役員報酬の決め方と手続き|法律上のルール

「役員報酬を月いくらにするか」は、多くの経営者が毎年頭を悩ませる論点です。ところが税務調査で実際に問題になるのは、金額そのものよりも、いつ・どんな手順で決めたかであることのほうが多くあります。

結論からお伝えすると、役員報酬は決めた金額が妥当であっても、手続きの要件を外すと損金に算入できません。しかも、外れた分だけが否認されるのではなく、支給額のまとまった部分が一度に損金不算入になる場面があります。

税理士法人Light UPでは、役員報酬のご相談を「いくらにするか」ではなく「いつまでに何を決めるか」から始めています。金額は後から調整できても、期限は後から動かせないためです。

この記事では、法人税法が認める3つの類型から、定期同額給与と事前確定届出給与の要件、会社法が求める決定手続き、議事録の残し方、そして社会保険を含めた実務の順序までを、国税庁・厚生労働省・日本年金機構の公表資料と条文に沿って整理します。

役員報酬が従業員の給与と違う理由

結論: 役員報酬は経営者自身が金額を決められる立場にあるため、利益調整の手段になりかねません。法人税法はこれを防ぐ目的で、従業員給与にはない厳格な手続き要件を課しています。

金額を決める人と受け取る人が同じになる構造

国税庁の令和5年度分「会社標本調査」によると、単体法人2,939,162社のうち同族会社は96.6%を占め、非同族会社は100,143社(3.4%)にとどまります。中小企業のほとんどは、株主と役員が実質的に同じ人という構造です。

この構造では、期末近くに利益の着地が見えてから役員報酬を増減させれば、法人の所得を自由に動かせてしまいます。法人税法が手続きを縛っているのは、この余地を塞ぐためです。

会社法と法人税法の二階建て。損金不算入は二重負担になる

役員報酬には、会社法上の「決め方」のルールと、法人税法上の「損金にできるか」のルールが別々に存在します。会社法の手続きを踏んでいても法人税法の要件を外すことはありますし、その逆もあります。

実務では両方を同時に満たす必要があるため、どちらか一方の知識だけでは足りません。

役員報酬が損金不算入になっても、受け取った個人の側では給与所得として所得税・住民税が課されます。会社では経費にならず、個人では課税されるという二重の負担が残ります。

これが、金額の妥当性より先に手続きを固める理由です。

従業員給与との違いを一言で

従業員の給与は、実際に労務の対価として支払われていれば原則として損金になります。役員報酬は、支払った事実だけでは足りず、支払い方の型に当てはまっていることが必要です。

従業員の給与は労働の対価として支払うもので、金額は雇用契約で決まります。役員報酬は委任契約に基づく報酬で、株主総会の決議で決まります。決め方が違うぶん、税務の側でも別の枠組みが用意されている、という整理です。

損金にできる役員給与は3つの類型だけ

結論: 法人税法は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3つのいずれにも該当しない役員給与を損金不算入とします。中小企業が現実に使えるのは前の2つです。

3つの類型の位置づけと、別枠で考える退職給与

国税庁のタックスアンサーNo.5211は、この3類型のいずれにも該当しない役員給与について「損金の額に算入されません」と明記しています。裏を返せば、どの類型で支給するかを先に決めてから金額を決めるのが正しい順序です。

類型 支給の形 事前の届出 中小企業での使いやすさ
定期同額給与 毎月同額の月額報酬 不要 基本形。ほぼすべての会社が使う
事前確定届出給与 決めた時期に決めた額の賞与 必要 使えるが期限と正確性の管理が要る
業績連動給与 利益・株価等の指標に連動 不要(開示等が要件) 同族会社は原則として対象外

役員退職金は、上記3類型の枠組みとは別に扱われます。国税庁のタックスアンサーNo.5208は、その損金算入時期を「株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度」と示しています。

ただし、退職金についても不相当に高額な部分は損金になりません。

隠蔽・仮装による支給は全額が対象外。選ぶのは事業年度が始まる前

事実を隠蔽または仮装して経理することにより役員へ支給したものは、類型に当てはまるかどうかにかかわらず、その全額が損金不算入になります。これは他の否認とは性質が違い、悪質性を前提とした扱いです。

3類型のどれで支給するかは、事業年度が始まってから考えるものではありません。定期同額給与の改定にも事前確定届出給与の届出にも期限があり、どちらも事業年度の入口に集中しています。

定期同額給与の要件

結論: 支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、その事業年度の各支給時期の支給額が同額であることが基本要件です。改定できるのは原則として事業年度の入口だけです。

