自社株の相続トラブル|分散を防ぐ考え方
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「遺言で全部長男に渡したのに、弟から請求が来ると聞いて不安になった」「株が兄弟に散らばって、定款変更ひとつ通らない」――事業承継のご相談で持ち込まれる悩みは、この2つに集約されます。
結論からお伝えすると、自社株の分散を防ぐ手立ては遺言だけではありません。民法1042条が定める遺留分は遺言で奪えませんが、経営承継円滑化法4条の民法特例を使えば、推定相続人全員の合意により自社株を遺留分の計算から外すことができます。さらに2019年7月の民法改正で遺留分の請求は金銭債権に変わり、株式そのものが分割される事態は起きにくくなりました。
税理士法人Light UPでは、分散対策は法律の順番どおりに積むものだと考えています。遺留分の金額を先に把握し、それを払える形を作ってから遺言を書く。この順序を逆にすると、遺言が争いの火種になります。
この記事では、分散が経営に及ぼす影響、遺留分の計算、2019年改正で何が変わったか、生前贈与が10年さかのぼる仕組み、民法特例の手続、定款と種類株式による備え、そしてすでに分散してしまった場合の選択肢まで、順に整理します。
分散した株式が経営に及ぼす影響
結論: 自社株が分散すると、後継者が単独で決められる事項が減ります。会社法309条は普通決議を議決権の過半数、特別決議を出席株主の議決権の3分の2以上と定めており、この線を割ると経営の自由度が下がります。
「株を少し持たせるくらいなら問題ないでしょう」と思われがちですが、問題になるのは配当を求められることより、決議が通らなくなることです。
普通決議と特別決議の分かれ目
e-Govで会社法309条を確認すると、1項が普通決議、2項が特別決議を定めています。普通決議は「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数」で行います。取締役の選任・解任、役員報酬の総額の決定などがここに入ります。
特別決議は3分の2以上です。定款の変更、事業譲渡、合併、募集株式の発行で有利発行にあたる場合、自己株式の取得など、会社の形を変える決定はすべてこちらに入ります。
後継者の持株比率が3分の2を割った時点で、定款変更に他の株主の賛成が要る会社になります。この違いは、10年経ってから重くのしかかってきます。
株式が共有になった場合
遺産分割が終わるまでの間、自社株は相続人全員の共有になります。会社法106条は、株式が2人以上の共有に属するときは「共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない」と定めています。
権利行使者を決められないまま分割協議がもつれると、その株式の議決権は宙に浮きます。総会が開けない、決算が承認できない、役員の任期が切れても選任できない。相続の直後にいちばん起きやすい停滞です。
少数株主が持つ権利
議決権が少なくても、株主には情報を求める権利があります。会計帳簿の閲覧謄写請求、株主総会の招集請求、取締役の責任を追及する訴えなど、持株比率に応じた権利が会社法に並んでいます。
経営に関与しない親族が株主として残ると、日常の意思決定そのものが説明作業に変わっていきます。金額の問題より、時間の問題として現れる。ここが実感しにくいところです。
遺留分は法律で決まっている
結論: 遺留分は民法1042条が定めており、直系尊属のみが相続人である場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です。相続人が複数いるときは、この割合に各自の法定相続分を掛けて計算します。
遺言をどう書いても、この枠は動かせません。まずは金額を知ることから始まります。
条文が定める割合
e-Govで民法1042条1項を引くと、こう書かれています。「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける」。割合は、直系尊属のみが相続人である場合が3分の1、それ以外の場合が2分の1です。同条2項は、相続人が数人あるときはこの割合に各自の相続分を乗じるとしています。
会社全体の財産に対する枠が先にあり、それを法定相続分で割り振る、という二段構えです。
相続人の構成別の遺留分
主な組み合わせを並べると次のようになります。
| 相続人の構成 | 総体的遺留分 | 各人の遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 2分の1 | 配偶者 2分の1 |
| 配偶者と子2人 | 2分の1 | 配偶者 4分の1/子 各8分の1 |
