個人事業主の経費|認められる範囲と家事按分
「自宅の家賃は経費になりますか」。「どこまでを事業用として按分してよいのでしょうか」――個人事業主の経費についてのご相談は、この2つに集まります。
結論からお伝えすると、家事と事業の両方に関わる支出を按分できるかどうかは、青色申告か白色申告かで要件が違います。所得税法施行令96条は、1号で主たる部分が業務の遂行上必要であることを求める一方、2号で青色申告者については取引の記録等に基づいて業務の遂行上直接必要であったことが明らかにされる部分を認めています。つまり青色申告のほうが按分の要件が緩いということです。
税理士法人Light UPでは、経費のご相談を受けたとき、按分の根拠を数字で説明できるかを基準にお伝えしています。割合そのものより、その割合をどう出したかが問われるためです。
この記事では、必要経費の考え方、家事按分の要件、按分の基準の作り方、青色と白色の違い、そして判断に迷いやすい支出までを、実際に個人事業主の申告を扱っている立場から整理します。
必要経費は収入を得るために要した費用
結論: 所得税法37条は、必要経費を売上原価と、収入を得るため直接に要した費用、そして販売費や一般管理費などの業務について生じた費用としています。事業との関係が判断の基準です。
条文が定める範囲
e-Gov 法令検索で所得税法37条1項を引くと、必要経費に算入すべき金額を「これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」としています。業務について生じた費用という表現が広く、個々の支出が事業に関係するかで判断することになります。逆にいえば、事業との関係を説明できない支出は経費になりません。金額の大きさは基準になりません。少額でも事業と無関係であれば経費にならず、高額でも事業に必要であれば経費になります。判断の軸は常に事業との関係です。
その年に債務が確定していること
同項の括弧書きには「償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除く」とあります。支払っていなくても債務が確定していれば経費になり、逆に前払いであってもその年の費用でなければ経費になりません。支払った時期ではなく、債務が確定した時期で判断するということです。12月に受けたサービスの請求書が翌年1月に届いた場合も、その年の経費になります。逆に、翌年分の家賃を12月に前払いした場合、その分は原則として翌年の経費です。ただし1年以内の短期前払費用については、継続して同じ処理をすることを条件に、支払った年の経費にできる取扱いがあります。
経費にならないものは条文に列挙されている
所得税法45条1項は、必要経費にならないものを列挙しています。1号が家事上の経費とこれに関連する経費、2号が所得税、3号が延滞税や加算税、4号が道府県民税および市町村民税、7号が罰金および科料です。所得税と住民税は経費にならないという点は、個人事業主が最初に押さえるところになります。事業税は経費になるため、混同しないよう科目を分けておく必要があります。個人事業税は所得が290万円を超える部分に対して課される税で、業種によって3パーセントから5パーセントの税率が適用されます。所得税・住民税と同じ租税公課にまとめてしまうと、決算で分ける作業が発生します。
家事按分の要件は青色と白色で違う
結論: 所得税法施行令96条は、家事関連費のうち必要経費になるものを2つの号で定めています。1号がすべての人に適用され、2号は青色申告者だけに適用されます。
白色申告に適用される1号
同条1号は「家事上の経費に関連する経費の主たる部分が不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務の遂行上必要であり、かつ、その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費」と定めています。主たる部分が業務用であることが要件になっており、事業での使用が半分に満たない支出は、この号では按分できないことになります。主たる部分という表現に明確な数値の定めはありませんが、実務では過半かどうかが目安として理解されています。自宅の一室だけを仕事に使っているような場合、この要件を満たすのは難しくなります。
青色申告に適用される2号
