自己資本比率とは|銀行が見る安全性の指標
「自己資本比率が低いと言われました」。「何パーセントあれば安心なのでしょうか」――決算書の説明を受けた後で、この2つを聞かれることがよくあります。
結論からお伝えすると、自己資本比率は総資産のうち返さなくてよいお金がどれだけあるかを示す割合です。純資産を総資産で割って計算します。金融機関がこの指標を見るのは、赤字が続いたときにどこまで持ちこたえられるかを測るためです。したがって、目標とすべき水準は業種によって変わります。
税理士法人Light UPでは、この指標のご相談を受けたとき、分子と分母のどちらを動かすかを分けて考えるようにしています。比率を上げる方法は2つしかなく、どちらが自社にとって現実的かで打ち手が決まるためです。
この記事では、計算の方法、水準の読み方、業種による違い、比率を上げる2つの方向、そして金融機関がこの指標をどう使っているかまでを、実際に中小企業の決算を扱っている立場から整理します。
総資産のうち返さなくてよいお金の割合
結論: 自己資本比率は、純資産を総資産で割った割合です。返済の必要がないお金が、事業に使っている資産全体のうちどれだけを占めるかを示します。
計算式は単純
純資産の部の合計を、資産の部の合計で割ります。総資産が5,000万円で純資産が1,000万円であれば、自己資本比率は20パーセントです。分母は総資産なので、負債と純資産の合計と一致します。貸借対照表の数字をそのまま使うだけで、調整や加工は要りません。決算書があれば1分で計算できます。自己資本という言葉は、会計の用語としては純資産とほぼ同じ意味で使われます。厳密には新株予約権や非支配株主持分を除くという整理もありますが、中小企業ではこれらが存在しないことがほとんどなので、純資産の合計をそのまま使って差し支えありません。
純資産の中身
純資産は、資本金、資本剰余金、利益剰余金などで構成されます。このうち中小企業でもっとも大きく動くのが利益剰余金で、これは過去の利益の蓄積です。毎年黒字であれば増え、赤字であれば減ります。自己資本比率は過去の業績の積み重ねを映す指標だということで、1年の努力では大きく動きません。設立から数年の会社で比率が低いのは、蓄積の期間が短いためです。この場合は水準そのものより、増えているかどうかを見るほうが実態に合います。
数字が何を意味するか
自己資本比率が高いほど、借入に頼らずに事業を回していることになります。赤字が出ても純資産が厚ければ耐えられ、逆に薄ければすぐ債務超過に近づきます。赤字への耐久力を測る指標だと考えると、金融機関が重視する理由が分かります。事業の収益力を見る指標ではなく、あくまで安全性を見る指標です。純資産が1,000万円あれば、年間500万円の赤字が2年続いても債務超過にはなりません。この耐えられる年数が、そのまま指標の意味になります。
| 状態 | 自己資本比率 | 意味 |
|---|---|---|
| 純資産が総資産の半分 | 50パーセント | 資産の半分が返さなくてよいお金 |
| 純資産が総資産の3割 | 30パーセント | 中小企業では良好な水準とされることが多い |
| 純資産が総資産の1割 | 10パーセント | 赤字が続くと債務超過に近づく |
| 純資産がゼロ | 0パーセント | 資産と負債が同額。次の赤字で債務超過になる |
| 純資産がマイナス | マイナス | 債務超過。負債が資産を上回っている状態 |
水準は業種によって変わる
結論: 目標とすべき水準は一律ではありません。設備を多く持つ業種と、資産をあまり持たない業種では、そもそも総資産の大きさが違うためです。
設備が多い業種は低くなりやすい
製造業や運輸業のように大きな設備を持つ業種では、総資産が大きくなります。設備の取得を借入で賄っていれば負債も大きくなるため、自己資本比率は低く出ます。これは業態による構造であって、経営が悪いという意味ではありません。同じ業種の中で比べることが、この指標を使ううえでの前提になります。金融機関も業種ごとの水準を持っており、他業種の数字とそのまま比べることはしません。自社の数字が低いと言われたときは、どの水準と比べての話かを確認してみてください。
