簡易課税のみなし仕入率|業種別の考え方
「うちは製造業だから70パーセントでいいのか」。「同じ商品を売っていても、相手によって区分が変わると聞いた」――簡易課税の相談では、この区分の話でつまずく方が大半です。
みなし仕入率は、第1種の90パーセントから第6種の40パーセントまで6段階に分かれています。区分が1つ違えば、納税額は売上税額の10パーセント単位で変わります。そして厄介なことに、区分は会社の業種ではなく、取引ごとに判定します。同じ会社の中に、第1種と第3種と第5種が混在することも珍しくありません。
税理士法人Light UPでは、簡易課税を検討する際、まず売上を取引の種類ごとに分けるところから始めています。区分を誤ったまま届出を出すと、有利だと思っていた選択が逆になることがあるためです。
この記事では、6つの区分の中身、判定で迷う場面、複数の事業を営む場合の計算、区分をしなかった場合の扱い、そして届出の期限までを、国税庁の公表内容に沿って整理します。
みなし仕入率の仕組み
結論: 簡易課税では、実際に支払った消費税を集計せず、売上の消費税額にみなし仕入率を掛けた金額を仕入税額とみなして納税額を計算します。
計算の流れと、実態との差が損得を決めること
売上に係る消費税額から、その金額にみなし仕入率を掛けた額を差し引きます。第5種のサービス業であれば、売上税額の50パーセントが控除され、残りの50パーセントが納税額です。
売上税額が100万円なら、納めるのは50万円という計算になります。仕入や経費がいくらだったかは、計算に入りません。
実際の仕入率がみなし仕入率より低い会社は、簡易課税のほうが有利になります。逆に、仕入や外注が多く、実際の仕入率がみなし仕入率を上回る会社では、本則課税のほうが納税額は小さくなります。
自社の実際の仕入率を計算せずに簡易課税を選ぶと、この判断ができません。
事務は確実に軽くなる
インボイスの保存や、仕入税額の区分計算が不要になります。売上の集計だけで申告書が作れますので、経理の負担は明らかに減ります。
この事務負担の軽さを、納税額の差と比べて判断することになります。
仕入や経費の請求書を1枚ずつ集計する必要がなくなります。売上の区分だけを正しく分けておけば計算できます。インボイスの保存も、仕入税額控除のためには要らなくなります。
6つの事業区分
結論: 事業区分は第1種から第6種まであり、みなし仕入率は90パーセントから40パーセントまで、10ポイント刻みで設定されています。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な事業 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90パーセント | 卸売業(購入した商品を性質・形状を変更せず事業者へ販売) |
| 第2種 | 80パーセント | 小売業、農業・林業・漁業のうち飲食料品の譲渡に係る事業 |
| 第3種 | 70パーセント | 農業・林業・漁業(飲食料品を除く)、鉱業、建設業、製造業など |
| 第4種 | 60パーセント | 飲食店業など、他の区分に該当しない事業 |
| 第5種 | 50パーセント | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
| 第6種 | 40パーセント | 不動産業 |
判定は取引ごとに行い、業種名ではなく取引の中身で決まる
国税庁は、事業区分の判定について、原則としてその事業者が行う課税資産の譲渡等ごとに行うとしています。会社全体で一つの区分に決まるのではありません。
製造した商品を販売しながら、修理サービスも提供している会社であれば、前者は第3種、後者は第5種です。
登記上の事業目的や、日常的に名乗っている業種は関係ありません。実際に何を、誰に、どういう形で提供しているかで判定します。
率の高低には理由がある
仕入れた商品をそのまま転売する卸売業は、売上に対する仕入の割合が高くなります。だからみなし仕入率も90パーセントと高い。一方、不動産の賃貸は仕入がほとんど発生しないため40パーセントです。
この考え方を知っておくと、自社の取引がどこに近いかを推測しやすくなります。
仕入の割合が大きい業種ほど、率も高く設定されています。
判定で迷いやすい5つの場面
結論: 販売先が事業者か消費者か、加工の有無、材料を誰が用意するか、飲食の提供形態、役務の性質。この5つが区分の分かれ目になります。迷ったときは、順に当てはめていくと答えが出ます。
相手が事業者か消費者か。手を加えたかどうか
第1種の卸売業は、購入した商品をその性質、形状を変更しないで他の事業者に対して販売する事業を指します。同じ商品を一般消費者に売れば第2種の小売業です。
