退職所得の受給に関する申告書とは?退職金の源泉徴収と書き方
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
退職所得の受給に関する申告書は、退職金を受け取る人が、支払を受ける時までに会社へ出す書類です。会社が受け取っていれば、退職所得控除と2分の1課税を反映した源泉徴収ができます。受け取っていなければ、退職金の額に20.42%を掛けた金額が一律で源泉徴収されます。この記事では、出す人と期限、書き方、出さなかったときの扱い、税額の計算、支払後の手続を、国税庁の資料と条文(2026年10月時点)で整理します。
退職金の申告書は誰が出す?
結論: 退職金を受け取る本人が書き、支払う会社へ、退職金を受け取る時までに出します。会社は受け取って保管し、税務署へは送りません。
書く人と受け取る人
正式な名前は「退職所得の受給に関する申告書」で、所得税法203条が定めています。国税庁の様式は住民税の退職所得申告書と兼ねた1枚で、退職者は両方の分をこの1枚に書きます。
用紙を用意して渡すのは、支払う会社の側の仕事です。支給日が決まったら、支給日より前に退職者へ渡します。退職金を払うときに会社が受け取る届出書類は、この申告書です。
提出の期限
条文は、退職手当等の支払を受ける居住者は「その支払を受ける時までに」申告書を提出しなければならないと定めています。期限は、退職金を振り込む日より前です。年に一度まとめて集める書類ではなく、退職金を払うたびに受け取ります。
税務署へは送らない
同条3項は、申告書が会社に受理されたときは、その時に税務署長へ提出されたものとみなすと定めています。会社が受け取った時点で提出は済み、税務署へ送る必要はありません。会社で保管し、税務署から求められたときに出せる状態にしておきます。会社が政令の要件を満たすときは、書面に代えて電磁的方法で受け取ることもできます(同条4項)。
退職金の源泉徴収でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、申告書を受け取らずに払う、他の退職金の記載が漏れる、勤続年数の端数を切り捨てる、住民税を納め忘れる、の4つです。払ったあとでは直せないものがあり、退職者が確定申告をするまで税金が戻りません。
退職金を払ってから申告書のことに気づいたと相談に来られる方が少なくありません。いずれも、支払の前に確かめれば防げます。
申告書を受け取らずに払う
金額への影響が最も大きい間違いです。申告書を受け取っていないと、退職所得控除が反映されず、退職金の額に20.42%が掛かります。勤続年数が長い人ほど、本来の税額との差が大きくなります。退職者は、多く引かれた分を翌年の確定申告で取り戻すことになります。
他の退職金の記載漏れ
同じ年に他の会社などから退職金を受け取る人は、その分を申告書に書く必要があります。書かずに出された申告書の不足分は、国税庁の質疑応答(令和7年8月1日時点)で、退職者の確定申告では精算できず、支払った会社が源泉徴収で精算するとされています。
勤続年数の端数の切り捨て
勤続年数の1年未満の端数は、1年に切り上げます。10年2か月は11年です。切り捨てると、控除額が1年分(40万円または70万円)少なくなり、源泉徴収が多すぎる額になります。
住民税の納め忘れ
所得税の源泉徴収は意識していても、住民税の特別徴収が漏れることがあります。退職金から住民税も徴収して、市区町村へ納めます。
税理士が確認する順番
税理士は、退職金の源泉徴収を、次の順番で確かめます。
退職金の支給予定額と、退職する人の入社日、役員だった期間、その年に他から受け取った退職金の有無が分かる資料をお持ちいただければ、申告書の記載と源泉徴収税額が合っているかを一緒に確かめます。
申告書の書き方は?
