通勤手当の非課税限度額|交通手段別の上限
「車通勤の手当を上げたいのですが、いくらまでなら税金がかからないのでしょうか」。「限度額が変わったと聞いたのですが、うちの規程は直さなくて大丈夫でしょうか」――令和8年に入ってから、この2つのご相談が急に増えました。
結論からお伝えすると、通勤手当は一定の限度額までが非課税で、電車やバスなどの交通機関だけを使う場合は月15万円、マイカーや自転車の場合は片道の通勤距離に応じた金額が上限です。そしてマイカー通勤の限度額は令和8年に引き上げられ、区分も細かくなりました。
税理士法人Light UPでは、通勤手当は「支給額を決めるとき」ではなく「従業員が引っ越したとき」に問題が起きやすいと考えています。距離が変わったのに手当だけ据え置きになっている状態は、税務調査でも指摘されやすい箇所です。
この記事では、交通手段ごとの限度額、令和8年に変わった点、限度額を超えた場合の処理、そして社会保険料との関係までを整理します。
通勤手当は限度額まで非課税になる
結論: 通常の給与に加算して支給する通勤手当は、一定の限度額までが非課税です。限度額を超えた部分は給与として課税され、源泉徴収の対象になります。
給与とは別枠で扱われる理由と、加算して支給することが条件
通勤にかかる費用は、働くために必要な実費という性格を持ちます。そのため、一定の範囲までは所得税をかけないという扱いが所得税法で定められています。根拠は所得税法第9条と所得税法施行令第20条の2です。
非課税になるのは、通常の給与に加算して支給する通勤手当です。基本給に通勤費相当分を含めて支給している場合は、その全額が給与として課税されます。
「通勤手当込みで月30万円」という決め方をしている会社は、この点で不利になります。給与規程を分けておくほうが有利です。
実費精算でも同じ扱い
定期券を現物支給する場合も、実費を精算する場合も、限度額までは非課税という点は変わりません。
定期券を現物で渡す場合も、金額に置き換えて限度額の範囲内かを見ます。渡し方が現金か現物かで扱いが変わるわけではありません。判定に使うのは、その人の通勤方法と距離、そして支給した金額です。1か月あたりに換算して比べるのが原則です。
電車やバスだけで通勤する場合は月15万円まで
結論: 交通機関だけを利用して通勤している人の非課税限度額は、最も経済的かつ合理的な経路と方法による定期券などの金額です。ただし1か月あたり15万円が上限になります。
判断の基準は経済的かつ合理的な経路。新幹線とグリーン料金
国税庁のタックスアンサーNo.2582は、限度額について、通勤のための運賃・時間・距離等の事情に照らして最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額であると示しています。
最短距離である必要はありません。乗り換えが少ない、所要時間が短いといった事情も含めて判断します。
国税庁の同ページは「新幹線や特急列車を利用した場合の運賃等の額も、その通勤方法や経路が『最も経済的かつ合理的な経路および方法』に該当する場合には非課税の通勤手当に含まれますが、グリーン料金は最も経済的かつ合理的な通勤経路および方法のための料金とは認められないため含まれません」としています。
新幹線通勤そのものは認められる、という点は意外に知られていません。遠方の人材を採用する際の判断材料になります。
15万円を超えるのは例外的
月15万円は、新幹線定期でもなかなか届かない水準です。この上限に当たるのは、遠距離の新幹線通勤に有料道路の利用が重なるような場合に限られます。
限度額に近づくのは、新幹線通勤を認めている場合がほとんどです。制度として認めるなら、対象になる条件と上限を通勤手当規程に書いておくことです。個別に判断していると、あとから説明がつかなくなります。
マイカー・自転車通勤は距離で決まる
結論: マイカーや自転車で通勤している人の非課税限度額は、片道の通勤距離に応じて定められています。片道2キロメートル未満の場合は全額が課税対象です。
距離別の限度額と、経路の測り方
国税庁のタックスアンサーNo.2585が示す、令和8年4月1日現在の1か月あたりの限度額は次のとおりです。
| 片道の通勤距離 | 1か月あたりの限度額 |
|---|---|
| 2キロメートル未満 | 全額課税 |
| 2キロメートル以上 10キロメートル未満 | 4,200円 |
| 10キロメートル以上 15キロメートル未満 | 7,300円 |
| 15キロメートル以上 25キロメートル未満 | 13,500円 |
| 25キロメートル以上 35キロメートル未満 | 19,700円 |
| 35キロメートル以上 45キロメートル未満 | 25,900円 |
