賞与の社会保険料|計算の仕組みと上限
「賞与からも社会保険料を引くのですね。月給と同じ計算でいいのでしょうか」。「退職する人に出す賞与は、保険料をどう扱えばいいのか分かりません」――はじめて賞与を出す会社から、この2つはよくいただくご相談です。
結論からお伝えすると、賞与にも健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料がかかります。計算の土台は標準賞与額で、支給額から1,000円未満を切り捨てた金額に、月給と同じ保険料率を掛けます。ただし上限があり、健康保険は年度累計573万円、厚生年金は1か月あたり150万円で頭打ちです。
税理士法人Light UPでは、賞与の保険料でつまずくのは料率ではなく引かなくてよい場面の判断だと考えています。退職する月の賞与、育児休業中の賞与、年4回以上出している賞与。この3つは扱いが変わります。
この記事では、賞与の社会保険料の計算方法と上限、賞与にあたるかどうかの判定、保険料がかからない場面、そして所得税の源泉徴収との違いを、実際に給与計算を代行している立場から整理します。
賞与にも月給と同じ料率で保険料がかかる
結論: 賞与には健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料がかかります。標準賞与額に月給と同じ保険料率を掛けて計算し、会社と本人が半分ずつ負担します。
計算の順番と、料率は月給と変わらないこと
- 賞与の支給総額から1,000円未満を切り捨てて標準賞与額を出す
- 標準賞与額に健康保険料率・介護保険料率・厚生年金保険料率をそれぞれ掛ける
- 出た金額を会社と本人で折半する
支給額が324,500円なら、標準賞与額は324,000円です。
賞与だけ高い料率が適用される、といったことはありません。健康保険料率は都道府県ごと(協会けんぽの場合)、厚生年金保険料率は全国一律です。
介護保険料は40歳以上65歳未満の被保険者に加算されます。
標準報酬月額の等級表は使わない。雇用保険料は総支給額にかかる
月給の保険料は標準報酬月額の等級表に当てはめて計算しますが、賞与は等級に置き換えません。標準賞与額に直接料率を掛けます。
ここが月給の計算と一番違うところです。
社会保険とは別に、雇用保険料も賞与から控除します。こちらは標準賞与額ではなく、支給総額に雇用保険料率を掛けて計算します。
1,000円未満の切り捨てもありません。同じ賞与から引くものでも、計算の土台が違います。
標準賞与額には健康保険と厚生年金で別の上限がある
結論: 標準賞与額の上限は、健康保険が年度(4月1日から翌年3月31日)の累計で573万円、厚生年金が1か月あたり150万円です。上限を超えた部分には保険料がかかりません。
健康保険は年度累計573万円
e-Gov 法令検索で確認できる健康保険法第45条は、標準賞与額について、その月に受けた賞与額から「千円未満の端数を生じたときは、これを切り捨てて」決定するとしたうえで、年度における標準賞与額の累計額が573万円を超えることとなる場合には「当該累計額が五百七十三万円となるようその月の標準賞与額を決定し、その年度においてその月の翌月以降に受ける賞与の標準賞与額は零とする」と定めています。
ここでいう年度は、毎年4月1日から翌年3月31日までです。会社の事業年度ではありません。
厚生年金は1回150万円。上限の比較と、達するのは役員が多いこと
厚生年金保険法第24条の4は、標準賞与額が150万円を超えるときは「これを百五十万円とする」と定めています。健康保険と違い、年度の累計ではなく1か月あたりの上限です。
同じ月に2回賞与を出した場合は合算して判定します。
| 項目 | 健康保険・介護保険 | 厚生年金 |
|---|---|---|
| 上限の単位 | 年度(4月〜翌年3月)の累計 | 1か月あたり |
| 上限額 | 573万円 | 150万円 |
| 超えた部分 | 保険料がかからない | 保険料がかからない |
| 端数処理 | 1,000円未満切捨て | 1,000円未満切捨て |
年間の賞与が573万円を超えるのは、多くの場合、役員賞与のある会社です。従業員の賞与でこの水準に達することは多くありません。
一方、厚生年金の150万円は1回の支給額で判定するため、まとまった額の役員賞与では超えることがあります。
年度をまたぐと累計はリセットされ、転職した年は通算される
