中小企業投資促進税制とは?特別償却と税額控除の選び方を解説
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
中小企業投資促進税制は、青色申告をしている中小企業者や個人事業主が、新品の機械装置などを取得して使い始めたときに、取得価額の30%の特別償却(通常の償却費に上乗せして費用にする方法)か、7%の税額控除(税額から直接差し引く方法)のどちらかを選べる制度です。経営強化税制と違い、事前に計画の認定を受ける必要がなく、確定申告書に明細書を添えれば使えます。ただし、税額控除は資本金3,000万円以下の法人と個人事業主に限られ、器具備品や中古品は対象外です。この記事では、2つの方法の選び方、対象の設備と金額、個人事業主の扱い、令和8年度改正で変わった工具の要件を、国税庁と中小企業庁の公表資料(2026年10月時点)に沿って整理します。
特別償却と税額控除はどちらを選ぶ?
結論: 選ぶ前に確かめるのは、資本金、その期の法人税額、翌期以降の利益の見通しの3つです。資本金が3,000万円を超える法人は特別償却しか選べず、3,000万円以下の法人と個人事業主は両方から選べます。
2つの方法の違い
国税庁のタックスアンサーNo.5433(令和8年4月1日現在法令等)によると、基準取得価額(船舶は取得価額の75%、それ以外は取得価額そのもの)を土台に、次の2つから選びます。同じ資産に両方を使うことはできません。
| 項目 | 特別償却 | 税額控除 |
|---|---|---|
| 決まる額 | 基準取得価額の30% | 基準取得価額の7% |
| 税金への表れ方 | 課税所得が減る。償却の総額は変わらず、翌期以降の償却費が減る | 法人税額が直接減る。翌期以降の償却は変わらない |
| 選べる会社 | 中小企業者、農業協同組合等、商店街振興組合 | 上のうち資本金3,000万円以下の法人など |
| 上限 | 限度額まで | 法人税額の20%。超えた分は1年だけ繰り越せる |
説明用の金額で比べる
取得価額1,000万円の機械装置で比べます(説明用の金額です)。特別償却の限度額は300万円、税額控除の限度額は70万円です。
- 特別償却:その期の課税所得を最大300万円小さくできます。翌期以降の償却費が同じだけ減るため、払う税金を先へ送る効果です。
- 税額控除:その期の法人税額が70万円小さくなり、翌期以降に戻りません。
税額控除には上限があります。その期の調整前の法人税額の20%までで、経営強化税制の税額控除と合わせて数えます。70万円を全額その期に使うには、調整前の法人税額が350万円以上必要です。赤字の期は法人税額が0円なので、その期には使えず、1年だけ繰り越せます。
選ぶ順番
特別償却準備金として、決算確定の日までの剰余金の処分で積み立てる方法なら、損益計算書の利益を減らさずに済みます。
投資促進税制でよくある間違いは?
結論: 間違えやすいのは、対象外の設備を数えること、使い始める日が期末に間に合わないこと、税額控除の枠を使い切れないことの3つです。間違えると、この制度は適用できず、通常の減価償却だけになります。
設備を入れてから制度を思い出し、相談に来られる方が少なくありません。
器具備品や中古品を対象と思い込む
パソコン、レジ、厨房機器などの器具備品、建物と建物附属設備、中古品は対象になりません。見積書に機械装置と器具備品が一緒に載っていると、全体が対象と受け取りやすく。
使い始めた日が期末に間に合わない
適用を受けるのは、設備を事業に使い始めた日を含む事業年度です。納品を受けただけでは、その事業年度の対象になりません。設置と試運転に日数がかかる機械は、決算日から逆算して発注します。代金の支払いが翌期でも、使い始めていれば当期の対象です。
税額控除の枠を使い切れない
税額控除の上限は、調整前の法人税額の20%です。上限を超えた分は1年しか繰り越せないため、翌期も法人税額が小さい見込みなら、繰り越した分も使い切れません。
見積書と直近の申告書をお持ちいただければ、設備が対象に当たるかと、その期の法人税額で税額控除をどこまで使えるかを一緒に確かめます。
個人事業主は使える?
