出します(地方税法施行規則9条の24)。この届出書で、市区町村は従業員が特別徴収の対象でなくなったことを知ります。出さなければ、残りの税額を本人に請求する切り替えが始まりません。
退職時期ごとの一括徴収
残りの税額を最後の給与からまとめて引くかどうかは、退職の時期で決まります。1月から4月の退職と、6月から12月の退職では扱いが違います。全員を同じ扱いにすると、本人の手取りと納付の見通しが合わなくなります。
転職先への引き継ぎの期限
転職先で特別徴収を続けるには、本人が新しい会社を通じて、前の会社から給与を受けなくなった日の属する月の翌月10日(その日が翌年4月中なら4月30日)までに申し出る必要があります(地方税法321条の4第5項)。期限を過ぎると引き継げず、残りは本人の普通徴収になります。
納期の特例の申請先
納期の特例は、所得税と住民税で別々に申請します。所得税は税務署、住民税は従業員の住所地の市区町村です。申請していなければ、毎月、徴収した月の翌月10日までの納入が続きます。
従業員の入退社の一覧と、市区町村から届いた特別徴収税額の決定通知書をお持ちいただければ、届出書の出し漏れと、納期の特例を使える状況かを一緒に確かめます。
特別徴収の1年の流れは?
結論: 特別徴収の年度は6月から翌年5月です。1月31日までに給与支払報告書を出し、5月31日までに市区町村から税額の通知が届き、6月の給与から12分の1ずつ天引きします。
| 時期 | 会社がすること |
|---|---|
| 1月31日まで | 給与支払報告書を、従業員の1月1日現在の住所地の市区町村へ提出する |
| 5月31日まで | 市区町村から特別徴収税額の決定通知書が届く(会社用と従業員用) |
| 5月中 | 従業員用の通知を配り、新しい税額を給与計算に登録する |
| 6月から翌年5月 | 毎月の給与から、通知された月額を天引きする |
| 徴収した月の翌月10日 | 天引きした税額を市区町村へ納入する |
給与支払報告書の提出
給与支払報告書は、1月1日現在で給与を支払っている従業員の前年中の給与の金額などを、住所地の市区町村ごとに作って1月31日までに出す書類です(地方税法317条の6)。
前々年に税務署へ出した給与の源泉徴収票が30枚以上の会社は、eLTAXなどの電子での提出が義務です。令和8年分からは、給与支払報告書を市区町村に出せば、源泉徴収票を税務署に出したものとみなされます。
税額の決定通知書の受け取り
市区町村は、税額を5月31日までに会社と従業員へ通知します(地方税法321条の4)。報告書が遅れると、通知も遅れます。通知のあとで税額の誤りが見つかったときは、市区町村が変更通知を出し、会社は受け取った月以後の月額を新しい額に直します(同法321条の6)。
eLTAXで給与支払報告書を出した会社は、特別徴収税額通知を電子データで受け取れます。従業員用の通知も電子データを選べます。電子データを開くには、電子申告のときに登録したメールアドレスに届く保護番号が要ります。
毎月の天引きと納入
会社は、通知された月額を給与の支払のたびに天引きし、徴収した月の翌月10日までに納入します(同法321条の5)。月額は通知書に書かれており、会社が計算し直す必要はありません。
入社した人の特別徴収はどうする?
結論: 新卒1年目は住民税がなく、天引きは2年目の6月からです。中途入社は、前の会社から特別徴収を引き継ぐか、普通徴収から切り替えるかのどちらかになります。
前の会社から引き継ぐ場合
前の会社で特別徴収されていた人が転職するときは、前の会社が異動届出書を書き、新しい会社が引き継ぎの欄を書いて市区町村へ出す運用が一般的です。出す期限は前の会社を退職した月の翌月10日で、本人の申出が前提です。書く項目は市区町村の様式で確かめます。
普通徴収から切り替える場合
入社した人の前年分が普通徴収になっていて、納付書が手元にあるときは、市区町村の様式で特別徴収に切り替える申出をします。切り替えられるのは、まだ納期が来ていない分です。過ぎた分は本人が納付書で納めます。様式の名前や添付書類は市区町村ごとに違い、二重払いを防ぐために納付書や領収書の写しを求める市区町村もあります。通知が届くまでに1か月前後かかる市区町村もあるため、給与計算の段取りに余裕を持たせます。
退職した人の住民税はどう処理する?
