個人事業主の社会保険とは?加入する保険の種類と保険料を解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
個人事業主が加入する社会保険は、国民健康保険と国民年金の2つです。40歳から64歳の人は、国民健康保険料に介護保険料も加わります。会社員が入る健康保険と厚生年金保険は、原則として対象外で、保険料は労使折半ではなく全額を自分で払います。国民年金保険料は所得に関係なく月額17,920円(令和8年度)の定額で、国民健康保険料は前年の所得と住んでいる市区町村で決まります。この記事では、保険料の決まり方、払えないときの制度、年金の上乗せ、従業員を雇ったときの扱いを、日本年金機構・厚生労働省・国税庁の公表資料(2026年10月時点)で整理します。
個人事業主が入る社会保険は?
結論: 個人事業主が入るのは、市区町村が運営する国民健康保険と、国民年金(第1号被保険者)です。会社員が入る健康保険と厚生年金保険は、原則として対象外です。
国民健康保険と国民年金に入る
国民健康保険は医療費を支える保険、国民年金は老後や障害・死亡のときの年金です。国民年金は、20歳以上60歳未満の人が加入します。
会社員との違いの早見表
| 項目 | 会社員 | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 医療保険 | 健康保険 | 国民健康保険 |
| 年金 | 厚生年金保険と国民年金 | 国民年金のみ |
| 保険料の負担 | 会社と本人が半分ずつ | 全額が本人 |
| 家族の扱い | 収入の少ない家族は扶養に入り、保険料がかからない | 扶養がなく、家族も加入者として人数分の保険料がかかる |
| 傷病手当金・出産手当金 | あり | 市区町村が条例で定めたときだけの任意の給付 |
退職後14日以内に手続きする
会社を辞めて個人事業主になったら、退職日の翌日から14日以内に、住んでいる市区町村の窓口で国民年金と国民健康保険の手続きをします(日本年金機構、名古屋市の案内)。
加入と保険料でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、退職後の手続きの遅れ、独立1年目の保険料の見落とし、払えないときの放置の3つです。間違えると、さかのぼって保険料を払ったり、将来の年金が減ったりします。
独立の準備で、保険料を資金計画に入れていなかったと気づいて相談に来られる方が少なくありません。
手続きの遅れと放置
国民健康保険の届出が14日を過ぎると、原則として届出日からしか保険給付を受けられない市区町村があります(名古屋市の案内)。保険料は、加入すべき月までさかのぼって納めます。国民年金も、資格を得た月から保険料が発生します。払えないからと放置すると未納になり、年金額にも受給資格にも入りません。
独立1年目の保険料の見落とし
国民健康保険料は、前年の所得で決まります。令和8年中に独立した人の令和8年度の保険料は、令和7年中の所得、つまり会社員だったころの給与で計算されます。独立した年の事業の所得は、2年目の保険料に反映されます。
税理士が確認する順番
税理士は、独立前後の相談で、保険料を次の順番で確かめます。
前年の源泉徴収票と、開業後の売上の見込みをお持ちいただければ、独立1年目と2年目の国民健康保険料の見込みを、納税の時期とあわせて月々の資金計画に整理します。
国民健康保険料はどう決まる?
結論: 国民健康保険料は、前年の所得をもとに市区町村が計算します。加入者1人ごとにかかる均等割と、所得に応じた所得割を、区分ごとに足した額です。
区分ごとの均等割と所得割
令和8年度の新宿区の案内では、保険料は、医療分、後期高齢者支援金分、介護分(40歳から64歳の加入者)、子ども・子育て支援金分(18歳以上の加入者。令和8年度から)の4つの区分の合計です。区分と料率は市区町村ごとに違い、市区町村によっては1世帯ごとにかかる平等割も加わります(大阪市の案内)。
所得割の基礎になる所得
所得割の基礎は、前年の総所得金額等から基礎控除43万円(合計所得金額が2,400万円以下の場合)を引いた額です(新宿区の案内)。事業所得は、収入から経費と青色申告特別控除を引いた金額なので、青色申告特別控除は所得税・住民税だけでなく国民健康保険料の計算にも影響します。
年間の上限額と軽減
保険料には、区分ごとに年間の上限(賦課限度額)があります。令和8年度は、国の医療分の限度額が1万円引き上げられ、子ども・子育て支援金分の限度額が新設されました(厚生労働省 令和8年1月15日の通知)。新宿区の令和8年度の上限は、医療分67万円、後期高齢者支援金分26万円、介護分17万円、子ども・子育て支援金分3万円で、合計113万円です。
前年中の所得が一定以下の世帯は、保険料が軽減されます。災害や退職、廃業などで所得が大きく減ったときは、減免を受けられる市区町村もあります(大阪市の案内)。
国民年金の保険料はいくら?
