自社株評価を下げる考え方(株価対策の基本)
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「株価が高いと言われても、何をどう動かせば下がるのか見当がつかない」「保険を勧められたけれど、本当に評価が下がるのか分からない」――自社株の評価額を試算したあとのご相談では、この2つがほぼ必ず出てきます。
結論からお伝えすると、自社株の評価額そのものを直接下げる手続きはありません。動かせるのは評価額を計算するための材料、つまり配当・利益・純資産・会社規模の区分で、そこに経営判断として働きかけた結果として評価額が変わります。影響の大きさも、反映される時期も、材料ごとにまったく違います。
税理士法人Light UPでは、株価対策とは評価額を下げる作業ではなく、株式を動かしたい時期に評価額が下がっている状態を作る作業だと考えています。下げること自体が目的になると、事業に必要な利益まで削ることになりかねません。
この記事では、材料ごとの影響の出方、特定の評価会社という落とし穴、実行の順番と時期、そして財産評価基本通達6項でやりすぎと見られる線まで、承継のご相談で論点になる順に整理します。
動かせるのは評価額ではなく評価の材料
結論: 自社株の評価額を直接下げる手続きは存在しません。類似業種比準方式なら配当・利益・簿価純資産の3要素、純資産価額方式なら資産の相続税評価額が計算の材料であり、株価対策とはこの材料に働きかけることを指します。
株価を下げる手続きという言い方が広まっているせいか、何か申請すれば下がるものだと受け取られることがあります。実際の評価は、決算数値と保有資産から機械的に計算されるもの。計算の入り口にある数字が変わらない限り、出口の評価額は動きません。
裏を返せば、決算数値を変える経営判断はすべて評価額に跳ね返るということでもあります。設備を買う、退職金を出す、保険に入る、人を増やす。どれも本来は事業の判断ですが、同時に株価の判断でもあるのです。
評価方式が違えば打つ手も違う
自社株の評価は、会社の規模区分によって類似業種比準方式と純資産価額方式の使われ方が変わります。大会社に近いほど類似業種比準方式のウェイトが高く、小会社に近いほど純資産価額方式のウェイトが高くなります。
ここを確かめずに対策を始めると、評価額の動かない手に時間を使うことになります。純資産価額方式で評価されている会社で利益を1年だけ下げても、純資産はほとんど動きません。逆に、類似業種比準方式が中心の会社で不動産を買っても、評価額への反映は限定的です。
まず自社がどちらの方式で、どの割合で評価されているのかを知る。株価対策の話は、そこから始まります。
材料は決算数値なので反映は翌期から
もうひとつ取り違えられやすいのが、時間の感覚です。類似業種比準方式が使う配当・利益・簿価純資産は、原則として直前期末の決算数値をもとに計算します。
つまり、いま何かの手を打っても、その効果が評価額に現れるのは決算を締めた後。相続や贈与の直前に動いても間に合わないケースが多いのは、この時間差のためです。
年に一度の決算は、株価の写真を撮るシャッターに近いものです。シャッターが切られた後で表情を変えても、写真は変わりません。
下げた状態は続かない
役員退職金のような一時の損金で利益を落とした場合、その効果は基本的にその期限りです。翌期に利益が戻れば、評価額も戻ります。
だからこそ、評価額が下がっている期に株式を動かすところまで設計しないと、対策は空振りに終わります。下げることと、下がっている間に渡すことは、セットで初めて意味を持ちます。
利益を下げる手が最も大きく動く
結論: 類似業種比準方式では利益金額の変動が評価額に強く反映されるため、役員退職金の支給など大きな損金が立つ事業年度は評価額が下がりやすくなります。ただし利益を下げすぎると別の判定に落ちる場合があります。
今期は退職金を出すので株価が下がるうちに贈与を――事業承継の実務でこの組み合わせが定番になっているのは、利益という材料がいちばん大きく動かせるからです。
配当や簿価純資産は年によってそれほど動きません。ところが利益は、ひとつの意思決定で数千万円単位で振れます。動かせる幅が大きいということは、評価額に与える影響も大きいということです。
役員退職金という最も大きな損金