| 子3人のみ | 2分の1 | 子 各6分の1 |
| 配偶者と父母 | 2分の1 | 配偶者 3分の1/父母 各12分の1 |
| 父母のみ | 3分の1 | 父母 各6分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 2分の1 | 配偶者 2分の1(兄弟姉妹はなし) |
相続財産が3億円で、相続人が後継者を含む子3人なら、後継者以外の2人の遺留分は合計で1億円です。自社株の評価額が2億円を占める会社では、この1億円をどう用意するかが最大の論点になります。
誰が相続人になるかで割合が変わります。自社の家族構成に当てはめて確かめておくことです。
兄弟姉妹に遺留分はない
民法1042条1項が対象を「兄弟姉妹以外の相続人」としているため、兄弟姉妹には遺留分がありません。
子がおらず両親も亡くなっている経営者の場合、相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。このケースでは、配偶者にすべてを相続させる遺言を書けば、兄弟姉妹から遺留分の請求を受けることはありません。遺言でどこまで守れるかが相続人の構成でまったく変わる、代表的な場面です。
2019年の改正で遺留分は金銭債権になった
結論: 2019年7月1日施行の民法改正により、遺留分の請求は金銭の支払を求める権利になりました。民法1046条は「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定めており、株式そのものが当然に分割されるわけではありません。
改正前の遺留分減殺請求では、請求により株式が共有状態になる場面がありました。いまは金額の問題に変わっています。
株式が共有になるわけではない
改正後は、遺留分を侵害された相続人が請求できるのは金銭です。後継者が自社株をすべて相続した場合、他の相続人が求められるのは侵害額に相当する現金であって、株式の一部ではありません。
経営権を守るという一点では、改正で守りやすくなりました。ただし裏返せば、後継者は現金を用意する立場に置かれます。株を守るために現金を出す構図になった、と言い換えられます。
支払えない場合の期限の許与
現金が用意できないとき、どうなるか。e-Govで民法1047条5項を引くと、こう定められています。「裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部又は一部の支払につき相当の期限を許与することができる」。
裁判所が支払期限を延ばせる規定です。免除ではなく猶予なので、いずれ払う必要はあります。それでも、一括で払えないから株を渡すという結論には直行しません。
請求できる期間の制限
民法1048条は、遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅するとしています。相続開始の時から10年を経過したときも同様です。
「請求が来るかどうか分からないまま10年待つ」という状態は、後継者にとって落ち着かないものです。あとで触れる民法特例は、この不確定さを先に消す手段でもあります。
生前贈与は10年間さかのぼる
結論: 相続人に対する生前贈与は、相続開始前10年間にした分が遺留分の計算に算入されます。民法1044条3項が定めており、婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に限られます。
「早めに贈与しておけば遺留分の対象から外れる」というご相談をよくいただきますが、10年という壁があります。
相続人への贈与は10年
民法1044条1項は、贈与は相続開始前の1年間にしたものに限り算入すると定め、同条3項が相続人に対する贈与についてはこの1年を10年に読み替えるとしています。
後継者である長男に自社株を贈与した場合、その贈与は10年間、遺留分を算定するための財産に含まれ続けます。承継の10年前から動いていれば外れますが、実際にそこまで早く動く会社は多くありません。
相続人以外への贈与は1年。評価額は相続開始時が基準
相続人ではない人への贈与は、原則として1年間です。ただし民法1044条1項後段は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものも算入するとしています。
孫や後継者の配偶者に株式を渡すという設計は、この違いを踏まえて検討することになります。
算入する価額は、贈与した時点ではなく相続開始時の価額で評価します。贈与後に業績が伸びて株価が上がっていれば、上がった評価額で遺留分の計算に入るということです。