健康保険の573万円は年度単位です。3月に支給した賞与と4月に支給した賞与は、別の年度として集計されます。
支給月を3月にするか4月にするかで、累計の扱いが変わる場合があります。事業年度が3月決算の会社では、決算賞与の支給月がちょうどこの境目に来ます。
健康保険の年度累計は、同じ保険者のもとでの累計です。転職して保険者が変わった場合、新しい保険者では前職分を含めずに集計されます。
同一の保険者に継続して加入している場合は通算されるため、判定は加入先で確認します。
年4回以上出すと賞与ではなく報酬になる
結論: 社会保険上の賞与は、3か月を超える期間ごとに受けるものを指します。年4回以上支給されるものは報酬として扱われ、標準報酬月額の計算に含まれます。
法律上の定義と、年4回以上なら標準報酬月額へ移ること
健康保険法第3条第6項は、賞与について「三月を超える期間ごとに受けるもの」と定めています。同条第5項は報酬の定義から「臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるもの」を除いています。
つまり、支給の間隔が3か月以下で繰り返されるものは報酬です。
年4回以上支給される賞与は、前年7月から当年6月までの支給額を12で割り、標準報酬月額の計算に加えます。毎月の保険料が上がる形になります。
賞与支払届の提出も不要になります。
決算賞与を追加で出したとき。名称ではなく実態で決まる
通常の夏冬2回に加えて決算賞与を出しても、年3回であれば賞与のままです。年4回目を出した時点で扱いが変わります。
支給回数を増やす前に、この線を確認しておく必要があります。
一時金、特別手当、報奨金といった名前でも、3か月を超える間隔で支給されるものは賞与です。名称は判定に影響しません。
判定の基準は、支給の間隔と回数の2つだけだと考えてください。
資格喪失月の賞与には保険料がかからない
結論: 退職などで被保険者資格を喪失した月に支給された賞与については、社会保険料を控除しません。健康保険法上、資格を喪失した月分の保険料は算定しないとされているためです。
条文の定めと、月末退職かどうかで分かれること
健康保険法第156条第3項は、「前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合においては、その月分の保険料は、算定しない」と定めています。
資格喪失日は退職日の翌日です。月末退職の場合は翌月1日が資格喪失日となるため、退職月は保険料がかかります。
| 退職日 | 資格喪失日 | 退職月の賞与の保険料 |
|---|---|---|
| 6月30日(月末) | 7月1日 | かかる |
| 6月29日 | 6月30日 | かからない |
1日違いで結果が変わります。賞与の支給日と退職日が同じ月にある場合は、必ず確認します。
賞与支払届は提出する。雇用保険料は控除する
保険料がかからない場合でも、賞与支払届の提出は必要です。健康保険の年度累計573万円の管理に使われるためです。
保険料が発生しないから届出も不要、と考えると累計の管理がずれます。
社会保険料がかからない場合でも、雇用保険料は控除します。雇用保険は月単位ではなく、支払った賃金に対してかかる仕組みだからです。
ここを一緒に止めてしまう誤りが実務では起こります。
産休・育休中の免除には条件がある
結論: 産前産後休業と育児休業の期間中は、申出により社会保険料が免除されます。ただし賞与の保険料については、賞与月の月末を含み、連続して1か月を超える育児休業を取った場合に限られます。
育休の免除は令和4年10月に変わった。短期間の育休の場合
健康保険法第159条は、育児休業等をしている被保険者について保険料を徴収しないと定めたうえで、括弧書きで「その育児休業等の期間が一月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料に限る」としています。
つまり、育休が1か月以下の場合、月給の保険料は免除されても賞与の保険料は免除されません。賞与の保険料が免除されるのは、賞与を支給した月の末日を含む育休で、その期間が1か月を超える場合です。
以前は、賞与支給月の月末を含む短期間の育休で賞与の保険料が免除される扱いがありました。この点が見直され、現在は賞与月の月末を含む1か月を超える育休が条件になっています。
産前産後休業中は免除され、免除されても給付は減らない
