個人事業主の社会保険|国民健康保険と国民年金
「独立したら、保険料が会社員のときの倍近くになって驚きました」。「年金は国民年金だけになると聞いたのですが、それで足りるのでしょうか」――独立して1年目の方から、この2つはほぼ同時に出てきます。
結論からお伝えすると、個人事業主が加入するのは国民健康保険と国民年金です。会社員時代の健康保険・厚生年金保険と違い、保険料の労使折半がないため全額を自分で負担します。加えて、独立してからの期間について積み上がるのは基礎年金だけになります。
税理士法人Light UPでは、独立後の資金繰りで最も見落とされるのは税金ではなく社会保険料の負担の変化だと考えています。独立1年目の国民健康保険料は前年(=会社員時代)の所得で計算されるため、収入が下がっている時期に最も高い保険料が届きます。
この記事では、個人事業主が入る制度の中身、保険料が決まる仕組み、会社員時代との負担の違い、そして年金の上乗せがなくなる部分を補う手段までを、実際に個人事業主の申告を担当している立場から整理します。
個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入する
結論: 個人事業主は、市区町村が運営する国民健康保険と、日本年金機構が運営する国民年金(第1号被保険者)に加入します。会社員が入る健康保険と厚生年金保険は、原則として対象外です。
会社を辞めた時点で切り替わる。会社員時代との制度の違い
会社を辞めた日から、加入する制度が変わります。健康保険は国民健康保険へ、厚生年金保険は国民年金へ。手続きは自分で行うことになり、期限も決まっています。まず、会社員時代と何が違うかを並べておきます。
退職して個人事業主になると、健康保険と厚生年金保険の資格を失います。退職日の翌日から14日以内に、市区町村の窓口で国民健康保険と国民年金の手続きを行います。
この手続きを忘れていても、保険料は資格を得た日まで遡って請求されます。届出が遅れても負担が減るわけではありません。
| 項目 | 会社員 | 個人事業主 |
|---|---|---|
| 医療保険 | 健康保険(協会けんぽ・組合健保) | 国民健康保険 |
| 年金 | 厚生年金保険(+国民年金) | 国民年金のみ |
| 保険料の負担 | 会社と本人で折半 | 全額が本人負担 |
| 扶養の仕組み | 配偶者・子を扶養に入れられる | 扶養の概念がなく全員分の保険料がかかる |
| 傷病手当金 | あり | 原則なし |
| 出産手当金 | あり | 原則なし |
| 労災保険 | 加入 | 原則なし(特別加入の制度はある) |
| 雇用保険 | 加入 | 対象外 |
扶養という考え方がなく、傷病手当金もない
会社員の健康保険では、収入が一定額以下の配偶者や子を扶養に入れられ、その人の分の保険料はかかりません。国民健康保険にはこの仕組みがありません。
世帯の人数が増えるほど保険料も増えます。家族が多い方ほど、独立時の負担の変化が大きくなります。
会社員は、病気やけがで働けない期間について傷病手当金を受けられます。国民健康保険には原則としてこの給付がありません。
働けなくなった月の収入がそのままゼロになる。個人事業主にとって、体調は資金繰りの一部だと考えておく必要があります。
国民健康保険料は前年の所得で決まる
結論: 国民健康保険料は、前年の所得を基礎に計算されます。市区町村によって計算方法と料率が異なり、同じ所得でも住んでいる自治体で金額が変わります。
保険料は3つか4つの部分に分かれる
多くの自治体では、医療分・後期高齢者支援金分・介護分(40歳以上65歳未満)の3区分で計算します。それぞれについて、所得割・均等割・平等割を組み合わせる形が一般的です。
- 所得割:前年の所得に応じてかかる部分
- 均等割:世帯の加入者1人あたりにかかる部分
- 平等割:1世帯あたりにかかる部分(採用していない自治体もある)
独立1年目がいちばん高くなりやすい
保険料の基礎になるのは前年の所得です。会社員として給与を受け取っていた年の所得で計算されるため、独立して収入が減った年に高い保険料が届きます。
「売上がまだ立たない時期に、いちばん高い通知が来ました」というお声は、独立1年目の方から本当によく伺います。ここを織り込まずに開業すると、初年度の資金繰りが苦しくなります。
青色申告特別控除は保険料にも影響し、上限も設けられている
国民健康保険料の所得割は、総所得金額等を基礎に計算されます。青色申告特別控除を差し引いた後の金額が基礎になるため、控除は所得税・住民税だけでなく国民健康保険料にも関わります。
65万円の控除が、3つの負担すべてに同時に影響する。これが青色申告を選ぶ実務的な理由の一つです。
国民健康保険料には年間の上限額(賦課限度額)が定められています。所得が一定水準を超えると、それ以上は増えません。
