個人事業主とは|法人との違いと税金の全体像

「開業届は出したものの、結局この先どんな税金を払うのかが分かっていません」。「会社にするのとどこが違うのか、誰に聞けばいいのか分からなくて」――独立して1年目の方から、この2つはほぼ必ずいただくご相談です。

結論からお伝えすると、個人事業主とは、法人を設立せずに自分の名義で継続的に事業を行っている人を指します。届出を出せばその日から個人事業主で、資本金も登記も要りません。そのかわり、事業の利益はすべて本人の所得として扱われ、所得税・住民税・個人事業税・消費税の4つが順番に関わってきます。

税理士法人Light UPでは、独立1年目でつまずくのは税額そのものではなく、税金の来る順番と時期だと考えています。所得税を納めた数か月後に住民税と個人事業税の納付書が届き、そこで資金が足りなくなる。金額を知らなかったのではなく、届く順番を知らなかったというケースがほとんどです。

この記事では、個人事業主の定義と開業手続きから、納める税金4つの中身、青色申告と白色申告の分かれ目、社会保険、そして法人との違いと法人化の目安までを、実際に個人事業主の確定申告を代行している立場から順に整理します。

個人事業主は登記をせずに自分の名義で事業を営む人

結論: 個人事業主とは、法人を設立せずに個人の名義で継続的・独立的に事業を行っている人のことです。法律上の資格ではなく状態を指す言葉で、税務署に開業届を出すことで税務上の扱いが定まります。

設立という行為がなく、継続と独立が判断の軸になる

株式会社や合同会社は、定款をつくり法務局に登記をして、はじめて世の中に存在します。個人事業主にはその手続きがありません。事業を始めた事実そのものが出発点で、書類は後から追いかける形になります。

だから開業日を自分で決められます。届出書に書いた日付が、そのまま事業の開始日として扱われます。

単発で報酬を受け取っただけでは事業とは言えません。反復・継続して行われているか、自分の計算と危険負担で行っているか。この2つが事業所得か雑所得かの分かれ目になります。

国税庁の「雑所得の範囲の取扱いに関する所得税基本通達の解説」では、業務に係る帳簿書類の保存があるかどうかを、事業所得として扱うかの目安の一つとしています。記帳しているかどうかが、そのまま所得区分に影響する構造です。

個人事業主にあたるかは、資格ではなく状態で決まる
反復・継続して、自分の計算と危険負担で行っている
事業所得として扱われる。帳簿書類の保存があるかどうかも目安の一つとされている
単発で報酬を受け取っただけ
事業とは言えず、雑所得の扱いになる
会社員のまま副業をしている
事業と言える規模なら個人事業主。給与所得と事業所得の両方を申告する。就業規則との関係は税務とは別の問題

フリーランス・自営業との呼び分けと、副業でも該当すること

フリーランスは働き方の呼び名、自営業は生計の立て方の呼び名で、どちらも税法上の用語ではありません。税務署の書類に出てくるのは、あくまで個人事業主という区分です。

呼び方が違っても、確定申告の中身は変わりません。

会社員のまま副業を続けている方も、その副業が事業と言える規模であれば個人事業主です。給与所得と事業所得の両方を申告することになります。

ただし、勤務先の就業規則との関係は税務とは別の問題です。ここは税理士ではなく、勤務先の規程を確認する話になります。

開業の手続きは届出を出すところから始まる

結論: 個人事業主になるための手続きは、税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出することです。所得税法第229条に基づく届出で、提出期限は事業を開始した年分の確定申告期限までとされています。

開業届の提出期限

国税庁の税務手続案内「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」では、提出時期について「事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限までに提出してください」と案内されています。以前は開業から1か月以内という説明が広く出回っていましたが、現在の案内は確定申告期限までです。

とはいえ、後述する青色申告の申請が別の期限で動くため、実務では開業したらまとめて出してしまうのが安全でしょう。

同時に出しておきたい書類

開業のタイミングで一緒に検討する届出は、おおむね次の4つです。

  • 所得税の青色申告承認申請書:青色申告を選ぶなら必須。期限が別建てで厳しい
  • 青色事業専従者給与に関する届出書:家族に給与を払うなら必要
  • 給与支払事務所等の開設届出書(人を雇うとき)
  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(納付を年2回にまとめたいとき)

