自社株の評価方式|類似業種比準と純資産価額
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「2つの方式があると聞きましたが、何がどう違うのですか」。自社株の評価について説明を受けた後、あらためていただくご質問です。名前は聞いたことがあっても、計算の中身までは知られていません。
結論からお伝えすると、2つの方式は見ている対象がまったく違います。類似業種比準方式は上場している同業他社と自社を3つの数字で比べる方法、純資産価額方式は会社を解散したと仮定して財産を評価する方法です。
税理士法人Light UPでは、評価額の説明をするとき、算式の各項目が自社のどの数字から来ているかまでお見せしています。どこを動かせば評価額が動くかが、算式を見れば分かるためです。
この記事では、2つの方式それぞれの算式、比準要素の中身、しんしゃく率の意味、純資産価額での相続税評価額への置換え、評価差額に対する法人税額等相当額、そしてどちらが高く出るかの構造を整理します。会社規模の判定や特定の評価会社の扱いは、親記事にまとめています。
類似業種比準方式の算式
結論: 上場している同業他社の株価に、配当・利益・純資産の3つを比べた割合を掛け、さらにしんしゃく率を掛けて求めます。
算式の全体
国税庁の財産評価基本通達180は、類似業種比準価額について「類似業種の株価並びに1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)を基とし、次の算式によって計算した金額とする」と定めています。算式は、類似業種の株価に、3つの比準要素の割合を平均したものを掛け、最後にしんしゃく率を掛けるという形です。上場企業の株価を出発点にして、自社の規模と実力に引き直すという構造になっています。
1株当たりの資本金等の額を50円に揃える
計算では、まず自社の数字を1株当たりの資本金等の額が50円である場合の金額に置き換えます。同通達は、1株当たりの資本金等の額が「50円以外の金額であるときは、その計算した金額に、1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を乗じて計算した金額とする」としています。上場企業と比べるための共通の物差しを作る作業です。この換算があるため、算式の途中で出てくる金額は実際の1株の価値とは一致しません。
3つの比準要素
比べるのは、1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額、1株当たりの純資産価額(帳簿価額)の3つです。それぞれについて、自社の数字を類似業種の数字で割り、3つの割合を平均します。この3つ以外の要素は、算式には入りません。売上高の規模も、従業員数も、含み益も、この算式には現れません。会社の規模は、後で触れるしんしゃく率と、会社規模の区分を通じて反映されます。
比準要素の中身
結論: 配当は直前期末以前2年間の平均、利益は直前期または2年間の平均、純資産は直前期末の帳簿価額です。
1株当たりの配当金額
直前期末以前2年間に支払われた配当金額の平均をもとに計算します。特別配当や記念配当のように、将来毎期継続することが予想できないものは除きます。配当をしていない会社では、この要素はゼロになります。中小企業では無配の会社も多く、その場合は3つの要素のうち1つがゼロのまま平均されることになります。
1株当たりの利益金額
法人税の課税所得を基礎に、一定の調整を加えて計算します。非経常的な利益は除かれ、受取配当等の益金不算入額などは加算されます。直前期の数字を使うか、直前期と直前々期の平均を使うかを選べます。業績の変動が大きい会社では、この選択が結果に影響します。利益が大きく出た期の直後に評価すると、評価額も高く出ます。
1株当たりの純資産価額
こちらは帳簿価額による純資産です。相続税評価額に置き換えたものではありません。同じ「純資産価額」という言葉が、2つの方式で違う意味で使われているという点は、混乱しやすい部分です。類似業種比準方式では帳簿価額、純資産価額方式では相続税評価額を使います。具体的には、資本金等の額と利益積立金額の合計を1株当たりに引き直した金額です。含み益は反映されないため、土地の含み益が大きい会社でもこの要素は動きません。
比準要素がゼロの会社
3つの比準要素のうち、直前期末の数字がいずれもゼロである会社などは、特定の評価会社として別の扱いを受けます。この場合、原則として純資産価額方式で評価することになります。比準要素が少ないと、類似業種比準方式そのものが使えなくなるということです。詳しい判定は親記事にまとめています。直前期末と直前々期末の両方について要素を見る仕組みになっており、1期だけ配当と利益がゼロになっても直ちに該当するわけではありません。休眠に近い状態が続いている会社で問題になります。
