退職金の源泉徴収|退職所得の受給に関する申告書
「退職金からいくら引けばよいですか」。従業員が退職する際に、総務や経理を担当されている方からいただくご質問です。給与とはまったく違う計算になるため、初めて扱うときは戸惑う場面が多くなります。
結論からお伝えすると、計算の分かれ目は申告書の有無です。退職所得の受給に関する申告書の提出を受けていれば退職所得控除を反映した源泉徴収ができ、提出がなければ収入金額に一律の税率で源泉徴収することになります。
税理士法人Light UPでは、退職金の支給が決まった時点で申告書を先に受け取るようご案内しています。支払った後では、受け取る側が確定申告で精算することになるためです。
この記事では、申告書の位置づけと提出の期限、退職所得控除額の計算、勤続5年以下の場合の扱い、住民税の特別徴収、そして支給後の手続を整理します。
退職所得の受給に関する申告書
結論: 退職手当等の支払を受ける時までに、支払者を経由して提出する申告書です。実際には会社が保管します。
条文上の位置づけ
e-Gov 法令検索で所得税法203条1項を確認すると、国内において退職手当等の支払を受ける居住者は「その支払を受ける時までに」一定の事項を記載した申告書を、その退職手当等の支払者を経由して、納税地の所轄税務署長に提出しなければならないと定められています。支払を受ける時までという期限が明記されている点が重要です。支払った後では、この申告書による計算はできません。
税務署へは提出しない
同条3項は、申告書が「その提出の際に経由すべき退職手当等の支払者に受理されたときは、その申告書は、その受理された時に同項に規定する税務署長に提出されたものとみなす」と定めています。つまり、会社が受け取った時点で提出されたことになり、実際に税務署へ送る必要はありません。会社で保管しておく書類という扱いです。税務署から提出を求められたときに出せるようにしておきます。
記載する事項
支払者の氏名または名称、他に支払済みの退職手当等があるかどうかとその内容、退職所得控除額の計算の基礎となる勤続年数、障害者になったことが直接の原因で退職した場合はその事実。これらを記載します。他社から既に退職金を受け取っている場合は、源泉徴収票を添付する必要があります。同じ年に複数の退職金を受け取る場合、控除額の計算が調整されるためです。
電子で受け取ることもできる
同条4項により、支払者が一定の要件を満たす措置を講じている場合、申告書の提出に代えて記載事項を電磁的方法で提供することができます。書面での提出に限られません。給与の管理システムを使っている会社では、この方法で手続を簡素にできます。ただし、要件を満たしているかの確認は必要です。電磁的方法で受け取る場合も、記載すべき事項は書面と同じです。保存の方法についても、後から提示できる形にしておく必要があります。
退職所得控除額の計算
結論: 勤続年数が20年以下なら1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円です。20年以下でも80万円が下限になります。勤続年数の1年未満の端数は切り上げるため、10年1か月でも11年として計算します。
計算の式
勤続年数20年以下の場合は、40万円に勤続年数を乗じた金額です。ただし、その金額が80万円に満たない場合は80万円になります。勤続年数が20年を超える場合は、800万円に、70万円を勤続年数から20を控除した年数に乗じた金額を加えた額です。長く勤めるほど、1年あたりの控除額が大きくなるという設計になっています。勤続30年であれば、800万円に70万円×10年を加えて1,500万円です。
勤続年数の数え方
勤続年数に1年未満の端数があるときは、切り上げて1年とします。10年3か月であれば11年です。切り捨てではなく切り上げという点は、他の税務の計算と逆になるため注意が要ります。勤続の期間は、原則としてその会社に在職していた期間で数えます。ただし、他の会社での勤続期間を通算する退職給与規程がある場合など、扱いが変わる場面もあります。
障害者になった場合の加算