このうち、期限を逃すと1年待つことになるのは青色申告承認申請書だけです。ほかは後からでも間に合います。

開業のときに検討する4つの届出
01
所得税の青色申告承認申請書
青色申告を選ぶなら必須。期限が別建てで厳しく、逃すと1年待つのはこれだけ
02
青色事業専従者給与に関する届出書
家族に給与を払って必要経費にするなら要る
03
給与支払事務所等の開設届出書
人を雇うとき
04
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉所得税の納付を年2回にまとめたいとき

屋号は付けなくてもよい。口座とカードは最初に分ける

開業届には屋号を書く欄がありますが、空欄でも受理されます。屋号を付けると事業用の口座名義に使える金融機関が多く、取引先への見え方も変わってきます。

一方で、屋号は登記された商号とは違い、同じ名前を他人が使うことを止められません。名前に思い入れがあるなら、そこは商標の話として別に考える必要があります。

これは制度の話ではなく、実務の話です。開業初日にやっておくと後が楽なのは、事業用の預金口座とクレジットカードを分けることに尽きます。

「あとで整理しようと思っていたら、1年分のレシートと家計の支払いが混ざってしまって」というご相談は、毎年この時期に必ずいただきます。混ざった通帳を後から分けるのは、砂と塩を選り分ける作業に近いのです。

個人事業主が納める税金は大きく4つに分かれる

結論: 個人事業主が関わる税金は、所得税・住民税・個人事業税・消費税の4つです。所得税は国税、住民税と個人事業税は地方税、消費税は売上規模に応じて後から加わります。

4つのうち、自分に関わるのはどれか
所得税・住民税
事業をしていれば必ず関わる。住民税は確定申告の情報が市区町村へ回るため、改めて申告する必要はない
個人事業税
地方税法に定められた法定業種にあたる場合。年290万円の事業主控除があり、所得が290万円以下なら生じない
消費税
基準期間(原則として2年前)の課税売上高が1,000万円を超えた年から。インボイス発行事業者として登録すると、売上規模にかかわらず課税事業者になる

所得税は事業の儲けにかかり、住民税は申告内容から決まる

1年間の売上から必要経費を引いた事業所得に、各種の所得控除を引いた残りが課税所得です。ここに税率をかけたものが所得税になります。

申告と納付の期限は、原則として翌年3月15日です。

確定申告をすると、その情報が市区町村へ回ります。改めて住民税の申告をする必要はありません。

税率は所得割10%(都道府県民税4%・市区町村民税6%)が標準で、これに均等割が加わります。5月から6月にかけて納付書が届き、6月・8月・10月・翌1月の4回に分けて納めるのが一般的な形です。

個人事業税は都道府県に納め、消費税は2年前の売上で決まる

地方税法に定められた法定業種にあたる事業を営む場合、都道府県に個人事業税を納めます。税率は業種によって3%・4%・5%に分かれ、年290万円の事業主控除があります。

つまり、事業の所得が290万円以下であれば個人事業税は生じません。ここを知らずに8月の納付書を見て驚く方が多い税金です。

消費税は、基準期間(原則として2年前)の課税売上高が1,000万円を超えた年から納税義務が生じます。開業1年目・2年目は基準期間が存在しないため、原則として免税事業者です。

ただし、インボイス発行事業者として登録した場合は、売上規模にかかわらず課税事業者になります。ここは登録するかどうかの判断が先に来ます。

4つの税金が来る時期

税目 申告 納付の時期 納め先
所得税 翌年2月16日〜3月15日 3月15日(振替納税なら4月下旬) 税務署
消費税 翌年3月31日 3月31日(振替納税なら4月下旬) 税務署
住民税 不要(所得税の申告から連動) 6月・8月・10月・翌1月 市区町村
個人事業税 不要(同上) 8月・11月 都道府県

この表を一度でも見ておくと、資金繰りの組み立てが変わります。3月に納税を終えても、そのあと8月にもう一山あるという構造だからです。

納める時期が分かれているぶん、1年を通して支払いが散らばります。まとめて用意しようとすると必ず足りなくなるため、月ごとに積み立てておく形にするのが現実的です。特に住民税と個人事業税は、所得が確定した翌年に来ます。稼いだ年と払う年がずれる点を、資金繰りに入れておくことです。

