労働保険料の勘定科目と仕訳を解説|会社と従業員の負担の分け方
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
労働保険料は、会社が負担する分を法定福利費、従業員が負担する雇用保険料を立替金または預り金で処理します。労災保険料は全額が会社負担なので、従業員負担があるのは雇用保険料だけです。この記事では、場面ごとの科目、間違えやすい点、納付・給与控除・精算の仕訳、税務上の経費(損金)にできる時期、一般拠出金の科目を、厚生労働省と国税庁の公表資料(2026年10月時点)に沿って整理します。
労働保険料の勘定科目は?
結論: 会社が負担する労災保険料・雇用保険料・一般拠出金は法定福利費、従業員が負担する雇用保険料は立替金または預り金に入れます。納付書の合計額では科目が決まりません。
負担する人ごとの科目
| 内訳 | 負担する人 | 科目 |
|---|---|---|
| 労災保険料 | 全額が会社 | 法定福利費 |
| 雇用保険料(事業主負担分) | 会社 | 法定福利費 |
| 雇用保険料(労働者負担分) | 従業員 | 立替金または預り金 |
| 一般拠出金 | 全額が会社 | 法定福利費 |
年度更新の申告書の内訳から、労災分と雇用分を分け、雇用分のうち会社負担と従業員負担を分けて拾います。
令和8年度の料率
厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」によると、一般の事業の雇用保険料率は13.5/1,000です。うち従業員が負担する労働者負担分は5/1,000、会社が負担する事業主負担分は8.5/1,000です。会社の負担が大きいのは、会社だけが負担する雇用保険二事業(雇用安定事業及び能力開発事業)の3.5/1,000が加わるためです。
労災保険率は事業の種類ごとに決まり、事務所などの「その他の各種事業」は3/1,000です。令和8年度も同率です。
立替金と預り金の違い
従業員負担分の置き場は、納付と給与控除のどちらが先かで変わります。
- 立替金:会社が先に納めた従業員負担分。給与から引いて回収していく
- 預り金:給与から先に引いた分。まだ国に納めていない
労働保険料の処理でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、納付書の合計を全額費用にする、従業員負担分の置き場を決めない、不足額と超過額を同じに扱う、の3つです。どれも人件費と利益がずれます。
決算の直前に、6月に払った労働保険料を全額その月の費用にしていたと気づいて相談に来られる方が少なくありません。
納付書の合計をそのまま費用にする
納付書の合計には、従業員が負担する雇用保険料が含まれています。全額を法定福利費に入れると、会社が負担していない分まで人件費に乗り、法定福利費が実際より大きく出ます。決算書を見る銀行や経営者は、人件費の重さを取り違えます。
従業員負担分の置き場を決めていない
納付のときは法定福利費、給与から引くときは預り金、と別々に処理すると、預り金だけが毎年積み上がります。納付時から立替金で受けるか、決算で預り金と相殺するか、どちらかに決めて毎年同じにします。
不足額と超過額を同じに扱う
確定保険料が概算保険料より多く、不足額が出たときは、会社負担分を決算で未払金に計上できます。一方、払いすぎの超過額は、申告書を提出する日まで収益に見越せません。左右が対称でないので、不足額と同じ感覚で超過額を見越すと、決算の利益が実際より大きく出ます。
税理士が確認する順番
税理士は、申告書の内訳から元帳の残高まで、次の順で確かめます。
直近の労働保険の申告書の控えと、法定福利費・立替金・預り金の元帳をお持ちいただければ、納付書の内訳と帳簿の残高が合っているかを1つずつ一緒に確かめます。
概算保険料の仕訳はどうする?
