あえて法人化しない方が良い理由とは?見送ってよいケース

監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉

あえて法人化しない選択は、利益がまだ小さい、年によって大きく動く、数年内に事業をたたむ可能性がある、といった場面では合理的です。法人になると、赤字の年も払う法人住民税の均等割と、社長1人でも入る社会保険の保険料が、毎年必ず増えます。法人にして減る税金が、この増える分を上回ると自分の数字で確かめられるまでは、個人事業のままで構いません。この記事では、見送ってよい場面、判断を間違えやすい点、法人化で増える負担、個人のまま使える制度、後から法人化するときの注意を、国税庁・日本年金機構などの公表資料(2026年10月時点)で整理します。

あえて法人化しないほうがよいのはどんなとき?

結論: 利益が小さい、年ごとの変動が大きい、事業をたたむ可能性がある、許認可を取り直したくない、事務の手間を増やしたくない場面では、個人事業のままのほうが手元に残るお金は多くなります。

見送ってよい場面の早見表

場面 法人化すると起きること 先に確かめること
利益が小さい 税率の差で減る税金より、均等割と社会保険料が上回る 個人のままの手取りと法人の手取りを、同じ前提で並べる
利益が年によって大きく動く 赤字の年も均等割と社会保険料を払う。役員報酬は期の途中で自由に変えられない 過去2〜3年の所得の振れ幅
配偶者の健康保険の被扶養者になっている 役員報酬を受け取る役員は会社の社会保険に入り、保険料を自分で負担する 世帯全体の保険料
数年内に事業をたたむ可能性がある 解散と清算の登記・公告・申告が要り、作るときより手間がかかる たたむ時期の見通し
許認可を受けている 許認可は個人に付いていることが多く、法人で取り直しや承継の手続きが要る 所管の窓口に、法人化後の扱いを聞く
事務の手間を増やしたくない 決算書と、法人税・地方税の申告書を毎年作る 自分でやるか、税理士に頼むか

利益が小さい、変動が大きい

法人化の効果は、税率の差から生まれます。個人の所得税は、課税される所得が増えるほど税率が段階的に上がり、695万円を超える部分は23%、900万円を超える部分は33%です(国税庁タックスアンサーNo.2260)。法人税は、中小企業なら年800万円以下の部分が15%、超える部分が23.2%です(同No.5759、令和8年4月1日現在)。所得が大きくなるほど、この差が効いてきます。

反対に、利益が小さいうちは、差が小さい割に、均等割や社会保険料のような利益と関係なく出ていく固定費だけが増えます。個人事業税には事業主控除が年290万円あり、利益が小さい間は小さくなります(東京都主税局)。法人事業税に、この控除はありません。

被扶養者・事業のたたみ方・許認可

配偶者の健康保険の被扶養者になっている事業主は、会社から役員報酬を受け取る形にすると、自分が会社の社会保険の被保険者になります。保険料は本人と会社の両方で新しく発生するので、世帯全体で比べます。

数年内に引退や廃業を考えているなら、法人を作ってもすぐ解散と清算の手続きが要ります。

許認可は、建設業、古物商、飲食店など、業種ごとに手続きが違います。事業が止まる期間が出ると、損失が節税を上回ります。作る前に、所管の窓口へ法人化後の扱いを聞いてください。

法人化の判断でよくある間違いは?

結論: 間違えやすいのは、売上の目安だけで決める、税額だけで比べる、個人の制度を使い切る前に法人にする、消費税の免除を当てにする、の4つです。間違えると、手取りが減り、社会保険料が固定費として残ります。

法人化を勧められたのに、社会保険料まで入れた試算を見ていない、というご相談が少なくありません。

売上の目安だけで決める

売上1,000万円は、消費税で課税事業者になるかどうかの基準です。個人でも法人でも同じで、法人化の理由になりません。所得の目安も、前提の役員報酬や家族構成が違えば当てはまらないので、自分の数字を並べて決めます。

税額だけで比べる

税額の差だけを見ると、社会保険料が抜けます。社会保険料は、法人化の損得をいちばん動かします。比べるのは、税金と社会保険料を足した、手元に残る金額です。

個人の制度を使い切る前に法人にする

小規模企業共済や青色申告特別控除を使い切ると、課税される所得が下がり、法人化で得られる税率の差も小さくなります。制度を先に使い、それでも残る所得で比べます。

消費税の免除を当てにする

新しく設立した法人は、設立1期目と2期目は基準期間がないため、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただし、事業年度の開始の日に資本金が1,000万円以上の法人や、特定新規設立法人は免除されません(国税庁タックスアンサーNo.6501、令和8年4月1日現在)。インボイス発行事業者の登録をした場合も、その期から消費税を納めます。インボイスの登録で課税事業者になった個人事業者が令和9年分・令和10年分に使える3割特例は、法人には使えません(国税庁)。

