賃上げ促進税制とは?中小企業の要件と控除率を令和8年版で解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
中小企業向けの賃上げ促進税制は、令和8年度改正のあとも残っています。全雇用者の給与等の支給額が前年度より1.5%以上増えれば、増えた額の15%を法人税額から控除できます。2.5%以上なら30%、子育て・女性活躍の認定があればさらに5%が加わり、最大で35%です。廃止されたのは全法人向けの措置(令和8年3月31日まで)で、教育訓練費の上乗せも令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用できません。この記事では、控除率と控除額の出し方、間違えやすい点、適用できる会社と事業年度、判定のしかた、控除しきれないときの繰越しを、国税庁の公表資料(2026年10月時点)に沿って整理します。
中小企業の賃上げ促進税制はいくら控除できる?
結論: 給与等の支給額の増加率が1.5%以上で15%、2.5%以上で30%を、増えた額に掛けた金額を法人税額から控除できます。認定があれば5%が加わり、最大35%です。
控除率の早見表
控除率は、前の事業年度と比べた給与等の支給額の増加率で決まります(国税庁タックスアンサーNo.5927-2、令和8年4月1日現在法令等)。
| 給与等の支給額の増加率 | 控除率 |
|---|---|
| 1.5%以上 | 15% |
| 2.5%以上 | 30% |
| くるみん認定・プラチナくるみん認定、えるぼし認定・プラチナえるぼし認定のいずれか(一定の場合に限る) | 上の率に5%を加える |
事前の申請は要らず、要件を満たす事業年度の確定申告で控除を受けます。
控除額の計算例
控除額は、増えた額(控除対象雇用者給与等支給増加額)に控除率を掛けて出します。前の事業年度の給与等が5,000万円、当期が5,150万円なら、増加額は150万円で、増加率は3.0%です。2.5%以上なので控除率は30%となり、控除額は45万円です(説明用の金額です)。
令和8年度改正で変わったこと
賃上げ促進税制は3つの措置に分かれていて、改正後の扱いは次のとおりです(国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」)。
| 区分 | 令和8年度改正後 |
|---|---|
| 全法人向け | 令和8年3月31日をもって廃止 |
| 中堅企業向け(従業員2,000人以下) | 要件を見直したうえで、令和9年3月31日の期限で廃止 |
| 中小企業向け | 教育訓練費の上乗せが廃止された以外は現行制度を維持 |
教育訓練費の上乗せは、教育訓練費が比べる額より5%以上増え、給与等の支給額に対する割合が0.05%以上のときに、控除率へ10%を加える措置でした。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは適用できないため、最大の控除率は45%から35%に下がります。
決算月ごとの切り替わり
どの事業年度から改正後の扱いになるかは、事業年度の開始日で決まります。教育訓練費の上乗せが使える最後の事業年度と、この制度を適用できる最後の事業年度は、決算月ごとに次のとおりです。
| 決算月 | 教育訓練費の上乗せを適用できる最後の事業年度 | 制度を適用できる最後の事業年度 |
|---|---|---|
| 3月 | 令和8年3月期(令和7年4月1日開始) | 令和9年3月期(令和8年4月1日開始) |
| 9月 | 令和8年9月期(令和7年10月1日開始) | 令和9年9月期(令和8年10月1日開始) |
| 12月 | 令和8年12月期(令和8年1月1日開始) | 令和9年12月期(令和9年1月1日開始) |
対象は、平成30年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度です。
賃上げ促進税制でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、役員とその家族の給与を入れること、助成金の扱い、前の期との月数のずれ、申告書に明細書を付け忘れることの4つです。控除額がずれ、申告後は取り戻せません。
決算の直前に、賃金台帳の総額だけで増加率を出していたと気づいて相談に来られる方が少なくありません。
役員と家族の給与を入れてしまう誤り
控除の計算に入る給与は、国内の事業所の賃金台帳に載っている使用人(国内雇用者)への給与等です。次の人の給与は、国内雇用者に入りません(租税特別措置法42条の12の5、同施行令27条の12の5)。
