名義株の解消|実質株主に戻す進め方
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「設立のとき頭数が足りなくて親戚に名前を借りました」「もう40年前の話で、本人も亡くなっています」――株主名簿を確認するご相談で、この2つはほぼ必ず出てきます。
結論からお伝えすると、名義株とは出資したお金を出した人と株主名簿上の名義人が違う株式のことで、税務上は実際に払込みをした人が株主として扱われます。名簿が実態と食い違ったままでも会社は回りますが、相続・事業承継税制の申請・M&Aという3つの場面で必ず止まります。解消は、事実関係の確定、名義人との合意、記録の整備という順序で進めます。
税理士法人Light UPでは、名義株の整理は株価対策より先に着手すべき作業だと考えています。誰が株主かが確定していない会社では、贈与も納税猶予も設計できないためです。
この記事では、名義株が生まれた背景、実質株主の判定のされ方、放置した場合に起きること、確認書・買取り・所在不明株主の制度という3つの解消手段、そして解消時の税務の論点まで整理します。
名義株とは出資者と名義人が違う株式のこと
結論: 名義株とは、実際に出資の払込みをした人と、株主名簿に記載された名義人が異なる株式を指します。税務上は形式ではなく実質で判断され、払込みをした人が株主として扱われます。
名義を借りた側に悪意がないケースがほとんどです。設立の手続き上必要だったから、親族の名前を並べただけ。当時としては珍しくない対応でした。
問題は、その状態が数十年続き、名義人が亡くなり、相続人が事情を知らないまま権利を承継していく点にあります。時間が経つほど、解消の難易度は上がります。
平成2年の商法改正前という背景
かつての商法では、株式会社の設立に発起人が7人以上必要でした。1人や2人で会社を作りたくても、形式上は7人分の名前と払込みが要ります。
そのため、親族や知人に名前だけ借りて設立するという実務が広く行われていました。平成2年の商法改正で発起人の人数要件が撤廃されるまで設立された会社には、この形が残っている可能性があります。
設立が古い会社ほど確認しておく価値がある、という理由がここにあります。
名義預金と同じ考え方。放置されやすい理由
税務では、預金についても同様の論点があります。子や孫の名義で作った預金でも、資金の出どころと管理の実態が親であれば、親の財産として扱われます。
株式も同じです。名簿に誰の名前が書かれているかではなく、誰のお金で払い込まれ、誰が権利を行使してきたかで判断されます。
日常の経営に支障が出ないことが、放置の最大の理由です。同族会社では株主総会も実質的に身内で完結し、名義人が口を出すこともありません。
支障が出るのは、株式を動かそうとした瞬間です。そのときには、名義人がすでに亡くなっているという状況が多く見られます。
誰が株主かは出資の払込みで判断される
結論: 名義株かどうかの判定では、株式の取得資金を誰が負担したか、配当を誰が受け取っていたか、議決権を誰が行使してきたかという事実が総合的に見られます。名簿の記載そのものは決め手になりません。
判断材料になる事実
税務調査や相続の場面で確認されるのは、次のような点です。
- 払込みの原資:設立時の払込金がどの口座から出たか
- 配当金の受領先:配当を出していた場合、誰の口座に入っていたか
- 株主総会での議決権行使:招集通知が届いていたか、実際に出席していたか
- 株券の保管:株券を発行していた時代であれば、誰が持っていたか
- 名義人が株式の存在自体を認識していたかどうか
これらがすべて実質株主側を指していれば、名義株であるという主張は通りやすくなります。逆に、配当を名義人が受け取っていた記録があると、話は複雑になります。
記録が残っていない場合
40年前の払込みの記録は、ほとんどの会社に残っていません。通帳の保存期間はとうに過ぎています。
そうした場合は、当時の事情を知る人の証言、設立時の議事録、これまで名義人が一度も権利を行使していないという事実の積み重ねで説明することになります。完全な証拠が揃わなくても、整合する事実を集めれば説明はできる。あきらめて放置するのが一番よくない選択です。
会社側の記録も確認する
法人税申告書の別表二には、同族会社の判定に使う株主の記載があります。株主名簿と別表二がずれている会社は珍しくありません。
登記事項証明書、株主名簿、別表二。この3つを並べるところから作業が始まります。
設立時の定款、株主名簿、法人税申告書の別表二。この3つを突き合わせます。食い違いがあれば、そこが出発点です。
放置するとどこで問題になるか
結論: 名義株を放置すると、相続で名義人の相続人が権利を主張する、事業承継税制の議決権要件を満たせない、M&Aの調査で株主の適法性を問われるという3つの場面で問題が表面化します。