税理士が確認する順番

法人化を見送るかどうかの確認の流れ
1

個人の制度の使用状況を見る
青色申告特別控除、共済、確定拠出年金のうち、使っていないものを洗い出す
2

制度を使い切った後の所得を出す
判断の出発点は、控除を使い切った後に残る所得
3

社会保険料を世帯で出す
本人だけでなく、扶養に入っている家族の分まで入れる
4

3年から5年の見通しを置く
利益が伸びるか、横ばいか、縮むかを置いて、増える固定費を回収できるかを見る
5

税以外の理由を確かめる
取引先の条件、融資の予定、許認可、採用の計画を確かめる

直近2年分の確定申告書と、国民健康保険料・国民年金保険料の通知書をお持ちいただければ、個人のまま使える制度を使い切った後の所得で、法人化によって増える社会保険料と固定費を並べて確かめます。

法人化・起業は私たちにお任せください。税理士法人Light UP の無料相談のご案内です。

法人化すると増える負担は何?

結論: 法人化すると、利益に関係なく毎年出ていく費用が増えます。法人住民税の均等割、社会保険料の会社負担、決算と申告の費用の3つです。設立のときは登記の費用もかかります。

増える費用の一覧

費用 金額の目安 赤字の年も出るか
法人住民税の均等割 資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の会社で年7万円(都道府県分2万円+市町村分5万円)。自治体により異なる場合がある 出る
厚生年金保険料の会社負担 保険料率18.3%の半分(9.15%)。標準報酬月額30万円で月27,450円(説明用の金額です) 役員報酬を払う限り出る
健康保険料の会社負担 保険料率の半分。協会けんぽの率は都道府県で異なる 役員報酬を払う限り出る
設立の登記(登録免許税) 株式会社は資本金の0.7%で、最低15万円。合同会社は最低6万円 設立時のみ
決算書・申告書の作成 自分で作る手間か、税理士への報酬 毎年

均等割は赤字でも出る

均等割は、利益や法人税の額ではなく、資本金等の額と従業者数で決まる法人住民税です。利益がゼロの年も、会社が存在する限り払います(総務省、神戸市の案内)。

社会保険は社長1人でも入る

法人の事業所は、事業主のみの場合を含めて、健康保険・厚生年金保険への加入が義務づけられています(日本年金機構)。個人事業所は、常時5人以上の従業員を使う場合が対象です。

厚生年金保険料率は18.3%で固定され、保険料は事業主と被保険者が半分ずつ負担します。標準報酬月額が30万円なら、本人と会社が月27,450円ずつ、合わせて54,900円です(説明用の金額です)。個人事業主が払う国民年金保険料は、令和8年度が月17,920円の定額です(日本年金機構)。

ただし、厚生年金保険は、払った保険料に応じて将来の年金も増えます。

健康保険料には、令和8年4月分から子ども・子育て支援金(令和8年度は0.23%、基本的に半分は会社負担)も上乗せされます(こども家庭庁)。

決算と申告の手間

法人は、決算書と、法人税・地方税の申告書を作ります。役員報酬は毎月同じ額を払う定期同額給与が原則で、期の途中で増減できるのは、役職や職務の重大な変更、経営の著しい悪化などに限られます(国税庁タックスアンサーNo.5211)。

個人のままで使える制度は?

結論: 法人化しなくても、所得を下げる制度があります。青色申告特別控除、小規模企業共済、経営セーフティ共済、個人型確定拠出年金(iDeCo)の4つで、法人化を検討する前に使い切れているかを確かめます。

制度の一覧

制度 内容 上限の目安
青色申告特別控除 複式簿記で記帳し、帳簿の電子保存かe-Taxでの申告をすると65万円を所得から差し引ける(令和8年分まで) 65万円
小規模企業共済 掛金は全額が所得控除。事業をやめたときなどに共済金を受け取る 月7万円(年84万円)
経営セーフティ共済 取引先の倒産に備える。掛金は事業所得の必要経費 月20万円、積立800万円まで
個人型確定拠出年金(iDeCo) 掛金は全額が所得控除 加入区分により異なる

青色申告特別控除と小規模企業共済

青色申告特別控除は、55万円の要件に加えて、仕訳帳・総勘定元帳の電子保存か、e-Taxでの申告のどちらかを満たすと65万円になります(国税庁タックスアンサーNo.2072)。令和9年分以後は、e-Taxでの申告に加えて電磁的記録の保存などの要件を満たすと、最大75万円に引き上げられます。

小規模企業共済は、掛金を月1,000円から7万円まで選べ、全額を所得から差し引けます。ただし、掛金は事業の必要経費にはなりません(中小企業基盤整備機構)。

経営セーフティ共済の出口

掛金は月5,000円から20万円で、800万円まで積み立てられ、個人事業主は事業所得の必要経費にできます。解約したときに受け取る解約手当金は、事業所得の収入になって課税されます。また、令和6年10月1日以降に解約して再加入すると、解約の日から2年を経過する日までの掛金は必要経費にできません(中小企業基盤整備機構)。

法人化しないと使えないものは?

