貸借対照表の見方|3つの区分で会社の体力を読む
「損益計算書は毎月見ているのですが、貸借対照表のほうは正直よく分からなくて」。決算の場でこうお話しになる経営者は、決して少数派ではありません。売上と利益は肌感覚と結びつきますが、資産や負債の一覧は日々の実感から遠いためです。
結論からお伝えすると、貸借対照表は決算日という一日の断面で、お金がどこから来て、いま何に形を変えているかを示した表です。右側が調達した先、左側がその使い道。左右の合計が必ず一致するのは、同じお金を別の角度から二度書いているからです。
税理士法人Light UPでは、貸借対照表を「利益の通信簿」ではなく会社の体力を測る表としてご説明しています。損益計算書がその期の走り方を示すのに対し、貸借対照表は何年も走り続けられるかを示します。利益が出ていても倒れる会社があるのは、体力のほうが先に尽きるからです。
この記事では、3つの区分の意味、流動と固定を分ける2つの基準、経営者が最初に見る数字、そして3期分を並べたときに何が見えるかまでを、会社計算規則の条文に沿って整理します。
貸借対照表は一時点の断面を写す
結論: 貸借対照表は、決算日など特定の一日の状態を示す表です。1年間の動きを集計する損益計算書とは、時間の扱いが根本的に違います。
期間の記録ではなく一日の写真
損益計算書は「4月1日から3月31日まで」という期間の記録です。これに対し貸借対照表は「3月31日現在」という一日の状態を写します。
この違いは実務で影響します。決算日の直前に大きな入金があれば現金は膨らみ、直後に支払いが集中すれば実態より良く見えます。1枚だけを見て判断せず、3期分を並べる、あるいは月次で追う必要があるのはこのためです。
左右が必ず一致する理由
貸借対照表の左右の合計は必ず一致します。手品ではなく、同じお金を調達側と運用側から二度書いているからです。500万円を借りれば、右側に借入金500万円、左側に現金預金500万円が同時に立ちます。その現金で機械を買えば、左側の中で現金預金が機械装置へ振り替わるだけで、合計は変わりません。
会社計算規則第73条は、貸借対照表について「資産」「負債」「純資産」の3つの部に区分して表示しなければならないと定めています。左側が資産、右側が負債と純資産です。
見る順番は右からのほうが分かりやすい。税務署のための書類ではない
慣れないうちは、右上から左へ読むと理解しやすくなります。まず右側で「誰のお金でできている会社か」を見る。次に左側で「そのお金がいま何になっているか」を見る。この順番だと、資産の中身が過大かどうかを判断しやすくなります。
貸借対照表は申告書に添付する書類でもあるため、税務署のために作っていると思われがちです。しかし実際に最もよく読まれるのは、金融機関の審査担当と、取引を始めるかどうか検討している先方の与信担当です。
いわば会社の健康診断票のようなもので、提出先が違えば見る箇所も変わります。税務署は所得の計算過程を、金融機関は返済能力を見ています。同じ1枚が別の目的で読まれているという前提を持っておくと、決算の組み立て方も変わってきます。
資産の部は3つに区分する
結論: 資産の部は、流動資産・固定資産・繰延資産の3つに区分します(会社計算規則第74条第1項)。固定資産はさらに有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産に分かれます。
主な科目の並びと、上から順に現金へ近いこと
| 区分 | 細区分 | 主な科目 |
|---|---|---|
| 流動資産 | ― | 現金及び預金、受取手形、売掛金、商品、製品、原材料、仕掛品、前渡金、前払費用 |
| 固定資産 | 有形固定資産 | 建物、構築物、機械及び装置、車両運搬具、工具器具備品、土地、建設仮勘定 |
| 固定資産 | 無形固定資産 | 特許権、借地権、商標権、ソフトウェア、のれん |
| 固定資産 | 投資その他の資産 | 投資有価証券、関係会社株式、出資金、長期貸付金、差入保証金 |
| 繰延資産 | ― | 創立費、開業費、開発費、株式交付費、社債発行費 |
会社計算規則第74条第3項は、有形固定資産に属するものとして「建物及び暖房、照明、通風等の付属設備」「工具、器具及び備品(耐用年数が一年以上のものに限る。)」などを具体的に挙げています。器具備品に耐用年数1年以上という限定がある点は、実務で消耗品費との線引きを考えるときの手がかりになります。
資産の部は、原則として現金に近いものから順に並びます。現金及び預金が一番上にあり、次に売掛金、その次に棚卸資産、そして固定資産という順です。
この並び順そのものが情報になります。上のほうが厚い会社は資金に余裕があり、下のほうが厚い会社は資金が設備に固定されている、という読み方ができます。
