中小企業経営強化税制とは?即時償却と税額控除の選び方を解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
中小企業経営強化税制は、経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が、計画に載せた新品の設備を取得して使い始めたとき、即時償却(取得価額の全額を使い始めた事業年度の償却費にする方法)か税額控除(法人税額から直接差し引く方法)のどちらかを選べる制度です。税額控除の率は取得価額の7%で、資本金3,000万円以下の法人は10%です。設備を取得して使い始める期限は令和9年3月31日で、原則として設備を取得する前に計画の認定を受けます。この記事では、制度の内容、手続きの順番、間違えやすい点、2つの方法の選び方を、国税庁と中小企業庁の公表資料(2026年10月時点)に沿って整理します。
中小企業経営強化税制で何ができる?
結論: 認定を受けた経営力向上計画に載せた新品の設備について、即時償却か税額控除を選べます。設備を取得して事業に使い始める期限は、令和9年3月31日です。
即時償却と税額控除の早見表
国税庁のタックスアンサーNo.5434(令和8年4月1日現在法令等)によると、青色申告書を出す中小企業者等は、対象の設備を使い始めた事業年度に、次のどちらかを選べます。
| 項目 | 即時償却(特別償却) | 税額控除 |
|---|---|---|
| 内容 | 普通償却とあわせて取得価額の全額を、その事業年度の償却費にできる | 取得価額の7%(資本金3,000万円以下の法人は10%)を法人税額から差し引く |
| 効果 | 払う税金の時期を後ろへずらす | 払う税金そのものが減る |
| 上限と繰越 | 限度額まで償却しなかった分は、翌事業年度に繰り越せる | 法人税額の20%まで。超えた分は1年だけ繰り越せる |
適用期限はいつまで
期限は、令和9年3月31日までに設備を取得し、事業に使い始めることです。中小企業庁のページも2026年度末(2027年3月31日)までとしています。3月決算なら令和9年3月期が最後で、延長は令和9年度の税制改正で決まります。
令和8年度改正の中身
令和8年度の改正で変わったのは、工具と器具備品の取得価額の要件です。令和8年4月1日以後に取得するものは、1台または1基が40万円以上でなければ対象になりません。令和8年3月31日以前の取得は30万円以上のままです(国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」)。機械装置の160万円以上、建物附属設備の60万円以上、ソフトウエアの70万円以上は変わっていません。説明用の例では、35万円の器具備品は、令和8年3月までの取得なら金額の要件を満たし、4月以後なら満たしません。
経営強化税制でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、認定より先に設備を取得すること、事業年度内に認定が間に合わないこと、対象外の設備を計画に入れることの3つです。間違えると、この税制は使えず、通常の減価償却になります。
設備を受け取ったあとに制度を知り、相談に来る方が少なくありません。発注は現場の納期で動くため、経理に話が届く時点で取得が済んでいる例が多いのです。
認定前の設備の取得
原則の順番は、証明書か確認書を取り、計画の認定を受け、そのあとで設備を取得する流れです(中小企業庁「中小企業経営強化税制 Q&A集」)。取得とは設備の引渡しを受けた日で、検収が終わっていない設備は、一般に未取得と扱われます。
認定の時期と事業年度の終わり
この税制は事業年度ごとに見るため、設備を取得して使い始めた事業年度の中に、認定を受けている必要があります。事業年度をまたぐと適用できません。認定は一か月以内を目途に行われる(同Q&A集)ので、決算月の近くに取得する予定なら、証明書や確認書の取得期間を足して、間に合うか数えます。
計画に入れてしまう対象外の設備
次の設備は、計画に載せても対象になりません。
- 本店、寄宿舎、事務用の器具備品、乗用車、福利厚生施設:収益を稼ぐ活動に直接使う設備ではないためです
- 中古品や修繕:新品を取得、製作、建設した場合だけが対象です
- 圧縮記帳(補助金などで取得価額を下げる処理)で、最低の取得価額を下回った設備:取得価額は圧縮後の金額で判定します
税理士が確認する順番
税理士は、設備の見積書を受け取ると、次の順で確かめます。
- 設備の資産の区分と、最低の取得価額(税抜経理か税込経理かで判定が変わる)に届くか
- 設備がどの類型に当たるか。これで取得する証明書か確認書が決まる
- 証明書や確認書の日付が、計画の申請日以前に収まるか
- 認定を受ける日、取得日、事業に使い始める日が、同じ事業年度に収まるか
買う予定の設備の見積書と事業年度の終わりの日を伺えれば、この税制の対象になるかと、認定を受ける時期を確かめます。
認定から申告までの手続きの順番は?