結論: 個人のままでは、役員報酬への給与所得控除、役員退職金、欠損金の長い繰越し、法人を条件にする取引先との契約は使えません。見送るなら、この4つを手放します。

給与所得控除と役員退職金

法人から受け取る役員報酬は給与として扱われ、給与所得控除を差し引けます。令和8年分の最低保障額は74万円です。個人事業主の所得には、この控除がありません。

法人は、役員の退職金を損金に入れて払えます。個人事業主は、自分に退職金を払えないので、小規模企業共済が代わりになります。

欠損金の繰越しと取引先の条件

赤字は、個人事業の青色申告なら翌年以後3年間(国税庁タックスアンサーNo.2070)、法人の青色申告なら10年間繰り越せます(同No.5762)。

取引先や金融機関が、法人であることを条件にする業種もあります。税の損得に表れませんが、法人化の理由としては、いちばん動かしにくいものです。

見送った後はどうすればよい?

結論: 見送ると決めたら、毎年の決算後に試算し直し、記帳を正確に保ちます。法人化は、先送りしても不利になりません。

毎年の決算後に見直す

控除を使い切った後の所得が上がってきたら、そのときに試算し直します。利益や家族の保険の状況が変われば、答えも変わります。

記帳と口座を整える

法人にするとき、個人事業の資産や負債を引き継ぎます。日々の記帳が正確で、事業用と生活用の口座が分かれていれば、この作業は軽く済みます。

よくある質問

法人化しないと、将来不利になりますか?
なりません。控除を使い切った後の所得が上がった時点で、あらためて試算し、法人化を選べます。
法人化を見送る判断は、いつ見直せばよいですか?
毎年の決算後が適しています。利益や取引先の条件が変わったときも、試算し直します。
個人のままだと、信用面で困りませんか?
取引先によります。法人であることを条件にする相手がいるなら、それが法人化の理由になります。
配偶者の扶養に入っている場合は、法人化を避けるべきですか?
一律には言えません。役員報酬を受け取ると会社の社会保険に入るので、世帯全体の保険料で比べます。

まとめ:先に個人の制度を使い切ろう

  • 利益が小さい、変動が大きい、事業をたたむ可能性がある、許認可がある、事務の手間を増やしたくない場合は、見送ってよい場面です
  • 法人化すると、均等割と社会保険料が、赤字の年も毎年かかります
  • 法人化の前に、青色申告特別控除、小規模企業共済、経営セーフティ共済、iDeCoを使い切り、残った所得で比べます
  • 先送りしても不利になりません。毎年の決算後に試算し直して、数字が動いたときに決めます

法人化を勧められたものの、社会保険料まで入れた試算を見ていない方、見送る判断が正しいか確かめたい方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の確定申告書と加入中の制度の一覧を確認し、使い切っていない制度から順に、法人化した場合の手取りと並べて整理します。

法人化・起業は私たちにお任せください。税理士法人Light UP の無料相談のご案内です。

出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
  • 国税庁 タックスアンサー No.5759「法人税の税率」
  • 国税庁 タックスアンサー No.5762「欠損金の繰越控除」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2070「青色申告制度」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」
  • 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員給与の損金算入」
  • 国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」
  • 国税庁 タックスアンサー No.7191「登録免許税の税額表」
  • 国税庁「インボイス制度に関するお知らせ 令和8年度税制改正特集」
  • 日本年金機構「適用事業所と被保険者」「厚生年金保険料額表」「国民年金保険料」
  • 東京都主税局「個人事業税」
  • 総務省「地方税制度 法人住民税」
  • 中小企業基盤整備機構「小規模企業共済」「経営セーフティ共済」
  • こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」

この記事の監修者

中村 清誉

中村 清誉

税理士法人Light UP 代表社員(税理士)

近畿税理士会 尼崎支部 登録番号 5957(税理士法人Light UP)

2013年に税理士事務所を創設。2019年からは会計・コンサルティング・M&Aの支援へ業務を広げ、現在は職員70名の体制で中小企業の税務と経営を支えています。

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