定期同額給与の要件
01
支給の間隔
1か月以下の一定の期間ごと。年1回払いは定期給与にあたらない
02
支給額
その事業年度の各支給時期の支給額が同額であること
03
同額とは支給額のこと
手取りをそろえる方式は、社会保険料が変わると支給額が動く
04
経済的利益も入る
社宅や個人的費用の負担も、毎月おおむね一定なら含まれる

支給時期は1か月以下の一定の期間ごと。同額であることの意味

毎月払いが典型ですが、毎週払い・毎日払いも要件を満たします。逆に、国税庁の法人税基本通達9-2-12は、非常勤役員への年俸を年1回または年2回支給するようなものは「定期同額給与には該当しない」と明示しています。

非常勤役員に年払いをしている会社は、この点で否認されることがあります。

各支給時期の支給額が同額であることが原則です。加えて、支給額から源泉税等の額を控除した金額が同額であるものも定期同額給与に該当します。

源泉税等の額には、源泉徴収される所得税、特別徴収される住民税、給与から控除される社会保険料などが含まれます。つまり、手取り額を毎月同額に揃える方式も認められます。

手取り同額方式の注意と、改定の期限は3月経過日等まで

手取りを固定すると、社会保険料の改定や住民税の切替のたびに額面が動きます。額面が動くこと自体は問題ありませんが、どちらの方式で支給しているかを社内で統一しておく必要があります。

途中で方式を混在させると、どの月を基準に同額性を判定するのかが説明できなくなります。

金額を改定できるのは、原則としてその事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までです。国税庁はこれを「3月経過日等」と呼んでいます。

3月決算の会社(事業年度4月1日〜翌年3月31日)なら6月30日、12月決算なら3月31日が期限です。確定申告書の提出期限の特例の指定を受けている場合は、その指定に係る月数に2を加えた月数になります。

経済的利益も定期同額給与に入る

継続的に供与される経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものも定期同額給与に該当します。社宅の貸与や低利の貸付けなどがこれにあたります。

毎月おおむね一定の額であれば、現物で受け取っているものも定期同額給与として扱われます。社宅の家賃の差額、生命保険料の負担、社用車の私的利用。金額に置き換えて、報酬の一部として見ることになります。

期中に金額を変えられる3つの場合

結論: 通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由の3つに限って、期中の改定が認められます。これ以外の理由で増額すると、上乗せ分が損金不算入になります。

期中に改定できるのはこの3つだけ
期中の改定
通常改定
事業年度開始の日から3か月以内。増額も減額もできる
臨時改定事由
役員の地位や職務の内容が変わったとき。就任、退任、職制上の地位の変更
業績悪化改定事由
減額に限られる。資金繰りが苦しいという理由だけでは足りない
これ以外の増額
上乗せした部分が損金不算入になる

通常改定と、臨時改定事由|地位や職務が変わったとき

事業年度の入口に行う定期的な改定です。多くの会社は定時株主総会でこれを決議します。3月決算の会社が5月末に総会を開き、6月支給分から新しい月額にする流れが典型です。

国税庁の法人税基本通達9-2-12の3は、臨時改定事由を「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」と定義しています。

具体例として通達が挙げているのは、社長の退任に伴い臨時株主総会の決議で副社長が社長に就任する場合や、合併により役員の職務内容が大幅に変わる場合です。

業績悪化改定事由は減額に限られる。3つに当たらない増額の扱い

経営状況が著しく悪化したことなどを理由とする改定です。減額の改定に限られ、この事由で増額することはできません

国税庁の質疑応答事例は、3月決算の会社が翌年2月に月額50万円を70万円へ増額した事例で、損金不算入額を上乗せ分の40万円(20万円×2か月)と示しています。増額前の50万円相当部分は引き続き定期同額給与として損金になるという整理です。

支給額全体がまとめて否認されるわけではありませんが、増やした分は確実に経費にならないという結果は変わりません。

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業績悪化改定事由の線引き

結論: 業績悪化改定事由は、資金繰りが苦しいという理由では認められません。第三者との関係上、役員給与を減額せざるを得ない事情があるかどうかで判断されます。

認められないものとして明示されている場面と、通達が示す考え方

国税庁のタックスアンサーNo.5211は、業績悪化改定事由について「法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません」と注記しています。

この一文があるため、「今期は資金が厳しいので役員報酬を下げた」という説明だけでは要件を満たしません。

法人税基本通達9-2-13は、この事由を「経営状況が著しく悪化したことなどやむを得ず役員給与を減額せざるを得ない事情があること」と説明しています。やむを得ないかどうかが判断の中心です。

