損益分岐点とは?計算方法と固定費・変動費の分け方を解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
損益分岐点売上高は、固定費を限界利益率で割って求めます。限界利益率は(売上高−変動費)÷売上高で、売上が1円増えたときに手元に残る割合のことです。式は割り算が1回で、つまずくのは式ではなく、費用を固定費と変動費に分ける作業です。この記事では、計算例、間違えやすい所、固定費と変動費の分け方、損益分岐点比率の読み方、目標利益や借入返済を入れた計算を整理します。中小企業庁の中小企業白書(2021年版)の数字は2026年10月時点で確かめたものです。
損益分岐点の計算式は?
結論: 損益分岐点売上高は、固定費÷限界利益率で求めます。限界利益率は(売上高−変動費)÷売上高で、売上がこの額になると利益がちょうどゼロになります。
計算式は1本だけ
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
限界利益(売上高−変動費)は、固定費を回収するための原資です。限界利益が固定費とちょうど同じ額になる売上高が、利益ゼロの点になります。1円の売上で0.4円しか残らない会社が固定費2,880万円を回収するには、7,200万円の売上が要ります。
説明用の金額で計算する
売上高8,000万円、変動費4,800万円、固定費2,880万円の会社で計算します(説明用の金額です)。
| 項目 | 金額 | 売上高に対する割合 |
|---|---|---|
| 売上高 | 8,000万円 | 100% |
| 変動費 | 4,800万円 | 60% |
| 限界利益 | 3,200万円 | 40% |
| 固定費 | 2,880万円 | 36% |
| 営業利益 | 320万円 | 4% |
限界利益率は3,200万円÷8,000万円で40%です。損益分岐点売上高は2,880万円÷0.4で7,200万円になり、実際の売上8,000万円との差800万円が、赤字になるまでの余裕です。
販売数量で出す式
単価が決まっている商売では、金額ではなく個数でも出せます。損益分岐点の販売数量 = 固定費 ÷ 1個あたりの限界利益です。
単価5,000円、1個あたりの変動費3,000円、固定費が月100万円の店なら、1個あたりの限界利益は2,000円で、100万円÷2,000円により月500個が分岐点です。
損益分岐点の計算でよくある間違いは?
結論: ずれの原因は、式ではなく費用の入れ方にあります。人件費の区分、仕入額と売上原価の取り違え、年払いの費用の拾い漏れ、役員報酬の入れ忘れの4つが多く、分岐点が実態とずれます。
損益分岐点を出して銀行に説明したあとで、固定費に入れるべき人件費を変動費に入れていたと気づき、相談に来られる方が少なくありません。分岐点が実態より低く出ていると、固定費を増やす判断や値下げの判断を、実際より安全だと思って進めることになります。
人件費の区分
正社員の給与は、売上がゼロでも毎月出ていくので固定費です。これを変動費に入れると、限界利益率が低く出る一方で固定費も小さくなり、黒字の会社では損益分岐点が実際より低く出ます。逆に、売上に合わせてシフトを組むパートの給与まで固定費に入れると、損益分岐点が高く出ます。
仕入額と売上原価の取り違え
変動費に入れるのは、仕入額ではなく売上原価(期首の在庫+仕入−期末の在庫)です。在庫が増えた期は、仕入れた分の一部が売れずに資産として残っています。仕入額をそのまま変動費にすると変動費が大きく出て、限界利益率が低くなり、損益分岐点が実際より高く出ます。
年払いの費用の拾い漏れ
保険料の年払い、決算賞与、固定資産税のように、特定の月に集中する費用があります。単月の試算表で計算すると、その月の分岐点だけが大きく振れます。12か月分、または決算書の1年分で計算します。
役員報酬の入れ忘れ
一人社長の会社で、役員報酬を会社の利益と同じものと見て固定費から外すと、固定費が小さくなり、損益分岐点が低く出ます。役員報酬は毎月決まった額を払う固定費なので、計算に入れます。
直近2期分の決算書と総勘定元帳をお持ちいただければ、科目ごとの固定費と変動費の割り当てを見直し、損益分岐点売上高を一緒に計算し直します。
固定費と変動費はどう分ける?
結論: 売上がゼロでも発生する費用が固定費、売上や仕入に合わせて増減する費用が変動費です。損益計算書の科目を1つずつ見て、どちらに入れるかを決めます。
科目ごとの見分け方
法令や会計基準で決まった分け方はなく、会社が管理のために決める区分です。一般的な考え方は次のとおりで、実態で変わります。
| 区分 | 主な科目 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| 変動費 | 売上原価、材料費、外注費(案件ごと)、荷造運賃、販売手数料、カード決済手数料 | 売上がゼロなら発生しない |
| 固定費 | 役員報酬、正社員の給与、法定福利費、地代家賃、リース料、減価償却費、保険料 | 売上がゼロでも発生する |
| 混ざる費用 | 水道光熱費、通信費、広告宣伝費、消耗品費、パートの給与、旅費交通費 | 請求書や元帳の中身で分ける |
支払利息は、経常利益で見るときだけ固定費へ加えます。どちらで見るかを決め、毎期そろえます。
混ざる費用の分け方
科目の名前だけでは決められない費用があります。水道光熱費は、基本料金が固定費、使用量に応じた部分が変動費です。外注費は、毎月定額の保守契約なら固定費、案件ごとの依頼なら変動費です。総勘定元帳を開き、請求書の中身を見るのが確実です。
迷う費用の寄せ方
黒字の会社では、迷う費用を固定費に寄せると損益分岐点が高く出て、慎重な見方になります。変動費に寄せると低く出ます。赤字の会社ではこの向きが逆になります。どちらに寄せても、期ごとに基準を変えると推移が比べられないので、基準を文書に残します。
固定費と変動費に分ける3つの方法は?