資産が少ない業種は高くなりやすい
サービス業やコンサルティングのように、大きな設備を必要としない業種では総資産が小さくなります。同じ純資産の額でも、分母が小さいぶん比率は高く出ます。比率が高いこと自体が優れているとは限らないということで、投資を控えた結果として高くなっている場合もあります。成長のための投資をしていないだけ、という読み方もできます。借入をせずに現預金を厚く持っている会社は比率が高く出ますが、その資金を事業に使っていなければ成長も止まります。安全性と成長性は別の軸だということです。
比べる相手を決める
自社の数字を評価するには、比較の対象が要ります。同業種の平均、自社の過去3期、そして金融機関から示された水準。この3つを並べると、いまの数字の位置が分かります。平均と比べるだけでは方向が分からないため、自社の推移をあわせて見ることが重要です。下がり続けているのであれば、水準が平均以上でも注意が要ります。逆に、水準が低くても3期連続で上がっているのであれば、改善している会社として説明できます。金融機関に伝えるときも、水準と方向の両方を示すほうが伝わります。
比率を上げる方法は2つしかない
結論: 分子である純資産を増やすか、分母である総資産を減らすかの2つです。どちらが現実的かで打ち手が決まります。
純資産を増やす
もっとも本質的なのは、利益を出して利益剰余金を積み上げることです。ただし1年で大きく動かせるものではありません。ほかに、増資による資本金の増加という方法もあります。役員からの借入金を資本に振り替える方法もありますが、税務上の論点が生じるため事前の検討が要ります。時間はかかるが、これが唯一の持続的な方法だといえます。年間300万円の利益を出せば、5年で1,500万円の純資産が積み上がります。総資産が変わらなければ、その分だけ比率が上がる計算です。特別な施策ではなく、黒字を続けることがそのまま比率の改善になります。
総資産を減らす
使っていない資産を売却する、滞留している売掛金を回収する、過剰な在庫を減らす。これらは総資産を減らし、比率を上げます。回収した資金で借入を返済すれば、負債も同時に減ります。分母を減らす方法は比較的短期間で動かせるという利点があり、資金繰りの改善にもつながります。使っていない資産を持ち続ける理由がなければ、検討する価値があります。使っていない設備は償却資産税の対象にもなり続けるため、保有していること自体に費用が発生しています。整理する理由は比率だけではありません。
効果が薄い方法
役員報酬を下げて利益を増やすという方法もありますが、個人と法人を合わせた税負担で見ると必ずしも有利になりません。また、資産を減らすために必要な設備まで売却すれば、事業の継続に影響します。指標のために事業を歪めないという前提は、他の財務指標と同じです。数字を良く見せることと、経営を良くすることは別です。決算月の直前に一時的に借入を返済して比率を上げる、といった操作も、3期分を並べれば見えてしまいます。継続的に良くする方向で考えるほうが結果的に早くなります。
金融機関はこの指標をどう使うか
結論: 自己資本比率は、赤字への耐久力を測る指標として使われます。ただしこの1つだけで判断されるわけではなく、収益力や返済能力の指標と組み合わせて見られます。
単独では判断されない
融資の判断では、営業利益が出ているか、債務償還年数がどれくらいかといった指標もあわせて見られます。自己資本比率が低くても、収益力があり返済の裏づけがあれば評価されます。逆に、比率が高くても赤字が続いていれば評価は下がります。複数の指標を組み合わせて見られるという前提を持っておくと、決算書の説明もしやすくなります。自己資本比率だけを指摘されたとしても、それは会話の入口にすぎません。収益力や返済能力について自分から説明できれば、話の質が変わります。
債務超過は重く見られる
自己資本比率がマイナス、つまり債務超過の状態は、他の指標が良くても評価に強く影響します。負債が資産を上回っているため、清算した場合に返済しきれない計算になるからです。債務超過かどうかは、比率の高低とは別の質の問題として扱われます。この状態にある場合は、解消の計画を示すことが先になります。何年でどれだけ利益を出せば解消するのか、そのための施策は何か。この2つを数字で示せれば、状態そのものは変わらなくても対話は成立します。