結論: 申告書に書くのは、支払者の名称、支払済みの他の退職手当等の有無、勤続年数、障害者になったことが原因の退職かどうか、の4つです。
書く4つの事項
条文が定める記載事項は、次のとおりです。
- 退職手当等の支払者の氏名または名称
- 支払済みの他の退職手当等があるかどうか。あるときは、その区分(一般・短期・特定役員)と金額
- 退職所得控除額の計算の基礎となる勤続年数
- 障害者になったことに直接の原因があって退職した場合は、その事実
他の退職金があるときの書き方
その年に他から退職金を受け取っている人は、その旨を書き、その退職金の源泉徴収票を添付します。条文が、添付を義務にしています。
前年以前に受け取った退職金と勤続期間が重なる人は、退職所得控除額が減ります。国税庁のタックスアンサーNo.2735(令和8年4月1日現在法令等)によると、調べる範囲は前年以前4年内です。確定拠出年金の老齢給付金を一時金で先に受け取った人は、令和8年1月1日以後に受け取る退職手当等から、前年以前9年内になりました。
勤続年数の数え方
入社した日から退職する日までの期間を数え、1年未満の端数は切り上げます。10年2か月なら11年です。
障害者になって退職した場合
障害者になったことが直接の原因で退職した場合は、退職所得控除額に100万円が加わります。条文は、勤続年数から計算した額が80万円に満たないときは80万円とし、そこへ100万円を加えると定めています。申告書に書かなければ、加算は反映されません。
申告書を出さないとどうなる?
結論: 退職金の額に20.42%を掛けた金額が源泉徴収されます。退職所得控除も2分の1課税も反映されません。退職者は、翌年の確定申告で精算することになります。
一律20.42%の源泉徴収
所得税法201条3項は、支払を受ける時までに申告書を提出していないときは、退職手当等の金額に100分の20の税率を掛けた額を徴収すると定めています。これに復興特別所得税を加えると、20.42%になります。国税庁のタックスアンサーNo.2732(令和8年4月1日現在法令等)も、この扱いを示しています。
確定申告での精算
多く引かれた税金は、退職者が確定申告をすれば戻ります。申告をしなければ戻りません。
支払後に出された場合
期限は、支払を受ける時までです。支払ったあとに申告書が出されても、一律の税率で徴収した分は会社の源泉徴収では直らず、退職者の確定申告で精算します。会社にできるのは、支払う前に受け取っておくことです。
退職金の税額はどう計算する?
結論: 退職金から退職所得控除額を引き、残りの2分の1を課税退職所得金額とします。その金額を速算表に当てはめると、源泉徴収する所得税と復興特別所得税が求まります。
退職所得控除額
勤続年数が20年以下なら、40万円に勤続年数を掛けます。計算した額が80万円に満たないときは80万円です。20年を超えるときは、800万円に、70万円に20年を超えた年数を掛けた額を加えます。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 2年以下 | 80万円 |
| 5年 | 200万円 |
| 10年 | 400万円 |
| 20年 | 800万円 |
| 30年 | 1,500万円 |
| 40年 | 2,200万円 |
課税退職所得金額の3つの区分
課税する額は、退職手当等の区分で決まります。
| 区分 | 当てはまる人 | 課税退職所得金額 |
|---|---|---|
| 一般退職手当等 | 下の2つに当たらない人 | 残りの2分の1 |
| 短期退職手当等 | 役員等以外として勤めた期間が5年以下の人 | 残りが300万円以下なら2分の1。300万円を超えるときは、150万円に、300万円を超えた部分をそのまま足した額 |
| 特定役員退職手当等 | 役員等としての勤続年数が5年以下の人 | 残りの全額(2分の1にしない) |
役員等とは、法人税法上の役員のほか、国会議員、地方議員、国家公務員、地方公務員です。
源泉徴収税額の速算表
課税退職所得金額が決まったら、国税庁の速算表(令和8年分)に当てはめます。税額は(課税退職所得金額×税率−控除額)×102.1%で、1円未満は切り捨てます。102.1%は、復興特別所得税を足す係数です。
| 課税退職所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | なし |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
計算の例
国税庁のタックスアンサーNo.2732の例です。勤続10年2か月、退職金800万円、申告書の提出ありで計算します。
- 勤続年数は11年(端数を切り上げ)
- 退職所得控除額は40万円×11年=440万円
- 課税退職所得金額は(800万円−440万円)×2分の1=180万円
- 源泉徴収税額は180万円×5%×102.1%=91,890円
支払ったあとの手続は?