みなし仕入率は90パーセントと80パーセントで10ポイント違います。同じ在庫を扱っていても、販売先によって区分が変わりますので、売上の記録に販売先の区分を残しておく必要があります。
自社で製造した商品を消費者へ直接販売する場合、小売業ではなく第3種の製造業に該当します。パン屋や洋菓子店が典型です。
一方、袋への詰め替えやラベルの貼付は、性質や形状の変更に当たらないと扱われるのが一般的です。どこまでが加工に当たるかは、実際の作業内容で判断します。
建設業で材料を誰が用意するか。飲食の提供形態
建設業は原則として第3種ですが、材料を自分で調達せず、加工賃や役務の提供の対価として受け取る場合は第4種になります。いわゆる手間請けです。
また、受注した工事を自社で施工せず、そのまま下請けへ出す形も第4種に該当することがあります。同じ会社でも、案件ごとに区分が変わる可能性があるということです。
店内で飲食させる事業は第4種です。持ち帰り用の弁当や総菜を販売する場合、その部分は第3種または第2種に該当し得ます。
軽減税率の判定とは別の話で、ここは混同されやすいところです。税率の区分と事業区分は、それぞれ独立した判断になります。
サービスか製造か
修理、加工、設置。これらは内容によって第3種と第5種に分かれます。物を作って引き渡すのか、役務を提供するのかで判断します。
判断に迷うものは、契約書と請求書の記載に戻り、何に対する対価なのかを整理することになります。
形のあるものを作って渡すのか、作業そのものを提供するのか。ここで区分が分かれます。同じ会社でも、取引ごとに違うことがあります。
複数の事業を営む場合
結論: 2種類以上の事業を営む場合は、原則として事業ごとに計算します。ただし、1種類または2種類の事業が全体の75パーセント以上を占める場合には、特例が使えます。
原則の計算と、1種類で75パーセント以上の場合
各事業の課税売上高に対応するみなし仕入率をそれぞれ適用して計算します。売上を区分して集計する必要がありますので、日々の記帳で区分を付けておくことが前提になります。
国税庁は、1業種が全体の75パーセント以上を占める場合、その業種のみなし仕入率を全体に適用できるとしています。
小売が80パーセント、サービスが20パーセントという会社であれば、全体に第2種の80パーセントを適用できます。有利になるかどうかは構成によりますので、原則計算と比べて選びます。
2種類で75パーセント以上の場合。選択は毎期できる
2業種の合計が75パーセント以上の場合、高いほうの率をその売上に適用し、低いほうの率をそれ以外の売上に適用できます。
3つ以上の事業を営んでいる会社で使える特例です。こちらも、原則計算と比較して有利なほうを選べます。
特例を使うかどうかは、その課税期間ごとに判断します。前期に特例を使ったから今期も、という縛りはありません。売上構成は毎年変わりますので、毎期試算する価値があります。
区分をしないとどうなるか
結論: 事業区分をしていない部分については、区分していない事業のうち最も低いみなし仕入率が適用されます。有利な区分の売上があっても、記録がなければその率は使えません。
最も低い率が適用される。帳簿での区分が要る
国税庁は、区分をしていない部分について、その区分していない事業のうち一番低いみなし仕入率を適用すると明示しています。
卸売業と不動産業を営む会社が区分をしていなければ、90パーセントではなく40パーセントで計算されることになります。納税額への影響は大きなものになります。
区分は、帳簿や請求書で確認できる形にしておく必要があります。レジの部門を分ける、売上科目を分ける、請求書に区分を記載する。方法は業種によりますが、後から説明できる形になっていることが条件です。
調査で指摘される場面
税務調査では、区分の根拠を確認されます。第1種として申告している売上について、販売先が事業者であることを示せるか。第3種としている売上について、製造の実態があるか。
記録がないまま有利な区分を選んでいると、低いほうの率で修正を求められます。
区分の根拠を示せる帳簿になっているかが見られます。レジの記録や請求書の様式まで確認されることがあります。
業種別に見た実務の注意点
結論: 同じ区分でも、業種によって記録の付け方や判定の難所が異なります。自社の業種でどこが問われるかを知っておくと、準備が具体的になります。
小売業と卸売業を兼ねる場合。建設業と関連工事
店頭で消費者へ売り、同時に飲食店や同業者へも卸している。このような会社では、販売先の区分が納税額を左右します。
