賃上げ促進税制の繰越控除|5年間の繰越しと適用の条件

「賃上げはしたのですが、利益が出ておらず控除しきれませんでした」。「その分は捨てるしかないのでしょうか」――賃上げをした年ほど利益が薄くなり、この相談になります。

控除しきれなかった金額は捨てなくて構いません。中小企業向けの賃上げ促進税制には、繰越税額控除が用意されています。控除しきれなかった金額(繰越税額控除限度超過額)を、5年間繰り越して使える仕組みです。

ただし条件があります。繰り越した分を実際に控除する事業年度において、その年度も給与等の支給額が前年度を超えていることが必要です。加えて、途中の年度も含めて明細書を出し続けなければなりません。

税理士法人Light UPでは、控除しきれない年度こそ、申告書の作り方を丁寧に確認します。管理が途切れると、権利そのものが消えるためです。

この記事では、繰越しの仕組みと期間、適用する年度の要件、手続きで抜けやすい点、そして設備投資の税額控除との違いを、国税庁の資料に沿って整理します。

繰越控除とは何か

結論: 繰越控除は、賃上げ促進税制で控除しきれなかった金額を翌期以降に持ち越し、5年以内の事業年度で法人税額から差し引ける仕組みです。

上限を超えた分が翌期以降に持ち越せる

賃上げ促進税制の控除額には、その事業年度の調整前法人税額の20パーセントという上限があります。給与の増加額が大きく、利益が小さい年度は、計算上の控除額がこの上限を超えます。超えた部分は、その年度には使えません。

この使えなかった部分について、国税庁は繰越税額控除限度超過額と呼び、5年間の繰越しが認められると説明しています。控除の権利そのものが消えるわけではなく、使う時期が後ろにずれるという整理です。上限に当たった年度は、余った金額を計算して申告書に残しておくことが出発点になります。

中小企業向けだけに認められた措置

繰越しができるのは、中小企業向けの措置に限られます。財務省「令和8年度税制改正」の資料は、賃上げ促進税制の整理のなかで「中小企業向け措置については、5年間の繰越控除が適用可能」と注記しています。

全法人向けや中堅企業向けの措置には、この仕組みがありません。同じ賃上げ促進税制という名前でも、どの区分を使うかで繰越しの可否が変わります。自社がどの区分に当たるかは、資本金の額と従業員数で判定します。区分を取り違えたまま繰越しを前提にすると、後から使えないことが判明します。

なぜこの仕組みがあるのか

結論: 賃上げは利益を圧迫するため、賃上げをした年度ほど税額が小さく、控除枠を使い切れないという構造への対応です。

賃上げをした年ほど控除枠が小さくなる

給与を増やせば、その年度の利益は減ります。利益が減れば法人税額も減り、控除の枠である法人税額の20パーセントも小さくなります。頑張った年ほど使えない、という逆転が起きていました。

法人税額がなければ、その年度に控除はできません。しかし要件を満たしていれば、繰越しの対象にはなります。赤字だから計算しなくてよい、とはならない理由がここにあります。赤字の年度に計算と添付を省いてしまうと、業績が戻った年度に使える枠が手元に残りません。

5年という期間が意味するもの

設備投資の税額控除の繰越しが1年であるのに比べると、5年は長い期間です。業績が戻るまで待てる設計になっています。

この長さは、賃上げの効果が出るまでに時間がかかるという前提から来ています。人を増やし給与を上げた年度に利益が落ち、その投資が回収されるのは数期先、という流れは珍しくありません。1年では待ちきれないが、5年あれば景気の波を1つ越えられる。制度の期間設定は、そうした実際の資金の動きに合わせたものと読めます。

繰り越した分を使う年度の条件

結論: 繰越税額控除限度超過額を控除する事業年度において、その年度の雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えていることが必要です。

繰り越した分を使う年度の条件
01
使う年度の条件
給与等支給額が前年度を超えていること
02
増加率は求められない
当期分の適用に必要な増加率までは求められない
03
5年の期限
延びない。事業年度で数える
04
古いものから使う
期限の近いものから充てる