実務で説明できる形にしておく。減額後に元へ戻すタイミング

減額を検討する段階で、取引先や金融機関との関係、再建計画の有無、従業員給与の取扱いといった事情を記録に残しておくと、後から説明できる材料になります。判断は個別事情によるため、減額を決める前に税理士へ相談する場面です。

業績悪化改定事由で減額した後、業績が回復したからといって期中に元へ戻すことはできません。増額は通常改定の枠でしか行えないため、戻すのは翌事業年度の入口になります。

事前確定届出給与|役員賞与を損金にする仕組み

結論: あらかじめ税務署へ届け出た時期・金額どおりに支給する役員賞与は損金になります。届出と実際の支給が一致していることが絶対条件です。

事前確定届出給与の進め方
1

株主総会等で決議する
支給する時期と金額を具体的に決める
2

期限までに届け出る
決議の日から1か月を経過する日と、事業年度開始の日から4か月を経過する日のうち早いほう
3

届出どおりに支給する
時期も金額も一致していること。ずれると全額が損金不算入
4

支給しない選択もある
業績が悪ければ見送る。その場合は支給がないだけで済む

仕組みの全体像と、届出期限は2つの日付の早いほう

「いつ、いくら支給するか」を株主総会等で決議し、期限までに所轄税務署長へ届け出て、そのとおりに支給します。定期同額給与では毎月同額しか払えないため、賞与を損金にしたい場合はこの制度を使います。

国税庁のタックスアンサーNo.5211によると、原則の届出期限は次の2つのうちいずれか早い日です。

  1. 株主総会等の決議によりその定めをした場合の決議をした日から1か月を経過する日(決議日が職務執行開始日より後のときは、その開始する日から1か月を経過する日)
  2. その会計期間開始の日から4か月を経過する日

3月決算の会社が5月25日に定時株主総会を開いたなら、①は6月25日、②は7月31日なので、6月25日が期限です。総会の日程が早いほど期限も早く来る点に注意が必要です。

新設法人と申告期限の特例。届出どおりでない支給の扱い

新設法人がその役員の設立時に開始する職務について定めをした場合は、設立の日以後2か月を経過する日が期限です。確定申告書の提出期限の延長の特例の指定を受けている法人は、一定の通算法人は5か月、それ以外の法人は指定に係る月数に3を加えた月数になります。

届け出た金額・時期と実際の支給がずれた場合、その支給は事前確定届出給与に該当しません。定期同額給与にも業績連動給与にも当てはまらないため、その支給額が損金不算入になります。

「業績が思ったより悪かったので減らして払った」「資金繰りの都合で支給日をずらした」という対応が、そのまま否認につながります。

届出が不要になる場合

定期給与を支給しない役員に対して同族会社に該当しない法人が支給する金銭による給与などは、届出が不要とされています。ただし中小企業の大半は同族会社であるため、実務上は届出が必要と考えて設計するのが安全です。

届出が要らないのは、その支給について損金にする必要がない場合です。損金にならない前提で賞与を出すのであれば、届出をしないという選択もあります。ただし個人側では給与として課税されるため、会社と個人の両方で負担が生じます。

届出内容を変更するときの期限

結論: 一度届け出た内容は、臨時改定事由または業績悪化改定事由がある場合に限って変更できます。変更にもそれぞれ別の期限が定められています。

臨時改定事由による変更と、業績悪化改定事由による変更

臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日が期限です。役員の地位や職務が大きく変わった場面に限られます。

減額または交付する株式・新株予約権の数を減少させる場合に限られ、期限はその変更に関する株主総会等の決議をした日から1か月を経過する日です。ただし、変更前の届出に基づく支給日がその1か月を経過する日より前にあるときは、その支給日の前日が期限になります。

やむを得ない事情がある場合の宥恕と、支給をやめるという選択

期限までに届出がなかった場合でも、そのことについてやむを得ない事情があると認められるときは、期限内に届出があったものとして損金算入が認められる余地があります。ただし、これは例外的な救済であり、当てにして期限を過ぎるべきものではありません。

届け出た賞与を支給しなかった場合、その事業年度に損金は生じません。損金不算入という結果ではなく、そもそも支給がないという扱いです。払えるかどうか不確実な金額を届け出ないことが、実務上の安全策になります。

業績連動給与が中小企業で使いにくい理由

結論: 業績連動給与は、同族会社が原則として対象外とされ、算定方法の開示など上場企業を前提にした要件が並びます。中小企業の設計では選択肢に入りません。

損金算入の対象になるのは、同族会社にあっては同族会社以外の法人との間にその法人による完全支配関係があるものに限られます。単独の同族会社は入り口で外れます。

算定方法の内容を、適正手続終了の日以後遅滞なく有価証券報告書に記載することなどが求められます。有価証券報告書を提出していない中小企業には満たしようがない要件です。