先代経営者の勇退にあわせて役員退職金を支給すると、その事業年度に大きな損金が立ちます。結果として利益金額が下がり、類似業種比準価額が下がる方向に働きます。
同時に、支給した現金や保険金の分だけ純資産も減るため、純資産価額方式にも影響します。両方の方式を同時に動かせる数少ない手であり、しかも承継のタイミングと自然に重なるところが実務で使われる理由です。
ただし、金額の根拠を残せていなければ、不相当に高額な部分として損金算入を否認されるおそれがあります。株価対策として金額を膨らませる発想で組み立てると、そこが弱点になります。
含み損のある資産を実現する
長く持っている資産の中に、簿価より時価が下がっているものがある会社は少なくありません。使っていない土地、事業をたたんだ子会社の株式、回収の見込みが薄い債権。
これらを処分・整理すれば、損失が実現して利益が下がります。評価の材料としてだけでなく、貸借対照表の掃除としても意味のある動きです。
- 遊休不動産の売却:含み損の実現と同時に、純資産価額方式で使う相続税評価額からも外れます
- 不良債権の整理:貸倒れとして処理できるかは要件次第で、金銭債権の切り捨ての事実や回収不能の客観的な事実が必要です
- 使っていない機械や設備の除却も、簿価が残っていれば損失になります
捨てるだけなのに損金になるのですかと驚かれることがありますが、帳簿に価値が残っているものを手放せば、その分は損失です。
生命保険の保険料と令和元年の通達改正
法人契約の生命保険を株価対策として勧められた経験のある経営者は多いはずです。保険料の一部が損金になれば利益が下がり、解約返戻金は退職金の原資になる、という組み立てでした。
ただし、この設計は令和元年6月の法人税基本通達の改正で大きく変わっています。国税庁の法人税基本通達9-3-5の2により、定期保険等の保険料は最高解約返戻率の区分に応じて資産に計上する割合が定められました。最高解約返戻率が50%超85%以下の区分では当初の一定期間に支払保険料の40%を、85%超の区分では当初10年間は支払保険料に最高解約返戻率の90%を掛けた額を資産計上します。
全額を損金にできる前提で描かれた古い提案書がいまも出回っているため、提案を受けたら改正後の取扱いかどうかを必ず確かめてください。
利益を下げすぎると比準要素数1の会社になる
ここが実務でいちばん怖いところです。類似業種比準方式は配当・利益・簿価純資産の3つを比準要素としますが、直前期末でこのうち2つがゼロになり、かつ直前々期末でも2つ以上がゼロだと、財産評価基本通達189でいう比準要素数1の会社に該当します。
該当すると、類似業種比準価額を25%しか使えず、残り75%は純資産価額で評価することになります。含み益のある会社では、利益を下げた結果として評価額が上がるという逆転が起きます。
無配で、赤字で、という状態を続けている会社ほどこの線に近いところにいます。対策として利益を落とすときは、配当をわずかでも出しておくといった設計が必要になる場合があります。
純資産価額を圧縮する
結論: 純資産価額方式では、資産を相続税評価額に洗い替えたうえで負債を引き、評価差額に対する法人税額等相当額を控除して計算します。含み益の大きい資産を持つ会社ほど評価額が高くなりやすい構造です。
小会社に近い規模の会社や、特定の評価会社に該当する会社では、純資産価額方式のウェイトが高くなります。この方式で評価額を動かすには、資産の中身そのものを見直すほかありません。
含み益と38%控除の関係
純資産価額方式では、相続税評価額による純資産と帳簿価額による純資産の差額、いわゆる含み益に対して法人税額等相当額を控除できます。国税庁の財産評価基本通達186-2が定めるこの割合は、2026年4月1日以後の相続・贈与について38%です(それ以前は37%)。
つまり含み益は、まるごと評価額に乗るわけではありません。とはいえ残る62%は評価額に反映されます。何十年も前に取得した土地を持つ会社で評価額が跳ね上がるのは、この構造によるものです。
課税時期前3年以内に取得した土地・建物
不動産を買えば純資産が圧縮できる、という説明を聞いたことがあるかもしれません。時価より相続税評価額が低くなる資産に組み替えることで、純資産価額を下げる発想です。