前年度を超えていればよく、1.5パーセントは求められない

国税庁は繰越控除の要件について「税額控除限度超過額を控除する事業年度において、その法人の雇用者給与等支給額がその比較雇用者給与等支給額を超えることとの要件を満たす必要があります」としています。

繰越分を使う年度に必要なのは、前年度より給与等支給額が増えていることです。新たに1.5パーセント以上の増加が必要というわけではありません。わずかでも増えていればよい、という組み立てです。

逆にいえば、給与総額が前年度を下回った年度は、繰越分を使えません。人員が減った年度、賞与を絞った年度は、その年に使うことをあきらめて持ち越すことになります。

5年の期限は延びず、数え方は事業年度で追う

使えない年度があっても、期限そのものは延びません。5年のうちに要件を満たす年度が来なければ、その分は失効します。

起点は、超過額が生じた事業年度です。決算期を変更して事業年度が12か月未満になった年があると、暦の年数と事業年度の数がずれます。管理表には年度の名称ではなく、開始日と終了日で記録しておくほうが確実です。

複数の年度で超過額が出ている会社は、どの年度分がいつ失効するかを個別に持つことになります。合計額だけを追っていると、古い分から静かに消えます。

手続きで抜けやすい点

結論: 繰越控除を受けるには、超過額が生じた事業年度以後の各事業年度の確定申告書に明細書を添付し続ける必要があります。

途切れさせない手続き
1

繰り越した年度
明細書を添付する
2

控除しない年度も
繰越額を引き継ぐため、明細書の添付が要る
3

決算のたびに引き継ぐ
1年でも途切れると、そこで使えなくなる
4

当初申告で確定させる
後から増やすことはできない

控除しない年度も明細書の添付が要る

国税庁は、繰越控除を受けるための要件として、繰越税額控除限度超過額が生じた事業年度以後の各事業年度(繰越控除の適用を受けない事業年度を含みます)の確定申告書に明細書を添付し、かつ、繰越控除を受けようとする事業年度の確定申告書等に控除を受ける金額を記載して明細書を添付することを挙げています。

ここがいちばん多い失敗です。控除しない年度は別表を作らない、という運用をしていると、途中で切れます。切れた時点で、それまでの繰越分は使えません。金額が大きいかどうかとは関係なく、書類が1年抜けただけで結果が変わります。

決算のたびに引き継ぎ、当初申告で確定させる

前期の申告書から繰越額を転記し、当期の別表に載せる。この作業を毎期続けます。担当者や税理士が代わるときに落ちやすいので、引継ぎ資料に明記しておくことです。

もう1つ、賃上げ促進税制そのものについて、控除の基礎となる金額は当初申告に添付した書類の記載額が限度とされています。修正申告や更正の請求で後から増やすことはできません。申告の期限までに計算を終えておく必要がある、ということです。決算の直前になって慌てないよう、給与総額の集計は期中から進めておくほうが安全です。

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複数年度分がたまった場合

結論: 繰越分が複数年度にわたって生じている場合も、各年度の控除は調整前法人税額の20パーセントが上限になります。

上限は毎年かかり、当期分と枠を取り合う

繰越分が積み上がっていても、1年で一気に使えるわけではありません。各事業年度の法人税額の20パーセントという枠は変わらないためです。

当期に新たに発生する控除額と、繰り越してきた分の両方がある年度は、この枠の取り合いになります。どちらを先に充てるかは申告書の別表で管理します。古い繰越分から先に充てなければ、期限の近いものから順に失効していくことになります。残高を年度別に並べておかないと、この判断ができません。

使い切れない見込みなら賃上げの設計から見直す

毎年上限に当たる状態が続くなら、税額控除の恩恵は頭打ちです。制度を前提に賃上げ幅を決めるのではなく、事業計画のほうから逆算することになります。

控除しきれない金額が3期続けて出ているような会社では、税額控除で戻る金額を賃上げの原資に織り込む考え方そのものを、いったん外して考える必要があります。戻ってくるかどうかが将来の業績次第である以上、確定していない金額を前提に人件費を決めるのは危うい組み立てです。