金額は買ったときの値段で載り、繰延資産は残っていることが多い
もう一つ、誤解されやすいのが金額の意味です。土地や建物は、いまの時価ではなく取得したときの金額を基礎に計上されています。バブル期に取得した土地であれば、貸借対照表の金額のほうが時価より大きい場合があります。逆に、数十年前に買った土地が値上がりしていれば、実際の価値のほうが大きくなります。
金融機関は、この差を「含み損」「含み益」として調整したうえで評価します。決算書の純資産がそのまま会社の価値になるわけではありません。所有不動産がある会社では、路線価や固定資産税評価額と帳簿価額の差を一度確認しておくと、面談での説明がしやすくなります。
創立費や開業費は、設立時に支払った費用を数年に分けて計上するために資産へ計上したものです。財産の実体はありません。
設立から数年たっても繰延資産が残っている会社では、償却が止まっていることがあります。金融機関はこれを資産から差し引いて見るため、実質の純資産が想定より小さくなります。
流動と固定を分ける基準は2つある
結論: 流動と固定の区分は、正常営業循環基準と1年基準の2つで判定します。まず営業サイクルの中にあるかを見て、その外にあるものだけを1年で切り分けます。
正常営業循環基準が先に来る
会社計算規則第74条第3項は、売掛金を「通常の取引に基づいて発生した事業上の未収金」と定義し、その「通常の取引」を「当該会社の事業目的のための営業活動において、経常的に又は短期間に循環して発生する取引」と説明しています。
つまり、本業の仕入れ・製造・販売・回収というサイクルの中で生まれた資産と負債は、期間の長短にかかわらず流動に入ります。回収まで15か月かかる建設業の売掛金でも、流動資産です。
1年基準はその外側に使う
営業サイクルの外にあるものには1年基準を当てます。同条は流動資産の締めくくりとして「その他の資産であって、一年内に現金化することができると認められるもの」を挙げており、これが1年基準の条文上の現れです。
役員への貸付金、取引先への長期貸付金、定期預金などがここで分かれます。決算日から1年内に戻るなら流動、それを超えるなら固定です。
分類が変わると比率が動く
この判定は形式的な作業に見えますが、結果は指標に直結します。長期借入金のうち翌期に返済する分は「1年内返済予定の長期借入金」として流動負債に振り替えるため、返済が進むほど流動負債が厚く見えます。
流動比率が去年より悪化した理由を探すと、事業が悪化したのではなく振替の金額が大きかっただけ、という場合があります。比率の変化は、必ず中身の科目まで戻って確認してください。
負債の部は返す期限で分かれる
結論: 負債の部は流動負債と固定負債の2つに区分します(会社計算規則第75条)。区分の考え方は資産と同じで、営業サイクルの中か外か、外なら1年内かで分かれます。
主な科目の並びと、預り金は会社のお金ではないこと
| 区分 | 主な科目 | 性質 |
|---|---|---|
| 流動負債 | 支払手形、買掛金、未払金、未払費用、預り金、前受金、短期借入金、1年内返済予定の長期借入金 | 1年内に支払う、または営業サイクルの中にある |
| 固定負債 | 長期借入金、社債、退職給付引当金、資産除去債務、繰延税金負債 | 支払いまで1年を超える |
会社計算規則第75条第2項は、流動負債の例として「通常の取引に関連して発生する未払金又は預り金で一般の取引慣行として発生後短期間に支払われるもの」を挙げています。源泉所得税や社会保険料の預り金は、この扱いです。
流動負債の中でも、預り金は性質が違います。従業員から預かった源泉所得税や住民税、社会保険料の本人負担分は、いずれ国や自治体へ渡すお金です。会社の売上でも借入でもありません。
貸借対照表の右側に載っているという点で借入金と同じ場所に見えますが、使ってよいお金かどうかは正反対です。預り金の残高と、それに見合う現金があるか。ここは月次で確認したい箇所です。
役員借入金の扱いは特殊
中小企業では、代表者が会社へ資金を貸し付けている「役員借入金」がよく出てきます。形式は負債ですが、返済を求められる可能性が低いため、金融機関は実質的に資本とみなして評価することがあります。
つまり、帳簿上は債務超過に見えても、役員借入金を差し引くと純資産がプラスになる会社があります。決算書を渡す前に、この点を説明できる状態にしておくと話が早く進みます。
純資産は返さなくてよいお金
結論: 純資産は、資産から負債を差し引いた残りです。返済義務のないお金で、株主資本・評価換算差額等・株式引受権・新株予約権に区分されます(会社計算規則第76条第1項)。
株主資本の内訳
会社計算規則第76条第2項は、株主資本を資本金、新株式申込証拠金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、自己株式申込証拠金に区分すると定めています。このうち自己株式は控除項目です。