障害者になったことが直接の原因で退職した場合、退職所得控除額に100万円が加算されます。申告書にこの事実を記載することで反映されます。該当する場合は、申告書の記載を確認する必要があります。この加算は、申告書に記載がなければ源泉徴収の段階で反映されません。退職の理由を把握している会社の側から、記載の要否を確認する形が確実です。本人が制度を知らないまま提出することもあります。
課税される金額
収入金額から退職所得控除額を差し引き、その残額の2分の1が課税退職所得金額になります。この金額に、所得税の税率表を当てはめて税額を計算します。他の所得と分離して課税されるため、給与所得と合算されることはありません。この分離課税と2分の1という仕組みが、退職所得の負担を軽くしています。長年の勤務に対する対価であり、退職後の生活の原資でもあるという性質を踏まえた扱いです。給与として同じ金額を受け取る場合と比べると、負担の差は大きくなります。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 2年以下 | 80万円(40万円×年数が80万円未満のため) |
| 5年 | 200万円(40万円×5年) |
| 10年 | 400万円(40万円×10年) |
| 20年 | 800万円(40万円×20年) |
| 30年 | 1,500万円(800万円+70万円×10年) |
| 40年 | 2,200万円(800万円+70万円×20年) |
勤続5年以下の場合
結論: 2分の1の適用に制限があります。役員等かどうかで扱いが分かれます。役員等としての勤続が5年以下なら特定役員退職手当等で2分の1の適用がなく、役員等以外なら短期退職手当等として300万円を超える部分に適用されません。
特定役員退職手当等
役員等としての勤続年数が5年以下である人が受け取る退職手当等は、特定役員退職手当等に当たります。所得税法201条1項1号ハは、この場合の課税退職所得金額を「その支払う退職手当等の金額から退職所得控除額を控除した残額に相当する金額」としています。2分の1の適用がありません。短期間で役員に就任して退職金を受け取る形への対応として設けられた規定です。
短期退職手当等
役員等以外で、勤続年数が5年以下の人が受け取る退職手当等は短期退職手当等です。同号ロは、収入金額から退職所得控除額を控除した残額が300万円以下である場合は「当該残額の二分の一に相当する金額」とし、300万円を超える場合は「百五十万円とその支払う退職手当等の金額から三百万円に退職所得控除額を加算した金額を控除した残額との合計額」としています。300万円を境に、超える部分には2分の1が適用されません。
判定の順序
まず役員等としての勤続年数が5年以下かを見ます。該当すれば特定役員退職手当等で、2分の1の適用はありません。該当しない場合で勤続年数が5年以下なら短期退職手当等となり、300万円までの部分に2分の1が適用されます。いずれにも当たらなければ一般退職手当等です。3つの区分のどれに当たるかで、計算式が変わります。役員等としての勤続年数と、全体の勤続年数を分けて把握しておく必要があります。従業員として長く勤めた後に役員になった人では、この2つが違う年数になります。
申告書がない場合
結論: 収入金額に20.42パーセントを乗じた金額を源泉徴収します。退職所得控除も2分の1の計算も反映されないため、勤続年数が長い人ほど本来の税額との差が大きくなります。支払った後に受け取っても、その支給には反映できません。
一律の税率になる
退職所得の受給に関する申告書の提出がない場合、退職手当等の金額に20パーセント(復興特別所得税を含めて20.42パーセント)を乗じた金額が源泉徴収税額になります。退職所得控除も、2分の1の計算も反映されません。勤続年数が長い人ほど、本来の税額との差が大きくなります。勤続30年で退職金1,500万円という場合、申告書があれば控除額が1,500万円で税額はゼロですが、申告書がなければ約306万円が源泉徴収されます。
受け取る側が確定申告で精算する
源泉徴収された税額が本来の税額を上回っていれば、確定申告で還付を受けられます。ただし、申告をしなければ戻ってきません。受け取る側に手間と時間の負担が生じるということです。退職した年の翌年に確定申告を行い、還付を受けるまで数か月かかります。この間、資金が拘束されます。退職後の生活の原資として退職金を受け取る人にとって、この期間の影響は小さくありません。