説明できる状態にしておく
比率が低いのであれば、その理由を説明できるようにしておきます。設備投資を行った直後である、創業から日が浅い、といった事情があれば、数字だけでは分からない背景を伝えられます。数字と背景をセットで説明することが、金融機関との対話では効果があります。決算書を渡すだけで終わらせないという姿勢が、関係の質を変えます。設備投資であれば、その投資がいつから収益に貢献するのかもあわせて伝えてください。数字が悪化した理由と、回復の見通しが揃っていることが重要です。
3期分を並べて方向を見る
結論: 1期だけの数字では、良いのか悪いのかが分かりません。3期分を並べて、上がっているか下がっているかを見ることに意味があります。
上がっている場合
利益が出て利益剰余金が積み上がっているか、資産の整理が進んでいるかのどちらかです。どちらの要因で上がったのかを確認すると、その動きが続くかどうかが判断できます。利益による上昇であれば持続する可能性が高く、資産の売却による上昇は一時的なものです。要因を分けて見る意味は、この違いにあります。純資産の増加額と、総資産の減少額をそれぞれ確認すれば、どちらの要因が大きかったかが分かります。
下がっている場合
赤字で利益剰余金が減っているか、借入で資産が増えているかです。後者であれば、その投資が将来の利益につながるかが論点になります。設備投資の直後に比率が下がるのは自然なことで、問題は投資が回収できるかどうかです。下がったこと自体より、なぜ下がったかを見てください。赤字による低下と投資による低下は、意味がまったく違います。前者は耐久力が減っているだけですが、後者は将来の収益のための支出です。
変わっていない場合
利益がほとんど出ておらず、資産も動いていない状態です。安定しているように見えますが、比率が低い水準で止まっているのであれば、赤字への耐久力が上がっていないということでもあります。動いていないことも1つの情報として読む必要があります。利益がほぼゼロで推移している会社は、赤字に転じたときの余力が増えていません。事業が安定しているように見えても、環境が変われば一気に苦しくなる構造だということです。
似た指標との違い
結論: 安全性を見る指標は自己資本比率だけではありません。流動比率と債務償還年数は見ている時間軸が違うため、組み合わせて使います。
流動比率は短期の支払能力
流動比率は、流動資産を流動負債で割った割合です。1年以内に返す負債を、1年以内に現金化できる資産で賄えるかを見ます。自己資本比率が長期的な耐久力を見るのに対し、こちらは目先の支払に耐えられるかを見る指標です。自己資本比率が高くても流動比率が低ければ、資産が固定化していることになります。純資産は厚いが、その多くが不動産や設備に変わっていて手元の現金が少ない、という状態です。この場合、長期的には安全でも目先の支払で苦しくなることがあります。2つの指標を並べて見る理由はここにあります。
債務償還年数は返済能力
債務償還年数は、有利子負債を営業キャッシュフローで割った年数です。いまの稼ぐ力で借入を何年で返せるかを示します。金融機関が重視する指標の1つで、10年以内であれば概ね問題ないとされることが多いものです。自己資本比率が状態を示すのに対し、こちらは能力を示すという違いがあります。自己資本比率は過去の蓄積を映すため急には動きませんが、債務償還年数は稼ぐ力が変われば動きます。したがって、比率が低い会社でも収益が改善すれば債務償還年数は先に良くなります。改善の兆しが早く現れるのはこちらの指標です。
決算書だけでは分からないこと
結論: 貸借対照表に載っている数字が実態を映しているとは限りません。資産の中身を確認しないと、比率の意味も変わります。
回収できない売掛金