結論: 青色申告をしている個人事業主も使えます。所得税の制度(租税特別措置法10条の3)として、特別償却か税額控除を選べます。
個人事業主の要件
対象は、青色申告をしていて、常時使用する従業員が1,000人以下の事業者です。対象の設備や新品の条件は、法人と同じです。個人事業主には資本金がないので、資本金3,000万円以下という線は関係なく、税額控除の7%も特別償却の30%も選べます。
税額控除の上限と申告のしかた
税額控除の上限は、事業所得に対応する所得税額の20%です。
申告のしかたは、選んだ方法で変わります。
- 税額控除:専用の明細書(中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除に関する明細書)を確定申告書に添付し、申告書第二表の特例適用条文等の欄に「措法10の3」と書きます
- 特別償却:青色申告決算書の減価償却の計算の割増(特別)償却費の欄に額を書き、摘要の欄に特例名(措法10条の3)を書きます
対象になる法人の条件は?
結論: 青色申告書を出している中小企業者等が対象です。資本金または出資金が1億円以下の法人が基本で、大規模法人の子会社などは外れます。
中小企業者の範囲
国税庁のタックスアンサーNo.5432によると、中小企業者は資本金または出資金が1億円以下の法人です。資本や出資を持たない法人は、常時使用する従業員が1,000人以下であることが条件です。農業協同組合等と商店街振興組合も対象です。
税額控除まで選べる範囲はさらに狭く、資本金または出資金が3,000万円以下の法人、農業協同組合等、商店街振興組合です。資本金5,000万円の会社は、特別償却しか選べません。
対象から外れる法人
次の法人は中小企業者に当たりません。
- 発行済株式の2分の1以上を、同一の大規模法人が持っている法人
- 発行済株式の3分の2以上を、複数の大規模法人が持っている法人
- 適用除外事業者(基準年度の所得金額の年平均額が15億円を超える法人)
解散した事業年度(合併による解散を除く)と清算中の事業年度も、適用できません。
対象になる設備と金額は?
結論: 対象は新品の機械及び装置、測定工具・検査工具、特定のソフトウエア、貨物運送用の普通自動車、内航海運業の船舶の5区分です。器具備品と建物は入りません。
5区分と金額の要件
区分を決めてから金額を確かめます。見積書の明細と突き合わせます。
| 区分 | 金額などの要件 |
|---|---|
| 機械及び装置 | 1台または1基の取得価額が160万円以上 |
| 測定工具・検査工具 | 1台または1基が120万円以上。1台または1基が40万円以上のものを事業年度で合計して120万円以上でも対象(令和8年3月31日以前に取得した新品は30万円以上) |
| 特定のソフトウエア | 1つの取得価額が70万円以上。事業年度に使い始めた一定のものの合計が70万円以上でも対象 |
| 車両及び運搬具 | 貨物運送用の普通自動車で、車両総重量が3.5トン以上 |
| 船舶 | 内航海運業に使う船舶。総トン数500トン以上は、環境負荷低減設備の設置状況を国土交通大臣に届け出たものに限る |
ソフトウエアは、複写して販売するための原本や開発研究用のものなどが除かれます。車両の普通自動車かどうかは、耐用年数省令の別表でなく、道路運送車両法施行規則で判定します。
対象外の資産と事業
次のものは対象になりません。
- 5区分に入らない資産:パソコンやレジなどの器具備品、建物と建物附属設備
- 中古品:製作されたあとに事業で使われたことのない新品に限られます
- 管理を全部委託するコインランドリー業の設備:主要な事業であるものを除きます
指定事業は、製造業、建設業、小売業、飲食店業、宿泊業、サービス業など幅広く、性風俗関連特殊営業と、娯楽業(映画業を除く)だけが対象外です。
令和8年度改正で変わった点は?