| 比準要素 | 使う数字 | 期間 |
|---|---|---|
| 1株当たりの配当金額 | 実際に支払った配当(特別配当等は除く) | 直前期末以前2年間の平均 |
| 1株当たりの利益金額 | 法人税の課税所得に一定の調整を加えた金額 | 直前期、または直前期と直前々期の平均から選択 |
| 1株当たりの純資産価額 | 帳簿価額による純資産(資本金等の額+利益積立金額) | 直前期末 |
類似業種の株価としんしゃく率
結論: 株価は複数の候補から選べます。しんしゃく率は会社規模によって0.7・0.6・0.5と変わります。
株価は最も低いものを選べる
国税庁の財産評価基本通達182は、類似業種の株価について「課税時期の属する月以前3か月間の各月の類似業種の株価のうち最も低いもの」とし、ただし書で「納税義務者の選択により、類似業種の前年平均株価又は課税時期の属する月以前2年間の平均株価によることができる」としています。5つの候補から最も低いものを選べるという構造です。株式市場が下落している局面では、3か月のうち最も低い月が有利になり、上昇している局面では前年平均や2年平均が有利になることがあります。
業種目の選び方にも選択肢がある
同通達181は、業種目について小分類まで区分されているものは小分類によるとしつつ、「納税義務者の選択により、類似業種が小分類による業種目にあってはその業種目の属する中分類の業種目」を選べるとしています。より上位の分類を選ぶこともできるということです。小分類と中分類で株価や比準要素が違うため、どちらを選ぶかで評価額が変わります。
しんしゃく率の意味
算式の最後に掛けるのが、大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5という割合です。通達180の(2)は、「上記算式中の『0.7』は、178≪取引相場のない株式の評価上の区分≫に定める中会社の株式を評価する場合には『0.6』、同項に定める小会社の株式を評価する場合には『0.5』とする」と定めています。上場企業と比べたときの規模や信用力の差を、この割合で調整しているという位置づけです。規模が小さいほど割合も小さくなり、評価額は下がります。
純資産価額方式の算式
結論: 課税時期の各資産を相続税評価額で評価し、負債と評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いて、発行済株式数で割ります。
算式の全体
国税庁の財産評価基本通達185は、1株当たりの純資産価額について、課税時期における各資産をこの通達に定めるところにより評価した価額の合計額から「課税時期における各負債の金額の合計額及び186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除した金額を課税時期における発行済株式数で除して計算した金額とする」と定めています。会社を解散して財産を分けたらいくらになるかという発想の計算です。
帳簿価額を相続税評価額に置き換える
出発点は決算書の資産ですが、それぞれを相続税評価額に置き換えます。土地は路線価方式または倍率方式、建物は固定資産税評価額、有価証券は評価通達の定めに従います。含み益がある資産を持つ会社では、帳簿より大きい金額になります。とくに古くから土地を保有している会社では、帳簿価額と相続税評価額の差が大きくなります。逆に、上場株式や投資信託を保有している場合は、時価が帳簿価額を下回ることもあります。資産の種類ごとに、置き換える先の評価方法が決まっています。
3年以内に取得した土地等と家屋等
国税庁の財産評価基本通達185には、括弧書きで重要な定めがあります。評価会社が課税時期前3年以内に取得または新築した土地等および家屋等の価額は、「課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価する」とされています。取得から3年以内は、路線価ではなく実勢価格で評価するということです。評価額を下げる目的で直前に不動産を取得しても、この定めにより効果が出ない仕組みになっています。
負債の範囲
