役員報酬の決め方|中小企業での考え方
「制度の説明は分かったのですが、うちの場合はどう考えればよいですか」。役員報酬の手続を説明した後で、必ずいただくご質問です。制度の話と、自社の事情は別の問題です。
結論からお伝えすると、中小企業で役員報酬を決めるときの制約は3つあります。資金繰り、金融機関の見方、そして期首から3か月という期限です。税と社会保険の負担は、この3つの枠のなかで検討することになります。
税理士法人Light UPでは、報酬の額を決める前に月々の資金繰りを確認するようご案内しています。損得の計算より先に、払い続けられる額かどうかが問われるためです。
この記事では、資金繰りから見た報酬の考え方、金融機関がどこを見るか、業績が読めないときの置き方、家族への配分、そして毎年の見直しの進め方を整理します。手取りが変わる境目の金額は、別の記事にまとめています。
資金繰りから見た報酬
結論: 役員報酬は毎月出ていく固定費です。金額を決めるということは、1年分の固定費を確定させるということです。
変えられない固定費になる
役員報酬は、定期同額給与の要件を満たすために毎月同額を支払い続けます。売上が落ちた月でも、支払いを減らすことはできません。期首に決めた金額が、1年間の固定費として確定するという構造です。従業員の給与や家賃と同じように、資金繰り表の固定費の欄に並びます。この点を意識せずに金額を決めると、資金が厳しい月に苦しくなります。年間の資金繰りを見通したうえで、無理のない水準に置く必要があります。
社会保険料も同時に出ていく
報酬を決めると、社会保険料の額も決まります。保険料は会社と個人で折半しますが、会社負担分は会社の資金から出ていきます。報酬の額に対して、おおむね15パーセント前後が会社の負担として上乗せされる計算です。報酬50万円を決めるということは、会社から出ていく月々の金額が57万円前後になるということです。資金繰りを見るときは、この上乗せを含めた金額で考える必要があります。加えて、源泉所得税と住民税の預り金も、翌月に納付します。
賞与という選択肢
事前確定届出給与の要件を満たせば、役員に賞与を支払って損金にできます。毎月の固定費を抑えつつ、業績に応じた配分を賞与で行うという設計です。ただし、届出の期限があり、届け出た日に届け出た額を支払わなければ全額が損金になりません。業績が悪くても支払わなければならないという点は、定期同額給与と同じ性質です。柔軟に見えて、実際には拘束が強い制度です。
金融機関はどこを見るか
結論: 金額そのものより、利益との関係と、役員貸付金の有無が見られます。報酬を下げて表面上の利益を作っても、その分は差し引いて評価されます。一方、役員貸付金があると資金の使途について説明を求められることになります。
役員報酬は決算書に表れる
役員報酬は損益計算書の販売費及び一般管理費に計上され、注記や勘定科目内訳明細書でも確認できます。金融機関は、役員報酬を加減算して実質的な利益を見ることがあります。報酬を高く取って赤字にしている会社と、報酬を抑えて黒字にしている会社を、同じ土俵で比べるという見方です。したがって、報酬を下げて表面上の利益を作っても、その分は差し引いて見られます。逆に、報酬が高くて赤字でも、報酬を戻せば黒字になることは説明できます。
役員貸付金は不利に働く
報酬を生活費より低く設定し、不足分を会社から借りる形にすると、役員貸付金が積み上がります。この勘定が決算書にあると、資金の使途について説明を求められます。会社の資金が事業以外に流れているという見え方になるためです。融資の審査では、この点が評価に影響します。認定利息の計上も必要になり、事務の手間も増えます。報酬を下げすぎることの実質的なコストは、この形で表れます。
説明できる根拠を持つ
報酬の額について、なぜその水準なのかを説明できる状態にしておくと、金融機関とのやりとりが楽になります。業績の見込み、他の役員との均衡、前期からの変更の理由。議事録にこれらを記載しておけば、そのまま説明の材料になります。金額だけが記載された議事録では、根拠を尋ねられたときに答えられません。決議のときに1行ずつ書き足しておく手間で、後の負担が変わります。