長期間動いていない売掛金が資産に計上されていれば、実質的な純資産はその分だけ少ないことになります。回収の見込みがない債権は、要件を満たせば貸倒損失として処理できます。実態に合わせた処理をすれば比率は下がりますが、数字の意味は正確になります。金融機関も資産の中身を見るため、実態と離れた数字は評価につながりません。売掛金の年齢表を作り、1年以上動いていないものを抽出するところから始めてください。件数が少なければ、確認は数十分で終わります。
価値の下がった在庫や資産
売れる見込みのない在庫、使っていない設備も同じです。帳簿価額のまま残っていれば、総資産が実態より大きく見えます。整理すれば比率は一時的に下がりますが、その後の数字は実態に近くなります。見た目の比率を守るために実態から離れることは、結果として判断を誤らせます。実態より大きな総資産を前提に経営判断をすれば、資金の余力を見誤ることになります。指標のためではなく、自分の判断のために正確にしておくという考え方です。
役員からの借入金
中小企業では、役員からの借入金が負債に計上されていることがよくあります。これは形式上は負債ですが、返済を求められない性質のものであれば、金融機関が実質的に純資産と見なして評価することもあります。形式と実質が分かれる項目として、説明の材料になります。役員借入金がいくらあり、返済の予定がどうなっているかを整理しておけば、決算書の説明の際に補足できます。資本に振り替える方法もありますが、税務上の論点が生じるため事前の検討が要ります。
事例:資産の整理で比率が改善した卸売業の会社
年商1億2,000万円の卸売業の会社で、金融機関から自己資本比率の低さを指摘されました。決算書をどう説明すればよいかという段階でご連絡をいただいた案件です。
計算すると、総資産8,400万円に対して純資産は760万円でした。
比率は約9パーセントでした。
資産の中身を確認すると、3年以上動いていない売掛金が約280万円、販売の見込みがない在庫が約450万円ありました。あわせて、使っていない車両と機械が帳簿価額で約190万円残っていました。
対応として、まず売掛金について回収の状況を整理し、要件を満たす分について貸倒損失として処理しました。在庫は評価の見直しを行い、使っていない設備は売却または除却しています。
処理した年の比率は一時的に下がりましたが、翌期は総資産が7,200万円まで減り、比率は約11パーセントになりました。数字の意味が実態と合ったことのほうが、金融機関との対話では効果がありました。資産の中身を説明できる状態になったためです。
よくある質問
自己資本比率は何パーセントあればよいですか?
比率を上げるにはどうすればよいですか?
債務超過だとどうなりますか?
銀行はこの指標だけで判断しますか?
1期だけ見ればよいですか?
まとめ:分子と分母のどちらを動かすかで決まる
自己資本比率は、純資産を総資産で割った割合です。総資産のうち返さなくてよいお金がどれだけあるかを示し、赤字への耐久力を測る指標として使われます。決算書があれば1分で計算できます。
目標とすべき水準は一律ではありません。設備を多く持つ業種は低く出やすく、設備の少ない業種は高く出やすいためです。同業種の水準と、自社の過去3期の推移の両方を並べて判断してください。
比率を上げる方法は2つしかありません。純資産を増やすか、総資産を減らすかです。純資産を増やすのは本質的ですが時間がかかり、総資産を減らすのは比較的短期間で動かせます。使っていない資産や滞留している売掛金があれば、そこが最初の打ち手になります。
そして、資産の中身が実態と合っているかを確認してください。回収できない売掛金や売れない在庫が残っていれば、比率が実態より高く見えているだけです。整理すれば一時的に比率は下がりますが、数字の意味が正確になります。
税理士法人Light UPでは、決算書の読み解きから金融機関への説明資料の整理までご相談を承っています。指摘を受けてどう答えればよいか迷われている場合も、お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「会社法」(平成十七年法律第八十六号)第435条
- e-Gov 法令検索「会社計算規則」(平成十八年法務省令第十三号)第76条
- 中小企業庁「中小企業実態基本調査」