繰越しが生じやすい場面

結論: 超過額が生じるのは、賃上げと設備投資が重なった年度、人を増やした年度、そして利益が薄い年度の3つです。

賃上げと設備投資が重なった年度、人を増やした年度

設備投資の税額控除にも上限があり、賃上げの控除にも上限があります。両方を同じ年度に使うと、税額そのものが小さくなり、どちらかが余ります。投資の時期を1期ずらせるなら、枠を分けて使えます。決算の直前ではなく、計画の段階で並べて見ておく論点です。

採用が続いた年度も同じ形になります。給与総額が大きく伸びる一方、教育や立ち上がりのコストで利益が薄くなるためです。控除額は大きく、税額は小さい。上限に当たる典型といえます。

原価が上がった年度と、赤字の年度

原材料や外注費の高騰で粗利が落ちた年度も同様です。賃上げは実行したのに利益が残らず、枠が足りません。自社の努力とは別のところで枠が縮むため、期首の見込みとずれやすい場面です。

法人税額がゼロなら控除はできませんが、給与等支給額が1.5パーセント以上増えていれば要件そのものは満たします。計算を省かないことです。赤字の年度は申告書を簡素に済ませたくなりますが、ここで別表を作っておくかどうかが、数年後の税額を分けます。

期の途中で見込みを立てる

結論: 繰越しが出るかどうかは、給与総額の推移と法人税額の見込みを月次で追えば、期末を待たずに見当がつきます。

期の途中で見込みを立てる
01
給与等支給総額
当期の累計と、前期の同じ時点
02
見込みの増加額
期末までの見込みを置く
03
見込みの法人税額
控除の上限を左右する
04
早く分かれば
賞与の時期や設備投資の時期を調整できる

月次で見ておく3つの数字

  1. 当期の給与総額の累計:前年同期と並べて増加割合を見る
  2. 当期の利益見込み:法人税額の20パーセントがいくらになるか
  3. 設備投資の税額控除の予定額:枠を先に使う分があるか

この3つが並んでいれば、上限に当たるかどうかはおおよそ判断できます。ただし年に一度しか数字を締めない会社では、この見込みは立てられません。月次決算は、いわば車のメーターに近いものです。止まってから燃料計を見ても遅い、という話になります。

早く分かれば打てる手がある

上限に当たると分かった時点で、設備投資の時期を翌期に回す、決算賞与の支給時期を検討するといった選択肢が出ます。期末に判明しても、動かせるものはほとんどありません。

判断の分かれ目は、決算日のどれくらい前に気づけるかです。第3四半期の時点で見込みが立っていれば、まだ動かせる項目があります。決算月に入ってからでは、支払いの時期も投資の実行も済んでいることが多く、選べる余地が残っていません。

繰越しを前提にしすぎない

結論: 繰越控除は控除枠を使い切れなかったときの救済の仕組みであって、賃上げの原資そのものを生む制度ではないため、資金計画の前提には置けません。

戻るのは増加額の一部にすぎない

控除できるのは給与の増加額に対する割合です。給与そのものが戻るわけではなく、社会保険料の会社負担分も増えます。控除額を織り込んで賃上げ幅を決めると、資金繰りが苦しくなります。

たとえば給与を200万円増やして30パーセントの控除率が適用されても、税額から差し引けるのは60万円です。支出した200万円に加えて社会保険料の会社負担分がかかることを考えれば、税額控除は負担の一部を軽くするものだと分かります。

5年以内に使える保証はなく、制度も変わりうる

繰越分を使うには、その年度も給与総額が前年度を超えている必要があります。人員を絞る局面が来れば、要件を満たせません。使えるかどうかは、そのときの業績と人員次第です。

制度そのものの見通しも同じです。財務省の資料は、中小企業向けの措置について「期限到来時に適用状況を踏まえ必要な見直しを検討」としています。5年後の扱いが今と同じとは限りません。繰越額を資産のように考えるのではなく、条件がそろえば使えるかもしれない金額として扱うのが実際に近い見方です。