国税庁の財産評価基本通達186は、「貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金その他の引当金及び準備金に相当する金額は負債に含まれないものとし」と定めています。一方、課税時期の属する事業年度の法人税額等のうち期間対応する未払分、課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税の未払分、被相続人の死亡により支給が確定した退職手当金などは負債に含まれます。引当金は引けないが、確定した未払分は引けるという整理です。
評価差額に対する法人税額等相当額
結論: 相続税評価額による純資産と帳簿価額による純資産の差額、つまり含み益に対して一定の割合を控除できます。
控除の趣旨
会社が持つ資産に含み益がある場合、実際に売却すれば法人税等がかかります。純資産価額方式は解散を前提とした計算なので、その税負担を差し引くという考え方です。含み益がそのまま評価額になるわけではないということです。この控除があるため、含み益の大きい会社でも評価額は一定の水準に抑えられます。もっとも、控除されるのは含み益の38パーセントであって、残る62パーセントは評価額に反映されます。含み益が大きければ、控除後でも評価額は高く出ます。
割合は38パーセント
国税庁の財産評価基本通達186-2は、この控除額を「(1)の金額から(2)の金額を控除した残額がある場合におけるその残額に38%(法人税(地方法人税及び防衛特別法人税を含む。)、事業税(特別法人事業税を含む。)、道府県民税及び市町村民税の税率の合計に相当する割合)を乗じて計算した金額」と定めています。この割合は令和8年の改正により38パーセントとされました。それ以前は37パーセントだったため、古い資料との違いに注意が必要です。防衛特別法人税と特別法人事業税が含まれた結果です。
含み損がある場合
相続税評価額による純資産が帳簿価額による純資産を下回る場合、控除する金額はありません。通達の文言も「残額がある場合における」となっており、マイナスの場合は控除の対象になりません。含み損があっても、その分を加算するわけではないという片側の仕組みです。含み損があれば、そもそも相続税評価額による純資産が帳簿価額を下回るため、評価額そのものが低く出ます。控除がなくても不利にはなりません。
議決権が50パーセント以下の場合
国税庁の財産評価基本通達185のただし書は、株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計数が議決権総数の50パーセント以下である場合には、計算した1株当たりの純資産価額に「100分の80を乗じて計算した金額とする」としています。支配権のない立場では、2割引きの評価になるということです。ただし、この扱いは併用方式で使う純資産価額と、小会社の純資産価額についてのもので、すべての場面に及ぶわけではありません。
2つの方式をどう組み合わせるか
結論: 会社規模によって、どちらを使うか、どの割合で併用するかが決まります。大会社は類似業種比準、小会社は純資産価額が原則で、中会社は両者をLの割合で按分します。多くの場合、類似業種比準価額のほうが低く算定されます。
併用の仕組み
大会社は類似業種比準価額(選択により純資産価額も可)、小会社は純資産価額(選択によりLを0.50とした併用も可)、中会社は類似業種比準価額にLを掛けたものと純資産価額に(1−L)を掛けたものの合計です。Lが大きいほど、類似業種比準価額の比重が高くなります。中会社のLは0.90・0.75・0.60の3段階で、規模が大きいほどLも大きくなります。
一般に類似業種比準価額のほうが低い
多くの会社では、類似業種比準価額のほうが純資産価額より低く算定されます。内部留保を厚く積み上げてきた会社ほど、この差は大きくなります。Lが大きいほど評価額は下がるという関係になるため、会社規模の区分が評価額に直接影響します。中会社のLは0.90・0.75・0.60の3段階で、0.60から0.75へ上がるだけで純資産価額の比重が15ポイント下がります。総資産、従業員数、取引金額のどれかが区分の境目にあるなら、その動きも見ておく価値があります。
どちらか有利なほうを選べる場面
大会社は純資産価額を選ぶこともでき、小会社は併用方式を選ぶこともできます。中会社でも、純資産価額のほうが低ければそちらを使えます。選択できるのは方式であって、算定した数字ではありません。それぞれの方式で計算したうえで、低いほうを採用するという作業になります。したがって、いずれの規模でも両方の計算を行うことになります。片方だけを計算して提示された場合は、もう一方の金額も確認しておく価値があります。
評価額を確認するときの視点
結論: 算式の各項目が、自社のどの数字から来ているかを確認します。動かせるのは数字であって、算式ではありません。
動かせる部分と動かせない部分
