事業承継税制の要件|特例承継計画と2026年の期限延長をわかりやすく整理
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
事業承継税制の特例措置は、自社株にかかる贈与税・相続税の納税を全額猶予できる制度です。令和8年度税制改正により、特例承継計画の提出期限が令和8年3月31日から令和9年9月30日へ1年6か月延長されました。ただし延びたのは計画の提出期限だけで、贈与・相続そのものを実行する期限は令和9年12月31日のまま据え置かれています。この差が、検討できる時間を実際より長く見誤らせる原因になっています。
事業承継税制とはどういう制度か
結論:事業承継税制とは、後継者が非上場株式を取得した際の贈与税・相続税について、一定の要件のもとで納税を猶予し、最終的に免除する制度です。
非上場企業の自社株は、業績がよいほど税務上の評価額が上がります。換金できない資産でありながら多額の相続税・贈与税がかかるという構造が、中小企業の事業承継を難しくしてきました。この負担を軽減するために設けられたのが事業承継税制です。
中小企業庁はこの制度を「後継者が取得した一定の資産について、贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等により納税が免除される制度」と説明しています。承継の場面で生じる税負担そのものをなくすのではなく、次の世代へ送り続ける仕組みと理解すると、後述の継続要件の意味がつかみやすくなります。
猶予と免除の違い
この制度で最初に押さえるべきは、納税が「免除」されるのではなく、まず「猶予」される点です。株式を承継した時点では税額が確定し、その納税が先送りされる形になります。
猶予された税額が免除されるのは、後継者が亡くなった場合や、次の後継者へ制度を使って承継した場合などです。それまでの間は要件を満たし続ける必要があり、途中で要件を外れると猶予されていた税額と利子税を納めることになります。
言い換えると、この制度は一度使えば終わりというものではなく、次の承継まで管理が続きます。導入の可否を判断する段階で、その管理を担える体制があるかどうかも併せて検討することになります。
期限が設けられている理由
特例措置は、団塊世代の経営者の引退期に集中して対応するために設けられた時限的な制度です。恒久的な制度である一般措置とは別に、要件を大幅に緩和した特例として用意されました。
中小企業庁の調査では、経営者の高齢化と後継者不在が中小企業の廃業要因として繰り返し指摘されてきました。事業承継税制の特例措置は、その対策として集中的な期間を区切って設けられた制度です。
時限措置であるため、計画の提出にも贈与・相続の実行にも期限があります。この期限管理が、制度を使ううえで最初の関門になります。
令和8年度税制改正で何が変わったか
結論:特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで延長されましたが、贈与・相続の適用期限は令和9年12月31日のまま変わっていません。
令和8年度税制改正により、期限の一部が延長されました。ただし延びた部分と据え置かれた部分があり、ここを取り違えると準備が間に合わなくなります。
延長された範囲
| 改正前 | 改正後 | |
|---|---|---|
| 特例承継計画の提出期限(法人版) | 令和8年3月31日 | 令和9年9月30日 |
| 個人事業承継計画の提出期限 | 令和8年3月31日 | 令和10年9月30日 |
| 贈与・相続の適用期限(法人版) | 令和9年12月31日 | 令和9年12月31日(据え置き) |
| 贈与・相続の適用期限(個人版) | 令和10年12月31日 | 令和10年12月31日(据え置き) |
法人版の計画提出期限は1年6か月、個人版は2年6か月の延長です。一方で、実際に株式や事業用資産を承継する期限は動いていません。
延びたのは特例承継計画の提出期限で、贈与や相続そのものの期限は動いていません。ここを取り違えると、計画は出せても適用が受けられない事態になります。実行の期限から逆算して動くことです。
実行期限は延びていない
延長されたのは入口である計画の提出だけです。法人版の場合、贈与または相続によって自社株を実際に移転する期限は令和9年12月31日のままです。