上限額は毎年度見直されるため、自治体の最新の案内で確認する必要があります。
退職後2年間は任意継続という選択肢がある
結論: 会社を退職した人は、退職前の健康保険に最長2年間加入し続ける任意継続被保険者の制度を選べます。退職日の翌日から20日以内の申出が必要で、保険料は全額自己負担になります。
20日という期限が短い
e-Gov 法令検索で確認できる健康保険法第37条は、任意継続被保険者となる申出について「被保険者の資格を喪失した日から二十日以内にしなければならない」と定めています。ただし同条には「保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる」という但し書きもあります。
退職の手続きに追われている時期と重なるため、気づいたときには過ぎていたという例が少なくありません。独立が決まった時点で、この日付だけは押さえておきます。
途中でやめることもできる
同法第38条は、任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過したときのほか、任意継続被保険者でなくなることを希望する旨の申出をしたときにも資格を喪失すると定めています。
2年間は必ず続けなければならない、という制度ではありません。所得が下がって国民健康保険のほうが安くなった時点で切り替える判断も取れます。
折半がなくなるので約2倍。扶養している家族がいると差が出る
在職中は会社が保険料の半分を負担していました。任意継続では全額が本人負担になります。
ただし、任意継続の保険料には上限が設けられているため、在職中の給与が高かった方ほど有利になりやすい構造です。
任意継続では、被扶養者の分の保険料がかかりません。国民健康保険は加入者1人ずつに均等割がかかります。
配偶者と子がいる世帯では、この差で任意継続のほうが安くなることがあります。逆に単身であれば、国民健康保険のほうが安くなる場合が多くなります。
比べるなら金額を出してから
どちらが安いかは、前年の所得・世帯の人数・住んでいる自治体で変わります。市区町村の窓口では国民健康保険料の試算をしてもらえます。
退職前に両方の金額を出して比べる。この一手間で年に数万円から十数万円の差が出ることもあります。
比べる材料は、任意継続の保険料額と、国民健康保険の試算額です。前者は退職時の標準報酬月額から、後者は市区町村の窓口で前年の所得を伝えれば出してもらえます。どちらも数字が出るので、感覚で決める必要はありません。
国民年金は基礎年金だけになる
結論: 個人事業主は国民年金の第1号被保険者となり、保険料は定額です。厚生年金保険に加入しないため、独立してからの期間について積み上がるのは老齢基礎年金だけになります。
保険料は定額で、受け取る年金は基礎年金のみ
国民年金の保険料は、所得の多寡にかかわらず一律です。金額は毎年度改定されます。
厚生年金のように報酬に比例しないため、所得が大きい年ほど負担率としては軽くなります。
納める額が一定であるぶん、受け取る額も一定になります。
会社員は老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金を受け取れます。個人事業主として活動している期間は、この2階部分が積み上がりません。会社員時代に厚生年金保険へ加入していた期間があれば、その期間に応じた老齢厚生年金は将来受け取れます。ゼロになるわけではなく、独立後の分が増えないという関係です。
保険料の支払いが軽いぶん、受け取る額も少なくなる構造です。
納付が難しいときの免除・猶予と、前納の割引
所得が一定以下の場合、保険料の免除や納付猶予を申請できます。未納のまま放置するのと、手続きをして免除を受けるのとでは扱いが大きく違います。
免除期間は受給資格期間に算入され、老齢基礎年金の額にも一部が反映されます。未納の期間は、そのどちらにも入りません。
保険料をまとめて前払いすると割引が受けられます。2年前納・1年前納・6か月前納の選択肢があり、期間が長いほど割引額も大きくなります。
支払った保険料は、その年の社会保険料控除の対象です。前納した年にまとめて控除するか、各年分に分けて控除するかを選べます。
2階部分を補う制度が4つある
結論: 厚生年金保険の上乗せがない部分を補う手段として、国民年金基金・付加年金・iDeCo(個人型確定拠出年金)・小規模企業共済があります。いずれも掛金が全額所得控除の対象になります。
4つの制度の比較と、月400円から始まる付加年金
国民年金だけでは、独立してからの期間について積み上がるのは基礎年金の部分だけです。会社員の厚生年金保険にあたる2階部分を、自分で作る仕組みが用意されています。掛金の水準も加入の条件も違うため、まず4つを並べて見ておきます。