社長の報酬を上げても、増加額には入りません。同族会社では、役員の配偶者や子が従業員として在籍していることが多く、集計の前にこの切り分けが要ります。入れたままだと増加率が実際より高く出て、1.5%に届かないのに控除を受けた形になり、税務調査で指摘されれば控除した分の法人税を追加で納めます。
雇用調整助成金などの扱い
雇用調整助成金のような雇用安定助成金を受けている会社は、増加額に上限がかかります。原則は、助成金を差し引かずに増加額を出します。ただし、助成金を差し引いて出した増加額のほうが小さいときは、その小さいほうの額が増加額になります(国税庁タックスアンサーNo.5927-2)。助成金を受けた年度は、2通りの増加額を出して小さいほうを使います。
前の期との月数のずれ
前の事業年度と当期で月数が違うときは、前の期の給与等の額を月数で調整して比べます。設立後の最初の期が短い会社の2期目は、この調整が必要です。
当初の申告書で書き漏らした分
控除の基礎になる増加額は、当初の確定申告書に付けた書類に書いた金額が限度です。修正申告書や更正の請求書で書き足した金額は、この限度に含まれません。申告のあとで気づいても、当初に書かなかった分は取り戻せません。
税理士が確認する順番
税理士は、賃金台帳を事業所ごとに開き、次の順で確かめます。
前の期と当期の賃金台帳、前期の申告書をお持ちいただければ、役員と親族の切り分け、助成金の調整、増加率が1.5%と2.5%の線を超えるかを、一緒に確かめます。
適用要件の1.5%はどう判定する?
結論: 当期の給与等の支給額から前の期の支給額を引き、前の期の支給額で割って、1.5%以上なら要件を満たします。判定は継続して在籍した人ではなく、全雇用者の総額で行います。
全雇用者の総額で比べる
全法人向けや中堅企業向けの措置は、前の期と当期の両方で在籍した人(継続雇用者)の給与で比べます。中小企業向けは、新しく採用した人も、退職した人も含めた全雇用者の総額で比べます。計算式は次のとおりです。
(当期の雇用者給与等支給額 − 前の期の雇用者給与等支給額)÷ 前の期の雇用者給与等支給額 ≧ 1.5%
前の期が4,000万円で当期が4,060万円なら、増加額は60万円で、増加率はちょうど1.5%です。1.5%以上が要件なので、満たします(説明用の金額です)。昇給をしていなくても、採用が多かった年は要件を満たすことがあります。
給与等の数え方
雇用者給与等支給額は、その事業年度の損金の額に算入される、国内雇用者への給与等の額です。給料、賞与、各種の手当が入り、賞与は損金の額に算入される事業年度で数えます。決算賞与を出す会社は、損金に入る事業年度が当期か翌期かで、増加率が変わります。
前の期の額が0の年と設立2期目
前の期の給与等の額が0のときは、要件を満たしません。割る数が0になるためです。設立の最初の期に従業員がいなかった会社の2期目は、これに当たります。
賃上げ促進税制を適用できる会社と事業年度は?
結論: 青色申告書を出す中小企業者等で、設立の年度、解散の年度、清算中の年度ではない事業年度に適用できます。個人事業主も、青色申告をしていれば適用できます。
中小企業者等の範囲
中小企業者は、基本的に資本金1億円以下の法人です(国税庁タックスアンサーNo.5432)。次のどれかに当たると、資本金が1億円以下でも中小企業者になりません。
- 発行済株式の2分の1以上を、同じ大規模法人に持たれている
- 発行済株式の3分の2以上を、複数の大規模法人に持たれている
- 直前3年の平均所得が年15億円を超える(適用除外事業者)
資本金だけで判断せず、株主の構成も見ます。
適用できない事業年度
次の事業年度には適用できません(国税庁タックスアンサーNo.5927-2)。
- 設立の日を含む事業年度
- 合併以外の理由による解散の日を含む事業年度
- 清算中の各事業年度
- 全法人向け、または中堅企業向けの賃上げ促進税制を適用する事業年度
個人事業主の場合
青色申告書を出す個人事業主も、同じ仕組みで控除を受けられます(国税庁タックスアンサーNo.1288)。対象は、常時使用する従業員が1,000人以下の個人で、増加率が1.5%以上で15%、2.5%以上でさらに15%、認定があれば5%を加えます。控除の上限は、調整前の事業所得税額の20%です。
個人事業主の場合、国内雇用者から外れる人に、個人事業主の親族が入ります。親族に払う給与は、増加額に入りません。
控除しきれないときはどうなる?