結論: 国民年金保険料は、令和8年度は月額17,920円の定額です。所得が多くても少なくても同じで、納期限は納付対象月の翌月末日です(日本年金機構)。
令和8年度は月17,920円
保険料は毎年度改定されます。40年間(480か月)すべて納めると、老齢基礎年金は満額で年847,300円です(令和8年度の目安。昭和31年4月2日以後生まれの人)。
会社員として厚生年金保険に入っていた期間があり、老齢基礎年金を受け取れる人は、その期間の分を老齢厚生年金として上乗せして受け取れます。増えなくなるのは、独立後の上乗せです。
払えないときの免除と猶予
前年の所得が一定以下のときは、保険料の免除か納付猶予(50歳未満)を申請できます。全額免除の目安は、扶養親族等の数に1を足して35万円をかけ、32万円を足した額です(令和8年度)。免除や猶予を受けた期間は、受給資格期間(老齢基礎年金を受け取るために必要な10年)に入ります。年金額への反映は次のとおりです。
| 区分 | 年金額への反映 |
|---|---|
| 納付した | 全額 |
| 全額免除 | 2分の1 |
| 4分の3免除 | 8分の5 |
| 半額免除 | 8分の6 |
| 4分の1免除 | 8分の7 |
| 納付猶予 | 反映されない |
| 未納 | 受給資格期間にも入らず、反映されない |
免除や猶予を受けた保険料は、承認から10年以内なら追納できます。失業や事業の廃止で所得が減ったときは、前年の所得にかかわらず免除の対象になる特例もあります。
国民健康保険以外の選択肢は?
結論: 退職する人は、国民健康保険のほかに、任意継続か、家族の健康保険の被扶養者になれる場合があります。
任意継続は20日以内に申し出る
退職前の健康保険に最長2年間入り続ける制度です。退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して2か月以上あることが条件で、退職日の翌日から20日以内に、協会けんぽの支部などに申し出ます(協会けんぽの案内)。保険料は、退職時の標準報酬月額に保険料率をかけて出し、在職中は会社が払っていた分も自分で払います。協会けんぽでは、標準報酬月額の上限が令和8年度は32万円です。家族を被扶養者にでき、被扶養者の保険料はかかりません。
家族の健康保険の被扶養者
家族が勤め先の健康保険に入っていて、年間収入が要件を下回るときは、被扶養者になれる場合があります。年間収入は、原則として130万円未満で、19歳以上23歳未満の人(配偶者を除く)は150万円未満です(日本年金機構)。事業の収入の数え方は、家族の健康保険に確かめます。同じ業種の人で作る国民健康保険組合に入れる場合もあり、保険料は組合ごとに決まります。
国民年金に上乗せするには?
結論: 国民年金に上乗せする方法は、付加年金、国民年金基金、iDeCo(個人型確定拠出年金)、小規模企業共済の4つです。付加年金と国民年金基金は、どちらか一方しか選べません。
付加年金は月400円
国民年金保険料に月400円の付加保険料を足すと、将来の老齢基礎年金に、200円に付加保険料を納めた月数をかけた額が、毎年上乗せされます。40年(480か月)納めると、年96,000円の上乗せです。保険料の免除や納付猶予を受けている人と、国民年金基金に入っている人は、付加保険料を納められません(日本年金機構)。
国民年金基金とiDeCo
国民年金基金は、20歳以上60歳未満の第1号被保険者が入れる年金で、付加年金の分も含んでいます。iDeCoの掛金は、国民年金基金や付加保険料と合わせた枠で、月6.8万円までです。この枠は、令和8年12月から月7.5万円に引き上げられる予定です(厚生労働省、国民年金基金連合会)。
小規模企業共済
事業をやめたときや退職したときに受け取る共済で、掛金は月1,000円から7万円です。
国民年金基金の掛金は社会保険料控除、iDeCoと小規模企業共済の掛金は小規模企業共済等掛金控除になり、支払った全額を所得から引けます(国税庁 タックスアンサー No.1130・No.1135)。ただし、掛金は原則として途中で引き出せません。資金が細い時期は、掛けすぎないようにします。
社会保険料は経費になる?