| 45キロメートル以上 55キロメートル未満 | 32,300円 |
| 55キロメートル以上 65キロメートル未満 | 38,700円 |
| 65キロメートル以上 75キロメートル未満 | 45,700円 |
| 75キロメートル以上 85キロメートル未満 | 52,700円 |
| 85キロメートル以上 95キロメートル未満 | 59,600円 |
| 95キロメートル以上 | 66,400円 |
ここでいう片道の通勤距離は、直線距離ではなく通勤経路に沿った長さです。地図上の直線で測ると短くなり、本来より低い区分を当ててしまいます。
実務では、経路検索の結果を印刷して従業員ごとに保管しておくのが確実です。調査で距離を問われたときに、そのまま説明できます。
2キロメートル未満は全額課税
近距離で自転車通勤をしている人に手当を出している場合、その全額が給与になります。少額でも課税対象なので、給与計算では分けて処理してください。
徒歩や自転車で通える距離であっても、会社として手当を出す判断はできます。ただし非課税になるわけではないという点は、支給を決める段階で説明しておく必要があります。少額だからと処理を省略すると、まとめて指摘を受けたときの影響が大きくなります。
令和8年の改正で限度額が引き上げられた
結論: マイカー通勤の非課税限度額は令和8年に引き上げられ、55キロメートル以上が一律だった区分が細分化されました。あわせて駐車場代の加算が認められています。
区分が95キロメートル以上まで細かくなった
改正前は55キロメートル以上が最上位の区分で、それ以上は距離が伸びても限度額は変わりませんでした。改正後は65・75・85・95キロメートルという区分が加わり、95キロメートル以上で66,400円まで上がります。
10キロメートル以上15キロメートル未満が7,100円から7,300円へ、15キロメートル以上25キロメートル未満が12,900円から13,500円へというように、既存の区分もそれぞれ引き上げられました。
規程の見直しが必要になる会社がある
限度額が上がったということは、これまで課税対象になっていた部分が非課税に変わる可能性がある、ということです。遠距離のマイカー通勤者がいる会社は、支給額と限度額を突き合わせ直す価値があります。
上限が上がっても、支給額を上げなければ手取りは変わりません。限度額はあくまで非課税で扱える上限であって、支給の義務が生じるものではないためです。
駐車場代と有料道路の扱いが変わった
結論: 一定の要件を満たす駐車場等を利用している場合、距離に応じた限度額に月5,000円を上限とする駐車場料金相当額を加算できます。有料道路を使う場合も合理的な料金を加算できます。
駐車場代は月5,000円まで上乗せできる
国税庁のタックスアンサーNo.2585は、一定の要件を満たす駐車場等を利用している人の限度額を、距離別の金額と1か月あたりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)との合計額としています。
ここでいう一定の要件を満たす駐車場等とは、勤務先の周辺か、通勤に使う駅・停留所などの周辺にある駐車場を指します。自宅の駐車場は含まれません。
パークアンドライドが対象になる。有料道路を使う場合
駅まで車で行き、そこから電車に乗る通勤方法があります。この場合の駅前駐車場の料金が、上乗せの対象になります。
地方の会社では、この通勤形態が珍しくありません。これまで課税対象にしていた駐車場代を非課税で扱えるようになったのは、実務上の変化として大きい部分です。
有料道路を利用してマイカー通勤をしている場合は、1か月あたりの合理的な料金の額と距離別の限度額との合計額が限度になります。ただし全体で月15万円が上限です。
駐車場も併用する場合は、距離別の限度額に有料道路の料金と駐車場代(上限5,000円)を加えた金額が限度となり、こちらも上限は月15万円です。
交通機関とマイカーを併用する場合
結論: 電車やバスとマイカーを併用している場合は、定期券などの金額と距離に応じた限度額を合計した金額が非課税限度額になります。合計しても月15万円が上限です。
自宅から駅までを車で移動し、そこから電車に乗る場合、自宅から駅までの距離で距離別の限度額を判定し、電車部分の定期代と合算します。
このとき、駅までの距離が2キロメートル未満であれば、その部分の限度額はゼロです。電車の定期代だけが非課税になります。
自宅から駅まで片道8キロメートル、駅から会社までの定期代が月12,000円、駅前駐車場が月4,000円という場合を考えます。距離別の限度額が4,200円、駐車場が4,000円、定期代が12,000円で、合計20,200円までが非課税で扱えます。