| 制度 | 位置づけ | 掛金の扱い | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 付加年金 | 国民年金の上乗せ | 社会保険料控除 | 月額400円と少額。受給は定額 |
| 国民年金基金 | 国民年金の上乗せ | 社会保険料控除 | 終身年金を選べる。付加年金とは併用不可 |
| iDeCo | 私的年金 | 小規模企業共済等掛金控除 | 運用の成果で受給額が変わる |
| 小規模企業共済 | 廃業・退職時の受取 | 小規模企業共済等掛金控除 | 事業をやめたときの退職金にあたる |
国民年金の保険料に月額400円を上乗せすると、受け取る年金が増えます。少額から始められるため、まず検討しやすい制度です。
ただし国民年金基金とは併用できません。どちらかを選ぶ形になります。
掛金の上限が大きい制度と、廃業時に備える制度
第1号被保険者のiDeCoは、国民年金基金や付加保険料と合わせた枠の中で掛金を設定します。会社員より枠が大きく設定されている点が特徴です。
一方で、原則として60歳まで引き出せません。運転資金として当てにできる資金ではないことに注意が要ります。
小規模企業共済は、事業をやめたときに共済金を受け取る制度です。掛金は月1,000円から7万円まで設定でき、全額が所得控除の対象になります。
事業資金の貸付制度もあるため、資金繰りの選択肢としての面もあります。
掛けすぎに注意する
いずれも所得控除になるため、税負担を減らす方向には働きます。ただし、掛金として出したお金はすぐには戻りません。
手元資金を薄くしてまで積み立てると、資金が要る局面で身動きが取れなくなります。売上の変動が大きい時期は、掛金を控えめに設定しておくのが現実的でしょう。
掛金は所得控除になりますが、出ていくのは現金です。事業の資金繰りが細っている時期に上限まで掛けると、運転資金を圧迫します。年間の余剰から無理のない額を決め、業績が安定してから増やすほうが続きます。
保険料は経費ではなく所得控除になる
結論: 国民健康保険料と国民年金保険料は、事業の必要経費にはなりません。確定申告で社会保険料控除として所得から差し引きます。
事業の経費と生活の支出は分ける。控除できるのは支払った金額
個人事業主が支払う社会保険料は、事業のための支出ではなく本人の生活に関わる支出です。必要経費ではなく所得控除として扱います。
帳簿では事業主貸として処理します。
国税庁のタックスアンサーNo.1130「社会保険料控除」は、この控除について「納税者が自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族の負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った金額について所得控除を受けることができます」と説明しています。
控除できる金額は「その年に実際に支払った金額または給与や公的年金から差し引かれた金額の全額」です。上限はありません。同ページでは、対象となる社会保険料として国民健康保険の保険料または国民健康保険税、国民年金、介護保険料、国民年金基金の掛金などが挙げられています。
生計を一にする家族の分を本人が支払った場合も、支払った人の控除に含められます。子の国民年金保険料を親が支払っている場合などが該当します。
控除の証明書が届く。従業員を雇うと法定福利費が出てくる
国民年金保険料については、日本年金機構から控除証明書が送られてきます。確定申告のときに金額を確認する資料になります。
国民健康保険料は証明書が発行されない自治体もあるため、納付書の控えや口座の記録で金額を確認します。
自分の保険料は所得控除ですが、従業員を雇って社会保険や労働保険に加入した場合、会社負担分は法定福利費として必要経費になります。
自分の分と従業員の分で、扱いが分かれる点が分かりにくいところです。
従業員を雇うと事業所としての加入が問われる
結論: 個人事業所が従業員を雇った場合、労災保険は1人でも加入が必要です。健康保険と厚生年金保険は、業種と常時使用する従業員の人数によって強制適用かどうかが分かれます。
労災保険は1人でも加入。雇用保険は労働時間で判断する
パート・アルバイトを含め、人を雇えば労災保険の対象です。事業主本人は原則として対象外ですが、特別加入の制度があります。
建設業や運送業など、事業主自身も現場に出る業種では、特別加入を検討する場面が多くなります。
週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用が見込まれる人が対象です。短時間のパートでも、この基準を満たせば加入します。
健康保険と厚生年金保険は業種による。手続きは社会保険労務士の業務