所得税は儲けが増えるほど税率が上がる

結論: 所得税は課税所得の大きさに応じて5%から45%まで7段階で上がる超過累進税率です。所得が増えた部分にだけ高い税率がかかり、全体に一律の高い税率がかかるわけではありません。

税率は段階的に上がるが、境目を1円超えても税額は跳ねない

国税庁のタックスアンサーNo.2260「所得税の税率」では、課税される所得金額に応じた速算表が示されています。195万円以下が5%、330万円以下が10%と続き、4,000万円超で45%です。

ここに復興特別所得税が上乗せされます。基準所得税額の2.1%です。

「330万円を超えると急に手取りが減るのですか」というご質問をよくいただきます。超えた部分にだけ次の税率がかかるため、境目をまたいだ瞬間に手取りが減ることはありません。

超過累進というのは、階段を一段上がるたびに次の一歩の重さが変わる仕組みです。すでに上った段の重さは変わりません。

事業所得の計算の順番

税額にたどり着くまでの流れは決まっています。

  1. 売上 − 必要経費 = 事業所得
  2. 事業所得 − 青色申告特別控除 = 所得金額
  3. 所得金額 − 所得控除(基礎控除・社会保険料控除など) = 課税所得
  4. 課税所得 × 税率 − 控除額 = 所得税額

この4段のうち、自分で動かせるのは1段目と2段目、そして3段目の一部です。税率そのものは選べません。

基礎控除は令和7年分から段階方式になった

国税庁のタックスアンサーNo.1199「基礎控除」によれば、基礎控除の額は納税者本人の合計所得金額に応じて変わります。令和6年分以前は2,400万円以下なら一律48万円でしたが、令和7年度税制改正で細分化され、さらに令和8年度税制改正で令和8年分・令和9年分の額が引き上げられました。現行の区分は次のとおりです。

合計所得金額 令和6年分以前 令和7年分 令和8年分・令和9年分 令和10年分以後
132万円以下 48万円 95万円 104万円 99万円
132万円超336万円以下 48万円 88万円 104万円 62万円
336万円超489万円以下 48万円 68万円 104万円 62万円
489万円超655万円以下 48万円 63万円 67万円 62万円
655万円超2,350万円以下 48万円 58万円 62万円 62万円
2,350万円超2,400万円以下 48万円 48万円 48万円 48万円
2,400万円超2,450万円以下 32万円 32万円 32万円 32万円
2,450万円超2,500万円以下 16万円 16万円 16万円 16万円
2,500万円超 0円 0円 0円 0円

令和7年分だけの措置だった95万円・88万円・68万円・63万円の区分に対し、令和8年度税制改正により令和8年分・令和9年分は合計所得489万円以下が104万円に一本化され、655万円以下の層まで底上げされました。令和10年分以後は99万円・62万円に落ち着き、以後は2年ごとに物価の変化率を基準に見直されます。所得の低い年ほど恩恵が大きい設計である点は変わりません。

個人事業主・青色申告の判断に迷っていませんか。実際の数字を見ながらお答えします。初回のご相談は無料です。

必要経費になるものとならないものには線がある

結論: 必要経費として認められるのは、売上に直接対応する原価と、その年の事業のために生じた費用です。事業との関連が説明できない支出は、領収書があっても必要経費になりません。

判断の基準は事業との関連性

所得税法第37条は、必要経費について「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」と定めています。

条文の言い回しは硬いのですが、要は事業のために使ったと説明できるかの一点です。

経費になりやすいものと、ならないもの

  • 仕入・外注費・材料費
  • 事務所家賃・水道光熱費・通信費
  • 交通費・宿泊費・打合せの飲食費
  • 消耗品費・広告宣伝費・支払手数料
  • 事業に使う資産の減価償却費

生活費、所得税と住民税、国民健康保険料と国民年金保険料、そして事業主本人への給与です。

保険料は経費ではありませんが、社会保険料控除として所得控除に回ります。経費にならない=引けない、ではないのが分かりにくいところでしょう。

領収書があっても、経費になるとは限らない
経費になりやすいもの
仕入・外注費・材料費
事務所家賃・水道光熱費・通信費
交通費・宿泊費・打合せの飲食費
消耗品費・広告宣伝費・支払手数料
事業に使う資産の減価償却費
経費にならないもの
生活費
所得税と住民税
国民健康保険料と国民年金保険料(社会保険料控除として所得控除に回る)
事業主本人への給与