したがって、中小企業の実務で設計対象になるのは定期同額給与と事前確定届出給与の2つです。「業績に応じて役員報酬を動かしたい」という要望は、翌期の通常改定に反映する形で実現することになります。

決定手続き|会社法が求めるもの

結論: 取締役の報酬等は、定款に定めていないときは株主総会の決議で定めます。法人税法の要件を満たす前提として、この会社法上の手続きが必要です。

会社法361条が定めていることと、総額枠を決めて一任する方法

会社法第361条は、取締役の報酬等について「定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定める」と規定しています。額が確定しているものはその額を、確定していないものはその具体的な算定方法を定めることとされています。

実務では、株主総会で役員報酬の総額枠だけを決議し、各人別の金額は取締役会に一任する方法が広く使われています。会社法上も認められた運用です。

ただし国税庁の質疑応答事例は、総会が総枠を定めて各人ごとの限度額の決定を役員会に一任した事案について、役員会決定による各人ごとの支給限度額を基準として過大かどうかを判定するという考え方を示しています。総枠に収まっていれば安心という理解は誤りです。

一人会社でも決議は省略できない。監査役や会計参与がいる場合

株主も取締役も自分ひとりという会社でも、法人としての意思決定は必要です。株主総会議事録を作らずに金額だけ動かしていると、いつ・いくらに決めたのかを客観的に示せません。

取締役の報酬とは別に、監査役の報酬も定款または株主総会の決議で定めます。会計参与を置いている場合も同様です。役職ごとに枠を分けて決議しておくと、後の説明が楽になります。

議事録に残すべきこと

結論: 議事録は、決定した金額だけでなく、決定した日付・出席者・決議の内容を含めて残します。日付が要件の判定に直結するためです。

議事録に残すこと
01
日付
いつ決議したか。3か月以内かどうかの判定に直結する
02
決議の内容
誰にいくらを、いつから支給するか。総額枠と一任ならその旨も
03
出席者と議長
誰が出席し、誰が議長を務めたか
04
保存
会社に保存する。税務署へ提出するものではない

日付が最も重要な記載事項。決議の内容を具体的に書く

定期同額給与の改定期限も事前確定届出給与の届出期限も、決議の日を起点に計算されます。日付が曖昧な議事録は、期限内かどうかを証明できません。

日付が押さえられていれば、次は中身です。

「役員報酬を改定する件」だけでは不十分です。誰に、いつから、月額いくらを支給するのかまで書きます。賞与の定めをする場合は、支給時期と支給額を確定した形で記載します。

出席者と議長、保存と提出のタイミング

出席した株主・取締役、議長を記載します。一人会社であっても、株主総会議事録と取締役会議事録は別のものとして作成します。

誰が出席したかまで書いたら、あとは残し方です。作った時点で完結せず、保存まで含めて手続きになります。

議事録は税務署へ提出するものではありませんが、税務調査で最初に確認される書類のひとつです。決議のたびに作成し、年度ごとにまとめて保管しておきます。

不相当に高額な部分は損金にならない

結論: 3類型のいずれかに該当していても、不相当に高額な部分は損金不算入です。判定には実質面と形式面の2つの基準があります。

相当性は2つの基準で見る
実質基準
職務の内容
会社の収益と使用人への給与の支給状況
同種の事業で規模が似た会社の支給状況
形式基準
定款の定めまたは株主総会の決議で定めた限度額
その額を超える部分

実質基準|職務内容や同業他社との比較

法人税法施行令第70条は、不相当に高額かどうかを判定する要素として「当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況等」を挙げています。

同業・同規模の他社と比べて突出していないか、社内の従業員給与との均衡が取れているかが見られます。

形式基準|定款や総会で定めた限度額。2つの基準は多いほうを採る

定款の規定または株主総会等の決議で支給できる限度額を定めている場合、その限度額を超える部分は不相当に高額な部分として扱われます。手続きで自ら設けた枠を超えたかどうかという、外形で判定できる基準です。

施行令第70条第1号は、実質基準と形式基準で計算した金額のうち「いずれか多い金額」を損金不算入とする構造になっています。どちらか一方を満たしていれば足りるわけではありません。

退職給与にも相当性の判定がある

役員退職給与についても、業務に従事した期間、退職の事情、同種・同規模法人の支給状況などに照らして相当と認められる金額を超える部分は損金不算入です。功績倍率という考え方が使われるのはこの判定の場面です。