早く贈与したのに遺留分の負担が増えた、という逆転が起きるのはこのためです。業績が伸びる会社ほど、贈与だけで解決しようとすると苦しくなります。
経営承継円滑化法の民法特例
結論: 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律4条は、推定相続人全員の合意により、後継者が取得した自社株を遺留分を算定するための財産から除外する、または価額を合意時点で固定する定めを認めています。
遺留分そのものを動かせる唯一の制度です。使える会社は限られますが、当てはまるなら影響は大きい。
除外合意
e-Govで同法4条1項1号を引くと、後継者が旧代表者からの贈与などにより取得した株式等の全部または一部について、「その価額を遺留分を算定するための財産の価額に算入しないこと」を定められるとしています。
自社株を遺留分の計算から丸ごと外す合意です。会社の価値がどれだけ上がっても、後継者が金銭を請求される心配がなくなります。
固定合意
同項2号は、株式等について「遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を当該合意の時における価額とすること」を定められるとしています。この価額は、弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士または税理士法人が相当な価額として証明したものに限られます。
除外までは他の相続人が納得しないが、将来の値上がり分は後継者の努力によるものだから外したい――そうした場面で使う制度です。証明を出せる立場に制限があり、旧代表者本人と後継者は証明できません。
手続の流れ
民法特例は、合意しただけでは効力が生じません。3段階の手続を踏みます。
- 推定相続人全員と後継者の合意(書面で行う)。あわせて、後継者が株式を処分した場合、旧代表者の生存中に後継者が代表者でなくなった場合の措置も定めます(法4条4項)
- 経済産業大臣の確認(合意の日から1か月以内)。合意書、全員が円滑化を図るために合意した旨の書面、固定合意なら証明を記載した書面を添えて申請します
- 家庭裁判所の許可(確認を受けた日から1か月以内に申立て)。裁判所は、合意が当事者全員の真意に出たものとの心証を得なければ許可できません(法8条2項)
期限が1か月ずつと短いのが特徴です。合意ができてから資料を集め始めると間に合いません。
使えない場合
法4条1項ただし書は、後継者が所有する株式等のうち合意の対象から除いたものに係る議決権の数が、総株主の議決権の100分の50を超える場合には使えないとしています。
すでに後継者が過半数の議決権を持っているなら、この制度は使えません。裏を返すと、民法特例は後継者が過半数に届いていない会社のための道具です。自社が使えるかどうかは、まず持株比率を数えれば分かります。
遺言でできることとできないこと
結論: 遺言では自社株の承継先を指定できますが、遺留分を奪うことはできません。遺言の役割は分散の防止であって、金銭請求の封じ込めではありません。
「遺言さえ書けば安心」という理解のまま止まっている会社が、いちばん危ういと感じます。
承継先を特定する書き方
自社株を後継者に承継させる遺言は、特定の財産を特定の相続人に承継させる形で書きます。株式は数と会社名で特定し、将来の株式分割や増資にも対応できる書き方にしておきます。
遺言執行者を定めておくと、名義書換の手続を後継者が単独で進められます。相続人全員の署名を集める必要がなくなるため、実務上の差が大きい部分です。
遺留分を前提に組み立てる
遺言を書く前に、遺留分の金額を試算します。そのうえで、後継者以外の相続人に渡す財産を組みます。自社株以外の現金・不動産、あるいは生命保険金です。
生命保険金は原則として受取人固有の財産となり、遺産分割の対象にはなりません。後継者を受取人にしておけば、遺留分の支払原資として使えます。
遺言があっても、遺留分の請求は妨げられません。
遺留分の放棄という選択肢
民法1049条1項は、相続開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力を生ずると定めています。
後継者以外の相続人に納得してもらえるなら、生前に放棄してもらう道もあります。ただし許可は自動ではなく、放棄が本人の意思に基づくか、代償があるかなどを裁判所が見ます。実務では民法特例のほうが使われる場面が多いのが実情です。
定款と種類株式で備える
結論: 定款に相続人等に対する売渡請求の定めを置く、議決権制限株式を発行するなど、会社法の仕組みで分散に備えられます。ただし売渡請求には後継者自身が排除されるリスクがあります。