産前産後休業期間中については、期間の長短による区別なく保険料が免除されます。申出の手続きが必要です。
免除された期間の扱いは、給付の側では別に考えられています。
保険料が免除された期間も、将来の年金額の計算では保険料を納めたものとして扱われます。免除を受けたことで年金が減ることはありません。
会社負担分もあわせて免除されるため、会社にとっても負担が下がります。
申出をしないと免除されない
産休・育休のいずれも、事業主から保険者への申出が要件です。休業に入った事実だけでは自動的に免除されません。
休業の開始が決まった段階で申出書を出す。復帰予定日が変わったときの変更届も必要になります。
免除は自動では始まりません。会社が年金事務所へ申出書を提出して初めて効力が生じます。育休に入る予定が決まった段階で、賞与の支給月と重なるかを確認し、手続きの担当を決めておくことです。
賞与支払届は支給から5日以内に提出する
結論: 賞与を支給したら、被保険者賞与支払届を日本年金機構へ提出します。提出期限は支給日から5日以内で、この届出をもとに保険料が決定されます。
提出の期限が短い。賞与支払予定月の登録
給与の各種届出のなかでも、5日以内は短い部類です。賞与の計算が終わったらすぐに手続きへ移る段取りが要ります。
電子申請(e-Gov)や電子媒体でも提出できます。
新規適用のときに賞与支払予定月を届け出ていると、その月が近づくと届出用紙が送られてきます。予定月に賞与を支給しなかった場合は、不支給報告書を提出します。
何も出さないでいると、督促が届きます。
対象は被保険者全員。記載を誤ると累計がずれる
役員も含め、社会保険の被保険者であれば全員が対象です。保険料がかからない資格喪失月の人も、届出には含めます。
健康保険の年度累計573万円は、この届出をもとに管理されます。金額を誤って提出すると、後の賞与で上限の判定が狂います。
訂正の届出はできますが、手間がかかります。支給額と控除額を確定させてから提出するほうが確実です。
所得税の計算は社会保険料と別の仕組み
結論: 賞与から差し引く所得税は、前月の給与額と扶養親族の数から求めた税率を賞与に掛けて計算します。社会保険料のように上限や等級表を使う計算ではありません。
| 項目 | 社会保険料 | 所得税 |
|---|---|---|
| 計算の土台 | 標準賞与額(1,000円未満切捨て) | 賞与から社会保険料を引いた金額 |
| 使う資料 | 保険料額表・保険料率 | 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表 |
| 参照する数字 | その月の賞与額 | 前月の給与(社会保険料控除後)と扶養親族等の数 |
| 上限 | あり(573万円・150万円) | なし |
| 精算 | なし | 年末調整で精算 |
賞与の所得税は、前月の社会保険料控除後の給与額から税率を求めます。年間の見込みに近い税率を当てるための仕組みです。
前月に給与の支払がない場合は、別の計算方法が定められています。
税率を掛ける対象は、賞与から社会保険料を差し引いた金額です。控除の順番を間違えると税額がずれます。
給与計算ソフトを使えば自動で処理されますが、手計算のときは順番に注意が要ります。
賞与の所得税はあくまで概算です。年間の正しい税額との差は、年末調整で精算されます。
役員賞与は税務の要件が先に来る
結論: 役員に賞与を支給する場合、社会保険料の前に法人税法上の損金算入の要件を満たしているかが問われます。事前確定届出給与の届出を出していなければ、支給額は損金になりません。
届出の期限が最初の関門。届出どおりでないと全額が損金にならない
役員賞与を損金にするには、株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日までに、事前確定届出給与に関する届出書を提出します。
新設法人の場合は、設立の日以後2か月を経過する日までです。
届出た日と金額のとおりに支給することが要件です。1円でも違えば、その支給額の全額が損金不算入になります。減額して支給した場合も同様です。
届出は予約であって、当日の変更が利かない予約だと考えてください。
社会保険料の会社負担も同時に出ていく。決算賞与とは要件が違う
役員賞与を出すと、保険料の会社負担分が別に発生します。損金算入の可否だけを見て金額を決めると、資金の必要額を見誤ります。