結論: 退職した月で扱いが変わります。1月から4月の退職は、残りを最後の給与や退職手当からまとめて引きます。6月から12月の退職は、本人が申し出たときだけまとめて引きます。
退職時期ごとの扱い
| 退職の時期 | 残りの税額の扱い |
|---|---|
| 1月1日から4月30日 | 5月31日までに払う給与や退職手当で残りの全額を引けるとき、全額を一括で引く。引けないときは、残りが本人の普通徴収になる |
| 6月1日から12月31日 | 本人から一括徴収の申出があるときだけ、全額を一括で引く。申出がなければ、残りは本人の普通徴収になる |
根拠は地方税法321条の5第2項と321条の7です。普通徴収の納期は、6月、8月、10月、1月中に市町村の条例で定める決まりです(同法320条)。
異動届出書の出し方
異動届出書には、退職した従業員の氏名と、すでに徴収した月割額の合計額などを書きます(地方税法321条の5第3項)。休職や転勤で給与を受けなくなったときも同じ届出書で、eLTAXでも出せます。
4月15日までの届出
給与支払報告書に載せた従業員が、4月1日現在で給与を受けなくなっているときは、4月15日までにその旨の届出書を出します(地方税法317条の6第2項)。
納期の特例は使える?
結論: 給与を受ける人が常時10人未満の事業所は、市区町村長の承認を受けると、納入を年2回にまとめられます。6月から11月分は12月10日、12月から翌年5月分は6月10日です。
対象と納期
対象は、給与の支払を受ける人が常時10人未満の事務所や事業所です(地方税法321条の5の2)。承認を受けた日の属する期間は、その日の属する月から期間の最終月までの分をまとめます。
申請と承認
申請書は、従業員の住所地の市区町村長に出します。申請書には、最近6か月の月ごとの給与の支払を受ける人の数と金額を書きます(地方税法施行規則10条の2の2)。申請の翌月末日までに承認も却下もなければ、承認があったものとみなされます(地方税法施行令48条の9の10)。
所得税の納期の特例との違い
所得税の納期の特例(国税庁のタックスアンサーNo.2505)は、住民税とは期間も納期限も違います。同じ表で管理すると納期を取り違えます。
承認が取り消される場合
常時10人未満でなくなったときは、市区町村長が承認を取り消すことができます(地方税法施行令48条の9の10)。10人以上に増えたら、市区町村に確かめます。
納入が遅れたらどうなる?
結論: 納期限の翌日から納入の日までの日数に応じて、延滞金がかかります。天引きした税額を納めないと、罰則の対象にもなります。
延滞金
特別徴収義務者が納期限のあとに納入するときは、納期限の翌日から納入の日までの日数に応じて延滞金を加えます(地方税法326条)。
納入しなかったときの罰則
地方税法324条3項は、徴収して納入すべき個人の市町村民税の納入金を納めなかった者を、10年以下の拘禁刑または200万円以下の罰金に処し、または併科すると定めています。
よくある質問
従業員が自分で納めたいと言っています。普通徴収にできますか?
従業員が1人だけの会社でも、特別徴収は必要ですか?
従業員が年度の途中で引っ越したら、納入先は変わりますか?
通知された税額が間違っていたら、どうなりますか?
まとめ:入退社と1月の提出を押さえよう
- 特別徴収は、市区町村が決めた住民税を、会社が給与から天引きして翌月10日までに納める仕組み。源泉徴収をしている会社は原則として対象で、本人の希望では普通徴収にできない
- 1年は6月から翌年5月。1月31日までに給与支払報告書を出し、5月31日までに届く通知の月額を天引きする
- 退職者は、翌月10日までに異動届出書を出す。1月から4月の退職は一括徴収、6月から12月の退職は本人が申し出たときだけ一括徴収
- 常時10人未満の事業所は、承認を受けると年2回(12月10日と6月10日)にまとめられる。所得税の納期の特例とは別に申請する
退職者の住民税の扱いがわからない方、納期の特例を使えるか迷っている方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の給与台帳と市区町村からの決定通知書を確認し、届出書の出し漏れと納期の特例の可否を整理します。
出典
- e-Gov 法令検索「地方税法」(317条の6・318条・320条・321条の3・321条の4・321条の5・321条の5の2・321条の6・321条の7・324条・326条)
- e-Gov 法令検索「地方税法施行規則」(9条の24・10条の2の2)
- e-Gov 法令検索「地方税法施行令」(48条の9の10)
- 総務省 個人住民税検討会資料「特別徴収の推進について」
- 地方税共同機構「給与支払報告書、給与所得者異動届出書を提出するには」
- 地方税共同機構「特別徴収税額通知(納税義務者用)を出力するには」
- 国税庁 タックスアンサー No.2505「源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」