これは制度の当てはめを示した例であって、実際の判定は経路と駐車場の要件によって変わります。
限度額を超えたときの処理
結論: 非課税限度額を超えて通勤手当を支給する場合、超える部分は給与として課税されます。超過分は支給した月の給与に上乗せして源泉徴収を行います。
超過分は毎月の給与に足して計算する。6か月定期を支給する場合
国税庁のタックスアンサーNo.2585は、超える部分の金額について、通勤手当を支給した月の給与の額に上乗せして所得税および復興特別所得税の源泉徴収を行うとしています。
年末にまとめて調整するのではなく、毎月の給与計算で処理します。
6か月分の定期代をまとめて支給する場合、非課税限度額は1か月あたりの金額に月数を掛けて判定します。支給した月に一度に課税判定をするのではありません。
課税漏れが見つかりやすい場面
引っ越しで通勤距離が短くなったのに手当が据え置きになっている。転職者の距離を前任者の資料のまま登録している。在宅勤務が増えて定期券をやめたのに定期代を払い続けている。
こうした状態は、給与計算のシステム上は正常に見えます。年に一度、通勤経路と距離を申告し直してもらう機会を設けておくのが確実です。
多いのは、引っ越しや通勤方法の変更が届け出られていないケースです。距離が変われば限度額も変わります。年に一度は全員に通勤経路を申告してもらう運用にしておくと、漏れが積み上がりません。
社会保険料の計算では非課税分も含める
結論: 通勤手当は、所得税では限度額まで非課税ですが、社会保険料の計算では非課税分も含めて報酬に算入します。税と社会保険で扱いが違います。
標準報酬月額には全額が入る
日本年金機構が示す報酬の範囲では、通勤手当は労働の対償として支払われる報酬に含まれます。所得税で非課税になっている部分も、標準報酬月額の計算では除きません。
この違いを知らないと、算定基礎届の金額が合わなくなります。
通勤手当を月3万円出すと、標準報酬月額がその分上がり、会社負担の社会保険料も増えます。採用時の人件費を見積もるときは、額面だけでなく社会保険料への影響も含めて考えてください。
労働保険料の賃金総額にも含める
労働保険料の算定基礎となる賃金総額にも、通勤手当は含まれます。年度更新の際に集計する賃金総額から漏らさないよう注意が必要です。
社会保険と同じように、労働保険でも非課税かどうかは関係ありません。毎月の給与計算では非課税として扱っている金額を、年度更新の集計だけ課税分と同じように含めて計算する必要があります。担当者が変わった年に、この扱いが引き継がれず漏れることがあります。
在宅勤務が混ざる場合の考え方
結論: 在宅勤務と出社が混在する場合、定期券を支給するか実費を精算するかで通勤手当の性格が変わります。実費精算であれば、出社した分の交通費は非課税で扱えます。
週に2日しか出社しない従業員に6か月定期を支給するのは、金額の面でも合理性の面でも説明がつきにくくなります。実費精算に切り替える会社が増えているのは、このためです。
出社日ごとの往復運賃を精算する形であれば、業務に必要な移動の実費として扱えます。定期代との差額を意識する必要もなくなります。
運用だけ変えて給与規程が古いままだと、支給の根拠が説明できなくなります。通勤手当の支給方法を変えるときは、規程の改定とあわせて進めるのが順序です。
パート・アルバイトの通勤手当
結論: パートやアルバイトに支給する通勤手当も、正社員と同じ限度額が適用されます。日額で支給する場合は、1か月分に換算して限度額と比べます。
日額支給を月額に換算する
出勤日数に応じて1日いくらという形で支給している場合、その月の支給合計額を月あたりの限度額と比較します。1日単位で判定するのではありません。
たとえば片道8キロメートルの人に1日400円を支給し、月20日出勤したとします。支給額は8,000円、限度額は4,200円ですから、差額の3,800円が給与として課税されます。
扶養の範囲を気にする人への説明と、短時間勤務者の距離管理
パートで働く人の多くは、年収が一定額を超えないよう調整しています。ここで問題になるのが、通勤手当を年収に含めるかどうかです。
| 判定の場面 | 通勤手当の扱い |
|---|---|
| 所得税(配偶者控除・扶養控除) | 非課税分は含めない |
| 社会保険の被扶養者の判定 | 全額を含める |
| 社会保険の加入義務(月額賃金の要件) | 含めない |
同じ通勤手当でも、何を判定するかで扱いが変わります。この違いを説明できると、年末に向けた勤務時間の相談に答えられるようになります。
学生アルバイトは引っ越しの頻度が高く、通勤距離が変わりやすい層です。更新の仕組みがないと、この部分から課税漏れが積み上がります。