支給額の15%前後が会社負担として上乗せされる規模感で、先に資金を見ておきます。
従業員に対する決算賞与は、事前の届出なしに損金にできます。ただし未払計上する場合は、支給額の通知・支給時期・損金経理の3要件があります。
役員と従業員で扱いが分かれる点に注意が要ります。
実務でつまずきやすい5つの場面
結論: 賞与の社会保険料でご相談が多いのは、退職月の判定・育休中の扱い・年4回目の支給・上限の管理・賞与支払届の失念の5つです。いずれも支給後に気づくと訂正の手間がかかります。
退職者への賞与、育休中の思い込み、決算賞与で年4回目
資格喪失月に支給した賞与から保険料を控除してしまい、後から返金する例です。退職日が月末かどうかで結果が変わります。
育休が1か月以下の場合、賞与の保険料は免除されません。令和4年10月からの取扱いです。過去の運用のまま処理すると誤ります。
夏・冬に加えて決算賞与を2回出すと年4回になり、賞与ではなく報酬として扱われます。標準報酬月額の計算に含める必要が出てきます。
年度累計の管理、賞与支払届の出し忘れ、入社したばかりの人
健康保険の573万円は年度累計です。年に複数回賞与を出す会社では、前回までの累計を確認してから計算します。
支給から5日以内という期限が短く、給与計算が終わった安心感で抜けることがあります。賞与計算のチェックリストに入れておくと防げます。
資格取得月に支給した賞与にも保険料はかかります。喪失月は算定しないという規定はありますが、取得月にはそうした除外がありません。
入社初月に賞与の支給日が来た場合は、通常どおり控除します。
事例:役員賞与で上限に達した会社
役員3名の会社から、決算対策として役員賞与を検討しているというご相談をいただきました。「事前確定届出給与の届出は出しました。あとは支給するだけです」というお話でした。
金額を確認すると、1名について1回の支給額が150万円を大きく超える設定でした。厚生年金の標準賞与額は150万円で頭打ちになるため、それを超える部分には厚生年金保険料がかかりません。
一方、健康保険は年度累計573万円までかかります。この方は前年度に賞与の実績がなく、今回が年度で初めての賞与でした。
社会保険料の会社負担分を含めて試算し直したところ、資金の必要額が当初の見込みと数十万円ずれていました。届出の金額は変更できないため、納付の時期を含めて資金の段取りを組み直しています。
経営者からは「税金だけ見て決めていました」という言葉がありました。役員賞与は、損金算入の要件と社会保険料の両方を並べて考える必要があります。
よくある質問
賞与の社会保険料はいつ納めるのでしょうか?
退職者に出す賞与から保険料を引かなくてよいのはなぜですか?
賞与を年4回出すと、どのくらい負担が変わりますか?
賞与支払届を出し忘れた場合はどうなりますか?
現金以外で支給した賞与も対象になりますか?
まとめ:料率より、引かない場面の見極め
- 賞与の社会保険料は、標準賞与額(1,000円未満切捨て)に月給と同じ料率を掛けて計算する
- 上限は健康保険が年度累計573万円、厚生年金が1か月あたり150万円
- 年4回以上支給すると賞与ではなく報酬になり、標準報酬月額に含まれる
- 資格喪失月に支給した賞与には保険料がかからない。判定は退職日が月末かどうか
- 育休中の賞与の保険料が免除されるのは、賞与月の月末を含み、連続して1か月を超える育休を取った場合のみ
先に確認すべきは料率ではなく、その賞与が保険料の対象になるかどうかです。対象かどうかを間違えると、返金や追加徴収という後始末が発生します。
やらなくてよいこともあります。標準報酬月額の等級表を賞与に当てはめる作業は不要です。標準賞与額に直接料率を掛けて構いません。
税理士法人Light UPでは、給与計算と社会保険の実務を含めたご相談をお受けしています。役員賞与の設計で税金と社会保険料の両方を見たい――そうしたご相談も、無料相談からお寄せください。
出典
- e-Gov 法令検索「健康保険法」(第3条・第45条・第46条・第156条・第159条)
- e-Gov 法令検索「厚生年金保険法」(第24条の4)
- 国税庁「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。健康保険料率は都道府県および健康保険組合により異なり、保険料率は毎年度改定されます。最新の料率は加入している保険者の案内をご確認ください。