名義人の相続人が現れる。事業承継税制が使えない
名義人が亡くなると、その相続人が株式を相続財産として認識します。事情を知らない相続人にとっては、正当な財産です。
「先代が名前を貸しただけだと聞いています」と説明しても、法的には名簿の記載が一応の推定として働きます。話し合いがまとまらなければ、訴訟に発展することもあります。
事業承継税制の納税猶予を受けるには、後継者が一定の議決権を保有していることなどの要件があります。名義株が散らばっていると、この計算が成り立ちません。
特例承継計画には提出期限があるため、名義の整理に時間がかかると制度そのものに間に合わなくなります。
M&Aの調査で止まる。少数株主として権利を行使される
第三者への譲渡を検討する場合、買い手は株主の適法性を必ず確認します。株主が確定していない会社は、買い手にとって後日の紛争リスクを抱えることになります。
金額の交渉以前に、取引が成立しません。実際に、名義株の整理に半年以上を要してスケジュールが後ろ倒しになった例があります。
株主には、帳簿の閲覧請求権や株主総会の招集請求権など、法律上の権利が認められています。関係が悪化した場面でこれを行使されると、対応に大きな労力がかかります。
解消の前に現状を確定させる
結論: 名義株の解消は、株主名簿・登記・法人税申告書別表二の照合から始めます。誰が名義人で、その人が生存しているか、相続が発生しているかまでを一覧にしないと、打つ手が決まりません。
- 3つの資料を並べる:株主名簿、登記事項証明書、法人税申告書の別表二を突き合わせます
- 設立時の資料を探す:定款、設立時の議事録、払込みを証する書面。金庫や倉庫に残っていることがあります
- 名義人の現況を確認する:生存しているか、住所は分かるか、相続が発生していないか
- 名義株かどうかを仕分ける:本当に出資してもらった株式が混ざっていることもあります。ここを一緒にしないことが重要です
- 名義人ごとに、取れる手段を割り当てます
仕分けを誤らない。時間の見積もり
すべてを名義株と決めつけて進めると、正当な株主の権利を侵害することになります。実際に出資してもらった株式であれば、買い取るか、そのまま尊重するかの判断になります。
先代の記憶だけを根拠に進めるのは危険です。株主本人の認識を確かめないまま名義株だと断定しない。この順序を守ってください。
連絡が取れる名義人が数人であれば、数か月で片づきます。相続が発生していて相続人が複数いる場合、1年以上かかることも珍しくありません。
承継の予定から逆算して、早めに着手する必要があります。
確認書で整理する方法
結論: 名義人と連絡が取れる場合、名義株であることを確認する書面を取り交わす方法が最も簡便です。書面には、出資の事実、権利を行使してこなかった事実、今後権利を主張しない旨を記載します。
確認書に書く3つの要素
実務で使われる確認書には、おおむね次の内容を入れます。
- 出資の払込みは実質株主が行ったこと:名義人は資金を出していないという確認
- 配当や議決権の行使も実質株主が行ってきたこと:これまでの実態の確認
- 名義人は当該株式について権利を主張しないこと
日付・署名・押印を揃え、可能であれば実印と印鑑証明書を添えます。将来、名義人の相続人との間で争いになった場合の証拠になります。
署名をもらう相手と、快く応じてくれるとは限らないこと
名義人が生存していれば本人から取ります。すでに亡くなっている場合は、相続人全員から取る必要があります。
相続人が複数いて、そのうち1人でも協力を拒めば、確認書だけでは解決しません。次に述べる買取りや、法定の制度を検討することになります。
長年疎遠だった親族に、突然この話を持ちかけることになります。相手にとっては、財産を手放してほしいという依頼に見えます。
経緯を丁寧に説明し、必要であれば一定の対価を支払う。書面の形式より、話の持っていき方のほうが結果を左右するというのが実感です。
有償で買い取る方法
結論: 名義株であると整理できない場合や、名義人が対価を求める場合には、株式を買い取る方法があります。譲渡制限株式であれば会社の承認手続きが必要で、価格の設定によっては課税の問題が生じます。
譲渡承認の手続きと、価格をどう決めるか
中小企業の株式はほとんどが譲渡制限株式です。譲渡には会社の承認が必要で、取締役会または株主総会の決議を経ることになります。
議事録を残し、株主名簿の書換えまで行って初めて完了します。手続きを飛ばすと、後から名簿の記載が争われる原因になります。
当事者間の合意で決められますが、税務上の適正な価額から大きく離れると問題が生じます。低い価格で譲り受ければ、その差額が贈与とみなされる可能性があります。