同条2号は「青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者に係る家事上の経費に関連する経費のうち、取引の記録等に基づいて、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分の金額に相当する経費」としています。主たる部分という要件がなく、記録に基づいて明らかにできれば按分できるという構成です。事業での使用が3割であっても、その3割を記録で示せれば経費になります。ただし要件が緩いといっても、記録がなければ按分できないことは変わりません。むしろ記録の重要性は青色申告のほうが高いといえます。帳簿と証憑の保存が青色申告の前提であることとも整合しています。
この違いが青色申告を選ぶ理由の1つになる
青色申告特別控除や欠損金の繰越しが注目されがちですが、家事按分の要件が緩いことも実務上は大きな差です。自宅の一部を事務所として使っている、車を仕事と私用の両方で使っている。こうした支出が多い事業では、この2号があるかどうかで経費の額が変わります。青色申告の要件については、別の記事で詳しく扱っています。青色申告特別控除の65万円という金額は分かりやすいのですが、按分の要件の差は年間の経費額そのものを動かします。自宅で仕事をしている方ほど、この差が大きくなります。
按分の基準は自分で作って記録する
結論: 按分の割合そのものに法令の定めはありません。合理的な基準で計算し、その根拠を記録しておくことが求められます。
面積で按分する
自宅の一部を事務所として使っている場合、床面積の割合で按分するのが一般的です。全体が60平方メートルで、そのうち12平方メートルを仕事専用にしていれば2割になります。家賃、火災保険料、固定資産税、減価償却費がこの割合の対象です。間取り図に線を引いて面積を記録しておくと、後から説明できる状態になります。仕事専用の部屋がなく、リビングの一角を使っている場合は、その部分の面積で計算します。ただし白色申告では主たる部分という要件があるため、一角だけの使用では按分が難しくなります。この点でも、自宅を仕事場にしている方は青色申告を選ぶ意味があります。
時間で按分する
電気代や通信費は、使用した時間の割合で按分することが多くなります。1日8時間を仕事に使い、週5日稼働しているのであれば、1週間168時間のうち40時間なので約24パーセントです。稼働の実態から計算した割合であれば、根拠として説明できます。曜日や時期によって稼働が変わる場合は、年間の平均で計算します。時間で按分する方法は、稼働時間を記録していることが前提です。何時から何時まで仕事をしたかを毎日つける必要はありませんが、標準的な1週間の使い方を書き出しておけば根拠になります。
走行距離で按分する
自動車の費用は、走行距離の割合で按分します。年間の総走行距離のうち、業務で走った距離が占める割合です。運行記録をつけておけば、そのまま根拠になります。ガソリン代、自動車税、保険料、車検費用、減価償却費が対象です。記録をつけていないと割合の根拠を示せないため、簡単なもので構わないので走行の記録を残す価値があります。日付、行き先、距離の3項目があれば足ります。スマートフォンのメモや手帳でも問題ありません。年間を通じてつけるのが難しければ、代表的な1か月分をつけて年間に引き延ばす方法もあります。
| 支出 | 按分の基準 | 記録しておくもの |
|---|---|---|
| 家賃・火災保険料 | 床面積の割合 | 間取り図、仕事専用の部分の面積 |
| 電気代 | 使用時間または面積の割合 | 稼働時間の記録、使用機器の状況 |
| 通信費(インターネット) | 使用時間の割合 | 稼働時間の記録 |
| 携帯電話 | 使用時間または通話の割合 | 業務用の通話の記録 |
| 自動車の費用 | 走行距離の割合 | 運行記録、業務で走った距離 |
| 水道代 | 業務での使用実態 | 業務で使う場面があるか(多くの業種で按分は難しい) |
割合を毎年変えない
一度決めた割合は、実態が変わらない限り毎年同じにします。年によって割合を変えると、その年の所得を調整していると見られかねません。引っ越した、仕事部屋を増やした、稼働時間が大きく変わったといった事情があれば、その時点で見直します。変えるときは理由を記録に残すことが、後から説明するための材料になります。引っ越しであれば新しい間取り図、仕事部屋を増やしたのであればその面積。変更の根拠となる資料を、変更した年の資料と一緒に保管しておいてください。