結論: 概算保険料を納めるときは、会社負担分を法定福利費、従業員負担分を立替金に入れます。簡便な方法や月ごとに配分する方法もありますが、どれを選んでも毎年同じにします。
納付時の仕訳
賃金総額の見込みが4,000万円で、全員が雇用保険の被保険者、労災保険率が3/1,000の会社の例です(説明用の金額です)。
- 労災保険料:4,000万円×3/1,000=12万円(全額会社負担)
- 雇用保険料:4,000万円×13.5/1,000=54万円(従業員負担20万円、会社負担34万円)
合計66万円のうち、会社負担は46万円、従業員負担は20万円です。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 概算保険料を納付 | 法定福利費 460,000 立替金 200,000 |
普通預金 660,000 |
3つの処理方法
| 方法 | 納付時 | 月次の人件費の見え方 | 向く会社 |
|---|---|---|---|
| 従業員負担分を立替金で受ける | 法定福利費と立替金 | 実態に近く、立替金の残高で回収の進みが分かる | 人の出入りが多い会社、残高を管理したい会社 |
| 全額を法定福利費にして決算で相殺 | 法定福利費に全額 | 納付した月に費用が大きく出る | 従業員が少なく、月次決算をしない会社 |
| 前払費用で受けて月ごとに配分 | 前払費用と立替金 | 月ごとの人件費が実態に近い | 月次決算で人件費率を見る会社 |
全額を法定福利費にする方法では、給与から引いた雇用保険料を毎月、預り金で積み、決算で預り金と法定福利費を相殺します。前払費用で配分する方法では、決算日に前払分が残るため、税務上の損金にできる時期(後の節)とのずれがないかを決算で確かめます。
3回に分ける延納
概算保険料が40万円以上なら、3回に分けて納められます。労災保険と雇用保険のどちらか一方だけが成立している事業は20万円以上です。厚生労働省の案内によると、令和8年度の納期限は7月10日、11月2日、翌年2月1日で、口座振替を使う場合は日付が変わります。
仕訳は、納めるたびにその回の金額を、会社負担分は法定福利費、従業員負担分は立替金に分けて入れます。
給与から引く雇用保険料の仕訳は?
結論: 雇用保険料の従業員負担分は、賃金に5/1,000を掛けて給与から引き、貸方は立替金に立てます。納付より前に引く分は預り金で受けます。労災保険料は引きません。
控除額の計算
令和8年度の一般の事業は、従業員負担の率が5/1,000です。月給30万円なら、30万円×5/1,000=1,500円を引きます。標準報酬月額は使わず、その月に支払う賃金に率を掛けます。
1円未満の端数は、厚生労働省の案内によると、給与から引く場合に50銭以下は切り捨て、50銭1厘以上は切り上げます。労使の間に慣習があるときは、その慣習によってよいとされています。
控除時の仕訳
月給30万円のうち、雇用保険料の部分だけを取り出した仕訳です。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 給与から雇用保険料を引く | 給与手当 1,500 | 立替金 1,500 |
立替金は、納付した20万円から毎月の控除のたびに減り、翌年3月ごろにゼロへ近づきます。
年度の最初の数か月は、納付より前に給与から引くことになります。その分はいったん預り金で受け、納付のときに立替金と相殺します。
確定保険料の精算の仕訳は?
結論: 翌年6月に確定保険料が出たら、概算保険料との差を精算します。不足なら会社負担分を法定福利費、従業員負担分を立替金に入れ、超過なら未収入金を立てて同じ科目を減らします。
不足額が出たとき
確定保険料が概算保険料より6万円多かった例です(会社負担4万2,000円、従業員負担1万8,000円。説明用の金額です)。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 不足額を納付 | 法定福利費 42,000 立替金 18,000 |
普通預金 60,000 |
3月決算の会社は、決算日に保険年度(4月から3月まで)が終わるので、申告書の提出前でも、会社負担分を未払金に計上できます。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 3月の決算で計上 | 法定福利費 42,000 立替金 18,000 |
未払金 60,000 |
| 6月に納付 | 未払金 60,000 | 普通預金 60,000 |
超過額が出たとき
確定保険料が概算保険料より5万円少なかった例です(会社負担3万5,000円、従業員負担1万5,000円。説明用の金額です)。申告書を提出したときに、次の仕訳を入れます。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 超過額が確定 | 未収入金 50,000 | 法定福利費 35,000 立替金 15,000 |
還付を受けるなら入金で未収入金を消します。翌年度の概算保険料に充てるなら、その納付のときに未収入金を消し、差額だけを払います。
損金にできる時期はいつ?