つまり令和9年9月30日に計画を提出したとすると、実行までに残された時間は3か月しかありません。株価の算定、後継者との合意、株主構成の整理、認定申請といった工程を考えると、この期間で収めるのは現実的ではありません。計画の提出期限から逆算するのではなく、実行期限から逆算して準備を始める必要があります。
着手すべき時期
贈与を令和9年中に実行する前提で考えると、その前年である令和8年のうちに自社株の評価と後継者の確定まで進めておくのが安全な線になります。
自社株の評価額を下げる対策を検討する場合は、さらに時間が必要です。役員退職金の支給や資産構成の見直しなど、効果が出るまでに時間を要するものが多いためです。
計画の提出だけ先に済ませておく方法もあります。
特例措置と一般措置はどちらを使うか
結論:特例措置は猶予割合・対象株数・後継者数のいずれも一般措置より有利ですが、計画の提出と期限内の実行が条件になります。
事業承継税制には、恒久的な一般措置と、時限的な特例措置の2つがあります。要件を満たすなら特例措置のほうが有利です。
特例措置が有利な点
| 一般措置 | 特例措置 | |
|---|---|---|
| 事前の計画提出 | 不要 | 必要(令和9年9月30日まで) |
| 適用期限 | なし | 令和9年12月31日まで |
| 対象となる株式数 | 総株式数の3分の2まで | 全株式 |
| 相続税の猶予割合 | 80% | 100% |
| 贈与税の猶予割合 | 100% | 100% |
| 承継のパターン | 複数の株主から1人の後継者へ | 複数の株主から最大3人の後継者へ |
| 雇用確保要件 | 5年平均8割を維持 | 実質的に撤廃(未達でも報告で継続可) |
| 経営環境の変化への対応 | なし | 売却・廃業時の減免あり |
とくに影響が大きいのは相続税の猶予割合と対象株数です。一般措置では総株式数の3分の2までかつ相続税は80%の猶予にとどまるため、実質的に負担が残ります。特例措置では全株式・100%の猶予となり、要件を満たし続ける限り納税が生じません。
納税猶予の割合と対象になる株式数が違います。一般措置には期限がなく、特例措置には期限があります。
雇用確保要件の緩和
一般措置では、承継後5年間の平均で従業員数の8割を維持できないと猶予が打ち切られます。この要件が、制度の利用をためらわせる要因のひとつでした。
特例措置では、8割を下回った場合でも、その理由を記載した報告書を都道府県知事に提出し確認を受けることで、猶予を継続できます。事実上の撤廃と説明されることが多い部分です。ただし報告そのものは必要で、放置すれば打ち切りとなります。
後継者の人数
特例措置では、複数の株主から最大3人の後継者へ承継できます。兄弟で経営を分担する、あるいは親族と役員の双方に承継するといった形が制度上は可能です。
ただし後継者が複数になると、承継後の議決権の配分や意思決定の仕組みを設計する必要があります。税制上使えることと、経営上望ましいことは別の判断になります。
特例措置は最大3人まで対象になります。
適用を受けるための要件
結論:会社・先代経営者・後継者のそれぞれに要件が定められており、いずれか一つでも欠けると適用できません。
要件は3つの主体に分かれています。検討の初期段階では、この3方向から自社の状況を確認していきます。
会社に求められる要件
対象となるのは中小企業基本法上の中小企業者に該当する非上場会社です。上場会社・風俗営業会社は対象外とされています。
また、資産保有型会社・資産運用型会社に該当する場合は原則として適用できません。中小企業庁はこれを「有価証券、自ら使用していない不動産、現金・預金等の特定の資産の保有割合が総資産総額の70%以上の会社」と定義しており、事業実態のない資産管理会社に制度が使われることを防ぐための規定です。ただし常時使用従業員が5人以上いるなど、一定の要件を満たせば除外されない場合があります。
判定は贈与・相続の時点だけでなく、その後も継続して行われます。承継後に不動産の保有割合が上がって該当してしまうと、その時点で猶予が打ち切られます。資産構成を大きく動かす予定がある場合は、事前に影響を確認する必要があります。
先代経営者に求められる要件
会社の代表者であったこと、贈与または相続の直前に同族関係者と合わせて総議決権数の過半数を保有し、後継者を除いた同族関係者の中で最も多くの議決権を持っていたことが求められます。
贈与の場合は、贈与の時点で代表者を退任している必要があります。ただし有給役員として残ることは可能で、代表権を持たない形であれば会社に関与し続けられます。