さらに同条第5項は、利益剰余金を利益準備金とその他利益剰余金に区分するとしています。中小企業の決算書で「繰越利益剰余金」と表示されているのは、その他利益剰余金にあたるものです。
利益剰余金が会社の履歴になる
利益剰余金は、設立以来の利益の累計から、配当などで外へ出した分を差し引いた残りです。単年度の利益は損益計算書で分かりますが、何年分を積み上げてきたかは貸借対照表にしか出てきません。
創業10年で利益剰余金が3,000万円なら、平均して年300万円を社内に残してきた会社です。逆に、毎年黒字と言いながら利益剰余金が伸びていない会社では、役員報酬や配当で出した分が大きいことになります。
資本金の大きさは信用の大きさではない
資本金1,000万円の会社のほうが100万円の会社より信用があると思われる方がいますが、金融機関が見ているのは資本金単独ではなく純資産全体です。資本金100万円でも利益剰余金が5,000万円あれば、純資産は5,100万円です。
むしろ資本金の額は、消費税の納税義務や法人住民税の均等割の区分に影響します。設立時に資本金1,000万円以上とすると、初年度から消費税の課税事業者になる場合には資金繰りが変わります。資本金は信用の指標というより、税制上の区分を決める数字だと捉えるほうが実態に近くなります。
純資産がマイナスなら債務超過
資産より負債が多く、純資産がマイナスになった状態を債務超過といいます。この状態では新規の融資が難しくなり、既存の借入についても条件の見直しを求められることがあります。
ただし前述のとおり、役員借入金がある会社では実質の評価が変わります。数字がマイナスであることと、金融機関の評価が確定することは同じではありません。
経営者が最初に見る3つの数字
結論: 貸借対照表から読むなら、流動比率・当座比率・利益剰余金の推移の3つで大枠がつかめます。指標は多いほど良いわけではありません。
流動比率と当座比率の使い分け、差が開いたときに疑う場所
| 指標 | 計算式 | 見ているもの |
|---|---|---|
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 × 100 | 1年内の支払いに、1年内に現金化する資産がどれだけ対応しているか |
| 当座比率 | (現金預金+受取手形+売掛金+短期有価証券)÷ 流動負債 × 100 | 在庫が売れなかった場合でも支払いに耐えられるか |
流動比率が良好でも当座比率が低い会社は、在庫に資金が寝ています。逆に両者の差が小さい会社は、在庫をあまり持たない業態か、在庫管理が行き届いている会社です。
流動比率と当座比率の差が年々開いていく場合、棚卸資産が増え続けている可能性があります。売上が伸びていれば自然な増加ですが、売上が横ばいのまま在庫だけが増えているなら、売れ残りが混じっています。
在庫は貸借対照表の上では資産ですが、売れなければ現金には戻りません。ここは決算のときにご一緒に確認する項目です。
現金預金は多いほど良いのか
流動資産の中でも現金預金は、多いほど安全だとイメージがありますが、程度によります。手元資金は月商の3か月分あれば当面の支障は出にくいとされ、それを大きく超えて滞留している場合には、投資に回せる資金が眠っている状態とも読めます。
一方、無借金で現金が薄い会社より、借入があっても現金が厚い会社のほうが、突発的な資金需要には耐えられます。借入の有無だけで安全性は決まりません。ここは金額と月商の関係で見てください。
比率の目安は業種で違う
流動比率は一般に高いほど安全とされますが、適正な水準は業種によって異なります。現金商売の小売や飲食は売掛金が少なく在庫回転も速いため、比率が低めでも回ります。逆に建設業のように工期が長い業種では、高めでないと資金が持ちません。
同業他社との比較には、中小企業庁が公表する中小企業実態基本調査などの業種別データが使えます。自社の去年との比較と、業種平均との比較。この2つを並べると判断しやすくなります。
利益が出ているのに現金が増えない理由
結論: 利益は損益計算書に現れ、現金は貸借対照表に現れます。両者がずれるのは、稼いだ利益が現金以外の形に変わっているためです。
元本返済は損益計算書に出てこない
借入金の返済のうち、費用になるのは利息だけです。元本の返済は貸借対照表の中で借入金と現金預金が同時に減るだけで、損益計算書には一切出てきません。
年間の元本返済額が税引後利益と減価償却費の合計を上回っていれば、黒字でも現金は減り続けます。この関係を確認するために、決算書は損益計算書と貸借対照表を並べて読む必要があります。
減価償却費は現金が出ていかない費用。現金が減る理由は責められるものばかりではない
