役員報酬の決め方を解説|損金にできる手続きの順番と期限
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
役員報酬は、金額を決める前に、給与の型・期限・株主総会の決議の3つを決めます。この3つのどれかを外すと、金額が妥当でも損金の額に算入できません。損金の額に算入できるとは、会社の利益を計算するときに経費として差し引けるということです。この記事では、決める順番、間違えやすい点、型ごとの要件、期限、金額の考え方、株主総会の決議を、国税庁のタックスアンサーNo.5211(令和8年4月1日現在法令等)と条文に沿って整理します。
役員報酬は何をどの順で決める?
結論: 役員報酬は、給与の型、期限、金額、株主総会の決議、支給の順に決めます。損金の額に算入できるかは、まず手順を守ったかで決まります。
決める5つの順番
型と期限は、金額を決めたあとでは動かせません。期限を過ぎると、その事業年度は原則として金額を変えられないためです。
会社法と法人税法の2つのルール
役員報酬には、会社法のルールと法人税法のルールがあります。会社法は誰がどう決めるか(株主総会の決議など)を、法人税法は損金の額に算入できる給与の型を定めます。実務では両方を満たします。
損金の額に算入できない役員報酬でも、受け取った本人には給与所得として所得税・住民税がかかります。会社では経費にならず、本人は課税される二重の負担が残ります。
従業員の給与との違い
従業員の給与は、労務の対価として実際に払っていれば、原則として損金の額に算入できます。役員の給与は、払った事実だけでは足りません。役員は自分の給与の額を決められる立場にあり、利益を調整する手段になりかねないため、法人税法第34条が型と手続きで縛っています。
役員報酬の決定でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、期限を過ぎた増額、資金繰りを理由にした減額、届出と違う賞与の支給、決議より後に作る議事録の4つです。どれも損金の額に算入できない額が出ます。
決算の着地が見えてから、役員報酬を上げたいと相談に来られる方が少なくありません。その頃には、期首から3か月の期限はすでに過ぎています。
期限を過ぎた増額
期首から3か月を過ぎて月額を上げると、上げた分は損金の額に算入できません。国税庁の質疑応答事例に、3月決算の会社が月額50万円の役員給与を翌年2月分から20万円増額した例があります。臨時改定事由に当たらない増額で、損金の額に算入できないのは増額分の20万円×2か月分、40万円です。支給額の全体ではなく、上げた分が経費になりません。
資金繰りを理由にした減額
減額も自由にはできません。国税庁は、減額できる事由の業績悪化改定事由に、一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったことは含まれないとしています。今期は資金が厳しいので下げた、という理由だけでは足りません。減額を決める前に、経営状況が著しく悪化した事実を、売上の推移などで説明できるよう記録に残します。
届出と違う金額での賞与の支給
賞与は、届け出た時期と金額のとおりに払って初めて損金の額に算入できます。定めどおりに支給されたかどうかは、定時株主総会から次の定時株主総会までの職務執行期間を単位に判定します。国税庁の質疑応答事例の例では、同じ期間に2回払う定めで、1回目に半分しか払わず2回目は満額を払うと、その期間の支給額の全額が事前確定届出給与に当たりません。
決議より後に作る議事録
決算後に議事録をまとめて作ると、決議の日付を証明できず、期首から3か月以内に決めたと説明できません。議事録は決議した日に作ります。
税理士が最初に確認する3点
役員報酬の相談を受けたとき、税理士は次の順に確かめます。
- 決議の日付が、期首から3か月以内か(議事録の日付)
- 毎月の支給額が、決議した額と同額か(給与台帳と預金の出金)
- 賞与があれば、届出書の時期・金額と、実際の支給が一致しているか
前期の議事録と、期首からの役員報酬の支給額の一覧をお持ちいただければ、決議が期限内か、支給額が決議どおりか、賞与の届出と支給が一致しているかを一緒に確かめます。
損金にできる役員給与の型は?