社内で共有しておくこと

結論: 繰越しの管理は経理だけで完結しないため、給与を決める人と申告を作る人の間で情報を共有しておく必要があります。

経営者と経理担当では見る場所が違う

経営者が知っておくべきなのは、繰越額の残高と、失効する年度の2つです。この2つが分かっていれば、賃上げや採用の判断材料になります。金額の内訳まで追う必要はありません。

経理担当に伝えるのは、控除しない年度も別表を作り続けるという点です。理由を知らないまま作業だけを引き継ぐと、担当が代わったときに省略されます。決算チェックリストに「繰越額の転記」と1行入れておけば、引継ぎの有無にかかわらず残ります。

顧問税理士を変えるときがいちばん危ない

伝えるのは、前期からの繰越額と、その発生年度です。顧問を変更した年に途切れる例が実際にあります。引継ぎの資料に含めておくことです。

新しい顧問税理士は、前期の申告書の控えからしか過去の情報を得られません。控えが不完全であれば、繰越額の存在自体が引き継がれないまま次の申告が作られます。変更のタイミングでは、直近5期分の申告書の控えがそろっているかを先に確認しておくと確実です。

他の税額控除の繰越しとの違い

結論: 設備投資の税額控除の繰越しが1年であるのに対し、中小企業向け賃上げ促進税制の繰越しは5年で、適用年度に追加の要件が付く点も違います。

他の税額控除の繰越しとの違い
賃上げ促進税制の繰越し
5年間繰り越せる
使う年度は給与等支給額が前年度を超えていること
中小企業向けだけの措置
設備投資の税額控除の繰越し
1年間
要件が別に定められている
枠は別々に管理する

設備投資の繰越しは1年で、要件も違う

繰越しができる税額控除は賃上げ促進税制だけではありません。中小企業がよく使う設備投資の税額控除にも、控除しきれなかった分を翌期に回す仕組みがあります。ただし期間も条件も同じではないため、まとめて並べておきます。

制度 繰越期間 繰越分を使う年度の要件
中小企業向け賃上げ促進税制 5年 給与等支給額が前年度を超えていること
中小企業経営強化税制 1年 明細書の添付
中小企業投資促進税制 1年 明細書の添付

経営強化税制と投資促進税制の繰越しは1年です。翌期に利益が出る見込みがなければ使い切れません。賃上げ促進税制と同じ感覚でいると、期限を落とします。一方で、繰越分を使う年度に追加の要件が付くのは賃上げ促進税制のほうです。期間は長いが条件は厳しい、という対照になっています。

枠は別々に管理する

設備投資の税額控除と賃上げの税額控除は、それぞれ上限の計算が異なります。両方を使う年度は、どちらの枠から使うかを申告書上で整理することになります。

管理表を1枚にまとめる場合も、制度ごとに列を分けておくほうが確実です。合算した残高だけを持っていると、期限の短い設備投資の分から失効していることに気づけません。制度名・発生年度・残額の3つは、必ずセットで記録します。

適用できない事業年度

結論: 設立事業年度、解散の日を含む事業年度、清算中の各事業年度は、賃上げ促進税制そのものが適用できません。

設立初年度と、他の賃上げ税制を使う年度

前年度との比較ができないため、設立の日を含む事業年度では適用できません。繰越しの対象となる超過額も生じません。設立2期目から、前期との比較ができるようになります。

また、全企業向けの措置または中堅企業向けの措置の適用を受ける事業年度には、中小企業向けの措置を適用できません。どちらか一方を選ぶ形になるため、資本金や従業員数が区分の境目にある会社は、どの措置で申告するかを先に決めておく必要があります。

解散・清算中の事業年度

合併以外の事由による解散の日を含む事業年度、および清算中の各事業年度は対象外です。事業を続けることを前提にした制度であるためです。

繰越額を持ったまま解散する場合、その分を使う機会はありません。事業承継やM&Aを検討している会社は、組織再編の方法によって繰越額の扱いが変わることがあるため、実行の前に確認しておく論点になります。

