個人事業主とは?メリットと法人との違い、税金をわかりやすく解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
個人事業主とは、会社などの法人をつくらず、自分の名前で事業を営んでいる人のことです。法律上の資格ではなく、事業をしている状態を指す言葉で、開業届を出せば手続きは済みます。登記は要りません。そのかわり、事業の利益はすべて本人の所得になり、所得税・住民税・個人事業税・消費税の4つの税金と、国民健康保険・国民年金に自分で向き合います。この記事では、定義から法人との違いまでを、国税庁などの公表資料(2026年10月時点)で整理します。
個人事業主とは何?
結論: 個人事業主とは、法人をつくらず、自分の名前で継続して事業を営んでいる人です。免許や資格ではなく、事業をしている状態を指す言葉で、開業届を出すことで税務上の扱いが定まります。
個人事業主の定義
株式会社や合同会社は、登記をして、はじめて存在します。個人事業主には設立の手続きがなく、事業を始めた事実が出発点です。開業届に書いた日付が事業の開始日として扱われ、開業日は自分で決められます。
フリーランスは契約ごとに働く働き方、自営業は自分で事業を営む人全般の呼び名で、どちらも税法上の用語ではありません。税務署の書類に出てくる区分は個人事業主で、呼び方が違っても確定申告の中身は変わりません。
事業所得と雑所得の分かれ目
所得税では、収入を得る活動が事業にあたるかで、所得の区分が変わります。国税庁の所得税基本通達(35-2)は、その活動が社会通念上、事業といえる程度で行われているかで判定するとしています。反復・継続して自分の計算と責任で行っているかが見られ、帳簿書類の保存も目安の一つです。事業所得なら青色申告特別控除を使えますが、雑所得は使えません。
開業と申告でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、開業届と青色申告の期限の取り違え、税金が来る順番の見落とし、経費の根拠の不足の3つです。間違えると、特別控除が使えない年や、納税資金が足りない月が生じます。
開業届と青色申告の期限の取り違え
開業届の期限を、開業から1か月以内と説明するサイトがあります。国税庁の現行の案内は、事業を始めた日の属する年分の確定申告期限までです。1か月以内の期限があるのは、人を雇うときの給与支払事務所等の開設届出書です。
戻せないのは、青色申告承認申請書の出し忘れです。期限は、青色にしたい年の3月15日まで、その年の1月16日以後に開業したなら開業日から2か月以内です。出し忘れると、その年は白色申告になり、特別控除と赤字の繰越しが使えません。
税金が来る順番の見落とし
所得税は翌年3月に納めますが、その後に住民税と個人事業税の納付書が届きます。この2つは前年の所得をもとに決まり、独立1年目の分は2年目に届きます。納税資金を寄せていないと、8月の納付書で資金が足りなくなるため、売上が入るたびに一定の割合を納税用の口座へ移しておきます。
経費の根拠の不足
自宅や車を私用と共用する場合は、事業で使った割合だけを経費にし、その根拠として床面積の図面や走行記録を残します。生活費、所得税、住民税、国民健康保険料、国民年金保険料は経費になりません。
税理士が確認する順番
税理士は、開業日を聞いたうえで、次の順に期限と金額を確かめます。
開業届の控えと直近の通帳、契約書をお持ちいただければ、青色申告承認申請書の期限と、所得の区分、税金が来る時期を一緒に確かめます。
個人事業主になる手続きは?
結論: 必要な手続きは、税務署へ個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)を出すことです。青色申告にするなら承認申請書も、人を雇うなら給与の届出も要ります。
開業届の出し方
納税地を管轄する税務署へ、窓口、郵送、e-Taxのいずれかで出します。屋号の欄は空欄でも受理されます。開業初日に、事業用の口座とカードも分けます。
一緒に出す書類と期限
開業のときに検討する届出と期限は、国税庁のタックスアンサーNo.2090で次のとおり示されています。
| 書類 | 期限 | 出す場合 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 事業を始めた日の属する年分の確定申告期限まで | 事業を始めたとき |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 青色にしたい年の3月15日まで。1月16日以後に始めたときは始めた日から2か月以内 | 青色申告にするとき |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設の日から1か月以内 | 人を雇って給与を払うとき |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 随時 | 納付を年2回にまとめたいとき |
個人事業主が払う税金は?