家事按分は割合の根拠が要る。30万円未満の資産の扱い

自宅を事務所に使っている、車を仕事とプライベートで共用している。この場合は事業で使った割合だけを経費にします。

家賃なら床面積の比、車ならおおよその走行距離や使用日数の比が根拠になります。8割という数字そのものより、なぜ8割なのかを説明できる状態にしておくことが大切です。

青色申告者であれば、中小企業者等の少額減価償却資産の特例により、取得価額が一定額未満の資産を取得した年に全額必要経費にできます。年間300万円が上限です。

なお、令和8年度の税制改正でこの取得価額の基準が30万円未満から40万円未満へ引き上げられました。令和8年4月1日以後に取得する資産が対象です。

青色申告と白色申告で残る金額が変わる

結論: 青色申告は正規の簿記による記帳と引き換えに、最高65万円の青色申告特別控除や赤字の3年繰越などの特典が受けられる制度です。白色申告にはこれらの特典がありません。

青色申告の主な特典と、3段階に分かれる特別控除

国税庁のタックスアンサーNo.2070「青色申告制度」では、青色申告の主な特典として青色申告特別控除・青色事業専従者給与・貸倒引当金・純損失の繰越しと繰戻しが挙げられています。

このうち金額の差がはっきり出るのは、特別控除と赤字の繰越しの2つです。

控除額 主な要件
65万円 複式簿記+貸借対照表の添付+期限内申告に加え、e-Taxによる申告または優良な電子帳簿での保存
55万円 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付して期限内に申告
10万円 上記の要件を満たさない青色申告者(簡易な記帳でも可)

国税庁のタックスアンサーNo.2072「青色申告特別控除」では、55万円控除の要件について「その年の確定申告期限(翌年3月15日)までに当該申告書を提出すること」と明記されています。期限を1日でも過ぎると、55万円と65万円の枠は使えず10万円になります。

赤字を3年間繰り越せる。家族への給与を経費にできる

青色申告者は、損益通算してもなお残る純損失を翌年以後3年間繰り越し、各年の所得から差し引けます。開業初年度が赤字になりやすい業種では、この差は特別控除より大きくなることがあります。

白色申告にはこの繰越しがありません。初年度の赤字はその年で消えます。

生計を一にする配偶者や親族で、15歳以上かつその事業に専ら従事している人に払った給与は、届出の範囲内で必要経費に算入できます。届出の期限は、その年の3月15日(1月16日以後に開業した場合や新たに専従者ができた場合は、その日から2か月以内)です。

白色申告の場合は事業専従者控除となり、配偶者86万円・その他の親族50万円という定額の上限が設けられています。

白色でも記帳の義務はある

「白色なら帳簿を付けなくていい」というのは誤解です。国税庁の「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」では、対象となる方を「事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行う全ての方」としています。

帳簿を付ける手間は白色でもかかる。それなら特典のある青色を選ぶ方が合理的だ、という判断になる方がほとんどです。

青色申告の承認申請は期限を逃すと1年待つ

結論: 青色申告の承認申請書は、青色申告をしようとする年の3月15日までに提出する必要があります。その年の1月16日以後に開業した場合は、開業日から2か月以内です。

3月15日という期限の意味と、開業年は2か月以内が優先すること

国税庁の税務手続案内「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」では、提出時期を「青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで」としています。ここでいう3月15日は、申告する年の3月15日です。