| 見る場所 | 何が分かるか |
|---|---|
| 損益計算書の役員報酬 | 会社が1年に負担している役員報酬の総額 |
| 勘定科目内訳明細書 | 役員ごとの報酬の額。均衡を見る材料になる |
| 貸借対照表の役員貸付金 | 会社の資金が事業以外に流れていないか |
| 貸借対照表の役員借入金 | 社長が会社に資金を入れているか。実質的な自己資本と見る場合もある |
| 法定福利費 | 社会保険料の会社負担分。報酬の水準とあわせて見る |
業績が読めないときの置き方
結論: 期首から3か月以内に1年分を決めることになります。読めない部分は、賞与と決算対策で調整します。
期首の見通しには限界がある
事業年度が始まったばかりの時点で、1年後の業績を正確に見通すのは困難です。とくに、受注が数件に集中する事業や、季節変動が大きい事業では、期首の見込みが大きく外れることもあります。この不確実性を、報酬の額でどちら側に振るかという判断が伴います。高く置いて業績が伸びなければ資金が苦しくなり、低く置いて業績が伸びれば会社に利益が残ります。
低めに置いて賞与で調整する
毎月の報酬を低めに置き、業績が確定に近づいた段階で賞与を検討するという設計があります。ただし、役員賞与を損金にするには事前確定届出給与の届出が必要で、期限は株主総会等の決議の日から1か月を経過する日と、事業年度開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です。届出の期限も期首に近い時期にあるため、賞与の額も早い段階で決めることになります。届け出た額と違う額を支払えば、全額が損金になりません。
損金にならない前提で支払う選択
業績が伸びた場合に、届出をしていない賞与を支払うという選択もあります。この場合、会社では損金になりませんが、個人には支払われます。法人税の負担は残るものの、資金は個人に移ります。損金にならないことを承知で選ぶという判断です。ただし、社会保険料は発生するため、その分も見込んでおく必要があります。金額が大きい場合は、他の方法と比べたうえで決めることになります。
業績悪化改定事由の範囲
業績が想定を大きく下回った場合、期の途中で報酬を減額できる場合があります。ただし業績悪化改定事由は、経営状況が著しく悪化したことなどにより、株主や取引銀行、取引先といった第三者との関係上、報酬を減額せざるを得ない事情がある場合などとされています。社内の判断だけで下げる形は、この事由に当たりません。減額する場合は、その理由を記録に残しておく必要があります。
家族への配分
結論: 実際に業務に従事していることが前提です。金額の根拠と、従事の記録が要ります。累進税率のもとでは分散の効果が大きいものの、それぞれについて社会保険の加入が生じます。税金だけを見て決めると、保険料で逆転する場面があります。
所得を分散する効果
配偶者や家族を役員にして報酬を分けると、累進税率のもとでは合計の税負担が下がります。1人に1,000万円を集めるより、2人に500万円ずつ配分するほうが税率の区分は低くなります。分散できるかどうかが、中小企業では大きな変数になります。ただし、それぞれについて社会保険の加入が生じ、被扶養者から外れることもあります。税金だけを見て分けると、保険料で逆転する場面があります。
実際に従事していること
役員報酬が損金になるには、その職務の対価として相当であることが前提です。実際に業務に従事していない家族への報酬は、不相当に高額な部分として損金にならない可能性があります。業務の内容、従事した時間、他の役員や従業員との均衡が判断の材料になります。取締役会や株主総会の議事録に加えて、業務の分担を示す資料を残しておく必要があります。
記録の残し方
家族の役員が何を担当し、いつどんな判断を行ったかを記録に残します。取引先とのやりとり、仕入の決定、人事の判断。日付と内容を1行ずつ書き残すだけでも、説明の材料になります。後から作ることはできないため、月次の作業として組み込んでおく方法が現実的です。金額が大きいほど、この記録の有無が説明の負担を分けます。