退職給与の場合も、実質基準と形式基準の考え方は同じです。功績倍率法で計算した金額が説明の出発点になりますが、在任期間や最終報酬月額との整合も見られます。支給を決める前に、根拠を書面で残しておくことです。

役員の範囲|みなし役員という落とし穴

結論: 登記された取締役だけが役員ではありません。実質的に経営に従事している相談役や、一定の株式を持つ親族の使用人も、税務上は役員として扱われます。

税務上の役員に当たるか
この人は役員か
登記された取締役・監査役
法定の役員。当然に対象になる
相談役・顧問など
登記がなくても、実質的に経営に従事していれば役員として扱われる
同族会社の使用人
株式の所有割合の要件を満たし、経営に従事していれば役員とみなされる
判定は毎年見直す
株式の異動や職務の変化で、当たる人が変わる

法定の役員と、経営に従事している相談役・顧問

取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事、清算人が法定の役員です。ここは登記や規程で明確に分かります。

国税庁のタックスアンサーNo.5200は、役員の範囲に「相談役、顧問などで、その法人内における地位、職務等からみて実質的に法人の経営に従事していると認められるもの」が含まれると説明しています。

肩書きを外して顧問料として支払っていても、経営判断に関与していれば役員給与として扱われる可能性があります。

同族会社の使用人が役員とみなされる3要件。判定は毎年見直す

同族会社の使用人のうち、次のすべてを満たし経営に従事している者は役員とされます。

  1. 所有割合の大きい順に並べた株主グループのうち、第一順位で50%超、または第一・第二順位の合計で初めて50%超、または第一〜第三順位の合計で初めて50%超となるグループに属していること
  2. その使用人の属する株主グループの所有割合が10%超であること
  3. その使用人本人(配偶者等を含む)の所有割合が5%超であること

社長の配偶者や子が株式を持ちながら従業員として働いている場合、この3要件に当たることがあります。役員とみなされれば、賞与は事前確定届出給与の届出なしには損金になりません

株式の異動や相続によって所有割合は変わります。設立時に要件を外れていても、後から当てはまることがあるため、株主構成が動いた年は判定をやり直します。

使用人兼務役員として扱える人・扱えない人

結論: 使用人兼務役員の使用人分の給与は損金になりますが、代表取締役や専務・常務はそもそも使用人兼務役員になれません。同族会社では株式の所有割合でも制限されます。

使用人兼務役員になれない役員と、所有割合の制限

法人税法施行令第71条は、使用人兼務役員とされない役員として、代表取締役・代表執行役・代表理事・清算人、副社長・専務・常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員、持分会社の業務執行社員、会計参与・監査役・監事などを挙げています。

上記に加え、同族会社の役員のうち、みなし役員と同じ3要件(順位グループへの所属・株主グループの所有割合10%超・本人の所有割合5%超)をすべて満たす者も、使用人兼務役員になれません。

使用人分の賞与を出す場合の注意。兼務の実態を書面で残す

使用人兼務役員の使用人としての職務に対する賞与は損金になりますが、他の使用人への賞与の支給時期と異なる時期に支給したものは損金不算入とされています。他の従業員と同じ支給日に支払うことが要件です。

使用人としての職務内容、勤務時間、給与の内訳を規程や辞令で明確にしておきます。実態が伴わない形式的な兼務は否認の対象になります。

現物支給と経済的利益の扱い

結論: 金銭以外の利益も役員給与に含まれます。毎月おおむね一定であれば定期同額給与になりますが、一定でないものは損金不算入になります。

金銭以外の利益も役員給与に入る
01
経済的利益に当たるもの
社宅の貸与、個人的な費用の負担、無利息の貸付け
02
毎月おおむね一定なら
定期同額給与に含まれる
03
一定でないと
その部分は損金不算入になる
04
社宅
賃貸料相当額を計算し、その額以上を受け取っていれば給与課税されない

経済的利益に当たるものと、毎月おおむね一定かどうか

国税庁のタックスアンサーNo.5202は、役員等への経済的利益として、資産の贈与や低額譲渡、債権放棄、居住用土地建物の無償・低額提供、無利息または低利の貸付け、個人的費用の負担、社交団体の入会金などを挙げています。

継続的に供与される経済的利益のうち、その額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当します。その他のものは定期同額給与に該当せず、損金の額に算入されません

社宅は賃貸料相当額の計算が要る。個人的費用の付け替え

役員社宅は、通常取得すべき賃貸料の額と実際に徴収した賃貸料の額との差額が経済的利益になります。計算方法が定められているため、家賃の一部を会社が負担する場合は先に試算しておきます。