労災の通勤経路との関係
結論: 税務上の非課税限度額と、労災保険で保護される通勤経路は別の制度です。会社に届け出た経路と実際の経路が違っても、それだけで通勤災害の対象から外れるわけではありません。
2つの制度は目的が違う。経路の変更を届け出てもらう理由
税務上の限度額は、いくらまで非課税で支給できるかを定めたものです。労災の通勤災害は、住居と就業の場所との間を合理的な経路および方法で移動している間の災害を保護するものです。
判断の基準が違うため、税務の届出をそのまま労災の判断に持ち込むことはできません。
とはいえ、届け出た経路と実際が食い違っている状態は望ましくありません。事故が起きたときの事実確認に時間がかかり、通勤手当の課税判定も正しく行えなくなります。
住所変更届と通勤経路届をセットで運用しておくと、両方の目的を同時に満たせます。
マイカー通勤の許可制
マイカー通勤を認めるかどうかは会社の判断です。任意保険の加入状況を確認し、対人・対物の補償額に基準を設けている会社が多くなっています。
通勤手当の金額を決める前に、この許可の枠組みを整えておくほうが順序として自然です。
許可制にしておくと、任意保険の加入状況や運転の可否を会社が把握できます。事故が起きたときの責任の所在にも関わるため、通勤手当の話とあわせて整えておく部分です。
事例:引っ越しの申告を仕組みにした会社
「調査で通勤手当を全員分見せてくださいと言われて、冷や汗をかきました」。従業員45名の製造業のお客様からのご相談でした。
確認すると、入社時に登録した通勤距離が一度も更新されていませんでした。この10年で引っ越した従業員が11名いて、そのうち4名は距離が短くなっているのに手当が据え置きでした。超過分は課税されるべきだったところです。
まず、全員に通勤経路の再申告をお願いしました。経路検索の画面を印刷して添付してもらう形です。集まった内容で距離を引き直し、過大に支給していた分は課税対象として処理しました。
そのうえで、毎年4月の給与計算の前に通勤経路を確認する工程を、年間の予定表に組み込んでいます。住所変更の届出があったときは、その時点で距離も見直すよう手続きを結び付けました。
翌年の調査では、この一覧をそのまま提示して終わっています。担当の方からは、聞かれる前に出せる状態になったのが大きい、という言葉をいただきました。
よくある質問
通勤手当を支給しなければならない義務はありますか?
自転車で片道3キロメートル通勤している人に、月5,000円を支給しています。問題ありますか?
限度額が上がったので、支給額も上げなければいけませんか?
駅前の駐車場代は、いくらまで非課税になりますか?
通勤手当は社会保険料の計算に入りますか?
在宅勤務が中心の従業員の通勤費はどう扱えばよいですか?
まとめ:上限を知るより、距離を最新に保つ
通勤手当は限度額まで非課税で扱えます。電車やバスなどの交通機関だけを使う場合は月15万円、マイカーや自転車は片道の距離に応じた金額が上限です。
- マイカー通勤の限度額は令和8年に引き上げられ、区分が95キロメートル以上まで細分化された
- 一定の要件を満たす駐車場を使う場合、月5,000円を上限に加算できるようになった
- 距離は直線ではなく通勤経路に沿って測る。片道2キロメートル未満は全額課税
- 限度額を超えた部分は、支給した月の給与に上乗せして源泉徴収する
- 社会保険料の計算では、非課税分も含めて報酬に算入する
実務で問題になるのは、限度額そのものではありません。登録した距離が古いまま放置されていることです。引っ越しや異動があっても、給与システムは何も教えてくれません。
年に一度、通勤経路を申告し直す機会を作る。手を入れるならここが最初です。
通勤手当の規程の見直しや、給与計算の進め方でお困りの方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2582「電車・バス通勤者の通勤手当」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.2585「マイカー・自転車通勤者の通勤手当」(令和8年4月1日現在法令等)
- e-Gov法令検索「所得税法」第9条、「所得税法施行令」第20条の2
- 日本年金機構「標準報酬月額の決定と改定」(報酬の範囲)
【メタディスクリプション】
通勤手当の非課税限度額を交通手段別に整理しました。電車・バスは月15万円、マイカーは片道距離に応じた金額です。令和8年に引き上げられた距離別の限度額の一覧、新しく加わった駐車場代の加算、限度額を超えた場合の処理、社会保険料との扱いの違いまで解説します。




