中小企業の役員報酬の決め方を解説|税金と社会保険料を含めた手順
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
中小企業の役員報酬は、会社が毎月払い続けられる額を上限、役員の生活に必要な額を下限に置き、その間で会社の税金・個人の税金・社会保険料の合計を比べて決めます。誰にでも当てはまる相場はありません。会社の利益、資金繰り、社会保険料、個人の税金の4つの釣り合いで決まる金額です。
この記事は、金額をどう決めるかに絞って、税理士が実務で見る順番に沿って整理します。決議の手続き、届出、期限は親の記事に任せます。
役員報酬の金額はどう決める?
結論: 役員報酬は、毎月払い続けられる上限と、生活に必要な下限を先に出し、その間で会社と個人の負担の合計を比べて決めます。決めた額は期中に原則動かせません。
金額を決める4つの視点
金額を決めるときに見るのは、次の4つです。どれか1つだけで決めると、ほかの3つで無理が出ます。
| 視点 | 確かめること | 金額を上げると |
|---|---|---|
| 会社の資金繰り | 報酬と、会社負担の社会保険料を、最も資金が薄い月でも払えるか | 毎月出ていく固定費が増える |
| 会社の利益と法人税等 | 報酬を引いたあとの利益と、法人税等の額 | 利益と法人税等が減る |
| 社会保険料 | 標準報酬月額の等級と、会社負担・本人負担の額 | 会社も本人も保険料が増える |
| 個人の税金と手取り | 給与所得控除を引いた所得に対する所得税と住民税 | 税金が増える |
決める順番
最初に見るのは利益ではなく資金繰りです。役員報酬は、売上が落ちた月でも減らせない固定費です。
上限と下限の置き方
上限は、翌期の見込みが外れて売上が落ちた月でも払える額に置きます。高く置くほど、見込みが外れたときに資金が苦しくなります。下限は、役員本人と家族の生活費に、個人の所得税・住民税・社会保険料を足した額です。下限が上限を上回るなら、報酬の設計ではなく事業の収益の見直しが先です。
設立したばかりの一人社長は、売上の見込みが立てにくい分、上限を低めに置くのが基本です。
期首から3か月の期限
役員報酬を毎月同額で払うと、法人税法34条1項1号の定期同額給与として、損金の額に算入できます。金額を変えられるのは、期首から3か月以内の改定が原則です。業績悪化改定事由による減額は、経営状況が著しく悪化した場合などに限られ、国税庁は一時的な資金繰りの都合や、業績目標に届かなかったことは含まれないと説明しています。
役員報酬の決め方でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、社会保険料の会社負担を入れ忘れる、利益が出てから増やそうとする、不足分を会社から借りる、の3つです。どれも決めたあとに直しにくい間違いです。
社会保険料の会社負担を入れ忘れる
手取りから逆算して額面を決め、会社が払う社会保険料を資金繰りに入れていない例が多くあります。会社負担は報酬に上乗せで出ていくため、説明用の金額で、報酬50万円なら、会社の毎月の支出は報酬と保険料を合わせて57万円ほどになります(40歳未満の場合)。
利益が出てから増やそうとする
決算の直前に、見込みより利益が出ていると分かり、役員報酬を増やして利益を減らそうとする相談があります。期首から3か月を過ぎた増額は定期同額給与の要件から外れ、増やした分は損金の額に算入できません。個人の税金と社会保険料だけが増えます。
不足分を会社から借りる
報酬を低く置き、生活費の不足分を会社から借りると、決算書に役員貸付金が残ります。貸付金には利息を付ける処理が必要になる場合があり、金融機関からは資金の使い道を聞かれます。報酬を下げて税金を抑えたつもりが、事務と説明の負担に変わります。
税理士が確認する順番
実際の相談では、次の順で確認します。
- 前期の決算書で、報酬を引く前の利益と、月ごとの資金の動きを見る
- 翌期の見込みを、確実な売上と上振れの売上に分ける
- 報酬を数段階に置いて、法人税等・所得税と住民税・社会保険料の合計を出す
- その合計と毎月の資金の残りを並べ、決議の日付が期限内に収まるか確かめる
前期の決算書と直近の月次の資金繰りをお持ちいただければ、報酬を数段階に置いたときの税金と保険料の合計と、毎月の資金の残りを一緒に確かめます。
会社の利益と報酬はどう釣り合う?