結論: 控除できる額の上限は、調整前の法人税額の20%です。超えた分は繰越税額控除限度超過額として、5年間繰り越せます。
法人税額の20%が上限
増加額が大きくても、法人税額が小さければ控除しきれません。上限を超えた金額は、翌年度以降に回せます。
5年間の繰越し
繰越しを使う事業年度には、当期の雇用者給与等支給額が前の期を超えている必要があります。増加率が1.5%に届かなくても、前の期を超えていれば、繰越額を控除できます。
繰越しを受けるには、超過額が生じた事業年度以後の確定申告書に、繰越しの明細書を毎年付けます。控除を受けない年度の申告書にも付けます。付け忘れると繰越しを受けられなくなるため、赤字の年度ほど注意が要ります。
申告ではどんな手続きが要る?
結論: 事前の申請は要りません。確定申告書に、増加額、控除を受ける金額、計算の明細を書いた書類を付けた場合に限り、控除を受けられます。
申告書に付ける書類
書類は当初の確定申告書に付けます。付けていない年度は、控除を受けられません。給与システムから出す条件を前の期と同じにして、毎期同じ範囲で賃金台帳を集めておくと、増加率がずれません。
賃上げを決める前に何を確かめる?
結論: 控除額は増えた額の一部です。社会保険料の会社負担も増えるため、賃上げの原資がそのまま戻るわけではありません。期限と、ほかの税額控除との関係も先に見ます。
控除額と賃上げの負担
給与を100万円増やして控除率が30%なら、法人税額から控除できるのは最大30万円で、残りは会社の負担です。給与が増えれば、健康保険料と厚生年金保険料の会社負担も増えます。賃上げは翌年度以降も続く固定費なので、まず自社の利益で支えられる水準を決め、そのうえで控除の額を確かめます。
令和9年3月31日の期限
この制度は、令和9年3月31日までに開始する事業年度が対象で、そのあとの扱いは今の法律では決まっていません。賃上げ分の人件費は、制度がなくなっても残ります。
よくある質問
中小企業向けの賃上げ促進税制は廃止されましたか?
昇給をしていなくても適用できますか?
役員報酬を上げた分は計算に入りますか?
控除率は最大でいくらですか?
設立して2期目でも適用できますか?
まとめ:役員と親族を外して全雇用者で判定しよう
- 中小企業向けは、全雇用者の給与等の支給額が1.5%以上増えれば15%、2.5%以上で30%、認定があれば5%が加わり、最大35%
- 令和8年度改正で、全法人向けは廃止、中堅企業向けは令和9年3月31日で廃止。中小企業向けは教育訓練費の上乗せだけが廃止
- 役員、使用人兼務役員、役員の親族の給与は計算に入れない
- 控除の上限は法人税額の20%。超えた分は5年間繰り越せ、繰越しの明細書は毎年付ける
賃上げを予定している方、これまでの決算で判定していなかった方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。賃金台帳と申告書を確認し、控除の対象になる給与の範囲と、繰越しの取扱いまで整理します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5927-2「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.1288「給与等の支給額が増加した場合の所得税額の特別控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.5432「措置法上の中小法人及び中小企業者」
- 国税庁 タックスアンサー No.5450「法人税の額から控除される特別控除額の特例」
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
- e-Gov法令検索「租税特別措置法」第42条の12の5、「租税特別措置法施行令」第27条の12の5