結論: 概算保険料のうち会社負担分は、申告書を提出した日か納付した日の事業年度の損金にできます。被保険者が負担すべき部分(いわゆる雇用保険の従業員負担分)は立替金等とし、損金にしません。
通達が定める4つの扱い
損金とは、法人税の計算で経費として認められる金額です。益金は、同じく収益として扱う金額です。国税庁の法人税基本通達9-3-3は、労働保険料を次のように扱います。
| 内容 | 扱い |
|---|---|
| 概算保険料のうち、被保険者が負担すべき部分(いわゆる雇用保険の従業員負担分) | 立替金等とする |
| 概算保険料のうち、その他の部分 | 申告書を提出した日(決定があったときは決定のあった日)か、納付した日の属する事業年度の損金 |
| 確定保険料の不足額のうち、会社負担分 | 申告書を提出した日か納付した日の属する事業年度の損金。ただし、事業年度終了の日以前に終了した保険年度の分は、申告書の提出前でも未払金に計上できる |
| 確定保険料の超過額のうち、会社が負担した概算保険料に係る部分 | 申告書を提出した日の属する事業年度の益金 |
決算日が申告より前に来る会社
未払金に計上できる取扱いが関わるのは、決算日の時点で、前の保険年度の確定申告がまだ済んでいない会社です。申告の期間は6月1日から7月10日なので、3月から6月ごろに決算日が来る会社が当たります。
一般拠出金と事務組合費の科目は?
結論: 一般拠出金は法定福利費に補助科目を付けて入れます。労働保険事務組合に払う委託料は労働保険料ではなく、支払手数料や諸会費で処理します。
一般拠出金
一般拠出金は、石綿(アスベスト)による健康被害の救済に充てるため、事業主が負担するものです。厚生労働省の案内によると、労災保険の適用事業主の全事業主が対象で、率は1,000分の0.02です。賃金総額4,000万円なら800円になります。
労働保険料と違い、概算の前払いも延納もなく、確定保険料と一緒に確定分だけを納めます。科目を定めた決まりはないので、法定福利費に補助科目を付けて入れ、毎期同じにします。
労働保険事務組合の委託料
労働保険の事務を労働保険事務組合に任せている会社は、保険料とは別に、組合へ入会金や委託料を払います。法定福利費に混ぜると人件費の内訳がずれるので、支払手数料や諸会費で別に処理します。
社会保険料とは何が違う?
結論: 健康保険料・厚生年金保険料は、毎月分を翌月末に納めます。労働保険料は年度の初めに先に納め、翌年に精算する保険料で、損金にできる時期の決まりも別です。
損金にできる時期の違い
社会保険料の損金にできる時期は、保険料の計算の対象になった月の末日の属する事業年度です。3月分の保険料を4月末に納めても、3月末を含む事業年度の損金です。労働保険料は、納付した日か申告書を提出した日が基準なので、月割りで未払を立てる処理は合いません。どちらも、従業員から預かる部分は会社の費用になりません。
よくある質問
労働保険料は法定福利費ですか、福利厚生費ですか?
6月に払った概算保険料を、全額その月の費用にしてよいですか?
3月決算です。確定保険料の不足額を決算で計上できますか?
まとめ:会社負担と従業員負担を分けよう
- 会社負担の労災保険料・雇用保険料・一般拠出金は法定福利費、従業員負担の雇用保険料は立替金か預り金です
- 納付時と給与控除時の処理は、対にして毎年同じ方法で続けます
- 確定保険料の不足額は決算で未払金にできますが、超過額は申告書を出すまで収益にできません
- 損金にできる時期は、法人税基本通達9-3-3が基準です
年度更新の仕訳や、立替金と預り金の残高が合わない方、決算で不足額や超過額をどう入れるか迷っている方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の申告書の控えと元帳を確認し、納付書の内訳と帳簿の残高を突き合わせて整理します。
出典
- 厚生労働省「令和8(2026)年度 雇用保険料率のご案内」
- 厚生労働省「令和8年度の労災保険率等について」
- 厚生労働省「労働保険年度更新に係るお知らせ」(令和8年度の納期限)
- 大阪労働局「労働保険の年度更新手続きについて」
- 厚生労働省「雇用保険被保険者からの雇用保険料の控除方法」
- 厚生労働省「石綿健康被害救済法に基づく一般拠出金の徴収制度について」
- 国税庁 法人税基本通達 9-3-2「社会保険料の損金算入の時期」
- 国税庁 法人税基本通達 9-3-3「労働保険料の損金算入の時期等」