令和8年度改正との関係

結論: 令和8年度改正で中小企業向けの措置は維持されたため、繰越控除の仕組みもそのまま使えます。

令和8年度改正との関係
改正の影響
廃止されたもの
全法人向けは令和8年3月31日で。中堅企業向けは令和9年3月31日で終わる
中小企業向け
残る。教育訓練費の上乗せは廃止される
控除率が下がる
上限に当たる場面は減る
繰越しの扱い
すでに繰り越している分の管理は続く

廃止されたのは全法人向けと中堅企業向け

国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」によれば、全法人向けの措置は令和8年3月31日をもって廃止されました。中堅企業向けは要件が見直されたうえで、適用期限の到来をもって廃止とされています。

同じ資料は、中小企業向けの措置について「教育訓練費に係る上乗せ措置が廃止されたことを除き、現行制度が維持されています」と説明しています。繰越控除に変更はありません。改正の記事を読んで自社も廃止されたと受け取る方がいますが、中小企業向けは残っています。

控除率が下がり、上限に当たる場面は減る

教育訓練費の上乗せ10パーセントがなくなったため、最大の控除率は45パーセントから35パーセントになりました。計算上の控除額が小さくなる分、上限に当たる場面は以前より減ります。

繰越しが生じにくくなるという意味では、管理の負担は軽くなります。ただし控除できる金額そのものも減っているため、税負担が軽くなったわけではありません。教育訓練に力を入れてきた会社ほど、改正の影響を受ける形になります。

数字で追う繰越しの流れ

結論: 繰越額は、計算上の控除額から法人税額の20パーセントを差し引いた残りで、翌期以降に同じ枠の中で使っていきます。

説明のための計算例

前年度の給与総額が5,000万円、当年度が5,200万円だったとします。増加額は200万円、増加割合は4パーセントなので控除率は30パーセントです。

  • 計算上の控除額:200万円 × 30パーセント = 60万円
  • その年度の法人税額:150万円 → 上限は20パーセントの30万円
  • 実際に控除できる額:30万円
  • 繰越税額控除限度超過額:30万円

この30万円が、翌期以降5年以内に使える枠として残ります。数字は仕組みを示すための例で、実際の金額は各社の状況によって変わります。

翌期に使う場合と、使えないまま終わる場合

翌期の給与総額が5,250万円(前年度を上回る)で、法人税額が300万円だったとします。上限は60万円です。当期分の控除額を計算したうえで、枠に余裕があれば繰越分の30万円を充てられます。

一方、翌期の給与総額が4,900万円に減っていれば、繰越分を使う年度の要件を満たしません。その年度は控除できず、残りの期間で要件を満たす年度を待つことになります。

当期分と繰越分の両方がある年度は、合わせて20パーセントの枠に収める必要があります。先に古い繰越分から充てるのか、当期分を優先するのかで、失効する金額が変わることもあります。別表を作る前に、残っている年度と金額を並べて確認しておくことです。

実務での管理方法

結論: 繰越分は、金額・発生年度・期限の3つを1枚の表で管理し、決算のたびに更新するのが確実です。

実務での管理
1

管理表を作る
発生した事業年度、繰越額、使った額、残額、期限
2

申告書と突き合わせる
別表の数字と一致しているか
3

毎期更新する
決算のたびに引き継ぐ
4

税理士を変えるときに引き継ぐ
いちばん途切れやすい場面

管理表に載せる5項目と、申告書との突き合わせ

  1. 超過額が生じた事業年度
  2. 発生した金額
  3. 使用した年度と金額
  4. 残額
  5. 失効する事業年度

この5つがあれば、どの年度分がいつ消えるかを追えます。別表の数字と管理表が合っているかは毎期確認します。ずれていたら、どちらが正しいかを申告書の控えで確かめます。電子申告なら、送信票と受信通知もあわせて保管しておくと確認が早く済みます。

税理士を変えるときに引き継ぐ

顧問を変更するときは、繰越額の残高と発生年度を必ず引き継ぎます。過去の申告書の控えが手元にないと、再現できません。

引継ぎの資料には、管理表そのものを含めておくのが確実です。口頭で残高だけを伝えても、発生年度が分からなければ失効の時期を計算できません。決算書と申告書の控えを5期分そろえて渡す形にしておけば、新しい顧問税理士が最初の決算から正しく引き継げます。