結論: 損金の額に算入できる役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与の3つの型だけです。中小企業が適用するのは前の2つです。
3つの型の早見表
法人税法第34条第1項は、この3つのどれにも当てはまらない役員給与を、損金の額に算入しないと定めています。退職給与と、使用人兼務役員の使用人としての給与は、別の扱いです。
| 型 | 払い方 | 事前の届出 | 中小企業での適用 |
|---|---|---|---|
| 定期同額給与 | 毎月同額の報酬 | 不要 | 基本の形 |
| 事前確定届出給与 | 決めた時期に決めた額の賞与 | 必要 | 賞与を損金の額に算入したいとき |
| 業績連動給与 | 利益や株価などの指標に連動 | 不要(開示などが要件) | 同族会社は原則として適用できない |
定期同額給与の要件
支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、事業年度の各支給時期の支給額が同額であることが要件です。毎月払いが典型で、年に1回や2回の払いは当たりません。非常勤役員に年額をまとめて払っている会社は、ここで外れます。
支給額から源泉所得税や社会保険料などを引いた手取りが同額でも、定期同額給与です。手取りをそろえる方式も認められます。
事前確定届出給与の要件
賞与を損金の額に算入したいときの型です。株主総会などで、役員の職務について、所定の時期に確定した額を払うと決め、その内容を「事前確定届出給与に関する届出書」で所轄の税務署長に届け出て、そのとおりに払います。
届出が要らないのは、定期給与を支給しない役員に、同族会社でない法人が金銭で払う場合などです。同族会社が中心の中小企業は、届出が要る前提で設計します。
業績連動給与を適用できない理由
業績連動給与は、同族会社の場合、同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限られます。算定方法の指標も、有価証券報告書に記載されるものに限られ、単独の同族会社は入口で外れます。業績に応じて動かしたいときは、翌期の通常の改定に反映します。
役員報酬はいつまでに決める?
結論: 毎月の役員報酬は、原則として期首から3か月以内に決めます。3月決算の会社なら6月30日までです。賞与の届出は、決議の日から1か月と期首から4か月の早いほうまでです。
定期同額給与の決定期限
事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までにする改定は、定期同額給与として認められます(国税庁は「3月経過日等」と呼びます)。確定申告書の提出期限の特例の指定を受けている会社は、指定に係る月数に2を加えた月数です。設立1期目は、設立の日が起点です。
決算月ごとの期限は、次のとおりです。
| 決算月 | 事業年度の始まり | 毎月の報酬を決める期限 | 賞与の届出の上限 |
|---|---|---|---|
| 3月 | 4月1日 | 6月30日 | 7月31日 |
| 12月 | 1月1日 | 3月31日 | 4月30日 |
3か月を過ぎても改定できる事由
3か月を過ぎて改定できるのは、次の2つの事由がある場合です。
- 臨時改定事由:役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情
- 業績悪化改定事由:経営状況が著しく悪化したことなどによる減額。増額には使えません
賞与の届出期限
事前確定届出給与の届出期限は、次の2つのうち早い日です(国税庁 タックスアンサーNo.5211)。
- 株主総会などの決議をした日から1か月を経過する日
- 会計期間開始の日から4か月を経過する日
3月決算の会社が5月25日に定時株主総会を開いたなら、1は6月25日、2は7月31日なので、6月25日が期限です。新設法人が設立時に開始する職務について定める場合は、設立の日以後2か月を経過する日です。
役員報酬の金額は何を見て決める?