会員登録の有無、請求書払いか現金かといった手がかりで区分できることが多いものの、記録として残す仕組みが必要です。実務ではレジの部門か、売上科目で分けることになります。
同じ会社が、材料込みの工事と手間請けの両方を受けている場合があります。案件ごとに契約の形が違いますので、工事台帳の段階で区分を付けておくと集計が楽になります。
現場ごとの請求書に、材料費が含まれているかどうかが判断の手がかりになります。
サービス業と物品販売、不動産業の中の区分
美容室での商品販売、整体院での器具の販売など、役務の提供に加えて物を売っている場合です。役務は第5種、仕入れた商品の販売は第2種に該当し得ます。
物販の割合が小さくても、記録を分けておけば適用できます。
不動産の賃貸や売買の仲介は第6種ですが、同じ会社が建物の管理業務を請け負っていれば、その部分は第5種のサービス業に該当し得ます。
第6種の40パーセントと第5種の50パーセントでは、10ポイントの差があります。管理料を区分して集計する価値は十分にあります。
記録の付け方
結論: 区分は日々の記帳で付けるのが基本です。決算のときにまとめて分けようとすると根拠のない按分になり、区分していない扱いを受けて最も低い率で計算される可能性があります。
レジと請求書で分ける
小売や飲食では、レジの部門設定で区分できます。店内飲食と持ち帰り、商品と役務。会計の時点で分かれていれば、集計は自動です。同じ業種でも、店舗ごとに設定の粒度が違うと集計がぶれるため、複数店舗があるなら設定を統一しておきます。
事業者向けの取引では、請求書の明細を分けておきます。材料費と工賃、商品代と作業料。区分の根拠がそのまま資料として残ります。
売上科目と按分で分ける
売上科目を区分ごとに設定すれば、試算表の段階で構成比が見えます。毎月確認できるようになると、75パーセントの特例が使えるかどうかも早い段階で分かります。
どうしても区分できない売上がある場合、合理的な基準で按分することになります。ただし、基準の根拠を説明できなければ、区分していない扱いになります。按分の基準は、一度決めたら継続して使うことが前提です。年によって都合よく変えると、税務調査で説明できなくなります。
有利かどうかを確かめる
結論: 有利かどうかは、実際の課税仕入れが売上に占める割合と、みなし仕入率を比べれば分かります。実際の割合のほうが低ければ簡易課税、高ければ本則課税のほうが納税額は小さくなります。
| 状況 | 有利になりやすい方法 |
|---|---|
| 実際の仕入率がみなし仕入率より低い | 簡易課税 |
| 実際の仕入率がみなし仕入率より高い | 本則課税 |
| 大きな設備投資を予定している | 本則課税(還付の可能性がある) |
| 経理の人手が足りない | 簡易課税(事務負担が軽い) |
簡易課税では、実際に支払った消費税がいくらでも控除額は変わりません。高額な設備を購入して支払った消費税が大きい年でも、還付は受けられません。
数年内に大きな投資を予定しているなら、その時期を含めた検討が要ります。
簡易課税制度を選択すると、原則として2年間は継続して適用する必要があります。翌期に本則課税へ戻すことはできません。
投資の予定と合わせて、2年先まで見て判断することになります。
届出の期限
結論: 簡易課税を適用するには、適用しようとする課税期間の初日の前日までに、消費税簡易課税制度選択届出書を提出する必要があります。
期限は課税期間が始まる前日。適用の要件
国税庁は、その課税期間の初日の前日までに届出書を提出することを求めています。3月決算の法人が翌期から適用するなら、当期の3月31日までです。
期限を過ぎると、その課税期間は本則課税になります。1年待つことになりますので、期限の管理は重要です。
基準期間における課税売上高が5,000万円以下であることが要件です。個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度が基準期間になります。
届出を出していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間は、本則課税で計算します。届出の効力自体は残りますので、翌期に5,000万円以下へ戻れば再び簡易課税です。
2割特例からの切り替え
2割特例を使ってきた事業者は、令和8年9月30日を含む課税期間で適用が終わります。その後に簡易課税を使うなら、原則として次の課税期間が始まる前日までに届出が必要です。
2割特例が使えなくなる年に、簡易課税へ移る会社が多くあります。届出の期限は課税期間の開始前日ですので、特例の終わりが見えた段階で判断することです。
簡易課税をやめるとき