ただし国税庁の財産評価基本通達185は、この点に歯止めをかけています。「課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利並びに家屋及びその附属設備又は構築物の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する」と定めており、直近に取得した不動産は路線価等ではなく取引価額で評価されます。
買ってから3年が経つまで、圧縮の効果は出ない。この待ち時間を織り込まずに実行すると、資金だけが固定されることになります。
借入で資産を買っても純資産そのものは減らない
借入で不動産を買えば、資産と負債が同額増えます。純資産の額そのものは、この時点では変わりません。評価額に影響するのは、資産側の評価が相続税評価額に洗い替えられて時価より低く出た場合の差額です。
そのため、借入を起こすこと自体に評価を下げる力があるわけではありません。ここを混同したまま借入だけが膨らむと、事業の資金繰りを痛めます。
会社規模の区分が上がると評価は下がりやすい
結論: 会社規模の区分が大きくなるほど類似業種比準方式を使える割合が高くなります。類似業種比準価額のほうが純資産価額より低く出る会社では、規模区分が上がることで評価額が下がる方向に働きます。
会計検査院の令和5年度決算検査報告では、相続税・贈与税の申告から無作為に抽出した1,600件を検査した結果として、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の27.2%にとどまることが示されています。多くの会社で、類似業種比準方式のほうが低く出るという事実がここに表れています。
従業員数70人という一本の線
財産評価基本通達178は、従業員数70人以上の会社を無条件で大会社としています。総資産や売上を見るまでもなく、この一点で区分が決まります。
この基準は平成29年の改正で100人から70人に引き下げられたものです。古い解説では100人と書かれているものが残っているため、自社が線の近くにいる場合は改正後の数字で確認してください。
なお従業員数は、継続勤務従業員以外の従業員の労働時間の合計を1,800時間で割って加算する方法で数えます。パート・アルバイトの多い会社では、この数え方によって判定が変わることがあります。
総資産価額と取引金額での判定
70人未満の会社は、総資産価額と従業員数の組み合わせによる区分と、取引金額による区分の、いずれか上位のほうで判定します。業種は卸売業・小売サービス業・それ以外の3つに分かれ、それぞれ基準となる金額が違います。
規模区分ごとの評価方式は次のとおりです。割合は、併用する際に類似業種比準価額を使う比率を指します。
| 会社規模 | 評価方式 | 類似業種比準価額の割合 |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式(純資産価額との低いほう) | 100% |
| 中会社の大 | 併用方式 | 90% |
| 中会社の中 | 併用方式 | 75% |
| 中会社の小 | 併用方式 | 60% |
| 小会社 | 純資産価額方式(併用方式との低いほう) | 50% |
割合が変わることの意味
中会社の小から中会社の中へ区分がひとつ上がると、類似業種比準価額を使える割合が60%から75%へ動きます。類似業種比準価額が純資産価額より低い会社では、この15ポイントの差がそのまま評価額の差になります。
ただし、区分を上げるために売上や従業員を増やすというのは順序が逆です。事業として増える見込みがあるなら、その時期と承継の時期を合わせる。そういう使い方が現実的だと考えています。
特定の評価会社に落ちない設計
結論: 株式等保有特定会社や土地保有特定会社に該当すると、原則として純資産価額方式での評価となり、類似業種比準方式が使えなくなります。資産構成によっては、対策の結果として該当してしまうことがあります。
株価対策で最も大きな事故が起きるのが、この判定です。良かれと思って組んだ資産の入れ替えが、特定の評価会社という別の区分に会社を落としてしまう。そうなると、それまでの手がすべて無効になりかねません。
株式等保有特定会社の50%
課税時期において、総資産価額(相続税評価額ベース)に占める株式等の価額の合計額の割合が50%以上になると、株式等保有特定会社に該当します。財産評価基本通達189が定める判定です。