結論: 役員報酬の金額は、会社に残す利益と本人に渡す報酬の配分です。法人税、所得税・住民税、社会保険料を合わせた負担と、払い続けられる資金の両方で決めます。
翌期の見込みと資金繰り
翌期の売上、粗利、固定費を見込み、役員報酬を引く前の利益を置きます。決算期の納税資金を残したうえで、毎月払い続けられる額かを確かめます。1年間動かせない前提で決めます。
法人と本人と社会保険の合計負担
報酬を上げると、法人税は下がりますが、本人の所得税・住民税と社会保険料は増えます。下げるとその逆です。片側だけを見て、よい額は決められません。
法人は役員が1人でも、厚生年金保険と健康保険の強制適用になります(日本年金機構の「適用事業所と被保険者」は、法人の事業所を事業主のみの場合を含めて適用事業所としています)。報酬の額で社会保険料も変わるため、金額を決める段階で見込みに入れます。
不相当に高額と判断される額
3つの型のどれかに当てはまっていても、高すぎる部分は損金の額に算入できません。法人税法施行令第70条第1号は、次の2つの基準で計算した金額のうち、多いほうを損金の額に算入しないとしています。
家族や非常勤役員への支給
配偶者や親族を役員にして払うときは、実際に何をしているかを説明できることが前提です。出勤の記録、担当業務、成果物が金額の根拠になります。非常勤役員の報酬には法令上の相場の定めがなく、職務から積み上げて決めます。
従業員として働く家族でも、同族会社で一定の株式を持ち経営に従事していれば、税務上の役員とみなされ(国税庁 タックスアンサーNo.5200)、賞与は届出がないと損金の額に算入できません。
株主総会では何を決議する?
結論: 取締役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます(会社法第361条)。株主も取締役も1人の会社でも、決議と議事録が要ります。
会社法361条が決める事項
会社法第361条第1項は、次の事項を、定款に定めがないときは株主総会の決議で定めるとしています。
- 報酬等のうち額が確定しているものは、その額
- 額が確定していないものは、その具体的な算定方法
- 金銭でないものは、その具体的な内容
議案を出した取締役は、総会でその額を相当とする理由を説明します(同条第4項)。監査役の報酬も、定款または株主総会の決議で定めます(会社法第387条)。
総額を決めて個人別は任せる方法
総会で報酬の総額だけを決め、個人別の額は取締役会などに任せる方法があります。国税庁の質疑応答事例は、総枠を定めて各人ごとの限度額の決定を役員会に一任した場合、過大かどうかを役員会が決めた各人ごとの限度額を基準に判定するとしています。総枠に収まっていても、個人別の額が別に見られます。
総会で支給限度額を定め、各人別の支給額を取締役会で決議する形は、定期同額給与の判定でも、株主総会の決議と同様に扱ってよいとされています。
一人会社の決議と議事録
株主も取締役も1人でも、決議した事実と日付が残っていなければ、期限内に決めたと説明できません。議事録は税務署へ出さず、会社で保存します。誰に、いつから、月額いくらを払うか、賞与なら時期と額まで書きます。
よくある質問
役員報酬は、いつまでに決めればいいですか?
期の途中で、役員報酬を上げてもいいですか?
一人社長の会社でも、株主総会の議事録は必要ですか?
まとめ:型と期限を守って決めよう
- 損金の額に算入できる役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3つの型だけです
- 毎月の報酬は期首から3か月以内に、賞与の届出は決議の日から1か月と期首から4か月の早い日までに決めます
- 取締役の報酬は株主総会の決議で決め、一人会社でも議事録を作ります
- 型に当てはまっていても、高すぎる部分は損金の額に算入できません
- 金額は、税金と社会保険料の合計負担と、払い続けられる資金で決めます
翌期の役員報酬をこれから決める方、期限が近く決議や届出が間に合うか分からない方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の決算書と議事録を確認し、給与の型と期限、金額の考え方を整理します。
出典
- 国税庁 タックスアンサーNo.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサーNo.5200「役員の範囲」
- 国税庁 質疑応答事例「定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)」
- 国税庁 質疑応答事例「定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)」
- 国税庁 質疑応答事例「過大役員給与の判定基準」
- 法人税法第34条、法人税法施行令第70条(e-Gov法令検索)
- 会社法第361条、第387条(e-Gov法令検索)
- 日本年金機構「適用事業所と被保険者」