たとえば令和9年分から青色申告にしたいのであれば、期限は令和9年3月15日。令和10年3月の確定申告のときに申請しても間に合いません。

1月16日以後に開業した場合の期限は、開業日から2か月以内です。9月1日に開業したなら10月31日まで。翌年3月15日ではありません。

「開業届と一緒に出してください」と私たちが必ずお伝えするのは、この2か月がすぐに過ぎてしまうからです。

承認申請の期限を外さない見方
1

申告する年の3月15日を確認する
令和9年分から青色にしたいなら令和9年3月15日。令和10年3月の確定申告に合わせて出しても、その年分には間に合わない
2

開業した年は2か月以内が優先する
1月16日以後の開業なら開業日から2か月以内。9月1日開業なら10月31日まで
3

開業届と同時に出してしまう
2か月はすぐ過ぎる。ほかの届出は後からでも間に合うが、これだけは戻せない
4

通知を待たない
12月31日(11月1日以降の開業は翌年2月15日)までに処分の通知がなければ承認とみなされる。何も届かないのが通常の状態

承認は通知が来ないまま確定する。取りやめた後は1年空ける

同案内の備考には、承認を受けようとする年の12月31日(その年の11月1日以降に開業した場合は翌年2月15日)までに処分の通知がなかったときは、承認されたものとみなされる旨が記載されています。

つまり、税務署から何も届かないのが通常の状態です。連絡がないから通っていないのでは、と心配される必要はありません。

青色申告の取りやめ届出書を出した場合や、承認の取消しを受けた場合は、その日以後1年以内は再申請できません。審査基準として明記されています。

個人事業主の社会保険は国民健康保険と国民年金

結論: 個人事業主は、原則として国民健康保険と国民年金に加入します。会社員時代の健康保険・厚生年金保険と違い、保険料の労使折半がなく全額を自分で負担します。

会社員時代との一番の違いと、保険料は前年の所得で決まること

会社員のときは、健康保険料と厚生年金保険料の半分を会社が負担していました。独立するとこの折半がなくなります。

額面の収入が同じでも手元に残る金額が変わるのは、税金より先にここが理由です。

会社員のときから変わる4つ
01
労使折半がなくなる
健康保険料と厚生年金保険料の半分を会社が負担していた分が、全額自己負担になる
02
国民健康保険料は前年の所得で決まる
独立1年目は会社員時代の所得で計算される。収入が下がっているのに保険料が高いという状態が起こる
03
任意継続という選択肢がある
退職から20日以内の手続きで、それまでの健康保険を最長2年続けられる。どちらが安いかは扶養家族の人数で逆転する
04
厚生年金保険の上乗せが止まる
独立後に加入するのは国民年金のみ。上乗せ分は国民年金基金・付加年金・iDeCo・小規模企業共済などで自分で作る

国民健康保険料は市区町村ごとに計算方法が異なりますが、いずれも前年の所得を基礎にします。独立1年目は会社員時代の所得で計算されるため、収入が下がっているのに保険料が高いという状態が起こります。

「売上が立たない年に、いちばん高い保険料の通知が来ました」というお声は、独立1年目の方から本当によく伺います。

退職から2年は任意継続という選択肢。国民年金は基礎年金のみ

会社を辞めてから20日以内に手続きをすれば、それまでの健康保険を最長2年間そのまま続けられます。国民健康保険と比べてどちらが安いかは、扶養家族の人数で逆転します。

独立後は厚生年金保険に加入しなくなるため、独立後の期間は国民年金(基礎年金)だけが積み上がります。厚生年金保険に加入していた期間の老齢厚生年金は将来も受け取れますが、独立後に年金額が上乗せされることはありません。これを補う手段として、国民年金基金・付加年金・iDeCo(個人型確定拠出年金)・小規模企業共済があります。

いずれも掛金が全額所得控除の対象になるため、老後の備えと当年の税負担の両方に関わります。

人を雇うと源泉徴収と労働保険の義務が生じる

結論: 個人事業主でも、従業員に給与を支払えばその時点で源泉徴収義務者になります。所得税を天引きして原則翌月10日までに納付し、年末には年末調整を行う必要があります。

給与を払った時点から義務が始まり、常時10人未満なら年2回にできる

法人と同じく、個人事業主も人を雇えば源泉徴収義務者です。届出として「給与支払事務所等の開設届出書」を提出します。

人を雇った時点で始まること
1

給与支払事務所等の開設届出書を出す
給与を支払えば、その時点で源泉徴収義務者になる
2

所得税を天引きして納付する
原則として翌月10日まで。支給人員が常時10人未満なら、納期の特例で年2回(7月10日と翌年1月20日)にまとめられる
3

労働保険に加入する
労災はパート・アルバイトを含めて1人でも雇えば必要。雇用保険は週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある人が対象
4