結論: 原則の順番は、証明書または確認書の取得、経営力向上計画の申請と認定、設備の取得、確定申告です。例外は、設備の取得から60日以内に計画を申請する場合だけです。
設備取得までの手続きの流れ
中小企業庁の手引き(令和8年4月1日版)によると、A類型は設備メーカーに証明書の発行を頼みます。B類型、D類型、E類型は、投資計画を作り、税理士か公認会計士の事前確認を受けたうえで、本社所在地の経済産業局に確認を申請します。確認書は、説明から概ね1か月以内に発行されます。
取得後に申請できる60日の例外
計画を申請する前に設備を取得した場合は、設備の取得日から60日以内に、計画の申請書が行政庁に届いている必要があります。あわせて、設備を使い始めた事業年度の中に認定を受けなければなりません。
D類型とE類型は、認定後に取得する設備だけが対象のため、この例外を使えません。
経営強化税制の類型はどう違う?
結論: 類型はA類型、B類型、D類型、E類型の4つで、設備が満たす要件と、取得する書類が違います。C類型は令和7年(2025年)4月1日に廃止されました。
類型ごとの要件と書類
| 類型 | 設備の種類 | 主な要件 | 取得する書類 |
|---|---|---|---|
| A類型 | 生産性向上設備 | 生産量、歩留まり率、投入コスト削減率のどれかが旧モデルより年平均1%以上向上 | 工業会等の証明書 |
| B類型 | 収益力強化設備 | 年平均の投資利益率が7%以上と見込まれる投資計画に必要な設備 | 経済産業局の確認書 |
| D類型 | 経営資源集約化に資する設備 | 事業承継等のあとに取得し、修正ROAか有形固定資産回転率の改善が見込まれる | 経済産業局の確認書 |
| E類型 | 経営規模拡大設備等 | 売上高10億円超90億円未満の法人が、売上高100億円超を目指す投資計画の設備 | 経済産業局の確認書と、給与増加割合の報告書 |
建物まで対象になるE類型
E類型は令和7年度の改正で加わった類型で、個人事業主は使えません。建物とその附属設備は、即時償却の代わりに、給与の支給額が前の年度より2.5%以上増えた場合に、取得価額の15%の特別償却か1%の税額控除、5%以上増えた場合に25%の特別償却か2%の税額控除です。
対象になる法人と設備は?
結論: 青色申告書を出す中小企業者等が、生産等設備を構成する新品の設備を取得した場合が対象です。設備の種類ごとに、取得価額の下限があります。
対象になる法人の条件
対象の法人は、資本金1億円以下の法人などの中小企業者等のうち、中小企業等経営強化法の認定を受けた法人です。ただし、大規模法人の出資を一定以上受ける法人や、前3事業年度の所得金額の平均額などが15億円を超える法人は、資本金が1億円以下でも対象外です(中小企業庁の手引き)。対象の事業は中小企業投資促進税制の指定事業と同じで、娯楽業(映画業を除く)は対象外です。
対象の設備と取得価額の下限
| 資産の区分 | 取得価額の下限 |
|---|---|
| 機械装置 | 1台または1基で160万円以上 |
| 工具、器具備品 | 1台または1基で40万円以上(令和8年3月31日以前の取得は30万円以上) |
| 建物附属設備 | 一の取得価額が60万円以上 |
| 建物とその附属設備(E類型) | 一の取得価額が1,000万円以上 |
| ソフトウエア | 一の取得価額が70万円以上 |
取得価額は、購入代価に引取運賃や据付費を足した額で、消費税を含めるかは経理方式で決まります(中小企業庁Q&A集)。
即時償却と税額控除はどちらを選ぶ?