私的な飲食費、家族旅行、個人名義の保険料などを会社で負担していると、役員給与として認定されます。定期同額給与にも事前確定届出給与にも当たらないため、損金にならないうえに個人の給与として課税されます。

社会保険から見た役員報酬

結論: 法人は役員が一人でも社会保険の強制適用事業所です。役員報酬の設計は、法人税だけでなく社会保険料の負担まで含めて考える必要があります。

法人はすべて強制適用事業所。保険料率の水準

日本年金機構は、厚生年金保険の適用事業所となるのを「株式会社などの法人の事業所(事業主のみの場合を含む)」と説明しています。従業員がいない一人会社であっても、代表者が報酬を受けていれば加入対象です。

厚生年金保険の保険料率は18.3%で、事業主と被保険者が半分ずつ負担します。健康保険は、全国健康保険協会の令和8年度の平均保険料率が9.9%(前年度から0.1%の引下げ)、介護保険料率は1.62%、子ども・子育て支援金率は0.23%です。適用は令和8年3月分(4月納付分)からです。

会社負担分と本人負担分を合わせると、報酬の3割前後が社会保険料として出ていく計算になります。役員報酬を上げれば法人の損金は増えますが、社会保険料の会社負担も同時に増えます。

標準報酬月額という仕組みと、非常勤役員の扱い

保険料は報酬をそのまま使わず、等級に当てはめて計算します。厚生労働省の説明によると、厚生年金は32段階の等級が設けられ、原則として4月から6月の3か月の報酬をもとに算出されます。

非常勤役員は、勤務実態によって加入対象かどうかが変わります。出勤の頻度、役員会への出席状況、経営への関与の度合いといった事実で判断されるため、名目だけを非常勤にしても扱いは変わりません。

社会保険料を減らすという発想の危うさ

報酬を下げれば保険料は下がりますが、将来受け取る年金額も下がります。実態と合わない形での圧縮は、事実認定で覆るおそれもあります。

報酬を下げれば保険料は下がりますが、将来の年金と傷病手当金も同じように下がります。役員貸付金が積み上がる原因にもなります。手取りを増やす目的であれば、社宅や出張日当のように、報酬以外の形を先に検討することです。

2027年から始まる標準報酬月額の上限引上げ

結論: 厚生年金の標準報酬月額の上限が、2027年9月から3段階で65万円から75万円へ引き上げられます。役員報酬が高い会社ほど、将来の負担増を織り込んでおく必要があります。

改正の内容と、現行の上限が置かれている理由

厚生労働省は、令和7年6月13日に成立した年金制度改正法について「標準報酬月額の上限を65万円→75万円に引き上げます」と説明しています。段階は、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円です。

現在の上限65万円は、全被保険者の標準報酬月額の平均の約2倍にあたる水準です。年金の給付額に大きな差が出ないようにするため、また保険料の半分を負担する事業主の負担を考慮するために設けられています。

負担と給付への影響と、影響を受ける会社の見分け方

厚生労働省の試算では、賃金などが月75万円以上の方の場合、保険料の本人負担分は月9,100円上昇し、その状態が10年続くと月約5,100円増額した年金を生涯受け取れるとされています。会社負担も同額だけ増える点は、資金計画に入れておく必要があります。

役員報酬が月65万円を超えている会社が対象です。該当する場合、2027年9月以降の人件費が段階的に増えるため、3年分の見通しを一度に立てておくほうが判断しやすくなります。

金額を決めるときの考える順序

結論: 役員報酬は、会社に残す利益と個人に渡す報酬の配分を決める作業です。法人税・所得税・社会保険料の3つを合わせた負担で見ないと、判断を誤ります。

金額を決める順序
1

翌期の見込みを置く
売上と経費。役員報酬を引く前の数字
2

数段階の水準で試算する
法人税等、所得税と住民税、社会保険料の合計
3

資金繰りと合わせる
毎月払い続けられるか。納税の時期も同じ表に置く
4

1年動かせない前提で決める
期中の増額は原則としてできない
5

家族への支給は実態から
職務の内容に見合う額かを説明できるようにする

翌期の見込みを先に置き、会社と個人を合算した負担で比べる

金額の議論に入る前に、翌期の売上・粗利・固定費の見込みを立てます。役員報酬は固定費の中でも大きな比率を占めるため、先に決めた金額が翌期の損益分岐点を決めます

役員報酬を上げれば法人の所得は減りますが、個人の所得税・住民税と社会保険料は増えます。逆に下げれば法人の所得が増え、法人税が増えます。片側だけを見て最適な金額は決められません。