法人であれば人数にかかわらず強制適用ですが、個人事業所の場合は扱いが異なります。常時5人以上の従業員がいる事業所が原則として強制適用となり、一部の業種はこの対象から外れています。
ここは法人と個人でいちばん扱いが違う部分です。
社会保険や労働保険の申請書の作成と提出代行は、社会保険労務士法に定められた社会保険労務士の業務です。税理士は税務、社会保険労務士は労働社会保険と、担当が分かれます。
人を雇い始めたら、相談先が1つ増えると考えておきます。
法人化すると社会保険の扱いが変わる
結論: 法人化すると、社長1人の会社でも健康保険と厚生年金保険への加入が原則必要になります。保険料は会社と個人で折半しますが、どちらも同じ資金から出ることに変わりはありません。
1人法人でも加入が要り、保険料は報酬に比例する
法人は、従業員がいなくても役員報酬を支払っていれば社会保険の適用事業所になります。国民健康保険と国民年金からは外れます。
厚生年金保険と健康保険の保険料は、標準報酬月額に基づいて計算されます。役員報酬を高く設定すれば保険料も上がります。
法人化の試算をするときに、この部分を入れずに税額だけを比べると、実際の手取りが想定と合わなくなります。
将来の年金は増え、扶養に入れられるようになる
厚生年金に加入するため、将来受け取る年金に2階部分が加わります。負担は増えますが、給付も増える構造です。
短期の税負担だけで比べるか、将来の受給まで含めて比べるかで結論が変わります。
法人の社会保険では、収入が一定額以下の配偶者や子を被扶養者にできます。国民健康保険のように人数分の保険料はかかりません。
家族が多い方にとっては、この点も判断材料になります。
事例:独立1年目の負担を見誤りかけた方
会社員からデザイナーとして独立された方から、開業の1か月前にご相談をいただきました。「初年度の生活費は用意しました。あとは売上を作るだけです」というお話でした。
伺ったところ、資金計画に入っていたのは家賃と生活費、そして所得税の概算だけでした。国民健康保険料と国民年金保険料が入っていません。
そこで、前年の源泉徴収票をもとに市区町村で国民健康保険料の試算をしてもらいました。前年は会社員として一定の給与があったため、初年度の保険料は想定よりかなり高く出ています。
あわせて任意継続の保険料も算出し、比較しました。単身であったため、この方の場合は国民健康保険のほうが金額としては下回っています。
最終的に、開業資金に社会保険料の12か月分を上乗せする形に修正しました。「保険料が生活費の一部だと思っていました」という言葉があり、事業の固定費として認識が変わった様子でした。翌年からは所得に応じて下がるため、重いのは初年度だけだとお伝えしています。
よくある質問
国民健康保険料は経費にできますか?
収入が少ない年でも国民年金の保険料は払うのでしょうか?
任意継続と国民健康保険はどちらが安いのですか?
事業が軌道に乗ったら法人化したほうが社会保険は有利ですか?
独立した年の保険料が高すぎて払えません。どうすればよいですか?
まとめ:保険料は事業の固定費として先に組み込む
- 個人事業主は国民健康保険と国民年金に加入し、保険料は全額が自己負担
- 国民健康保険料は前年の所得が基礎。独立1年目は会社員時代の所得で計算されるため高くなりやすい
- 退職後20日以内なら任意継続を選べる。扶養している家族が多いほど有利になりやすい
- 厚生年金がない分は、付加年金・国民年金基金・iDeCo・小規模企業共済で補える
- 保険料は必要経費ではなく社会保険料控除。上限はなく支払った全額が対象
先に決めるべきは、上乗せの制度をどう組むかではありません。初年度の保険料がいくらになるかを、開業前に試算しておくことです。ここを外すと、事業が順調でも資金が足りなくなります。
やらなくてよいこともあります。開業と同時にiDeCoや共済を満額で始める必要はありません。所得が安定してから増やすほうが、資金の余裕を保てます。
税理士法人Light UPでは、開業前後の資金計画のご相談を無料でお受けしています。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1130「社会保険料控除」
- 国税庁 タックスアンサー No.2070「青色申告制度」
- e-Gov 法令検索「国民健康保険法」「国民年金法」「健康保険法」「厚生年金保険法」
- e-Gov 法令検索「社会保険労務士法」(第2条・第27条)
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。国民健康保険料の計算方法と料率、賦課限度額、減免の要件は市区町村ごとに異なります。国民年金の保険料額は毎年度改定されるため、最新の金額は日本年金機構の案内をご確認ください。