持株会社化を進めた会社、余剰資金で有価証券を買った会社、子会社株式を集約した会社は、この線に触れやすくなります。手元資金の運用先を有価証券に寄せるだけでも該当し得るため、投資判断のたびに構成比を確認する必要があります。
土地保有特定会社の70%と90%
総資産価額に占める土地等の価額の割合が、大会社では70%以上、中会社では90%以上になると土地保有特定会社に該当します。小会社は総資産価額の規模と業種に応じて基準が変わります。
純資産価額を下げようとして不動産を買い進めた結果、この線を越えてしまうケースがあります。3年以内取得の縛りと合わせて考えると、不動産による対策は最も時間と点検を要する手だといえます。
比準要素数1の会社・比準要素数0の会社と、開業後3年未満の会社
先ほど触れた比準要素数1の会社に加えて、直前期末で3要素すべてがゼロの会社は比準要素数0の会社として、純資産価額方式のみで評価されます。
業績が落ち込んだ時期に承継を進める場合、この判定に触れていないかを必ず確認します。株価が安いはずのタイミングで、かえって高い評価額が出ることがあるためです。
開業後3年未満の会社も、純資産価額方式のみでの評価となります。新設分割や新会社の設立を絡めた組み替えを行うときは、この3年の壁を織り込んでおく必要があります。
配当の出し方も比準要素のひとつ
結論: 類似業種比準方式の配当金額は、直前期末以前2年間の平均で計算します。毎期の配当を抑えることは評価額を下げる方向に働きますが、無配は比準要素数の判定に影響するため、単純に止めればよいものではありません。
3つの比準要素のうち、配当は経営に与える影響がいちばん小さい項目です。同族会社では、そもそも配当を出していない会社も珍しくありません。
記念配当・特別配当は比準要素から外れる
創業何十周年といった節目に出す記念配当や、その期限りの特別配当は、将来毎期継続することが予想できない配当として比準要素の計算から除かれます。
周年で配当を出したら株価が上がるのではと心配される方がいますが、継続性のない配当として整理できるのであれば、比準要素には乗りません。ただし議事録などで、その性格が分かる形にしておくことが前提です。
無配にしたときに起きること
配当をゼロにすれば配当金額の比準要素はゼロになります。それ自体は評価額を下げる方向ですが、利益もゼロだと2要素がゼロになり、比準要素数1の会社の判定に近づきます。
評価額を下げる目的と、判定に落ちない目的は、時に反対を向きます。どちらを優先するかは、含み益の大きさ次第です。
比準要素が1つ減ります。比準要素数1の会社に近づく方向に働きます。
持株会社化で評価の構造ごと変える
結論: 株式移転などで持株会社体制に移行すると、事業会社の株式は持株会社が保有し、株主が直接持つのは持株会社の株式になります。評価の構造そのものが変わるため影響は大きく、実行前の試算が欠かせません。
規模の大きい会社や、複数の事業会社を抱えるグループで検討される手です。ただし手続きは重く、後戻りもききません。
株式移転による持株会社化
既存の会社を完全子会社とする持株会社を新しく作る方法です。事業承継では、後継者が持株会社を通じてグループを支配する形を整える目的でも使われます。
一方で、持株会社の主な資産は子会社株式です。そのままでは総資産に占める株式等の割合が高くなり、株式等保有特定会社の判定に触れやすくなります。
既存の会社の上に親会社を作る形です。
判定を外すために事業を持たせる設計
株式等保有特定会社の判定を避けるため、持株会社に不動産賃貸や管理業務など実体のある事業を持たせる設計が採られることがあります。ただし形だけの事業では、実態がないと見られる可能性があります。
判定の分母・分子を動かすこと自体が目的化した設計は、後述する通達6項の対象になり得ます。見られるのは、事業として説明できる中身があるかどうかです。
かかる時間とコスト
株式移転には、株主総会の決議、債権者保護手続、登記といった一連の手続が必要です。専門家報酬と登録免許税を含めれば、相応の費用がかかります。
半年から1年がかりの取り組みになることも珍しくありません。承継の期限から逆算して、間に合うかどうかを最初に確かめておきます。
登記と評価の費用、そして数か月の期間が要ります。
対策には順番と時期がある