年末調整と法定調書を出す
12月に年末調整、1月に法定調書合計表と給与支払報告書の提出が加わる

給与の支給人員が常時10人未満であれば、納期の特例の承認を受けることで、源泉所得税の納付を年2回(7月10日と翌年1月20日)にまとめられます。毎月の納付作業がなくなるため、1人・2人を雇い始めた段階では選ぶ方が多い制度です。

労働保険は雇った時点で加入する

労災保険は、パート・アルバイトを含めて1人でも雇えば加入が必要です。雇用保険は、週20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある人が対象になります。

なお、社会保険(健康保険・厚生年金保険)については、個人事業所の場合は業種と人数によって強制適用かどうかが分かれます。ここは法人と扱いが違う数少ない場面です。

個人事業主と法人には税率と信用の違いがある

結論: 個人事業主は所得税の累進税率、法人は比較的フラットな法人税率が適用されます。所得が増えるほど法人のほうが税率上は有利になりますが、法人には赤字でも生じる均等割と、設立・維持の手間が伴います。

税率の構造が違い、経営者への給与の扱いが決定的に違う

個人事業と法人では、同じ利益でも税額の出方が違います。所得税は所得が増えるほど税率が上がり、法人税は2段階で頭打ちになります。まず税率の構造を並べたうえで、給与の扱いという決定的な差を見ます。

比較の軸 個人事業主 法人
設立 届出のみ・費用なし 登記が必要・実費がかかる
税率 所得税5〜45%+住民税10% 法人税15%または23.2%+地方税
赤字のとき 純損失の繰越は3年(青色) 欠損金の繰越は10年
赤字でもかかる税 なし(住民税の均等割のみ) 法人住民税の均等割が毎年発生
社会保険 国民健康保険・国民年金 健康保険・厚生年金保険(役員も加入)
経営者への給与 経費にならない 役員報酬として損金にできる
決算・申告 確定申告書+青色申告決算書 法人税申告書一式・別表が必要

個人事業主が自分に払う給与は経費になりません。事業の利益がそのまま自分の所得です。

法人にすると、自分に払う役員報酬が法人の損金になり、受け取る側では給与所得控除が使えます。同じ利益を法人と個人に分けて背負わせられるのが、法人化で税負担が変わる主な理由です。

信用面の違いは業種による

取引先によっては法人としか契約しないところがあります。金融機関の融資、人材の採用でも法人のほうが動きやすい場面はあるでしょう。

一方で、個人事業のままで大きく伸びている事業者も珍しくありません。取引先の要請がないなら、信用だけを理由に急ぐ話ではないと考えています。

取引先が法人であることを条件にしている業界では、個人事業のままだと入口で止まります。逆に、実績と紹介で回る業種であれば、形の違いはほとんど問われません。自社の取引の形から見て判断することです。

法人化を検討する目安は所得と消費税で決まる

結論: 法人化の検討が現実味を帯びるのは、事業所得がおおむね800万円前後に達したときと、消費税の課税事業者になる年が近づいたときです。ただし社会保険料の負担が増えるため、税負担だけで判断すると外れます。

所得から見た目安と、消費税から見た目安

所得税は課税所得695万円超で23%、900万円超で33%へ上がります。一方、中小法人の法人税率は年800万円以下の部分が15%(適用除外事業者を除く)です。

この差が広がってくる水準が、検討を始める合図になります。

法人化を検討する合図は3方向から来る
所得から見る
所得税は課税所得695万円超で23%、900万円超で33%。中小法人の法人税率は年800万円以下の部分が15%(適用除外事業者を除く)
消費税から見る
法人化すると原則として設立から2年間は基準期間がなく免税になれる場合がある。ただしインボイス発行事業者として登録済みなら、この効果自体がない
社会保険料から見る
社長1人でも健康保険・厚生年金保険への加入が原則必要。税負担だけを見て決めると、かえって支出が増えることがある

法人化すると、原則として設立から2年間は基準期間がないため免税事業者になれる場合があります。ただし、資本金1,000万円以上の設立や特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合など、例外は複数あります。

インボイス発行事業者として登録している場合は、この免税の効果自体がなくなります。インボイス登録後は、法人化と消費税を切り離して考える必要があります。

社会保険料が判断を変える

法人になると、社長1人でも健康保険・厚生年金保険への加入が原則必要です。保険料は会社と個人の折半ですが、どちらも同じ財布から出ます。

法人税と所得税の差だけを見て法人化し、社会保険料でかえって支出が増えたというご相談は少なくありません。試算するときは、税金・社会保険料・記帳や申告にかかる費用の3つを同じ表に並べるところから始めます。