売り手が個人、買い手が個人の場合と、買い手が法人の場合とでは、課税関係が変わります。価格を決める前に税理士に確認する。ここは順序を間違えやすい部分です。
譲渡した側の課税
株式を譲渡した個人には、譲渡所得として原則20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)の課税が生じます。取得費が不明な場合は、譲渡収入の5%を取得費とすることが認められています。
買い取った価格と取得費の差が譲渡所得になります。名義株と認められれば、そもそも譲渡ではありません。どちらの整理で進めるかを先に決めます。
会社が買い取る方法
結論: 会社が自己株式として買い取る方法もあります。分配可能額の範囲内でしか実行できず、売主である個人にはみなし配当課税が生じる場合があるため、資金と税負担の両面から検討します。
財源規制がある。みなし配当という論点
自己株式の取得は、剰余金の分配と同じ性質を持つため、分配可能額の範囲内でしか行えません。利益剰余金が乏しい会社では、そもそも実行できないことがあります。
会社が自己株式を取得した場合、資本金等の額に対応する部分を超える金額は配当とみなされ、総合課税の対象になります。譲渡所得より税負担が重くなることがあります。
ただし、相続により取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日から3年以内に発行会社へ譲渡した場合には、みなし配当課税を行わず譲渡所得として扱う特例があります。相続が絡む場面では、この期限を意識しておく価値があります。
相続人に対する売渡請求
定款に定めを置いていれば、相続によって株式を取得した者に対し、会社への売渡しを請求できます。e-Govの法令検索で会社法174条を引くと、「株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる」と定められています。
請求できる期間は、相続があったことを知った日から1年以内。定款に定めがなければ使えないため、平時のうちに整備しておく制度です。
連絡がつかない株主への対応
結論: 通知が届かず配当も受領されない状態が続いている株主については、会社法の定める手続きで株式を競売または売却できます。中小企業には、この期間を短縮する経営承継円滑化法の特例があります。
| 手段 | 使える場面 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 所在不明株主の株式売却 | 連絡が取れず配当も受領されていない | 通知の不到達と配当の不受領が5年以上継続 |
| 経営承継円滑化法の特例 | 事業承継のニーズがある中小企業 | 都道府県知事の認定を受けると5年が1年に短縮 |
| 株式併合によるスクイーズアウト | 少数株主が多数いる | 株主総会の特別決議・端数の買取り |
| 特別支配株主の株式等売渡請求 | 議決権の90%以上を保有している | 対象会社の承認・株主への通知 |
5年という期間の意味
会社法は、株主に対する通知が5年以上継続して到達せず、かつその株主が5年間継続して剰余金の配当を受領していない場合に、その株式を競売または売却できると定めています。
配当を出していない会社では、不受領の要件は満たしやすくなります。東京地方裁判所の申立てQ&Aでは、配当をしていない事業年度が含まれる場合、その事業年度に配当をしなかったこと自体でこの要件を満たすと整理されています。配当を出している会社では、その株主が5年間続けて配当を受け取っていない事実を示す必要があります。一方で通知の到達については、毎年送って戻ってきた記録を残しておく必要があります。何もしていないと5年は始まらないという点に注意してください。
1年に短縮する特例と、90%以上を持っている場合
事業承継のニーズが高い非上場の中小企業については、都道府県知事の認定を受けることで、この5年を1年に短縮できる特例が2021年に設けられています。経営承継円滑化法に基づく制度です。
認定には手続きと時間がかかりますが、承継の期限が迫っている場合には有力な選択肢になります。
議決権の90%以上を保有している株主は、他の株主全員に対して株式の売渡しを請求できます。e-Govの法令検索で会社法179条を引くと、「株式会社の特別支配株主は、当該株式会社の株主の全員に対し、その有する当該株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができる」と定められています。
対価は必要ですが、個別の同意を得ずに集約できる点が特徴です。
解消のときに生じる税務の論点