税務と民法だけでは足りません。会社法の側からの備えを組み合わせます。
相続人等に対する売渡請求
会社法174条は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款で定めることができるとしています。
散った先から会社が買い戻す仕組みです。ただし会社法176条1項ただし書により、会社が相続などがあったことを知った日から1年を経過すると請求できません。売買価格は協議で決め、まとまらなければ請求から20日以内に裁判所へ申立てができます。
売渡請求の落とし穴
この定めには、よく知られた危険があります。会社法175条2項は、売渡請求の相手方となる者は、その株主総会において議決権を行使することができないと定めています。
つまり、先代が亡くなって後継者が株式を相続した直後、後継者は自分に対する売渡請求の決議で議決権を使えません。他の株主が結束すれば、後継者のほうが会社から締め出される事態が起こり得ます。
定款にこの定めを置くなら、後継者の持株比率、他の株主の構成、先代の生前の議決権集中とセットで設計する必要があります。定款のひな型をそのまま採用するのは危ういところです。
議決権制限株式と属人的定め
会社法108条は、議決権を行使することができる事項について制限のある株式を発行できると定めています。経済的な取り分は渡しつつ、議決権は後継者に集めるという設計です。
非公開会社にはもう一つの道があります。会社法109条2項は、公開会社でない株式会社は、剰余金の配当や議決権に関する事項について株主ごとに異なる取扱いを行う旨を定款で定めることができるとしています。株式の種類を分けずに、株主単位で扱いを変える方法です。
ただし、この定款変更には総株主の半数以上であって総株主の議決権の4分の3以上という重い要件がかかります。分散してからでは手が届きません。
すでに分散している場合の選択肢
結論: すでに分散した株式は、会社による買取り、後継者による買取り、所在不明株主の特例といった手段で集約します。いずれも相手との交渉か、法定の手続が必要です。
「気づいたら5人の親族が株主になっていた」というご相談は、決して珍しくありません。
会社による買取り
会社が自己株式として買い取る方法です。株主総会の決議と、分配可能額の範囲内という財源規制がかかります。特定の株主から買う場合は、他の株主に売主追加請求の機会を与える必要があり、手続が重くなります。
売る側には、みなし配当の課税が生じる場合があります。手取り額が想定と違ってくるため、交渉に入る前に試算しておく必要があります。
所在不明株主の特例
連絡が取れない株主がいる場合、会社法197条により、通知が5年以上継続して到達せず、5年間配当を受領しない株式は競売または売却ができます。ただし5年は長い。
経営承継円滑化法15条は、都道府県知事の認定を受けた特例株式会社について、この5年を1年に読み替える特例を定めています。あわせて、株主その他の利害関係人が異議を述べることができる旨を公告し、株主および登録株式質権者には各別に催告する必要があります。異議申述の期間は3か月を下ることができません。
期間が短縮されるだけで手続そのものは残るため、着手から完了まで半年程度は見込んでおくのが現実的です。
名義株の整理
そもそも本人が出資していない名義だけの株主がいる場合は、分散とは別の問題です。実質株主に戻す整理が先になります。
名義だけを借りていた株式が残っている会社は少なくありません。設立当時の発起人の要件を満たすために、親族や知人の名義を使った経緯があるためです。実質の所有者が誰かを確かめ、書面で整理しておくことです。放置すると、相続の場面で権利を主張されます。
対策を組み立てる順番
結論: 分散対策は、相続人の確定、遺留分の試算、原資の確保、遺言または民法特例、定款の見直しという順で進めます。遺言から書き始めると、払えない約束を残すことになります。
順番を守れば、途中でやめても次の人が続けられます。
- 相続人の確定(着手時)。戸籍を遡り、法定相続人を確定します。兄弟姉妹が相続人になる場合は遺留分がないため、対策の設計自体が変わります
- 遺留分の試算(同時期)。自社株の評価額を出し、他の財産と合わせて遺留分の金額を計算します。ここが分散対策の起点です
- 原資の確保(1〜3年)。遺留分の支払原資として、現金・生命保険・不動産を割り当てます。足りない分をどう埋めるかを決めます
- 遺言または民法特例。後継者の持株比率が50%以下なら民法特例を検討し、超えているなら遺言と原資の組み合わせで進めます
- 定款の見直し。売渡請求の定め、種類株式、属人的定めを、持株比率を踏まえて設計します