資金繰りと納税を同時に見る。1年動かせない前提で考える

役員報酬は毎月確実に出ていく支出です。加えて、個人側の所得税・住民税、会社側の社会保険料も毎月発生します。決算期の納税資金を残せる水準かを確かめてから金額を確定します。

期中の増額は原則としてできません。「業績が良ければ後から上げればよい」という前提では設計できないため、やや保守的な月額に置き、賞与を事前確定届出給与で設計するという組み合わせも選択肢になります。

家族への支給は職務の実態から

配偶者や親族を役員にする場合、実際に何をしているかを説明できる状態にしておきます。実態のない役員への支給は、不相当に高額な部分の判定でも、みなし役員の判定でも問題になります。

何をしているかを説明できる状態にしておくことが前提です。出勤の記録、担当している業務、成果物。これらが残っていれば、金額の妥当性も説明できます。名義だけの支給は、否認されるだけでなく個人側でも課税されます。

役員報酬の年間スケジュール

結論: 決算の2か月前から検討を始め、期首から3か月以内に決定と届出を終える流れになります。期限が集中するのは事業年度の入口です。

決算月の2か月前|着地の見込み/決算日から2か月以内|決算と申告

当期の着地と翌期の見通しを立てます。この段階で翌期の役員報酬の方向性を決めておくと、総会までの検討が慌ただしくなりません。

着地が見えたら、決算と申告の期間に入ります。この2か月のあいだに、翌期の報酬の案まで固めておくと後が楽になります。

決算を確定し、法人税の申告・納付を行います。翌期の役員報酬は、この確定した数字を踏まえて決めます。

定時株主総会|決議と議事録/3月経過日等まで|定期同額給与の改定

役員報酬の改定を決議します。事前確定届出給与を使う場合は、この総会で支給時期と支給額の定めも決議します。議事録は総会の日付で作成します。

決議を終えたら、改定の期限までに支給額を切り替えます。総会の日と改定の期限は別の日付ですので、混同しないことです。

3月決算なら6月30日までに改定を済ませます。改定後の最初の支給から新しい月額を適用します。

届出期限まで|事前確定届出給与の提出/支給日|届出どおりに実行する

決議日から1か月と会計期間開始から4か月のいずれか早い日までに、所轄税務署長へ届出書を提出します。総会を早く開いた年ほど期限も早く来るため、毎年同じ感覚で進めないよう注意します。

届け出たら、あとはそのとおりに実行するだけです。

届け出た日に届け出た金額を支給します。未払計上での処理は認められないため、資金を用意しておきます。

つまずきやすい4つの場面

結論: 実務で否認につながるのは、期中の増額、賞与の後付け、未払処理、そして議事録の不備です。いずれも事前に手を打てば避けられます。

つまずく場面と、先に打つ手
起きやすいこと
期中に増額してしまう
賞与を決算が固まってから決める
資金が足りず未払いにする
議事録を後からまとめて作る
先に手を打つこと
3か月以内に決めきる
賞与は届出の期限から逆算する
払える額で設計する
決議した日に議事録を作る

期中に増額してしまう/賞与を決算が固まってから決める

利益が出そうだからと期の途中で月額を上げると、上乗せ分が損金不算入になります。臨時改定事由に当たる事情がない限り、増額は翌期まで待ちます。

決算の着地を見てから役員賞与を決めるのは、事前確定届出給与の設計と矛盾します。届出は期首から4か月以内であり、その時点では着地は分かりません。払える確実な金額だけを届け出るという順序になります。

資金が足りず未払いにする/議事録を後からまとめて作る

役員報酬を未払計上したまま支給しない状態が続くと、定期同額給与の要件を満たしているかが問われます。加えて、支給がなくても源泉徴収や社会保険の取扱いを整理する必要が出ます。

資金の問題と並んで多いのが、書類を後回しにすることです。

税務調査で日付の整合性が問われます。作成のタイミングが不自然だと、決議の存在そのものが疑われます。決議のたびにその場で作成するのが原則です。

役員報酬のご相談事例

結論: 実際のご相談は、金額の設計より手続きの立て直しから始まることが多くあります。ここでは典型的な4つの場面を紹介します。

建設業|期中に増額して否認されかけた例/情報通信業|届出期限を過ぎた例

受注が想定を上回り、10月から月額を30万円上げていた会社です。臨時改定事由に当たる地位や職務の変更はなく、上乗せ分の損金算入が難しい状態でした。翌期からは、月額を据え置いて事前確定届出給与で調整する設計に切り替えました。