毎年の見直しの進め方
結論: 決算の作業と同じ時期に、翌期の報酬を検討します。期首を過ぎてからでは間に合いません。
決算の数字が出た時点で考える
決算が固まると、その期の業績と、翌期の見通しの材料が揃います。この時点で翌期の報酬を検討しておけば、期首から3か月という期限に余裕を持って対応できます。決算作業の一部として組み込むという運用です。3月決算の会社であれば、5月の申告の頃に翌期の報酬を決めることになります。期首は4月なので、6月末が改定の期限です。
確認する項目
前期の実績、翌期の売上と利益の見込み、資金繰りの見通し、社会保険料の水準、家族への配分の可否。この5つを並べて検討します。毎年同じ項目を確認する形にしておけば、判断の質が安定します。前年に確認した内容を残しておけば、変化した部分だけを見ればよくなります。チェックリストを1枚作っておくのが確実です。
変えないという判断もある
業績も資金繰りも大きく変わっていないなら、前期と同じ金額を維持するという選択も合理的です。毎年変える必要はありません。変えないことを決めるのも、判断のひとつです。ただし、その場合も決議は必要で、議事録は残します。何も決議せずに前期と同じ額を支払い続ける形は、手続の面で不備が生じます。定款で報酬の総額が定められていない会社では、毎年の株主総会で決議することになります。定款に定めがある場合でも、個々の役員への配分は別に決める必要があります。
役員借入金がある場合
結論: 社長が会社に資金を貸している状態では、報酬の設計に別の選択肢が生まれます。返済という形で資金を受け取れば、個人の所得にも社会保険料の対象にもなりません。ただし会社の側では損金にならず、法人税の負担は残ります。
返済という受け取り方
役員借入金がある会社では、報酬を上げる代わりに借入金を返済するという方法があります。返済は元本の払戻しなので、個人の側で所得にはなりません。社会保険料の対象にもなりません。同じ金額を渡すなら、返済のほうが手取りは大きくなります。ただし、会社の側では損金になりません。法人税の負担は残るということです。
決算書の見え方も変わる
役員借入金は貸借対照表の負債に計上されます。金融機関によっては、これを実質的な自己資本とみなして評価する場合もありますが、負債であることに変わりはありません。返済が進めば負債は減ります。財務の見え方を整えるという観点でも、返済には意味があります。ただし会社の資金は減るため、資金繰りとの兼ね合いになります。
相続の場面では債権になる
社長に相続が発生すると、役員借入金は貸付金という財産として相続財産に含まれます。会社の業績にかかわらず、額面で評価されるのが原則です。返済の見込みが立たない会社でも、相続税の課税対象になるという点は見落とされやすい部分です。長期にわたって残っている役員借入金は、早い段階で整理を検討する価値があります。
決算対策との関係
結論: 役員報酬は期首に決めるため、期末の決算対策には使えません。他の手段と役割が違います。期末に利益が出ていることが分かっても、報酬を増やして調整することはできません。従業員への決算賞与とは、この点で扱いが分かれます。
期末には動かせない
決算の直前に利益が出ていることが分かっても、役員報酬を増やして調整することはできません。定期同額給与の要件から外れるためです。期首に決めた金額が、そのまま1年分の損金になります。期末に使える手段は、設備投資、共済、未払費用の計上など、報酬とは別のものになります。逆に言えば、期末に利益が出る見込みが立った時点でできることは限られているということです。報酬に関する判断は、期首にしかできません。
決算賞与との違い
従業員への決算賞与は、要件を満たせば未払計上でその期の損金にできます。しかし役員への賞与は、事前確定届出給与の届出がなければ損金になりません。従業員と役員で、期末にできることが違うという点は、混同しやすい部分です。決算対策の一覧を作るときは、役員と従業員を分けて整理する必要があります。使用人兼務役員については、使用人としての職務に対する賞与は別の扱いになりますが、そもそも使用人兼務役員として扱える範囲にも制限があります。