結論: 即時償却は払う税金の時期をずらす方法、税額控除は払う税金そのものを減らす方法です。その期の法人税額と、翌期以降の利益の見込みで選びます。
即時償却と税額控除の違い
同じ設備で特別償却と税額控除を重ねて使うことはできませんが、設備ごとには使い分けられます(中小企業庁Q&A集)。
赤字の年度と税額控除の上限
法人税額が小さい年度や赤字の年度は、税額控除を使いきれません。赤字の年度の即時償却は、償却費が欠損金になって翌期以降に回ります。
税額控除の上限は、この制度と中小企業投資促進税制の税額控除の合計で、調整前法人税額の20%です(国税庁タックスアンサーNo.5433)。超えた分は1年だけ繰り越せ、繰越しを受けるには、超えた額が出た事業年度以後の確定申告書に、毎年、繰越しの明細書を付けます。
所有権移転外リース取引で取得した設備は、特別償却を使えず、税額控除だけ使えます。オペレーティング・リースで取得した設備は対象外です。
投資促進税制などとはどう違う?
結論: 手続きが軽いのは中小企業投資促進税制、対象の設備が広いのは経営強化税制です。40万円未満の器具備品は、少額減価償却資産の特例で処理します。
中小企業投資促進税制との違い
| 項目 | 中小企業経営強化税制 | 中小企業投資促進税制 |
|---|---|---|
| 計画の認定 | 必要 | 不要 |
| 償却と税額控除 | 即時償却、または税額控除7%(資本金3,000万円以下は10%) | 特別償却30%、または税額控除7%(資本金3,000万円以下の法人) |
| 対象の設備 | 機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウエアなど | 機械装置、測定工具・検査工具、ソフトウエア、貨物自動車、内航船舶 |
間に合わないときは、投資促進税制が使える場合があります(中小企業庁Q&A集)。
少額減価償却資産の特例との違い
少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後に取得する40万円未満の資産を、年300万円まで全額損金にできる制度です(国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」)。器具備品は、40万円以上が経営強化税制、40万円未満がこの特例という分かれ方になります。ただし、E類型の設備を載せた計画の法人は、投資促進税制とこの特例を使えません。
申告で必要になる書類は?
結論: 明細書に加えて、認定申請書の写し、認定書の写し、類型ごとの証明書か確認書の写しを、確定申告書に付けます。
申告書に付ける書類
即時償却は償却限度額の計算に関する明細書、税額控除は控除を受ける金額の計算に関する明細書を付けます。あわせて、認定申請書と認定書の写し、A類型は工業会等の証明書、B類型とD類型は経済産業局の確認書と確認申請書、E類型はこれらに加えて供用事業年度の給与増加割合の報告書を付けます。特別償却は、特別償却準備金として積み立てる方法も使えます(国税庁タックスアンサーNo.5434)。
よくある質問
計画の認定を受ける前に、設備を買ってしまいました。もう使えませんか?
個人事業主でも使えますか?
40万円への引き上げは、いつの取得からですか?
まとめ:順番を守って使おう
- 経営力向上計画の認定を受けた中小企業者等が対象で、即時償却か税額控除(7%、資本金3,000万円以下は10%)を選べます
- 設備を取得して事業に使い始める期限は令和9年3月31日です
- 原則の順番は、証明書か確認書、計画の認定、設備の取得、確定申告です。取得後に申請できるのは60日以内に限られます
- 令和8年4月1日以後に取得する器具備品は、40万円以上が対象です
設備投資を予定している方、すでに発注を済ませて制度が使えるか迷っている方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。見積書と導入の予定時期、決算月を確認し、使える類型と、認定、取得、申告の日程を整理します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5434「中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.5433「中小企業投資促進税制」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」
- 中小企業庁「中小企業経営強化税制」
- 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き(令和8年度税制改正対応版)」令和8年4月1日版
- 中小企業庁「中小企業経営強化税制 Q&A集(ABDE類型共通)」
- 財務省「令和7年度税制改正の大綱」