つまずきやすいのは2です。「株の評価額を出したことがない」というお声は多いのですが、金額が分からないまま対策を語っても形になりません。
よくある相談事例
建材商社:遺言を書いたあとに弟から連絡が来た
先代が亡くなり、遺言により長男がすべての自社株を相続したケース。半年後、次男から代理人を通じて遺留分侵害額の請求書が届きました。
まず確認したのは、改正後の民法では請求できるのが金銭であって株式ではないという点です。この会社の株式が分割される心配はありませんでした。次に侵害額を計算し、支払原資を確認したところ、先代が掛けていた生命保険金で7割ほど賄えることが分かりました。
残りについては分割での支払を提案し、話し合いで折り合いをつけています。株を渡さずに済んだのは、生命保険を受取人指定で残していたことが大きい事例でした。
金属加工業:民法特例を検討したが使えなかった
「弟たちに株を渡さずに済む制度があると聞いた」というご相談。経営承継円滑化法の民法特例のことでした。
持株比率を数えると、後継者となる長男はすでに議決権の62%を保有していました。法4条1項ただし書により、合意の対象から除いた株式の議決権が50%を超える場合は使えません。この会社は対象外です。
代わりに、遺留分の試算と原資の確保に切り替えました。すでに過半数を握っている以上、経営権そのものは守れる。あとは金銭をどう用意するかという問題に整理し直しています。
印刷会社:株主総会が開けなくなった
先代の急逝後、遺産分割協議がまとまらないまま半年が過ぎ、定時株主総会の時期を迎えたケース。
会社法106条により、共有株式は権利行使者を1人定めて会社に通知しなければ権利を行使できません。相続人3人の間で誰を権利行使者にするか決まらず、議決権が使えない状態でした。
判例上、権利行使者は共有者の持分の過半数で決められます。この点を説明したうえで、まず権利行使者の指定だけを先に合意してもらい、総会を開いて役員の選任を通しました。分割協議はその後も続きましたが、会社の意思決定は止めずに済んでいます。
建設会社:定款の売渡請求で親族が動いた
古い定款に相続人等に対する売渡請求の定めが入っていた会社。先代が亡くなり、後継者が株式を相続した直後に、少数株主だった親族が売渡請求の総会招集を求めてきました。
会社法175条2項により、売渡請求の相手方となる後継者は、その決議で議決権を行使できません。他の株主の議決権だけで特別決議の要件を満たす構成だったため、危うい局面でした。
このケースは交渉で収まりましたが、教訓ははっきりしています。売渡請求の定めは、置けば安全というものではありません。定款を確認せずに承継の日程を組むのは避けたいところです。
よくある質問
遺言を書けば自社株の分散は防げますか?
遺留分を請求されると、株式を渡すことになりますか?
兄弟には遺留分がないと聞きましたが本当ですか?
早めに贈与しておけば遺留分の対象から外れますか?
民法特例はどの会社でも使えますか?
定款に売渡請求の定めを入れておけば安心ですか?
連絡の取れない株主がいる場合はどうすればよいですか?
まとめ:金額を先に出してから遺言を書く
- 会社法309条により、普通決議は議決権の過半数、特別決議は出席株主の議決権の3分の2以上です。持株比率がこの線を割ると経営の自由度が下がります
- 遺留分は民法1042条が定めており、遺言では奪えません。ただし兄弟姉妹に遺留分はないため、相続人の構成によって対策が変わります
- 2019年7月の改正で遺留分の請求は金銭債権になりました。株式が当然に分割されるわけではなく、後継者は現金を用意する立場になります
- 相続人への生前贈与は10年間さかのぼり、相続開始時の評価額で算入されます。贈与だけで解決しようとすると業績が伸びるほど苦しくなります
- 経営承継円滑化法4条の民法特例は、後継者の議決権が50%以下の会社が対象です。手続には1か月ずつの期限があります
- 定款の売渡請求は、後継者自身が排除される場面があります。置くなら株主構成と併せて設計します
優先順位を付けるなら、まず遺留分の金額を出すこと。株の評価額と他の財産を並べれば、必要な現金がいくらかは1日で分かります。
避けたいのは、金額を知らないまま遺言だけ書いてしまうこと。払えない前提の遺言は、残された人の争いを増やすだけになります。
次の一歩として、法定相続人を戸籍で確定し、直近の決算書から自社株の概算評価を出してみてください。この2つが揃えば、民法特例が使えるかどうかも、必要な原資がいくらかも見えてきます。
自社の株主構成でどの手が使えるか、遺留分がいくらになるかは、会社ごとに答えが変わります。税理士法人Light UPの無料相談では、株主名簿と決算書を拝見したうえで、順番から一緒に整理します。