後継者に求められる要件
贈与の場合、贈与時に18歳以上であり、贈与の直前において引き続き3年以上役員であったことが求められます。相続の場合は、相続開始の直前に役員であり、相続開始から5か月以内に代表者となることが要件です。中小企業庁の「経営承継円滑化法申請マニュアル」でも、この役員経験の期間が要件として明示されています。
3年以上の役員経験は、贈与を検討し始めてから満たそうとすると時間がかかります。後継者候補が決まっているなら、早めに役員に就任させておくことが実務上の準備になります。
贈与と相続のどちらで承継するか
結論:計画的に進められるのは贈与で、実行の時期を自社で決められる点が最大の違いです。相続は発生の時期を選べません。
事業承継税制は贈与・相続のどちらでも使えますが、進め方と論点が変わります。特例措置の実行期限が令和9年12月31日である以上、期限内に確実に実行できるのは贈与です。
贈与で進める場合
贈与であれば、株価が下がった時期を選んで実行するといった判断ができます。役員退職金の支給によって一時的に評価額が下がる期など、タイミングを設計できるのは贈与の利点です。
贈与税の申告期限までに認定申請と申告を済ませる必要があり、担保の提供も求められます。猶予される税額に相当する担保が必要となりますが、対象となる非上場株式のすべてを担保に提供すれば、要件を満たしたものとして扱われます。
相続で使う場合の注意点
相続は発生の時期を選べないため、事前の準備が意味を持ちます。相続開始から5か月以内に後継者が代表者となること、8か月以内に都道府県知事へ認定申請を行うことが必要で、限られた期間で判断と手続きを進めることになります。
先代経営者が亡くなってから慌てて調べ始めると、この期間に間に合わないおそれがあります。特例承継計画を先に提出しておけば、相続が発生した場合にも制度を使う選択肢を残せます。
相続時精算課税との併用
事業承継税制の贈与は、相続時精算課税制度と併用できます。万一、猶予が取り消された場合の税負担を抑える意味があるため、実務では併用を前提に検討することが多くなります。
暦年課税のままだと、猶予が取り消された際に高い税率で贈与税を納めることになります。併用しておくことで、この場合の負担を軽くできます。
納税猶予が取り消された場合の負担が変わります。
制度を使わない選択肢との比較
結論:事業承継税制は猶予が続く限り有利ですが、要件を満たし続ける負担があるため、株価の水準によっては他の方法が現実的な場合もあります。
制度を使うことが常に最善とは限りません。自社株の評価額と、承継後に生じる管理の手間を並べて判断することになります。
株価が高くない場合
自社株の評価額がそれほど高くない場合、暦年贈与を数年に分けて行う、あるいは相続時精算課税を使って一度に移転するといった方法で足りることがあります。事業承継税制のような継続的な報告義務も生じません。
猶予される税額と、5年間の年次報告・3年ごとの届出という手間を比べて、どちらが自社に合うかを判断します。
他の方法との組み合わせ
役員退職金の支給による評価額の引き下げ、持株会社の設立による資本構成の整理といった方法と、事業承継税制は併用できます。評価額を下げてから制度を使えば、猶予が取り消された場合の備えにもなります。
どこまで対策を行うかは、承継後の経営体制や納税資金の状況によって変わります。
持株会社化や種類株式と併せて設計する場面もあります。
承継した後に続く手続き
結論:承継後5年間は毎年の報告、5年経過後も3年ごとの届出が必要で、これを怠ると猶予が打ち切られます。
制度を使い始めた後にも、継続的な義務があります。ここを軽く見て猶予が取り消される例が実務では起きています。
5年間に必要な手続き
承継後5年間は経営承継期間と呼ばれ、後継者が代表者であり続けること、取得した株式を保有し続けることが求められます。この間は毎年、都道府県知事への年次報告と、税務署への継続届出書の提出が必要です。
報告を怠ると、その時点で猶予が打ち切られます。要件そのものは満たしていても、手続きの失念で取り消されるという結果になりかねません。
5年経過後の扱い
経営承継期間を過ぎると、代表者であり続ける要件は外れます。ただし株式の保有は継続する必要があり、税務署への継続届出書を3年ごとに提出しなければなりません。