結論: 分ける方法は、勘定科目法、高低点法、回帰分析の3つです。中小企業の実務では、科目ごとに割り当てる勘定科目法で足ります。
| 方法 | やり方 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 勘定科目法 | 科目ごとに変動費・固定費を割り当てる | 決算書や試算表がある会社(ほとんどの会社) |
| 高低点法 | 売上が最も多い月と少ない月の2点から変動費率を出す | 科目の内訳が取れないとき |
| 回帰分析 | 12か月以上の売上と総費用から統計的に求める | 月次のデータが2期分ほどそろっているとき |
勘定科目法
前の節の手順です。科目を1つずつ見るので手間はかかりますが、自社の費用の構造が見えるのが利点です。最初に勧めるのはこの方法です。
高低点法の計算
売上が最も多い月と最も少ない月の2点だけを使います。最高月が売上800万円・総費用720万円、最低月が売上500万円・総費用540万円の会社で計算します(説明用の金額です)。
- 変動費率 =(720万円−540万円)÷(800万円−500万円)= 60%
- 月の固定費 = 720万円 − 800万円×60% = 240万円
2点しか使わないので、決算賞与や臨時の大口売上がある月が入ると結果が歪みます。目安を素早く出したいときの方法です。
回帰分析
12か月分以上の売上と総費用を並べ、表計算ソフトの関数で傾き(変動費率)と切片(固定費)を求めます。精度は高くなりますが、季節変動が大きい業種や期の途中の大きな設備投資があると、数字が安定しません。
損益分岐点比率の見方は?
結論: 損益分岐点比率は、損益分岐点売上高が実際の売上高の何%かを示す数字です。低いほど、売上が落ちても赤字になりにくい体質です。
比率と安全余裕率の計算
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高
前の例では7,200万円÷8,000万円で90%です。安全余裕率は100%から比率を引いた数字で、100%−90%の10%です。売上が10%減ると利益がゼロになり、それを超えて減ると赤字になります。
中小企業の水準
中小企業庁の「2021年版 中小企業白書」は、損益分岐点比率を「売上高が現在の何%以下の水準になると赤字になるかを表す指標であり、売上高の減少に対する耐性を示す」と説明しています。2019年度の比率は、大企業60.0%、中規模企業85.1%、小規模企業92.7%です。
同じ白書は、宿泊業や飲食サービス業で比率が高く、卸売業や建設業で低いとも述べています。
自社の推移で読む
何%以下なら安全という一律の基準はありません。他社の平均より、自社の過去3期を並べるほうが役に立ちます。比率が上がっているなら、固定費が増えたか、限界利益率が落ちたかのどちらかです。分子の損益分岐点売上高を、固定費と限界利益率に戻して原因を探します。
目標利益から必要な売上高を出すには?
結論: 目標の営業利益を達成する売上高は、(固定費+目標利益)÷限界利益率で求めます。損益分岐点の式の分子に、目標利益を足すだけです。
目標利益を入れた式
営業利益600万円を目指すなら、(2,880万円+600万円)÷0.4で8,700万円です。いまの売上8,000万円から700万円の上積みが要ります。
この700万円が出ると、単価を上げるのか、顧客を増やすのかという話に移れます。固定費を増やす前に同じ式を使うと、必要な売上の増加も分かります。
借入の返済を含めた分岐点は?
結論: 借入のある会社では、会計上の損益分岐点を超えても資金が足りないことがあります。借入元金の返済は費用にならず、減価償却費は費用でも現金が出ていかないためです。
資金ベースの式
資金の分岐点売上高 =(固定費 − 減価償却費 + 借入元金の返済額)÷ 限界利益率
固定費2,880万円のうち減価償却費が300万円、年間の元金返済が500万円とします(説明用の金額です)。(2,880万円−300万円+500万円)÷0.4で7,700万円です。会計上の7,200万円より500万円高くなります。
黒字なのに資金が足りない年
売上が7,400万円の年は、限界利益2,960万円から固定費2,880万円を引いて、営業利益は80万円の黒字です。ところが減価償却費300万円を足し戻し、元金返済500万円を引くと、120万円足りません。「黒字なのに現金が残らない」状態は、この差から生まれます。
この式は税金を入れていません。法人税等の納付も現金が出るので、資金繰りには納付の時期も置きます。
よくある質問
固定費と変動費の分け方に、決まったルールはある?
人件費は固定費と変動費のどちらに入れる?
損益分岐点比率は何%以下がよい?
赤字の会社でも計算する意味はある?
会計ソフトで自動的に出せる?
まとめ:固定費と変動費に分けて割り算しよう
- 損益分岐点売上高は、固定費÷限界利益率で求めます
- 時間を使うのは計算ではなく、費用を固定費と変動費に分ける作業です
- 分け方は、科目ごとに割り当てる勘定科目法で足ります
- 損益分岐点比率は、他社ではなく自社の過去3期と比べます
- 借入がある会社は、減価償却費を引いて元金返済を足した資金ベースでも見ます
損益分岐点を出したが人件費や仕入の入れ方に自信がない方、融資の返済計画と合わせて確かめたい方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の決算書と総勘定元帳を確認し、固定費と変動費の割り当てを整理して、損益分岐点売上高を計算し直します。
出典
- 中小企業庁「2021年版 中小企業白書」第2部第1章第1節(損益分岐点比率の定義と水準)