結論: 工具の金額の要件が、1台または1基30万円以上から40万円以上に上がりました。令和8年4月1日以後に終了する事業年度から適用され、機械装置の160万円は変わりません。
改正の中身
国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」によると、変わったのは工具の1台当たりの金額だけです。事業年度の合計120万円以上という線は据え置きです。特別償却30%と税額控除7%もそのままです。
施行日をまたぐ事業年度
令和8年4月1日をまたぐ事業年度には、経過措置があります。工具を取得した日で金額の要件を分けて判定し、その事業年度の工具の合計が120万円以上であれば、それぞれが対象になります。
説明用の例です。35万円の測定工具を4台導入する場合、令和8年3月までに取得した分は要件を満たし、4月以後に取得した分は40万円に届かず数えられません。
対象から外れた40万円未満の資産は、少額減価償却資産の特例(令和8年4月1日以後の取得は40万円未満)で、全額を費用にする道があります。
経営強化税制との使い分けは?
結論: 計画の認定を取る時間がない設備は、この制度で足ります。器具備品や建物附属設備を対象にしたいとき、即時償却を使いたいときに、認定が要る経営強化税制を検討します。
2つの制度の違い
国税庁のタックスアンサーNo.5434(令和8年4月1日現在法令等)と並べると、次のとおりです。
| 項目 | 投資促進税制 | 経営強化税制 |
|---|---|---|
| 事前の認定 | 不要 | 経営力向上計画の認定が必要 |
| 特別償却 | 基準取得価額の30% | 取得価額の全額(即時償却) |
| 税額控除 | 7%(資本金3,000万円以下の法人など) | 7%(資本金3,000万円以下の法人は10%) |
| 対象設備 | 5区分。器具備品は対象外 | 機械装置、工具、器具備品、建物附属設備、ソフトウエアなど |
同じ設備に2つは使えない
投資促進税制の対象資産は、圧縮記帳、他の特別償却、他の税額控除とも重ねて適用できません。経営強化税制と同じ設備で両方を使うことはできず、税額控除の20%の枠も2つの制度で合わせて数えます。どちらで使う設備かを、取得の前に決めます。
申告で必要な手続きは?
結論: 事前の認定や申請は要りません。確定申告書に、特別償却なら償却限度額の計算に関する明細書、税額控除なら控除額の計算明細書を添付します。
申告書に添付する書類
特別償却は確定申告書等に償却限度額の計算に関する明細書を添付します。税額控除は、控除額を申告書に書き、計算明細書を添付します。上限を超えて繰り越す場合は、繰越税額控除の明細書も要ります。
適用期限と使い始める日
指定期間は、平成10年6月1日から令和9年3月31日までです。この間に新品の設備を取得または製作し、指定事業に使い始めた日を含む事業年度で適用します。中小企業庁のページも、適用期限を2026年度末としています。3月決算なら令和9年3月期が最後で、延長の有無は令和9年度の税制改正で決まります。
補助金とリースの扱い
補助金で取得して圧縮記帳を使う資産は、この制度と重ねて使えません。所有権移転外リース取引で取得したものとされる資産は、特別償却はできず、税額控除だけ適用できます。導入の前に契約の形式を確かめます。
よくある質問
計画の認定は必要ですか?
パソコンやレジは対象になりますか?
赤字の期でも使えますか?
まとめ:設備の区分から確かめよう
- 中小企業投資促進税制は、計画の認定が要らず、取得価額の30%の特別償却か7%の税額控除を選べます
- 税額控除は資本金3,000万円以下の法人と個人事業主に限られ、法人税額の20%が上限です
- 対象は、機械装置160万円以上など5区分の新品で、器具備品と建物は入りません
- 令和8年度改正で、工具は1台または1基40万円以上になりました
- 適用期限は令和9年3月31日までで、判定は使い始めた日を含む事業年度です
設備投資を予定している方、特別償却と税額控除のどちらにするか決めかねている方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。見積書と直近の申告書を確認し、対象設備の判定と、その期の法人税額で使える税額控除の額を整理します。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5433「中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.5434「中小企業経営強化税制」(令和8年4月1日現在法令等)
- 国税庁 タックスアンサー No.5432「措置法上の中小法人及び中小企業者」
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」
- 国税庁「中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」(記載要領)
- 国税庁 所得税関係の措置法通達 第10条の3(中小事業者が機械等を取得した場合の特別償却又は所得税額の特別控除)関係
- 中小企業庁「中小企業投資促進税制」





