法人化の年収の目安はいくらから?損得の試算方法をわかりやすく解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
法人化の年収の目安としては、課税所得900万円がよく挙げられます。所得税の税率が33%に上がる境目だからです。ただし、これは税率だけを比べた金額です。社会保険料と毎年の固定費を入れると、法人化が得になる水準は人によって変わります。この記事では、900万円と言われる理由、目安に入っていない負担、令和8年分の控除の改正、試算の手順を、国税庁・日本年金機構・協会けんぽの公表資料(2026年10月時点)で整理します。
法人化は年収いくらから考える?
結論: 法人化の目安として語られるのは、課税所得900万円と課税売上高1,000万円です。どちらも税の制度の境目で、法人化が得になる分岐点そのものではありません。
目安の金額と境目の意味
法人化の目安として、次の2つの金額がよく語られます。いずれも、税の制度が切り替わる位置です。
| 金額 | 何の境目か | 法人化の判断との関係 |
|---|---|---|
| 課税所得900万円 | 所得税の税率が23%から33%に上がる境目 | 個人側の税率が高い帯に入る合図。目安としていちばん多く語られる |
| 課税売上高1,000万円 | 消費税を納める義務があるかどうかの境目 | 消費税を納め始める時期の話で、法人化の損得とは別 |
この記事は、検索で最も多い課税所得900万円を中心に説明します。課税売上高1,000万円は消費税の納税義務の基準で(国税庁のタックスアンサーNo.6501)、法人にする決まりはありません。
年収が指す金額の違い
年収という言葉は、人によって3つの金額を指します。
- 売上:事業で受け取った金額の合計です。
- 事業所得:売上から必要経費を引いた、事業の利益です。
- 課税所得:事業所得から、青色申告特別控除・基礎控除・社会保険料控除などの所得控除を引いた金額です。確定申告書では「課税される所得金額」と書かれ、税率を掛ける対象になります。
法人化の判断でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、売上を年収と取り違える、税率だけで比べる、古い控除額で計算する、1年分の利益だけで決める、の4つです。どれも法人化後の手取りが予想より減る原因になります。
本で読んだ900万円を売上のことだと思い込み、法人化の相談に来られる方が少なくありません。意味を取り違えたまま進めると、会社の維持費だけが増えます。
売上を年収として見る
売上1,000万円の人が、900万円の目安を超えたと考えて法人化すると、課税所得は900万円に遠く及ばないことがあります。所得税の税率が低いままなら、法人化で得られる税率の差はほとんどありません。一方、社会保険料と均等割は、利益が少なくても毎年かかります。
税率だけで比べる
法人の税率は、個人より低く見えます。しかし法人化すると社会保険に加入する義務が生じ、保険料が会社と本人の両方で増えます。税率の差で減る税金より増える保険料のほうが大きければ、手元に残るお金は減ります。
古い控除額で計算する
基礎控除は令和7年分と令和8年分で金額が変わりました(後の節で説明します)。数年前の記事や書籍の分岐点は、古い控除額で計算されています。個人側の税額が実際より多く出て、法人化が実際より得に見えます。
1年分の利益だけで決める
利益が多かった1年だけを見て法人化すると、翌年に利益が減っても、社会保険料と均等割は残ります。役員報酬も、期の途中で自由に下げられません。
直近の確定申告書と今期の売上・経費の見込みをお持ちいただければ、課税所得を出し直し、役員報酬を3通りに置いた個人と法人の負担を並べて、どこで差が出るかを一緒に確かめます。
法人化の目安はなぜ900万円?