4月に総会を早めに開いたため、決議日から1か月の期限が5月中に来ていた会社です。会計期間開始から4か月という感覚で7月末を期限だと考えていました。総会日程が変わった年は期限も変わることを、年間スケジュールに書き込む運用にしました。

飲食業|配偶者がみなし役員に当たっていた例/調剤薬局|社会保険料まで含めて再設計

代表者の配偶者が従業員として勤務し、株式の3割を保有していました。経営会議に参加し意思決定に関与していたため、みなし役員に該当する状態でした。従業員賞与として支給していた分の扱いを整理し、翌期からは役員として事前確定届出給与で設計しています。

役員報酬を高めに設定していたものの、社会保険料の会社負担を織り込んでいなかった会社です。法人税・所得税・社会保険料を合算して比較したところ、配分を見直す余地がありました。2027年9月からの標準報酬月額の上限引上げも踏まえ、3年分の見通しを立てています。

よくある質問

役員報酬は、いつまでに決めればいいですか?
定期同額給与の改定は、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までです。3月決算の会社なら6月30日が期限になります。事前確定届出給与を使う場合は、決議日から1か月と会計期間開始から4か月のいずれか早い日までに届出を提出します。
業績が良かったので、期の途中で役員報酬を上げてもいいですか?
通常改定の期限を過ぎた後の増額は、臨時改定事由に当たる事情がない限り、上乗せ分が損金不算入になります。増額は翌事業年度の入口で行うか、事前確定届出給与を使った設計に切り替える形が現実的です。
資金繰りが苦しいときは、役員報酬を下げてもいいですか?
国税庁は、一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことは業績悪化改定事由に含まれないとしています。減額を検討する場合は、どのような事情によるものかを説明できる形で整理したうえで、決定前に税理士へご相談ください。
一人社長の会社でも、株主総会の議事録は必要ですか?
必要です。株主も取締役も一人であっても、法人としての意思決定の記録が残っていなければ、いつ・いくらに決めたのかを客観的に示せません。税務調査で最初に確認される書類のひとつです。
届け出た役員賞与を、減額して支給することはできますか?
届出額と異なる金額を支給すると、その支給は事前確定届出給与に該当しなくなります。減額して支給するのではなく、支給しないという選択のほうが結果として損失は小さくなる場合があります。判断は状況によるため、支給日の前にご相談ください。
妻を役員にして報酬を払うことはできますか?
職務の実態があれば可能です。ただし、実態がない場合は不相当に高額な部分として損金不算入になるおそれがあります。また、従業員として勤務している親族でも、株式の所有割合によっては税務上の役員とみなされる場合があります。
役員報酬を上げると、賃上げ促進税制の対象になりますか?
賃上げ促進税制の給与等支給額には、役員およびその特殊関係者に支払う給与は含まれません。役員報酬を増やしても、この制度の適用判定には反映されない仕組みです。
手続きを間違えたことに後から気づいた場合、どうすればいいですか?
事業年度が終わってからできる修正はほとんどありません。ただし、届出の遅れについてやむを得ない事情が認められる場合など、例外的な取扱いがあります。気づいた時点で早めにご相談いただくほど、選べる対応は多く残ります。

まとめ:役員報酬は金額より先に手続きを決める

  • 損金にできる役員給与は、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3類型に限られます。中小企業が使うのは前の2つです
  • 定期同額給与の改定は、事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月を経過する日までです
  • 事前確定届出給与の届出期限は、決議日から1か月と会計期間開始から4か月のいずれか早い日です。総会日程が変わると期限も変わります
  • 3類型に該当していても、実質基準・形式基準に照らして不相当に高額な部分は損金になりません
  • 登記された取締役でなくても、経営に従事している相談役や一定の株式を持つ親族の使用人は、税務上の役員として扱われます
  • 金額は、法人税・所得税・社会保険料を合算した負担で判断します。2027年9月からの標準報酬月額の上限引上げも織り込んでおきます
  • 議事録は決議のたびに作成し、日付を正確に残します

役員報酬は、決めた後に直せない項目が多い分野です。翌期の設計をこれから始める段階でも、期限が迫っている段階でも、税理士法人Light UPの無料相談で現状を整理するところからお手伝いします。


【メタディスクリプション】
役員報酬の決め方と手続きを、定期同額給与・事前確定届出給与の要件、会社法上の決議、社会保険まで含めて整理しました。

役員報酬のご相談は初回無料です。実際の数字を見ながら、自社の場合はどうなるかをそのままお話しできます。

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