結論: 名義株として整理できれば新たな課税は生じませんが、名義人の財産と扱われた場合には、実質株主へ戻す行為が贈与とみなされる可能性があります。整理の方法によって課税関係が変わります。
名義株と認められた場合と、名義人のものと扱われた場合
もともと実質株主のものであったと整理されれば、名義を実態に合わせるだけですので、贈与や譲渡は生じません。確認書と説明の材料が揃っていることが前提になります。
名義人の財産だと判断されると、無償で戻す行為は贈与になります。贈与税は税率が高いため、金額によっては大きな負担が生じます。
だからこそ、事実関係の裏づけを集める作業が重要になります。書面を作るだけでなく、なぜそう言えるのかを説明できる状態にしておくことです。
過去の配当をどう扱うか
配当を出していた会社では、名義人の口座に配当が入っていた可能性があります。この場合、名義株であるという主張と矛盾する事実になります。
説明の筋を通すため、配当の実態も含めて整理します。矛盾を抱えたまま進めると、税務調査で崩れます。
名義人に払っていた配当の扱いが問題になります。金額が小さければ、遡らずに整理する場合もあります。
再発を防ぐ整備
結論: 名義株を解消したら、株主名簿の整備、法人税申告書別表二との一致、定款への売渡請求の定めという3点をあわせて整えます。同じ問題を次の代に持ち越さないための作業です。
株主名簿を作り直す、別表二と一致させる、定款に売渡請求の定めを置く
会社法上、株式会社は株主名簿を作成し備え置く義務があります。実態に合わせて作り直し、以後は異動のたびに更新します。
法人税申告書の別表二の記載は、税務署から見た株主構成そのものです。名簿と別表二がずれたままだと、整理したはずの状態が伝わりません。
相続人に対する売渡請求は、定款に定めがなければ使えません。整理のタイミングで、あわせて定款変更を検討する会社が多くあります。
株式が分散する前に手当てしておく。これが次の世代への引き継ぎを楽にします。
よくある相談事例
建設業|設立時の7人のうち4人が名義株だった
創業50年の会社で、株主名簿に7名の記載がありました。設立当時の発起人要件を満たすために名前を借りたもので、実際の出資は先代がすべて行っていたケースです。
生存していた2名からは確認書を取得できましたが、2名はすでに亡くなっていました。相続人を戸籍で追い、順に説明して確認書を集める作業に半年ほどかかっています。
卸売業|相続人が買取りを求めてきた/製造業|M&Aの調査で発覚した
名義人だった親族が亡くなり、その子から株式の買取りを求められたご相談でした。名義株であることの資料が十分ではなく、全面的に争う判断はしませんでした。
一定の対価を支払って買い取る形で合意し、譲渡承認と名簿の書換えまで完了させています。争って勝つことより、確定させることを優先した判断でした。
譲渡の交渉が進んだ段階で、買い手側の調査により名義株の存在が指摘された会社です。株主の適法性が確認できるまで、手続きが止まりました。
結果的に成約はしましたが、想定より3か月遅れています。売却を考えるなら、話を始める前に整理しておくべき論点です。
小売業|名簿と別表二が一致していなかった
名義株はないと聞いていた会社でしたが、株主名簿と法人税申告書の別表二を並べたところ、持株数が食い違っていました。過去の贈与が名簿に反映されていなかったためです。
この場合は名義株ではなく記録の不備でしたので、贈与契約書と申告の記録を確認して名簿を修正しています。まず並べてみる、という作業の価値が出た例です。
よくある質問
名義株は放っておくとどうなりますか?
確認書があれば税務上も認められますか?
名義人が亡くなっている場合はどうすればよいですか?
名義株を戻すときに贈与税はかかりますか?
株価対策と名義株の整理はどちらを先にすべきですか?
まとめ:名簿を実態に合わせるのは、承継の前提条件
- 名義株とは、出資者と名簿上の名義人が異なる株式です。税務上は払込みをした人が株主として扱われます
- 判定は、払込みの原資・配当の受領先・議決権の行使という事実の積み重ねで行われます
- 放置すると、相続・事業承継税制・M&Aの3場面で止まります
- 解消は、株主名簿・登記・別表二の照合から始めます。仕分けを誤らないことが重要です
- 連絡が取れない株主には、会社法の所在不明株主の制度と、5年を1年に短縮する経営承継円滑化法の特例があります
- 整理後は、名簿の作り直しと定款への売渡請求の定めまで済ませます
やらないほうがよいのは、先代の記憶だけを根拠にすべてを名義株と決めつけて進めることです。正当な株主が混ざっていた場合、後から争いになります。
株主名簿と別表二を並べるところからで構いません。税理士法人Light UPの無料相談で、現状の把握と進め方の整理をご一緒します。