類似業種の株価、比準要素の計算方法、しんしゃく率の割合。これらは通達で定められており、動かせません。動かせるのは、自社の配当、利益、純資産、そして会社規模の判定に使う数字です。評価額を下げるという表現は正確でなく、評価の材料になっている数字が下がった結果として評価額が下がるという関係になります。役員退職金を支給すれば利益と純資産が減り、その結果として評価額も下がります。順序を逆にして、評価額から逆算して退職金の額を決めると、金額の妥当性が説明できなくなります。
直前期末の数字が使われる
類似業種比準方式の比準要素は、直前期末の数字を基礎とします。純資産価額方式は課税時期の資産と負債で計算しますが、実務では直前期末の数字を基礎に調整することが多くなります。どの期の数字が使われるかによって、移転の時期の判断が変わります。退職金の支給や大きな損失の計上があった期を挟むかどうかが、評価額に影響します。
選択できる項目を確認する
類似業種の株価は5つの候補から、業種目は小分類か中分類かから、利益は直前期か2年平均かから選べます。選択肢を並べて確認するだけで、評価額は変わります。計算を依頼するときは、どの選択をした結果なのかも確認しておくと、判断の材料が増えます。とくに類似業種の株価は、5つの候補で金額が大きく違うことがあります。どの月の株価を採ったのかを聞いておくだけでも、計算の妥当性が見えます。
事例:同じ会社で2つの方式に3倍の差があった
創業50年の卸売業の会社から、自社株の評価についてご相談をいただきました。承継の設計に入る前に、金額を知りたいという内容です。
会社規模の判定では中会社に該当しました。
Lの割合は0.75でした。
計算したところ、類似業種比準価額と純資産価額に大きな差が出ました。純資産価額のほうが3倍近く高い金額です。
原因は土地でした。本社と倉庫の土地を創業間もない時期に取得しており、帳簿価額と相続税評価額の差が大きくなっていました。含み益に対する38パーセントの控除を差し引いても、純資産価額を押し上げていました。
一方、類似業種比準価額は業種の株価水準と自社の利益を反映した金額で、こちらは比較的低く算定されています。
併用方式では、類似業種比準価額に0.75、純資産価額に0.25を掛けて合計します。純資産価額の比重が4分の1に抑えられるため、純資産価額だけで評価した場合と比べて大きく下がりました。
会社規模の区分が1つ変われば、この比重も変わるという点が、この事例から見えたところです。区分は総資産、従業員数、取引金額で判定されるため、年によって入れ替わることがあります。
よくある質問
類似業種比準方式とはどういう計算ですか?
純資産価額方式とはどういう計算ですか?
評価差額に対する法人税額等相当額とは何ですか?
どちらの方式が有利ですか?
類似業種の株価はどう決まりますか?
直前に不動産を買えば評価額は下がりますか?
まとめ:算式の項目を自社の数字に対応させる
自社株の評価方式は2つあり、見ている対象がまったく違います。
類似業種比準方式は、上場している同業他社の株価に、配当・利益・純資産(帳簿価額)の3つを比べた割合を掛け、しんしゃく率を掛けて求めます。3つの要素以外は算式に入りません。売上高も従業員数も含み益も、この算式には現れません。
純資産価額方式は、会社を解散したと仮定して財産を評価します。各資産を相続税評価額に置き換え、負債と、含み益に対する38パーセントの控除を差し引きます。古くから土地を持っている会社では、この方式のほうが高く出ます。
実務で押さえておきたいのは、選択できる項目がいくつもあるという点です。類似業種の株価は5つの候補から、業種目は小分類か中分類かから、利益は直前期か2年平均かから選べます。この選択によって評価額は変わります。
また、課税時期前3年以内に取得した土地等と家屋等は通常の取引価額で評価するという定めがあります。直前の不動産取得では、路線価と実勢価格の差による効果は生じません。
評価額の説明を受けるときは、どの方式で、どの選択をした結果なのかまで確認してください。算式の各項目が自社のどの数字から来ているかが分かれば、どこが動けば評価額が動くかも見えてきます。
税理士法人Light UPでは、自社株の評価と、その結果をふまえた承継の設計についてのご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
出典
- 国税庁「財産評価基本通達」178、179、180、181、182、183、185、186、186-2
- e-Gov 法令検索「相続税法」(昭和二十五年法律第七十三号)第22条
- e-Gov 法令検索「法人税法」(昭和四十年法律第三十四号)第2条第16号