結論: 事業主本人の国民健康保険料と国民年金保険料は、必要経費になりません。確定申告で、社会保険料控除として所得から引きます。
経費でなく社会保険料控除
社会保険料控除は、自分や、生計を一にする配偶者その他の親族が負担する社会保険料を支払ったときに、その年に実際に支払った金額の全額を所得から引ける制度です(国税庁 タックスアンサー No.1130、令和8年4月1日現在法令等)。国民健康保険料、国民年金保険料、国民年金基金の掛金などが入り、上限はありません。
従業員を雇うと何が変わる?
結論: 従業員を1人でも雇えば、労災保険の対象です。健康保険と厚生年金保険は、常時5人以上を使う法定17業種の個人事業所が強制適用で、事業主本人は入らず、従業員だけが入ります。
労災保険は1人から
労働者を1人でも使う事業は、業種や規模にかかわらず労災保険が適用され、パートやアルバイトも対象です(厚生労働省)。事業主本人は労働者ではないので対象外ですが、中小事業主や一人親方が入れる特別加入の制度があります。労働保険や社会保険の書類の作成と提出は、社会保険労務士の業務です。
健康保険と厚生年金保険は5人以上
個人事業所が強制適用になるのは、常時5人以上の従業員を使う、法定17業種の事業所です。農林漁業と、旅館・飲食店・理容店などのサービス業は、5人以上でも対象外です。法律・会計関係の士業は、令和4年10月から対象に加わりました。対象になっても、事業主本人は被保険者になれず、国民健康保険と国民年金のままです(日本年金機構)。
対象外の事業所でも、従業員の半数以上の同意があれば、申請して任意で加入できます。令和11年(2029年)10月からは、業種にかかわらず、常時5人以上を使う個人事業所が対象になります。その時点ですでにある事業所は、当分のあいだ対象外です(厚生労働省)。
法人にすると社長1人でも加入
法人の事業所は、社長1人だけでも、健康保険と厚生年金保険に加入します(日本年金機構)。国民健康保険と国民年金からは外れます。
よくある質問
個人事業主は厚生年金保険に入れますか?
収入が少なくて国民年金保険料を払えません。どうすればよいですか?
退職後の健康保険は、任意継続と国民健康保険のどちらが安いですか?
まとめ:保険料を先に資金計画へ入れよう
- 個人事業主は、国民健康保険と国民年金に加入し、保険料は全額を自分で払う
- 国民年金保険料は、令和8年度は月17,920円の定額。払えないときは免除・納付猶予を申請する
- 国民健康保険料は、前年の所得で決まる。独立1年目は会社員時代の所得で計算される
- 退職後は、国民健康保険と国民年金は14日以内、任意継続は20日以内に手続きする
- 保険料は経費でなく社会保険料控除。従業員を雇ったら、労災保険は1人から入る
独立したばかりの方、保険料と税金の支払いが重なる時期の資金繰りに不安がある方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。前年の源泉徴収票と開業後の売上の見込みを確認し、国民健康保険料と納税の時期を含めた月々の資金計画を整理します。
出典
- 日本年金機構「国民年金保険料」「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」「付加保険料の納付」「国民年金に加入するための手続き」「適用事業所と被保険者」「老齢年金」
- 厚生労働省「個人事業所で働く方への社会保険の適用について」(社会保険適用拡大特設サイト)
- 厚生労働省「国民健康保険法施行令及び国民健康保険の国庫負担金等の算定に関する政令の一部を改正する政令の公布について」(令和8年1月15日)
- 厚生労働省「2025年の制度改正」(確定拠出年金の拠出限度額)、国民年金基金連合会のお知らせ(令和7年12月24日)
- 厚生労働省「労災保険」、協会けんぽ「任意継続」
- 新宿区「保険料の計算方法について」、大阪市「保険料の決め方」、名古屋市「国民健康保険の加入・脱退」
- 国税庁 タックスアンサー No.1130「社会保険料控除」、No.1135「小規模企業共済等掛金控除」
- 国民健康保険法(国民健康保険組合)