結論: 株価対策は、現状の評価額と評価方式の把握から始め、材料への働きかけ、株式を動かす実行、その後の再測定という順で進めます。評価額が下がっている期に株式を移していなければ、対策は結果につながりません。
順番を飛ばしたご相談が本当に多いところです。保険や不動産の提案が先に来て、自社の評価方式を知らないまま実行してしまう。評価額の動かない手にお金を使うことになります。
- 現状を測る:直近3期の決算書と法人税申告書をもとに、評価方式と評価額を試算します。ここに1か月ほどかかります
- 動く材料を選ぶ:類似業種比準方式が中心なら利益、純資産価額方式が中心なら資産構成を見ます
- 判定を確認する:手を打った後に特定の評価会社や比準要素数1の会社に落ちないかを、実行前に試算します
- 株式を動かす:評価額が下がっている事業年度のうちに、贈与・譲渡・納税猶予の申請といった実行に移します
- 実行後も毎期評価額を測り直します。数字は毎年動くためです
決算期と課税時期のずれ
類似業種比準方式が使う数値は直前期末のものです。したがって、退職金を出した期の決算が確定した後の課税時期でなければ、その効果は反映されません。
3月決算の会社が3月に退職金を出し、翌4月に贈与する。この順序であれば効果が反映されます。逆に2月に贈与してしまうと、その時点の直前期末は前年3月期のままです。
贈与のタイミングを合わせる
評価額が下がっている期に何をするか。実務で多いのは暦年贈与、相続時精算課税制度の利用、そして事業承継税制による贈与です。事業承継税制を使う場合は、特例承継計画の提出期限との兼ね合いも見ます。
評価が下がっている年に渡すのが基本です。対策の効果が出るまでに時間がかかるものは、渡す年から逆算して始めます。決算期との関係も見ておくことです。
生前贈与の加算期間が7年になった影響
相続税法の改正により、令和6年1月1日以後の贈与から、相続開始前の贈与を相続財産に加算する期間が3年から段階的に7年へ延長されています。延長された4年間分については、その合計額から100万円を控除した残額が加算されます。
駆け込みの贈与ほど、後から相続財産に戻される可能性が高くなった。この改正は、株価対策を早く始める理由をひとつ増やしました。
やりすぎと見られる線はどこか
結論: 評価額の圧縮だけを目的とした不自然な取引は、財産評価基本通達6項により通達によらない評価が行われる可能性があります。取引の経済合理性を説明できるかどうかが問われます。
どこまでやったら危ないのですかというご質問には、明確な数値の線がありません。だからこそ、説明できる形を残すという考え方が要ります。
評価通達6項という最後の関門
国税庁の財産評価基本通達6項は、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めています。通達どおりに計算した評価額であっても、認められない場合があるということです。
国税庁が有識者会議に提出した資料によれば、6項の適用件数は平成27年から令和6年までの10年間で27件、うち株式に関するものが14件でした。件数としては多くありませんが、適用されれば影響は大きくなります。
経済合理性を説明できるか
過去に問題とされた事例に共通するのは、その取引が事業上どういう意味を持っていたのかを説明できない点です。相続の直前に多額の借入で不動産を買い、相続後すぐに売却する。事業との関係が見えない動きは、目的を疑われます。
- 事業上の必要性:その設備・不動産・組織再編は、事業のために必要だったか
- 時期の説明:なぜそのタイミングだったのかを、事業計画の側から説明できるか
- 決議・稟議・議事録といった意思決定の記録が残っているか
相続直前の駆け込み
相続開始が近い時期の対策は、効果が薄いうえに疑われやすいという二重の不利があります。決算数値への反映に時間がかかること、3年以内に取得した不動産が取引価額で評価されること、贈与が相続財産に加算されること。どれも時間を必要とする論点です。
早く始めるほど選べる手が増える、という単純な話でもあります。
経済合理性を説明できる記録を、対策のたびに残しておく必要があります。
2026年の見直し議論が前提を変える可能性
結論: 国税庁は2026年4月から有識者会議を開き、取引相場のない株式の評価方式の見直しを検討しています。評価方式の一本化まで論点に上がっており、現行の枠組みが続く前提で長期の設計を組むのは避けたほうが安全です。