1年間の流れを先に押さえると資金繰りが崩れない

結論: 個人事業主の1年は、3月の所得税・消費税の納付、5〜6月の住民税決定、8月の個人事業税と住民税、11月の予定納税という4つの山で構成されます。この順番を把握しておくと納税資金の準備がしやすくなります。

月ごとの主な予定と、忘れた頃に来る予定納税

個人事業の1年は、申告と納付の予定でほぼ決まります。どの月に何が来るかを先に押さえておくと、資金の谷を作らずに済みます。特に、忘れられやすいのが年の途中に来る納付です。

時期 起きること
1月 法定調書合計表・給与支払報告書の提出(人を雇っている場合)
2月16日〜3月15日 所得税の確定申告と納付
3月31日 消費税の確定申告と納付(課税事業者)
4月下旬 振替納税を選んでいる場合の口座引落
5〜6月 住民税の税額決定通知が届く
6月・8月・10月・翌1月 住民税の納付(普通徴収の場合)
7月・11月 所得税の予定納税(前年の税額が15万円以上のとき)
8月・11月 個人事業税の納付
12月 年末調整(人を雇っている場合)・棚卸

前年分の所得税額が15万円以上だと、その3分の1ずつを7月と11月に前払いします。1年目の申告を終えてほっとした年の7月に届くため、驚かれる方が多い制度です。

減額申請という手続きもありますが、要件と期限があります。

納税資金は先に別口座へ寄せる

売上が入るたびに一定割合を納税用の口座へ移しておく。地味ですが、これが最も確実です。所得税・住民税・個人事業税・消費税を合わせると、利益の3割前後が翌年に出ていく計算になる年もあります。

利益は自分の取り分ではなく、まだ税金と混ざったままの数字だと考えておくくらいでちょうどよいでしょう。

寄せる割合は、前年の実績から逆算します。所得税・住民税・個人事業税・消費税を合わせて、売上の何割にあたるかを出しておけば、毎月の入金から機械的に移せます。

実務でつまずきやすい5つの場面

結論: 個人事業主の実務でご相談が多いのは、青色申告の期限・家事按分の根拠・インボイスの判断・専従者給与の届出・帳簿の保存という5つです。いずれも後からやり直しがしにくい点が共通しています。

後からやり直しがしにくい4つ
01
青色申告承認申請の期限切れ
開業から2か月を過ぎて気づくと、その年は白色申告になる
02
家事按分の割合に説明がない
按分そのものは問題ない。図面や走行記録が残っていれば、根拠として話が早く済む
03
インボイス登録を反射的に済ませる
取引先が一般消費者中心なら登録しない判断もある。順番としては取引先の構成を確かめるのが先
04
帳簿と書類の保存年数を短く見積もる
法定帳簿は7年、任意帳簿と請求書・領収書などの書類は5年が原則

承認申請の期限切れ、家事按分の説明不足、反射的なインボイス登録

最も多く、最も取り返しがつかない失敗です。開業から2か月を過ぎて気づいた場合、その年は白色申告になります。

按分そのものは問題ありません。困るのは、なぜその割合なのかを説明できないときです。図面や走行記録が残っていれば、根拠として話が早く済みます。

取引先が一般消費者中心であれば、登録しないという判断もあり得ます。登録すると免税事業者に戻るまでに手続きと期間が必要になるため、順番としては取引先の構成を確かめるのが先です。

専従者給与の届出を出していない/保存年数を短く見積もる

家族に給与を払っていても、届出がなければ必要経費になりません。金額を届出の範囲内に収めることも要件です。

届出の抜けと並んで多いのが、保存の期間を短く見積もることです。処分してしまうと、後から取り戻せません。

法定帳簿は7年、任意帳簿と請求書・領収書などの書類は5年が原則です。クラウド会計だから安心と思っていたら、レシートの現物が求められる場面もあります。

事例:会社員から独立した1年目の組み立て

会社を辞めてWeb制作で独立された方から、開業から3週間後にご相談をいただきました。「開業届は出しました。ただ、この先何をどの順で決めればいいのかが全く見えていません」というお話でした。