結論: 課税所得900万円は、所得税の税率が33%に上がる位置で、住民税を足すと個人の税率は43%です。この高い税率を、法人の低い税率に置き換えられる額が大きくなる水準として語られてきました。
所得税と住民税の税率
所得税の税率は、課税される所得金額が上がるほど、5%から45%まで7段階で上がります(国税庁のタックスアンサーNo.2260、令和8年4月1日現在法令等)。住民税の所得割は、標準税率で一律10%です(都道府県民税4%と市町村民税6%、総務省)。
| 課税される所得金額 | 所得税率 | 住民税10%を足した率 |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 15% |
| 195万円以上330万円未満 | 10% | 20% |
| 330万円以上695万円未満 | 20% | 30% |
| 695万円以上900万円未満 | 23% | 33% |
| 900万円以上1,800万円未満 | 33% | 43% |
| 1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 50% |
| 4,000万円以上 | 45% | 55% |
住民税の課税所得は所得税と控除額が少し違うため、この表は概算です。令和8年分までは、所得税額の2.1%の復興特別所得税も加わります。
法人側の税率
資本金1億円以下などの中小法人は、年800万円以下の所得に15%、超える部分に23.2%の法人税がかかります(国税庁のタックスアンサーNo.5759)。このほかに、法人税額の10.3%の地方法人税(国税庁「地方法人税の税率の改正のお知らせ」)、法人住民税、法人事業税がかかります。
事業税の損金算入の効果まで入れた実効税率は、標準税率で、年400万円以下の部分が約21.4%、400万円超800万円以下が約23.2%、800万円超の部分が約33.6%です。
税率の差が広がる位置
個人の税率は、課税所得が330万円を超える部分で30%以上です。法人の実効税率は、年800万円以下の部分で2割台前半です。差は、330万円を超えたあたりから7〜10ポイントほどあり、900万円の位置で急に生まれるわけではありません。
900万円は、この差で減る税金が、社会保険料と固定費の増加を上回りやすくなる水準として語られてきた数字です。制度が決めた分岐点ではなく、前提が違えば結果は変わります。法人の低い税率が使えるのは会社に残す利益だけで、役員報酬として受け取る分には個人の所得税と住民税がかかります。
法人化の目安に入らない負担は?
結論: 目安の数字は税率の比較で、社会保険料・均等割・税理士報酬が入っていません。とくに社会保険料は、役員報酬が月50万円なら会社と本人の合計で年約170万円です。
個人のままと法人化後の負担項目
| 項目 | 個人のまま | 法人化後 |
|---|---|---|
| 所得への税 | 所得税・復興特別所得税・住民税 | 役員報酬への所得税・住民税と、会社の法人税等 |
| 事業税 | 個人事業税(法定業種のみ。事業主控除は年290万円) | 法人事業税(事業主控除はない) |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金保険(役員1人でも加入) |
| 赤字でも出る費用 | なし | 法人住民税の均等割(標準税率で年7万円) |
社会保険料の大きさ
法人になると、社長1人でも健康保険と厚生年金保険に加入します。厚生年金保険料率は18.3%で固定です(日本年金機構)。健康保険料率は都道府県ごとに違います。
東京の協会けんぽで、40歳未満の人が月50万円の役員報酬を受ける場合を見ます(説明用の金額です)。料率は健康保険9.85%、子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金保険18.3%の合計28.38%です。月の保険料は会社と本人の合計で14万1,900円、年額で約170万円で、半分の約85万円ずつを会社と本人が負担します。会社だけが払う子ども・子育て拠出金は含みません(協会けんぽ東京支部の保険料額表、令和8年10月分から)。
個人事業主の国民年金保険料は、令和8年度で月17,920円の定額で、国民健康保険料には上限があります。法人化で保険料は増えやすい一方、厚生年金保険に入る分、将来の年金も増えます。
均等割と給与所得控除
均等割は、赤字でも払う税金で、資本金等の額が1,000万円以下で従業者が50人以下なら、標準税率で年7万円です。決算と申告の手間が増え、税理士報酬も、利益の少ない年に変わらず出ていきます。
一方、法人化すると役員報酬が給与になるので、事業所得には使えない給与所得控除が使えます。家族が実際に働いているなら、報酬を払って所得を分けられます。仕事の実態がない家族への報酬は、損金の額に算入できません。
令和8年分の控除は何が変わった?