有識者会議で挙がっている論点
国税庁は2026年4月20日に第1回の会議を開き、5月11日、6月4日、7月3日と会議を重ねています。第1回の資料では、複数の評価方式が併存する体系について、評価方式間の評価額のかい離が規模の異なる会社の間での相対的な不公平や、評価額の恣意的な操作による租税回避スキームを招いていると整理されました。
無議決権株式を使って配当還元方式の適用対象を作り出す動きも、対応すべき論点として取り上げられています。極端な設計ほど、見直しの影響を受けやすいと考えておくのが安全です。
いま動くか、待つか
結論も実施時期も決まっていないため、将来の制度を前提に承継の時期を判断するのは避けるべきです。一方で、現行の枠組みで使える手があるなら、決まってから動くより早いほうが選択肢は多くなります。
私たちは、制度の行方を待つのではなく、いまの評価額を測って現行制度で打てる手を先に確かめる進め方をお勧めしています。
よくある相談事例
製造業|退職金の期と贈与の期がずれていた
先代の退職金を出した年に贈与も済ませたつもりだったのに評価額が思ったほど下がらなかった、という相談です。確認すると、退職金を支給したのは3月期の決算で、贈与はその2か月前の1月に済ませていました。
贈与時点の直前期末は前年3月期のままです。退職金の効果は次の課税時期からしか反映されません。ここは順序を組み替えるだけで結果が変わる部分でしたので、残る株式について翌期以降の実行計画を作り直しました。
不動産賃貸業|土地保有特定会社に該当していた
純資産価額を下げるつもりで賃貸物件を増やしてきた会社です。試算したところ、総資産に占める土地等の割合が判定基準を超え、土地保有特定会社に該当していました。
類似業種比準方式が使えない状態でしたので、まず判定から外れる資産構成に戻せるかを検討し、あわせて納税資金の確保を優先する方針に切り替えました。対策そのものが判定を招いていた典型例です。
卸売業|利益を下げた結果、評価額が上がった
赤字の期に贈与すれば有利だと考えて相談に来られたケースです。直前期・直前々期とも無配で、利益もゼロ。比準要素数1の会社に該当し、純資産価額のウェイトが75%になる状態でした。
含み益のある土地を持つ会社だったため、類似業種比準方式が中心だった前期のほうが評価額は低く出ていました。翌期に少額でも配当を出す方向で立て直しています。
建設業|対策より先に株主名簿の整理が必要だった
株価対策のご相談として来られましたが、株主名簿を見ると設立時の名義株が複数残っていました。誰が本当の株主かが確定していない状態では、贈与も納税猶予の申請も進められません。
先に名義の整理から着手し、株価の話はその後に回しました。順序としては遠回りに見えて、これがいちばん早い道でした。
誰が株主かが確定しないうちは、対策そのものが動きません。
よくある質問
株価対策をすれば評価額は必ず下がりますか?
対策はどのくらい前から始めればよいですか?
保険に入れば株価は下がりますか?
株価対策と事業承継税制はどちらを先に検討すべきですか?
自社だけで対策を進めることはできますか?
まとめ:下げることより、下がっている間に渡すこと
- 自社株の評価額を直接下げる手続きはありません。動かせるのは配当・利益・純資産・会社規模区分という材料です
- 影響の出方は評価方式で変わります。まず自社がどの方式で、どの割合で評価されているかを測ります
- 利益を下げる手は最も大きく動きますが、下げすぎると比準要素数1の会社に該当し、評価額が上がることがあります
- 不動産による純資産の圧縮には、課税時期前3年以内に取得したものは取引価額で評価されるという時間の壁があります
- 株式等保有特定会社・土地保有特定会社に該当すると類似業種比準方式が使えません。対策が判定を招く事故が最も多い部分です
- 評価額が下がっている事業年度のうちに株式を動かすところまでが対策です
最後にひとつだけ付け加えるなら、優先順位は測る・整える・動かすの順です。名義株や株主名簿の乱れがあるなら、株価の話より先にそちらを片づけたほうが結局は早く進みます。
自社の評価方式がどれで、どの材料に働きかける余地があるのか。税理士法人Light UPの無料相談では、直近3期の決算書をもとにした評価額の試算からご一緒します。