まず最初の1時間で決めたのは、青色申告の承認申請でした。開業日が5月だったため、期限は7月上旬。ここだけは日付が動かせないため、その場で作成しています。

次に取りかかったのが口座とカードの分離です。すでに個人の口座で仕入を立て替えていたため、どこまでを事業のものとして拾うかを一件ずつ確認しました。この作業に2日かかっています。

インボイスは登録を見送りました。取引先が事業者中心ではあったものの、初年度の売上見込みが小さく、経過措置の期間内に改めて判断できると整理したためです。

年明けの申告では、複式簿記での記帳とe-Taxでの提出により65万円の特別控除を適用しました。ご本人からは「7月の申請書1枚で、これだけ変わるとは思っていませんでした」という言葉をいただいています。数字の話より、期限の話が結果を決めた1年でした。

よくある質問

開業届を出さないまま事業を続けていたらどうなりますか?
届出をしていなくても、事業の実態があれば確定申告の義務は生じます。開業届は罰則のある手続きではありませんが、提出していないと青色申告の承認申請ができず、屋号名義の口座開設や補助金の申請でも支障が出ることがあります。気づいた時点で提出するのが現実的です。
副業でも開業届を出したほうがよいのでしょうか?
副業が事業と言える規模であれば、青色申告の特典を受けるために提出する価値があります。ただし、規模が小さく雑所得として扱われる場合は、開業届を出しても青色申告特別控除の対象になりません。事業所得か雑所得かの判断が先に来ます。個別の判断は税理士にご相談ください。
赤字なら確定申告をしなくてもよいですか?
納める税金がなくても、青色申告で純損失を翌年以後3年間繰り越すには期限内の申告が要件です。赤字の年こそ申告しておく意味があります。加えて、所得証明が必要になる場面(融資・保育所の申込みなど)でも申告の有無が影響します。
屋号で銀行口座はつくれますか?
多くの金融機関で開設できます。ただし、開業届の控えなど事業の実在を示す書類の提示を求められるのが一般的です。控えは提出時に受領印をもらうか、e-Taxの受信通知を保存しておくと手続きが早く進みます。
会計ソフトを入れれば税理士は不要になりますか?
記帳と申告書の作成だけであれば、会計ソフトで完結できる規模の事業もあります。判断が分かれる論点(インボイスの選択・法人化の時期・家事按分の妥当性・専従者給与の設定)が出てきたときに相談先があるかどうかで、後から差が出てきます。ご状況に応じて、記帳はご自身・確認だけ税理士という組み方も可能です。

まとめ:先に決めるのは期限、次に仕組み

  • 個人事業主は登記の要らない働き方で、届出を出せばその日から始まる
  • 納める税金は所得税・住民税・個人事業税・消費税の4つ。時期がずれて来るため資金繰りに影響する
  • 青色申告の承認申請だけは期限が別建てで、逃すと1年待つことになる
  • 経費と所得控除は別物。国民健康保険料や国民年金保険料は経費にならないが所得控除には入る
  • 法人化の判断は、税率・社会保険料・維持コストの3つを同じ表に並べてから

順番として先に手を付けるべきは、税額を減らす工夫ではなく期限の管理です。青色申告の申請と帳簿の形さえ整えておけば、あとの判断は毎年やり直せます。

逆に、やらなくてよいことも1つ挙げておきます。開業初年度から複雑な節税策を組む必要はありません。売上の形が定まる前に器だけ作っても、翌年に組み直すことになるためです。

税理士法人Light UPでは、開業前後のご相談を無料でお受けしています。

個人事業主・青色申告のご相談は初回無料です。実際の数字を見ながら、自社の場合はどうなるかをそのままお話しできます。

出典

  • 国税庁 タックスアンサー No.2070「青色申告制度」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」
  • 国税庁 タックスアンサー No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」
  • 国税庁 タックスアンサー No.1199「基礎控除」
  • 国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」(令和8年4月)
  • 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
  • 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」
  • 国税庁「A1-8 所得税の青色申告承認申請手続」
  • 国税庁「個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について」
  • e-Gov 法令検索「所得税法」「地方税法」

※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。税制は毎年の改正で変わるため、適用にあたっては最新の情報をご確認ください。

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