結論: 報酬を上げると、会社の利益と法人税等が減り、個人の税金と社会保険料が増えます。会社だけ、個人だけで比べず、合計で比べます。
上げたときと下げたときの動き
会社の税率と個人の税率
資本金1億円以下の中小法人の法人税率は、所得のうち年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です(令和7年4月1日以後に開始する事業年度。国税庁タックスアンサーNo.5759)。これに法人住民税と事業税が別にかかります。令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税が加わります。法人税額から年500万円を引いた額に4%を掛けて計算し、法人税額が年500万円以下なら負担はありません。
個人は、課税所得に応じて所得税が5%から45%、住民税の所得割が10%の標準税率で課税されます(国税庁タックスアンサーNo.2260、総務省)。役員報酬として受け取ると給与所得控除が使えます。令和8年分は、給与収入が220万円までなら74万円、850万円を超えると195万円で頭打ちです(同No.1410)。基礎控除は、合計所得金額が489万円以下なら104万円です。
税率の数字だけでは決まりません。会社に残した利益を後で個人に移すときは、配当や退職金として別に課税され、社会保険料の負担も報酬とは別に生じます。会社の税率が低い帯があるから会社に残す、個人の控除が使えるから報酬を増やす、というどちらか一方の考え方では、合計の負担を取り違えます。法人税の税率の仕組みは別の記事で解説しています。
高すぎる報酬は損金にならない
役員報酬は、定期同額給与であっても、不相当に高額な部分は損金の額に算入できません(法人税法34条2項)。法人税法施行令70条1号は、判断の基準を2つ定めています。
- 実質基準:役員の職務の内容、会社の収益、使用人への給与の支給状況、同種で規模が似た他の法人の役員給与の支給状況に照らして、職務の対価として相当な額を超える部分
- 形式基準:定款または株主総会の決議で定めた限度額を超える部分
報酬を高く置くときは、職務の内容と他の役員・従業員との均衡を説明できる状態にしておきます。家族を役員にする場合も同じで、実際に担当している業務が前提です。
社会保険料と手取りはどう動く?
結論: 社会保険料は報酬の額ではなく標準報酬月額の等級で決まり、会社と本人が半分ずつ負担します。報酬の約28%が合計の保険料で、会社負担はその半分です。
令和8年度の保険料率
標準報酬月額が同じなら、保険料は同じです。令和8年度の率は次のとおりです。
| 保険料 | 率 | 負担 |
|---|---|---|
| 厚生年金保険 | 18.3% | 会社と本人が半分ずつ |
| 健康保険(協会けんぽ) | 全国平均9.9%(都道府県ごとに異なる) | 会社と本人が半分ずつ |
| 介護保険(40歳から64歳) | 1.62% | 会社と本人が半分ずつ |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 会社と本人が半分ずつ |
介護保険の対象でない場合の合計は、18.3%と9.9%と0.23%を足した約28.4%です。説明用の金額として、標準報酬月額が50万円の40歳未満の役員なら、会社負担は月に約7万1千円、本人負担も同額です。実際の額は、都道府県の保険料額表で確かめます。
標準報酬月額の上限
厚生年金保険の標準報酬月額は32等級で、上限の等級は月65万円です。上限を超える報酬では、厚生年金保険料はそれ以上増えません。
報酬を下げたときの年金
報酬を下げると保険料は減りますが、将来の老齢厚生年金の額も減る方向に動きます。保険料を減らすことだけを目的に、実態と合わない形で報酬を下げる方法は勧められません。
決算書で役員報酬はどこに出る?