結論: 令和8年分の所得税から、基礎控除は合計所得金額489万円以下で104万円、給与所得控除の最低額は74万円に上がりました。目安の数字は大きく動きませんが、個人側の税額の計算は変わります。
基礎控除の引上げ
基礎控除は、令和6年分までは48万円でした。令和7年分に合計所得金額に応じた金額になり、令和8年分・令和9年分でさらに引き上げられました(国税庁のタックスアンサーNo.1199、令和8年4月1日現在法令等)。
| 合計所得金額 | 令和7年分 | 令和8年分・令和9年分 |
|---|---|---|
| 132万円以下 | 95万円 | 104万円 |
| 132万円超336万円以下 | 88万円 | 104万円 |
| 336万円超489万円以下 | 68万円 | 104万円 |
| 489万円超655万円以下 | 63万円 | 67万円 |
| 655万円超2,350万円以下 | 58万円 | 62万円 |
令和8年分は令和8年12月1日の施行で、年末調整や確定申告で精算します。
給与所得控除の最低額
給与所得控除の最低額は、令和7年分が65万円(給与収入190万円まで)、令和8年分・令和9年分が74万円(給与収入220万円まで)です(国税庁のタックスアンサーNo.1410)。
目安の数字への影響
基礎控除が増えると、同じ課税所得になる事業所得が、増えた額だけ上へ動きます。課税所得900万円の前後にあたる655万円超の層は、令和6年分の48万円から令和8年分の62万円へ、14万円の増加です。目安の数字は大きく変わりませんが、数年前の試算は個人側の税額が高く出ているため、令和8年分の控除で計算し直します。
法人化の損得を試算する手順は?
結論: 個人のまま続けた場合と、法人化して役員報酬を3通りに置いた場合を、税と社会保険料の合計で並べ、3年分で比べます。出発点は目安の数字でなく、自分の確定申告書です。
試算の流れ
役員報酬を3通りに置く
役員報酬は、低め・中間・高めの3通りで試算します。報酬が低いと個人の税と社会保険料は軽くなりますが、会社に残る利益が増え、法人税等が増えます。報酬が高いと逆になるので、3通りを並べて合計の小さい水準を探します。
会社に残るお金の数え方
比べるのは、個人の手元に残る金額と、会社に残る金額の合計です。会社に残ったお金を個人に移すときは、役員報酬の増額や退職金などの形で、あらためて税金がかかります。
税理士が最初に確認する点
税理士は、試算の前に、確定申告書の課税される所得金額と社会保険料控除の額、取引先が法人を求めているか、インボイスの登録の有無、家族の扶養の状況を確認します。相談先と費用は、次の記事にまとめています。
よくある質問
事業所得が500万円前後でも、法人化したほうがよいですか?
売上が1,000万円を超えたら法人化すべきですか?
目安に届かないうちに法人化してもよいですか?
まとめ:目安は入口、答えは自分の数字で出そう
- 課税所得900万円は、所得税の税率が33%に上がる位置で、法人化の分岐点そのものではありません
- 目安の数字は税率の比較で、社会保険料・均等割・税理士報酬が入っていません
- 令和8年分は基礎控除が増えたので、役員報酬を3通りに置いて、3年分の税と社会保険料の合計を比べます
自分の課税所得がどの水準か分からない方、法人化と個人のままのどちらが手元に残るかを知りたい方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の確定申告書をお持ちいただき、役員報酬を複数の水準に置いて、税と社会保険料の合計を並べて確認します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2260「所得税の税率」
- 国税庁 タックスアンサー No.1199「基礎控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.1410「給与所得控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.5759「法人税の税率」
- 国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」
- 国税庁「地方法人税の税率の改正のお知らせ」
- 総務省「地方税制度 個人住民税」
- 日本年金機構「厚生年金保険料額表」
- 協会けんぽ東京支部「令和8年10月分からの保険料額表」
- 日本年金機構「国民年金保険料」