支払後に受け取っても使えない
申告書は「支払を受ける時までに」提出するものです。支払った後に受け取っても、その支給についての源泉徴収には反映できません。再計算して差額を還付するという処理はできません。支給の日程が決まった段階で、申告書の受領を手順に入れておく必要があります。書類そのものは1枚で、記載する内容も多くありません。渡して書いてもらうだけの作業なので、忘れなければ済みます。
住民税の特別徴収
結論: 所得税とは別に、住民税も分離課税として特別徴収します。課税退職所得金額に市町村民税6パーセントと道府県民税4パーセントを乗じて計算し、1月1日現在の住所地の市町村へ翌月10日までに納入します。
計算の仕組み
退職所得に係る住民税は、他の所得と分離して課税されます。課税退職所得金額に、市町村民税6パーセントと道府県民税4パーセントを乗じて計算します。所得税の計算で求めた課税退職所得金額を、そのまま使えます。会社が特別徴収し、退職した年の翌月10日までに納入します。所得税のように申告書の有無で計算が変わることはなく、常にこの方法で計算します。この点は所得税と扱いが違います。
納入先
住民税は、退職した日の属する年の1月1日現在の住所地の市町村へ納入します。退職後に引っ越しても、1月1日時点の住所で判定します。給与から特別徴収していた住民税とは別の手続になるため、納入書も別に必要です。従業員が複数の市町村に住んでいる会社では、それぞれの市町村に納入することになります。納入先の確認を、支給の準備の段階で済ませておいてください。
給与の住民税との整理
退職する月までの給与から特別徴収していた住民税についても、精算が必要です。残りの期間の税額を一括徴収するか、本人が納付する形に切り替えるかを選びます。退職金の住民税と、給与の住民税は別の話です。この2つを混同すると、納入の処理で誤りが生じます。退職金の住民税は分離課税で、その年に納入します。給与の住民税は前年の所得に対するもので、6月から翌年5月までの期間に分けて徴収しているものです。性質がまったく違います。
支給後の手続
結論: 源泉徴収票の作成と交付、法定調書の提出、住民税の納入。この3つが続きます。源泉徴収票の交付は退職の日以後1か月以内、所得税と住民税の納付はいずれも支払った月の翌月10日までです。
源泉徴収票の交付
退職所得の源泉徴収票を作成し、退職した人に交付します。交付の期限は、退職の日以後1か月以内とされています。給与所得の源泉徴収票とは別の様式です。その年に他の会社から退職金を受け取る可能性がある人にとっては、この源泉徴収票が申告書の添付書類になります。転職して間もない人や、複数の会社の役員を兼ねていた人では、この場面が生じます。
税務署への提出
役員に支払った退職手当等については、退職所得の源泉徴収票を税務署へ提出します。従業員に支払ったものについては、税務署への提出は不要とされてきました。ただし、令和8年1月1日以後に支払うべき退職手当等については、この範囲が見直され、役員以外の人についても提出が必要になります。提出の範囲が変わる点は、次回の作成時に確認してください。
市町村への提出
退職した人の住所地の市町村へ、特別徴収票を提出します。こちらは役員に支払ったものについて提出が必要とされています。税務署と市町村で、提出の要否が違うという点は混乱しやすい部分です。それぞれの様式と提出先を確認しておく必要があります。実務では、退職所得の源泉徴収票と特別徴収票が1枚の様式にまとまっており、本人交付用・税務署提出用・市町村提出用として複数枚で構成されています。用途ごとに切り分けて使う形です。
実務で間違えやすい点
結論: 申告書を受け取っていない、勤続年数を切り捨てている、住民税を忘れている。この3つが典型です。いずれも支給の前に確認しておけば防げるものばかりで、支払った後では取り返しがつかないものもあります。
申告書を受け取っていない
最も影響が大きいのがこれです。支給の日程を決めた段階で、申告書の受領を手順に入れておけば防げます。退職する本人にとって、金額の差が大きいためです。手続としては書類1枚を受け取るだけなので、忘れなければ済む話でもあります。退職の手続の一覧に加えておく形が確実です。離職票や健康保険の資格喪失の手続と同じ場で渡せば、抜けにくくなります。