結論: 関わる税金は、所得税・住民税・個人事業税・消費税の4つです。納め先は税務署・市区町村・都道府県に分かれ、時期が1年の中に散らばります。
4つの税金と納める時期
| 税目 | 申告 | 納める時期 | 納め先 |
|---|---|---|---|
| 所得税 | 翌年2月16日から3月15日まで | 3月15日(振替納税は4月下旬) | 税務署 |
| 消費税(課税事業者) | 翌年3月31日まで | 3月31日 | 税務署 |
| 住民税 | 不要(所得税の申告が市区町村に回る) | 6月・8月・10月・翌年1月 | 市区町村 |
| 個人事業税 | 不要(同上) | 8月・11月 | 都道府県 |
予定納税基準額が15万円以上の人は、7月と11月に3分の1ずつを予定納税します(国税庁タックスアンサーNo.2040)。
所得税と基礎控除
所得税は、売上から必要経費と青色申告特別控除を引いた所得金額から、基礎控除などの所得控除を引いた課税所得に、税率をかけて求めます。税率は5%から45%まで7段階で、所得が増えた部分にだけ高い税率がかかります(国税庁タックスアンサーNo.2260)。復興特別所得税(基準所得税額の2.1%)も加わります。
基礎控除は、合計所得金額で額が変わります。令和8年分は、合計所得金額が489万円以下の人が104万円です。令和7年分だった95万円(132万円以下の人)は、令和8年分では使いません。国税庁タックスアンサーNo.1199(令和8年4月1日現在法令等)の区分は次のとおりです。
| 合計所得金額 | 令和8年分・令和9年分 | 令和10年分以後 |
|---|---|---|
| 132万円以下 | 104万円 | 99万円 |
| 132万円超489万円以下 | 104万円 | 62万円 |
| 489万円超655万円以下 | 67万円 | 62万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 62万円 | 62万円 |
2,350万円超は、2,400万円以下が48万円、2,450万円以下が32万円、2,500万円以下が16万円、2,500万円超が0円です。
住民税と個人事業税
住民税の所得割は、標準税率で10%です。個人事業税は、法定業種の事業に都道府県が課し、税率は業種で3%・4%・5%です。年290万円の事業主控除があり、個人事業税の計算上の所得が290万円以下なら税額は生じません(東京都主税局)。
消費税とインボイス
消費税は、基準期間(原則として2年前)の課税売上高が1,000万円を超えた年から納税義務が生じます。開業1年目と2年目は原則として免税です。インボイス発行事業者に登録すると、売上の規模にかかわらず課税事業者になります。
登録を機に課税事業者になった個人事業者は、納付税額を売上に係る消費税額の2割にできる2割特例を、令和8年分の申告まで使えます。令和9年分と令和10年分は3割特例です(国税庁リーフレット、令和8年9月)。
青色申告と白色申告はどう違う?
結論: 青色申告は、複式簿記などの記帳と引き換えに、最大65万円の特別控除と赤字の3年繰越しが受けられる制度です。白色申告にはどちらもありません。
青色申告特別控除の額と要件
国税庁タックスアンサーNo.2072(令和8年4月1日現在法令等)によると、令和8年分までの控除は次のとおりです。
| 控除額 | 主な要件 |
|---|---|
| 65万円 | 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を期限内に提出。さらに、e-Taxで申告するか、仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存する |
| 55万円 | 65万円の要件のうち、e-Taxの申告と電子帳簿保存の両方を満たさない |
| 10万円 | 上に当たらない青色申告者 |
令和9年分以後は、e-Taxでの申告を要件に加えた65万円と、電子帳簿保存なども満たす75万円に変わります(令和8年度税制改正の大綱)。
赤字の繰越しと白色申告の記帳
青色申告者は、赤字(純損失)を翌年以後3年間繰り越して、各年の所得から引けます。白色でも、国税庁は事業所得・不動産所得・山林所得を生ずべき業務を行うすべての人に、記帳と帳簿書類の保存を求めています。
個人事業主の社会保険は?