減価償却費は、過去に支払った設備投資の金額を各期に分けて費用にしたものです。その期に現金は出ていきません。
したがって、手元に残る現金の目安は「税引後利益+減価償却費」になります。この金額と年間の返済額を比べると、いまの借入水準が返せる範囲かどうかが見えます。
売掛金の増加は売上の伸びの裏返しであることが多く、設備投資は将来の稼ぐ力への投資です。現金が減った事実だけを見て縮こまる必要はありません。
問題になるのは、増えた理由を説明できない場合です。売上が横ばいなのに売掛金が増えている、在庫が積み上がっている。この2つは中身を確かめる価値があります。
3期分を並べると何が見えるか
結論: 貸借対照表は1期だけでは読めません。3期分を並べ、増えた資産を何で賄ったかを追うと、資金の流れが見えてきます。
増減を出すだけで見え方が変わる。比率より金額から入る
3期分の貸借対照表を横に並べ、科目ごとの増減を書き出します。この作業だけで、どこに資金が流れたかがはっきりします。
たとえば、現金預金が800万円減り、機械装置が2,500万円増え、長期借入金が1,800万円増えている会社なら、設備投資2,500万円のうち1,800万円を借入で賄い、残り700万円と諸費用を手元資金から出した、という流れが読めます。
指標の計算から入ると、数字は出ても意味がつかめないことがあります。まず金額の増減を見て、大きく動いた科目に理由を付ける。比率はその確認として使うほうが、現場では機能します。
説明できる形にしておく
金融機関との面談では、貸借対照表の変化について質問を受けます。「在庫が去年より1,200万円増えていますが」と聞かれたときに、その場で考え始めるのと、あらかじめ理由を用意しているのとでは、印象が変わります。
決算が固まった段階で、大きく動いた科目を3つ選び、それぞれ一文で説明を書いておく。この準備は30分で終わります。
事例:黒字なのに資金が細っていった卸売業
従業員12人の食品卸売業からのご相談です。3期連続で黒字、直近期の税引後利益は680万円。それなのに「毎月の支払いが年々きつくなっている」という感覚がある、というお話でした。
3期分の貸借対照表を並べたところ、動きははっきりしていました。売掛金が2期で1,900万円増え、棚卸資産が1,400万円増えています。一方で現金預金は2期で1,100万円減っていました。
売掛金が増えた理由を確認すると、新規の取引先2社の支払条件が月末締め翌々月末払いで、既存先より1か月長いことが分かりました。売上は伸びていましたが、その分だけ回収が後ろにずれていたことになります。
棚卸資産のほうは中身が違いました。倉庫を見ると、2年以上動いていない商品が約400万円分ありました。残りの1,000万円は取扱品目を増やしたことによる正常な増加で、400万円が滞留在庫という切り分けです。
対応は2つに分けました。売掛金については、新規先の条件を次回更新時に翌月末払いへ寄せる交渉を始めること。滞留在庫については、期末までに処分して損失を確定させること。
翌期は利益こそ処分損の分だけ減りましたが、現金預金は増加に転じています。数字が動いた原因を科目まで戻って特定したことが、対処につながりました。
よくある質問
貸借対照表と損益計算書は、どちらを先に見るべきですか?
流動比率は何%あればよいですか?
役員借入金は返済しないままでも問題ありませんか?
繰延資産はいつまで残しておけますか?
貸借対照表は月次でも作れますか?
債務超過になったら、すぐ何か手続きが必要ですか?
まとめ
貸借対照表は、決算日という一日の断面で、お金がどこから来て何に形を変えているかを示す表です。会社計算規則は資産・負債・純資産の3つの部への区分を定め、資産をさらに流動資産・固定資産・繰延資産に分けています。
流動と固定の区分は、まず本業の営業サイクルの中にあるかを見て、その外にあるものだけを1年で切り分けます。この順番を知っておくと、回収に時間のかかる売掛金がなぜ流動資産なのかが理解できます。
読むときは、流動比率・当座比率・利益剰余金の推移の3つから入ってください。そして1期だけで判断せず、3期分を並べて増えた資産を何で賄ったかを追う。利益が出ているのに現金が増えない理由は、たいていここで見つかります。
決算書の数字を、自社の言葉で説明できる状態にしておくこと。それが金融機関との対話でも、次の投資判断でも活きてきます。税理士法人Light UPでは、決算書の読み解きから資金繰りの見通しまでをご一緒に整理しています。数字の意味がつかみきれないと感じている段階で、一度ご相談ください。
出典
- e-Gov法令検索「会社計算規則」(平成十八年法務省令第十三号)第73条、第74条、第75条、第76条
- 中小企業庁「中小企業の会計に関する基本要領」
- 中小企業庁「中小企業実態基本調査」