退職金という選択
役員退職金は、支給の時期を選べる数少ない手段です。承継のタイミングや、大きな利益が出た期に合わせることもできます。ただし、在任期間や最終報酬月額から算定した金額の範囲に収める必要があり、株主総会の決議も要ります。報酬の水準が、退職金の算定にも影響するという関係です。長期の設計では、この点も視野に入ります。功績倍率法では最終報酬月額に在任年数と倍率を掛けるため、退職の直前に報酬を下げていると、算定の基礎も小さくなります。承継の計画があるなら、報酬の水準もその時期から逆算して考えることになります。
事例:資金繰りを見ずに決めていた会社
建設業の会社から、資金繰りについてご相談をいただきました。役員報酬は月80万円で、前期から変えていないとのことでした。
売上は工事の完成に連動していました。
入金の時期が数か月に集中する事業です。
年間の売上と利益で見れば、月80万円の報酬は無理のない水準でした。しかし月次で見ると、入金のない月が続く時期があります。その期間も報酬と社会保険料は毎月出ていくため、資金が不足していました。
対応として、まず年間の資金繰り表を作りました。入金の時期と、固定費の支払いを月ごとに並べます。すると、資金が最も薄くなる時期が明確になりました。
翌期からは、月々の報酬を下げて、入金の時期に合わせた事前確定届出給与を組み合わせる形に変更しました。年間の合計はほぼ同じですが、資金の流れとは合うようになっています。
年額で見れば問題なくても、月次で見ると足りないことがあるという点が、この事例の要点です。報酬を決める前に、月ごとの資金繰りを確認する運用にしています。
よくある質問
中小企業では役員報酬をどう決めればよいですか?
報酬を下げて会社に利益を残すのは有利ですか?
業績が読めないときはどうすればよいですか?
途中で減額できますか?
家族を役員にして報酬を分けてもよいですか?
毎年変える必要はありますか?
まとめ:損得の前に払い続けられる額を見る
中小企業で役員報酬を決めるときの制約は3つです。資金繰り、金融機関の見方、そして期首から3か月という期限です。
最も基本になるのが資金繰りです。役員報酬は毎月出ていく固定費で、売上が落ちても支払いを減らせません。社会保険料の会社負担分も含めると、報酬の額に15パーセント前後が上乗せされて会社から出ていきます。年額ではなく、月ごとに見る必要があります。
金融機関は、金額そのものより利益との関係を見ます。報酬を下げて表面上の利益を作っても、その分は差し引いて評価されます。一方、役員貸付金があると、資金の使途について説明を求められます。報酬を下げすぎることのコストは、この形で表れます。
業績が読めない場合は、月々の報酬を低めに置いて事前確定届出給与で調整する方法があります。ただし届出の期限は期首に近く、届け出た額と違う額を支払えば全額が損金になりません。
家族への配分は、実際に業務に従事していることが前提です。議事録、業務の分担を示す資料、従事の記録の3つを揃えておいてください。後から作ることはできません。
見直しは、決算の作業と同じ時期に行うのが確実です。決算の数字が出た時点で翌期を検討しておけば、期首から3か月という期限に余裕を持って対応できます。
税理士法人Light UPでは、資金繰りを踏まえた役員報酬の設定についてのご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「法人税法」(昭和四十年法律第三十四号)第34条
- e-Gov 法令検索「法人税法施行令」(昭和四十年政令第九十七号)第69条、第70条
- e-Gov 法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)第361条
- e-Gov 法令検索「健康保険法」(大正十一年法律第七十号)第40条
- e-Gov 法令検索「厚生年金保険法」(昭和二十九年法律第百十五号)第20条、第81条