よくある相談事例|繰越しの4つの場面

上限に当たって繰り越した製造業と、給与が減って使えなかった小売業

製造業の会社では、給与総額を前年度比4パーセント増やした年度で、計算上の控除額が法人税額の20パーセントを超えました。超過分を繰り越し、翌期に給与総額がさらに増えたため、その年度で使い切っています。

小売業の会社は逆の結果になりました。繰越分を持っていましたが、翌期に退職が重なり給与総額が前年度を下回りました。繰越分を使う年度の要件を満たさず、その年度は控除できていません。翌々期の人員計画から見直しています。

明細書が途切れていた建設業と、赤字でも計算していた卸売業

建設業の会社では、控除しない年度に別表を作っていませんでした。過去の繰越分を使おうとした段階で、添付が途切れていることが判明します。制度の要件を満たさず、使えない結果になっています。

卸売業の会社は反対でした。法人税額が出なかった年度も、要件を満たしていたため計算と添付を続けています。3期後に黒字化した年度で、繰越分をまとめて使う形になりました。同じ赤字の年度でも、書類を作ったかどうかで数年後の結果が分かれています。

よくある質問

控除しきれなかった分は、何年繰り越せますか?
中小企業向けの措置では5年間です。設備投資の税額控除(経営強化税制・投資促進税制)の1年とは期間が違います。
繰越分を使う年度にも賃上げが必要ですか?
その年度の雇用者給与等支給額が比較雇用者給与等支給額を超えていることが必要です。1.5パーセント以上という要件ではなく、前年度を上回っていればよいとされています。
控除しない年度も申告書に何か書きますか?
書きます。超過額が生じた事業年度以後の各事業年度(繰越控除を受けない年度を含む)の確定申告書に明細書を添付する必要があります。
赤字でも計算する意味はありますか?
あります。法人税額がなければその年度に控除はできませんが、要件を満たしていれば繰越しの対象になります。
大企業でも繰越しはできますか?
繰越控除は中小企業向けの措置に用意されたものです。全法人向けの措置は令和8年3月31日をもって廃止されました。
過去に添付を忘れた年度があります。今から直せますか?
当初申告に記載がない分を後から増やすことはできません。今期以降の分について、確実に添付する体制を整えることになります。

まとめ:金額より、途切れさせないこと

中小企業向けの賃上げ促進税制には、控除しきれなかった金額を5年間繰り越せる仕組みがあります。設備投資の税額控除が1年であることを考えると、長い期間です。

ただし条件が2つあります。繰越分を使う年度に給与等支給額が前年度を超えていること。そして、控除しない年度も含めて明細書を出し続けていること。

失敗のほとんどは、後者です。使わない年度に別表を作らなかったために、いざ使おうとした段階で権利が消えている。金額の大小ではなく、書類が途切れたかどうかで結果が決まります。

赤字の年度でも計算して添付しておく。この一手間が、数年後の税額を変えます。前期の申告で計算していなかった方は、まず手元の申告書控えで別表の有無を確認してみてください。

繰越額の管理に不安がある方、過去の申告を確認したい方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近数期の申告書控えから、繰越しの残高と使える年度を整理します。

節税のご相談は初回無料です。実際の数字を見ながら、自社の場合はどうなるかをそのままお話しできます。

出典

  • 国税庁「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除(中小企業者等における賃上げ促進税制)」(タックスアンサー・令和7年4月1日現在法令等)
  • 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」(賃上げ促進税制の見直し)
  • 財務省「令和8年度税制改正」(令和8年4月発行)
  • e-Gov法令検索「租税特別措置法」第42条の12の5・第42条の6・第42条の12の4

【メタディスクリプション】
賃上げ促進税制の繰越控除について、5年間の繰越しと適用の条件を整理しました。繰越分を使う年度に必要な要件、控除しない年度も明細書の添付が要る理由、設備投資の税額控除との違い、実務での管理方法まで解説します。

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