家事按分の対象になりやすい支出
結論: 自宅で仕事をしている場合、家賃、電気代、通信費、自動車の費用が主な対象になります。それぞれ按分の基準が違います。
対象になるもの
住居費(家賃または住宅の減価償却費)、火災保険料、電気代、水道光熱費、インターネットの通信費、携帯電話料金、自動車に関する費用がおもな対象です。自宅を所有している場合は、固定資産税や住宅の減価償却費も按分の対象になります。支出の名前ではなく、事業に使っているかで判断するという原則は共通しています。
対象になりにくいもの
住宅ローンの元本部分は、そもそも費用ではないため経費になりません。借入の返済は費用ではなく、負債が減るだけだからです。利息部分は事業に使っている割合で按分できます。また、水道代は業務での使用がある業種でなければ按分が難しく、飲食業のように業務で水を使う場合に限られます。事務作業が中心の事業では、水道代の按分は説明が難しくなります。業務で使っている実態があるかどうかが、按分できるかの前提になります。名目上は事業に関係しそうでも、実際に使っていなければ按分の対象になりません。
判断に迷いやすい支出
結論: 服飾費、飲食費、書籍代、資格取得費用は、事業との関係の説明が難しい部類です。共通するのは、私生活でも使えるという点にあります。
服や身だしなみの費用
スーツや事務服は、私生活でも着られるため経費になりにくいものです。一方、作業着、制服、業務でしか使わない衣装であれば経費になります。私生活で使えるかどうかが分かれ目で、業務専用であることを説明できるかが基準になります。クリーニング代も同じ考え方で、業務専用の衣類のものであれば経費です。撮影や講演のために購入した衣装であっても、その後に私生活で着られるものであれば説明が難しくなります。用途が業務に限られることを示せるかが判断の分かれ目です。
飲食を伴う支出
取引先との打合せで支払った飲食代は、接待交際費または会議費として経費になります。相手の名前、人数、目的を記録しておくことが前提です。一人での食事は、原則として経費になりません。誰と何のためかを記録できるかどうかが判断の基準になり、領収書の裏にその場で書いておくのが確実です。後からまとめて書こうとすると、誰と行ったかを思い出せなくなります。その場で数秒かければ済むことなので、習慣にしておく価値があります。
書籍や研修の費用
事業に関係する専門書や研修の費用は経費になります。一般的な教養書や、事業と関係のない資格の取得費用は経費になりません。とくに資格取得費用については、その資格がなければ業務ができないものか、あるいは知識を広げるためのものかで判断が分かれます。業務との結びつきを説明できる範囲にとどめる必要があります。たとえば税理士事務所を営む方が簿記の研修を受けるのは明らかに業務に関係しますが、まったく別分野の資格取得は説明が難しくなります。判断に迷う場合は、その支出がなければ業務にどう影響するかを考えてみてください。
家族に支払う費用の扱い
結論: 生計を一にする親族に支払う給与や家賃は、原則として必要経費になりません。青色事業専従者給与など、届出を前提とした例外があります。
原則として経費にならない
同居している家族に給与を払っても、それは原則として必要経費になりません。同じ家計の中でお金が移動しただけと扱われるためです。家族が所有する建物を事務所として借りて家賃を払う場合も同じです。生計を一にしているかどうかが基準で、別居していて生計が別であれば通常の取引として扱われます。生計を一にするとは、同じ財布で生活していることを指し、必ずしも同居を要件としません。仕送りをしている別居の家族も、生計を一にすると判断されることがあります。
青色事業専従者給与という例外
青色申告者が、生計を一にする親族で専ら事業に従事している人に給与を支払う場合、届出をした範囲で必要経費にできます。届出書を提出する必要があり、記載した金額の範囲内であることが要件です。届出をしていなければ1円も経費にならないため、家族に働いてもらう予定があるなら早めに手続をしておく必要があります。白色申告では事業専従者控除という定額の制度になります。届出書には支給する金額の上限を記載するため、将来の昇給も見込んで設定しておくと、変更の手続を減らせます。