3年に1度という間隔は、失念しやすい周期です。提出時期を管理する仕組みを、承継の段階で決めておくことをおすすめします。
報告の頻度が下がりますが、義務そのものは続きます。
猶予が取り消される場面
主なものは、後継者が代表者でなくなる、対象株式を譲渡する、会社が資産保有型会社に該当する、報告や届出を怠る、といった場合です。取り消されると猶予されていた税額に加えて利子税を納めることになります。
利子税は猶予されていた期間に応じて計算されるため、承継から年数が経っているほど負担が大きくなります。制度を使い始めた時点の税額だけを見て安心せず、取り消された場合にいくら必要になるかも把握しておくことが備えになります。
事業の再編や株式の整理を検討する際は、猶予が続くかどうかを事前に確認する必要があります。合併・分割・株式交換といった組織再編は、内容によって猶予が継続する場合と打ち切られる場合に分かれます。実行の前に判定しておかないと、取り返しがつきません。
専門家との進め方
結論:計画の作成には認定経営革新等支援機関の関与が必要です。誰に依頼するかで、進み方と精度が変わります。
認定経営革新等支援機関の関与と、都道府県への提出
特例承継計画には、認定経営革新等支援機関による所見の記載が必要です。税理士、金融機関、商工会議所などが認定を受けています。
顧問税理士が認定を受けているかを、まず確認してください。受けていれば、決算の数字を把握している立場から計画を作れます。
特例承継計画は都道府県知事に提出します。認定の申請も同じ窓口です。地域によって様式や運用に細かな違いがありますので、事前に確認しておくと手戻りがありません。
継続報告を誰が行うか。弁護士との連携が必要な場面
制度の適用後は、一定期間にわたって報告と届出が続きます。誰が期限を管理するかを決めておかないと、失念による取消しが起こります。
顧問税理士に管理を依頼する場合、その旨を明確にしておいてください。
遺留分の問題が絡む場合や、株主間で争いがある場合は、弁護士の関与が必要になります。税務の検討だけでは進まない場面があります。
よくある相談事例
期限が延びたと聞いて安心していた例
ご相談をいただいたのは税制改正で期限が延長されたと聞き、まだ時間があると考えていたオーナー経営者です。延びたのは計画の提出期限であり、贈与・相続の実行期限は令和9年12月31日のまま据え置かれています。
このような場合は、実行期限から逆算した工程表をまず作ります。自社株の評価、後継者の役員経験、株主構成の整理といった項目のうち、時間がかかるものから着手する順序を決めていきます。
後継者の役員経験が足りなかった例
贈与による承継を検討し始めたものの、後継者が役員に就任してから3年に満たないというケースです。贈与の直前に3年以上役員であることが要件のため、この時点では贈与を実行できません。
役員就任からの経過期間を確認し、要件を満たす時期を起点に計画を組み直します。後継者候補が決まっているなら、検討を始める前の段階で役員に就任させておくことが備えになります。
資産保有型会社に該当しそうな例
不動産や有価証券の保有割合が高く、資産保有型会社に該当するのではないかというご相談も寄せられます。該当すると原則として適用できないため、判定は初期段階で行う必要があります。
常時使用従業員が5人以上いるなど、一定の要件を満たせば除外されない場合があります。まず現在の資産構成で判定し、そのうえで対応の余地があるかを確認していきます。
よくある質問
特例承継計画は自分で作れますか?
計画を出したら、必ず制度を使わなければなりませんか?
猶予された税金は、いつ免除されますか?
相続で使う場合も、事前の計画は必要ですか?
自社が要件を満たすかどうか、どこで確認すればいい?
まとめ:延びたのは計画提出だけ、実行期限から逆算する
- 事業承継税制は自社株の贈与税・相続税の納税を猶予し、最終的に免除する制度です
- 令和8年度税制改正で特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日まで延長されました
- 一方で贈与・相続の実行期限は令和9年12月31日のまま据え置かれています
- 特例措置は全株式・100%猶予・後継者3人までと、一般措置より大幅に有利です
- 後継者の3年以上の役員経験など、時間を要する要件から先に着手する必要があります
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