結論: 個人事業主は、原則として国民健康保険と国民年金に加入します。会社員の健康保険・厚生年金保険と違い、保険料の労使折半がなく、全額を自分で負担します。
会社員のときから変わる点
独立すると、保険料の折半がなくなります。国民健康保険料は前年の所得をもとに市区町村が計算するため、独立1年目は会社員時代の所得で決まり、収入が下がったのに保険料が高いことが起こります。退職後20日以内の手続きで、それまでの健康保険を最長2年続ける任意継続もあります。
年金は国民年金が中心になる
独立後は厚生年金保険に加入しないため、その期間は国民年金(老齢基礎年金)の分だけが積み上がります。会社員時代に厚生年金保険に1か月以上加入していて、老齢基礎年金の受給資格期間(10年)を満たせば、その期間の分は老齢厚生年金として将来受け取れます。増えなくなるのは、独立後の上乗せです。
上乗せを自分で用意する手段には、国民年金基金、付加年金、iDeCo(個人型確定拠出年金)、小規模企業共済があります。
個人事業主と法人は何が違う?
結論: 個人事業主は届出だけで始められ、事業の利益が本人の所得になります。法人は登記が要り、本人への給与は役員報酬として扱えますが、赤字でも均等割がかかり、社長1人でも社会保険に加入します。
比べる項目の一覧
| 比べる項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 事業の利益 | 全額が本人の所得。所得税は5%から45%の累進 | 法人の所得。法人税は中小法人の年800万円以下の部分が15% |
| 本人への報酬 | 経費にならない | 役員報酬を、要件を満たせば損金の額に算入できる |
| 赤字の繰越し | 青色申告で3年 | 青色申告で10年 |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金保険(社長1人でも加入) |
メリットとデメリット
メリットは、開業届だけで始められること、事業の利益がそのまま自分の所得になること、青色申告の特典を使えることです。
デメリットは、所得が増えると税率が上がること(課税所得695万円超の部分で23%、900万円超の部分で33%)、事業の借金を個人の財産で負うこと、厚生年金保険の上乗せが増えないこと、法人としか契約しない取引先があることです。
法人化を考える目安
所得が増えると、所得税の税率と法人税率の差が広がります。ただし法人にすると、均等割、社会保険料、決算の費用が増えるため、同じ表に並べて比べます。
よくある質問
開業届を出さないと、罰則はありますか?
会社員の副業でも、開業届は必要ですか?
個人事業主は、消費税を必ず納めますか?
まとめ:先に期限を決め、次に税金の順番を押さえよう
- 個人事業主は、法人をつくらず自分の名前で事業を営む人で、開業届で始まる
- 開業届は確定申告期限まで、青色申告承認申請書は3月15日か開業から2か月以内。戻せないのは青色申告承認申請書
- 税金は所得税・住民税・個人事業税・消費税の4つ。住民税と個人事業税は翌年に届く
- 基礎控除は令和8年分で、合計所得金額489万円以下なら104万円
- 社会保険は国民健康保険と国民年金。会社員時代の厚生年金保険の記録は残る
開業して間もない方、法人にするか迷っている方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。開業届の控えと直近の帳簿を確認し、届出の期限、所得の区分、税金が来る時期、法人との税金・社会保険料の差を整理します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2090「新たに事業を始めたときの届出など」
- 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
- 国税庁 所得税基本通達35-2
- 国税庁 タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
- 国税庁 タックスアンサー No.1199「基礎控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.2040「予定納税」
- 国税庁リーフレット「インボイス制度に関するお知らせ」(令和8年9月)
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」
- 東京都主税局「個人事業税」