勤続年数を切り捨てている
勤続年数の1年未満の端数は切り上げます。他の税務の計算では切り捨てが多いため、逆になっている点を見落としやすくなります。10年1か月でも11年として計算します。1年の違いで控除額が40万円または70万円変わるため、影響は小さくありません。入社の日と退職の日を確認し、月単位で数えてから切り上げてください。就業規則の定めで勤続期間の起算日が違う場合もあります。
住民税を忘れている
所得税の源泉徴収は意識されやすい一方、住民税の特別徴収が漏れることがあります。市町村民税6パーセント、道府県民税4パーセントを課税退職所得金額に乗じて計算し、翌月10日までに納入します。納入先は1月1日現在の住所地の市町村です。給与の住民税を納入している市町村と同じとは限りません。退職金の額が大きければ、住民税の額も相応になります。所得税の計算が終わった時点で、住民税もあわせて計算する手順にしておいてください。
事例:申告書を受け取らずに支給した会社
製造業の会社から、退職金の処理についてご相談をいただきました。勤続28年の従業員に、退職金1,400万円を支給されていました。
源泉徴収税額は約286万円でした。
収入金額の20.42パーセントで計算されていました。
申告書の提出を受けていなかったため、この計算になっていました。勤続28年であれば退職所得控除額は1,360万円です。収入金額1,400万円から控除額を引くと40万円、その2分の1の20万円が課税退職所得金額になります。この場合の所得税額は1万円程度です。
つまり、285万円ほどが多く源泉徴収されていたことになります。
支給後に申告書を受け取っても、その支給についての源泉徴収には反映できません。本人に確定申告をしていただき、還付を受ける形になりました。
書類1枚を受け取っていなかったために、285万円が翌年まで戻らないという結果です。退職の手続の一覧に申告書を加え、支給の前に確認する運用に変えています。
よくある質問
退職所得の受給に関する申告書とは何ですか?
申告書がないとどうなりますか?
退職所得控除額はどう計算しますか?
勤続5年以下の場合は何が変わりますか?
住民税はどうすればよいですか?
源泉徴収票はいつまでに渡しますか?
まとめ:支給の前に申告書を受け取る
退職金の源泉徴収で最も影響が大きいのは、退職所得の受給に関する申告書の有無です。
申告書の提出を受けていれば、退職所得控除額を反映し、残額の2分の1を課税退職所得金額として計算できます。提出がなければ、収入金額に20.42パーセントを乗じた金額が源泉徴収されます。勤続年数が長い人ほど、この差は大きくなります。
申告書は「支払を受ける時までに」提出するものです。支払った後に受け取っても、その支給についての源泉徴収には反映できません。受け取る側が確定申告で精算することになり、翌年まで資金が戻りません。
計算では、勤続年数の1年未満の端数を切り上げるという点が他の税務の計算と逆になります。10年1か月でも11年として、控除額を計算します。
勤続5年以下の場合は、2分の1の適用に制限があります。役員等としての勤続が5年以下なら特定役員退職手当等で2分の1の適用がなく、役員等以外なら短期退職手当等として300万円を超える部分に2分の1が適用されません。
そして、住民税の特別徴収も忘れないでください。所得税とは別に、課税退職所得金額に市町村民税6パーセントと道府県民税4パーセントを乗じて計算し、1月1日現在の住所地の市町村へ納入します。
税理士法人Light UPでは、退職金の計算と、支給前後の手続についてのご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「所得税法」(昭和四十年法律第三十三号)第30条、第199条、第201条、第203条、第226条
- e-Gov 法令検索「所得税法施行令」(昭和四十年政令第九十六号)第69条、第70条、第71条
- e-Gov 法令検索「地方税法」(昭和二十五年法律第二百二十六号)第50条の2、第328条
- 国税庁「退職金と税」