家族名義の資産を使う場合
家族が所有する建物や車を事業に使う場合、家賃や賃料は経費になりませんが、その資産にかかる固定資産税、減価償却費、保険料は事業分を経費にできる場合があります。支払の名目ではなく、実際に生じている費用で判断するという考え方です。ただし按分の根拠は同じように必要になります。家族名義の建物であっても、事業に使っている部分の減価償却費を計算するには取得価額と取得時期が要ります。名義が家族であるだけで、計算の方法は自分名義の場合と変わりません。
領収書がない場合
結論: 領収書がなくても、支出の事実を説明できる記録があれば経費にできます。ただし記録を残すことが前提になります。
出金伝票や記録で代替する
電車やバスの運賃、自動販売機での購入、慶弔費など、領収書が出ない支出があります。この場合は出金伝票に日付、金額、内容、相手先を記録します。慶弔費であれば招待状や会葬礼状を保存しておくと、支出の事実を裏づける資料になります。領収書がないことと、記録がないことは別という整理が要ります。出金伝票は市販のものでも、表計算ソフトで作った一覧でも構いません。日付、金額、内容、相手先の4項目が揃っていることが要点です。
クレジットカードの明細
カードで支払った場合、利用明細が記録になります。ただし明細には何を買ったかが書かれていないことがあるため、店舗名から内容が推測できないものは、購入時の控えを保存しておく必要があります。明細だけでは内容が分からない支出は、後から説明できなくなります。総合的な小売店やインターネット通販では、店舗名から購入したものが特定できません。注文の確認メールや購入履歴の画面を保存しておくと、内容の説明ができます。
事例:按分の根拠が説明できなかった方
自宅の一室を仕事場にしているフリーランスの方から、経費についてご相談をいただきました。家賃18万円のうち、半分の9万円を経費にしていました。
割合の根拠を伺うと、感覚で半分にしたということでした。
間取り図を見ると、仕事場は1部屋でした。
住居は3LDKで全体が約70平方メートル、仕事に使っている部屋は約11平方メートルでした。面積で計算すると約16パーセントで、半分という割合との差は大きなものでした。
対応として、面積での按分に変更しました。あわせて、その部屋を仕事専用として使っていることを示すため、間取り図に仕事場の範囲を記入し、機材の配置も記録しています。電気代については稼働時間から計算し、通信費は同じ割合を使いました。
按分の割合は下がりましたが、説明できる状態になったことのほうが重要です。感覚で決めた割合は、根拠を求められたときに答えられません。
よくある質問
自宅の家賃は経費になりますか?
按分の割合に決まりはありますか?
家族に払う給与は経費になりますか?
領収書がない支出は経費にできませんか?
一人で食べた昼食は経費になりますか?
まとめ:割合より根拠を記録する
個人事業主の経費でつまずくのは、何が経費になるかより按分の根拠を説明できるかという部分です。所得税法37条は業務について生じた費用を必要経費としており、事業との関係が判断の基準になります。
家事と事業の両方に関わる支出については、青色申告か白色申告かで要件が違います。白色申告に適用される所得税法施行令96条1号は主たる部分が業務用であることを求めますが、青色申告者に適用される2号にはその要件がなく、記録に基づいて明らかにできればよいとされています。事業での使用が半分に満たない支出が多い方ほど、この差は大きくなります。
按分の割合そのものに法令の定めはありません。面積、時間、走行距離といった実態から計算した数字であることが求められます。切りのよい数字にせず、間取り図や稼働記録を残しておいてください。
そして、一度決めた割合は実態が変わらない限り毎年同じにします。変えるときは理由を記録する。これだけで、後から説明を求められたときに答えられる状態になります。
税理士法人Light UPでは、個人事業主の方の記帳と申告のご相談を承っています。按分の基準づくりから記録の残し方まで、お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「所得税法」(昭和四十年法律第三十三号)第37条、第45条、第56条、第57条
- e-Gov 法令検索「所得税法施行令」(昭和四十年政令第九十六号)第96条
- 国税庁「やさしい必要経費の知識」