結論: 役員報酬は、損益計算書の販売費及び一般管理費に「役員報酬」の科目で出ます。貸借対照表では、役員貸付金と役員借入金も、報酬の水準とあわせて見られます。
損益計算書の役員報酬
損益計算書では、役員報酬は販売費及び一般管理費の内訳として、従業員の給料手当とは別の科目で並びます。社会保険料の会社負担は、同じ販売費及び一般管理費の法定福利費に入ります。報酬を上げると、この2つの科目が一緒に増えます。
法人税の申告書に添える勘定科目内訳明細書にも、役員給与等の内訳書があります。役員ごとの報酬の額が、税務署にも分かる形で出ます。
貸借対照表の役員貸付金と役員借入金
報酬が生活費に足りず、会社から借りて埋めていると、貸借対照表に役員貸付金が残ります。逆に、役員が会社にお金を貸している場合は、役員借入金に出ます。
決算書を見る側に説明できる形
金融機関などに決算書を出すときは、次の表の場所が見られます。
| 見る場所 | 分かること |
|---|---|
| 損益計算書の役員報酬 | 会社が1年に負担している役員報酬の総額 |
| 損益計算書の法定福利費 | 社会保険料の会社負担。報酬の水準とあわせて見る |
| 勘定科目内訳明細書の役員給与等の内訳書 | 役員ごとの報酬の額 |
| 貸借対照表の役員貸付金 | 会社のお金が事業以外に出ていないか |
| 貸借対照表の役員借入金 | 役員が会社に資金を入れているか |
報酬の理由は、決議の議事録にも書いておきます。
翌期の報酬はいつ見直す?
結論: 決算の数字が固まった時点で、翌期の報酬を検討します。期首から3か月以内に決議するため、期首を過ぎてからでは余裕がありません。
決算が固まったときに見る5つ
次の5つを毎年同じ順で確認すると、判断がぶれません。
- 前期の実績(報酬を引く前の利益と、資金の残り)
- 翌期の売上と利益の見込み
- 翌期の資金繰りと、納税の時期
- 社会保険料の会社負担を含めた総額
- 家族が役員のときは、担当している業務と報酬の釣り合い
3月決算の会社なら、期首の4月から3か月の6月末が決議の期限です。
変えないと決める場合
業績も資金繰りも大きく変わっていないなら、前期と同じ金額を続ける判断も合理的です。毎年変える必要はありません。ただし、変えない場合も、決議は毎期必要です。
よくある質問
中小企業の役員報酬の相場はいくらですか?
報酬を下げて会社に利益を残すほうが得ですか?
利益が見込みより出たので、期の途中で報酬を増やせますか?
家族を役員にして報酬を分けてもよいですか?
まとめ:払い続けられる額から決めよう
- 上限は、最も資金が薄い月でも払える額。下限は、生活費と個人の税金・保険料です
- 会社の利益と法人税等、個人の税金、社会保険料は、合計で比べます
- 社会保険料は報酬の約28%が合計で、会社負担はその半分が上乗せで出ていきます
- 不相当に高額な部分は損金の額に算入できません。報酬の理由を説明できる状態にします
- 決算の数字が固まったら、期首から3か月以内の決議に向けて、翌期の金額を検討します
役員報酬の額を決めたい方、前期から変える額に迷っている方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の決算書と資金繰りを確認し、報酬を数段階に置いたときの法人税等・個人の税金・社会保険料の合計を整理します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
- 国税庁 タックスアンサー No.5759「法人税の税率」(令和7年4月1日以後開始事業年度)
- 国税庁 タックスアンサー No.1410「給与所得控除」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」(防衛特別法人税の創設)
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(基礎控除)
- 総務省「地方税制度 個人住民税」
- e-Gov 法令検索「法人税法」第34条、「法人税法施行令」第69条・第70条
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表」(保険料率)
- 全国健康保険協会「令和8年度保険料額表」
- こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」
- 国税庁「勘定科目内訳明細書の標準フォーム」