結論: 本則課税へ戻すには、消費税簡易課税制度選択不適用届出書を、やめようとする課税期間の初日の前日までに提出します。ただし選択から2年間は継続適用の縛りがあり、その間は戻せません。
簡易課税を選択した場合、事業を廃止した場合を除き、2年間は継続して適用する必要があります。この期間中は不適用届出書を提出できません。
やめる場合も、その課税期間が始まる前日までの提出です。期首を過ぎてから設備投資が決まっても、その期は簡易課税のまま計算することになります。
大きな設備投資を検討しているなら、その計画を早い段階で税理士へ伝えておくと、選択肢が残ります。投資の年に本則課税であれば、支払った消費税の還付を受けられる可能性があります。
届出の期限は課税期間の初日の前日ですので、決まってからでは間に合いません。
区分を整える手順
結論: 売上の分類、記録方法の決定、試算、届出という順で進めます。最初の2つを済ませないと正しい試算ができません。順序を飛ばすと、やり直しになります。
- 売上を取引の種類ごとに分ける。 直近1年の売上を、販売先と提供内容で分類します。ここが土台です。
- 記録の方法を決める。 レジの部門設定、売上科目の細分化、請求書の記載。日々の記帳で区分が付く形にします。
- 原則計算と特例を試算する。 区分ごとの構成比を出し、75パーセントの特例が使えるかを確認します。
- 本則課税と比べる。 実際の課税仕入れの割合を計算し、どちらが有利かを判断します。
- 期限までに届け出る。 課税期間の初日の前日までに提出します。
相談事例|区分をめぐる4つの場面
結論: 相談の現場で多いのは、会社の業種で一括りに判定してしまっているケースです。取引ごとに分けて見直すと、有利な区分を使える余地が見つかることがあります。
卸売と小売が混在していた食品業の方。 全体を第2種の80パーセントで申告していましたが、売上の6割は飲食店向けでした。販売先を区分して記録する運用に変え、該当部分を第1種で計算しています。
手間請けを第3種としていた建設業の方。 材料を元請けが用意する工事について、第3種で申告していました。加工賃としての性質が強く、第4種に該当する部分がありました。契約形態ごとに区分を分けています。
「テイクアウトも店内も同じだと思っていた」――飲食業の方からのご相談です。持ち帰り用の販売が売上の3割を占めており、区分を分ける余地がありました。レジの設定を変えて集計できるようにしています。
区分をしていなかった不動産業の方。 不動産の賃貸と管理業務の売上がありましたが、帳簿で区分していませんでした。区分がない部分は最も低い率が適用されるため、全体が第6種の40パーセントで計算される状態でした。
よくある質問
自社の事業区分はどう判定しますか?
卸売業と小売業の違いは何ですか?
区分を分けずに申告するとどうなりますか?
複数の事業がある場合、計算が複雑になりませんか?
簡易課税を選ぶといつまで続けなければなりませんか?
届出はいつまでに出せばよいですか?
まとめ:区分は業種ではなく取引で決まる
みなし仕入率は第1種の90パーセントから第6種の40パーセントまで6段階です。判定は会社の業種ではなく、取引ごとに行います。同じ商品でも、事業者へ売れば第1種、消費者へ売れば第2種。この違いを知らずに一括で申告している会社は少なくありません。
区分をしていない部分には、その中で最も低い率が適用されます。有利な区分の売上を持っていても、記録がなければ使えないということです。まず売上を分類し、日々の記帳で区分が付く形を作ってください。
複数の事業がある場合、1種類が75パーセント以上、または2種類の合計が75パーセント以上であれば特例が使えます。原則計算と比べて有利なほうを選べますので、両方を試算する価値があります。
そして、選ぶ前に確かめてほしいのが、実際の仕入率です。みなし仕入率より実際のほうが高い会社では、簡易課税は不利になります。2年間は戻せないこと、設備投資の年に還付を受けられないことも含めて、数年で見て判断してください。
自社の区分と有利不利を確かめたい方は、税理士法人Light UPの無料相談をご利用ください。直近の売上の内訳をお持ちいただければ、区分ごとの試算をお見せします。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.6505「簡易課税制度」
- 国税庁 タックスアンサー No.6509「簡易課税制度の事業区分」
【メタディスクリプション】
簡易課税のみなし仕入率を業種別に整理しました。第1種90パーセントから第6種40パーセントまでの区分、卸売と小売や手間請けなど迷いやすい場面、75パーセントの特例、区分しない場合に最も低い率が適用される仕組みまで解説します。