結論: 所得税は原則として支払った月の翌月10日までに納め、住民税は翌月10日までに市区町村へ納入申告と納入をします。退職の日以後1か月以内に、源泉徴収票を本人へ交付します。
所得税の納付
源泉徴収した所得税と復興特別所得税は、原則として翌月10日までに納めます。納期の特例の承認を受けている会社は、1月から6月に源泉徴収した分は7月10日、7月から12月の分は翌年1月20日が期限です(国税庁タックスアンサーNo.2505)。
住民税の特別徴収
退職金の住民税は、ほかの所得と分けて会社が特別徴収します。計算は所得税と同じ方法で、税率は市町村民税6%と道府県民税4%の合計10%です(地方税法328条の2・328条の3・50条の4)。
納入先は、退職金の支払を受けるべき日の属する年の1月1日現在の住所がある市町村です。退職後に引っ越しても、1月1日の住所で決まります。会社は徴収した月の翌月10日までに、納入申告書を出して納めます(同法328条の5)。
住民税は、申告書の提出がなくても、他の退職金がない前提で同じ方法で計算します(同法328条の6第2項)。所得税のように、申告書の有無で税額が大きく変わることはありません。
退職所得の源泉徴収票
退職所得の源泉徴収票は、すべての受給者に退職後1か月以内に交付します。国税庁のタックスアンサーNo.7421によると、令和8年1月1日以後に支払う退職手当等からは、役員かどうかを問わず、全員分を税務署へ提出します。提出は退職後1か月以内で、同じ年に退職した人の分を翌年1月31日までにまとめて出すこともできます。市区町村への特別徴収票は、当分の間、提出を省略できます。
申告書の保存
会社は、受け取った申告書を、提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間保存します。令和8年1月1日以後に支払を受けるべき確定拠出年金の老齢給付金の一時金に係る申告書は10年間です(国税庁タックスアンサーNo.2503)。
よくある質問
退職所得の受給に関する申告書は、誰が書きますか?
申告書を出さないと、退職金の税金はいくらになりますか?
退職金は年末調整に含めますか?
申告書を出していれば、退職者は確定申告をしなくてよいですか?
まとめ:支払う前に申告書を受け取ろう
- 退職所得の受給に関する申告書は、退職金を受け取る人が、支払を受ける時までに会社へ出す。会社が保管し、税務署へは送らない
- 申告書があれば、退職所得控除を引き、残りの2分の1に課税する。なければ、退職金の額の20.42%が一律で源泉徴収される
- 勤続年数の端数は切り上げる。他の退職金がある人は、申告書に書いて源泉徴収票を添付する
- 住民税は、翌月10日までに納入する。源泉徴収票は、退職後1か月以内に本人へ交付する
退職金の支給が決まっている方、退職者が他の退職金を受け取ったか分からない方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。支給予定額と勤続の経緯を確認し、申告書の記載、源泉徴収税額、住民税の納入までを整理します。
出典
- e-Gov 法令検索「所得税法」第30条、第201条、第203条
- e-Gov 法令検索「地方税法」第50条の4、第328条から第328条の6まで
- 国税庁 タックスアンサー No.2732、No.1420、No.2735(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.2505、No.2503、No.7421
- 国税庁「退職所得の源泉徴収税額の速算表(令和8年分)」
- 国税庁 質疑応答事例「退職所得の受給に関する申告書に支払済の退職手当を記載しないで提出した場合の是正方法」(令和7年8月1日時点)





