個人事業主の消費税|納税義務が生まれる基準
「売上が1,000万円を超えたら消費税がかかると聞きましたが、超えた年から納めるのでしょうか」。「インボイスの登録をしたら、売上が小さくても消費税を払うことになると言われて戸惑っています」――独立して数年目の方から、この2つはよくいただくご相談です。
個人事業主に消費税の納税義務が生まれるのは、原則として前々年の課税売上高が1,000万円を超えた年です。国税庁のタックスアンサーNo.6501では、基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年)における課税売上高が1,000万円以下である場合には、原則として納税義務が免除されるとされています。超えた年ではなく、2年後から納める仕組みです。
税理士法人Light UPでは、この2年の時間差こそが個人事業主にとって扱いにくいところだと考えています。売上が伸びた年ではなく、落ち着いた2年後に納税がやってくる。しかもインボイスの登録をしていれば、売上の大小と関係なく納税義務が続きます。
この記事では、納税義務が生まれる基準と判定の順番、開業直後の扱い、税額計算の3つの方法、申告と納付の期限、そして資金繰りの備え方までを、個人事業主の記帳と申告を支援している立場から整理します。
納税義務は前々年の課税売上高で決まる
結論: 個人事業主の消費税の納税義務は、その年の前々年の課税売上高が1,000万円を超えているかどうかで決まります。1,000万円以下なら原則として免除され、超えていればその年は課税事業者になります。
判定の対象になるのは2年前の売上
国税庁のタックスアンサーNo.6501は、「その課税期間の基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下である場合には、原則として、納税義務が免除されます」としています。
2026年の納税義務は2024年の売上で決まります。2025年にどれだけ売上が伸びても、2026年の判定には関係しません。
1,000万円は税抜きか税込みかで結論が変わる
見落とされやすいのがここです。基準期間に課税事業者だった場合、課税売上高は税抜きで判定します。一方、基準期間に免税事業者だった場合は、消費税を預かっていないという整理になるため、税込みの金額がそのまま課税売上高になります。
売上1,050万円(税込)の免税事業者は、税抜きに直せば954万円ほどです。しかし判定に使うのは1,050万円のほうで、この年は1,000万円を超えたことになります。
超えたことに気づくのが遅れやすい
納税義務の判定は、確定申告の時期に自分で行います。税務署から通知が来るわけではありません。
「2年前の売上を確認していなかった」というお声は珍しくありません。免税事業者から課税事業者に変わる年は、請求書に消費税をどう書くか、経理をどう変えるかまで動くので、年明けに気づくと準備が間に合わなくなります。
確定申告のときに前々年の数字を確かめる習慣をつけておくことです。
廃業や休業があっても基準期間は動かない
個人事業者の課税期間は、国税庁のタックスアンサーNo.6137のとおり1月1日から12月31日までです。年の途中で事業を始めても終えても、課税期間の始まりは1月1日、終わりは12月31日で変わりません。
基準期間も同じで、前々年の1月1日から12月31日で固定です。前々年の途中に開業した場合も、その期間の実際の課税売上高で判定します。
特定期間の判定で1年前倒しになることがある
結論: 前々年の課税売上高が1,000万円以下でも、前年の1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円を超えていれば課税事業者になります。この期間を特定期間といい、給与等支払額で判定し直すこともできます。
特定期間は前年の上半期。課税売上高と給与等支払額のどちらでも判定できる
国税庁のタックスアンサーNo.6501は、特定期間について、個人事業者の場合はその年の前年の1月1日から6月30日までの期間をいうとしています。
急に売上が伸びた人を、2年間まるまる免税のままにしないための規定です。
国税庁の同じ資料では、「特定期間における1,000万円の判定は、課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することができます。いずれの基準で判定するかは納税者の任意です」と示されています。
一人で事業をしている人に給与の支払いはありません。人を雇っていなければ給与等支払額はゼロなので、この基準を選べば1,000万円を超えることはありません。
| 判定の基準 | 見る金額 | 一人で事業をしている場合 |
|---|---|---|
| 課税売上高 | 前年1月1日〜6月30日の課税売上高 | 上半期の売上が大きいと1,000万円を超えることがある |
| 給与等支払額 | 同じ期間に支払った給与等の合計額 | 従業員がいなければ0円。1,000万円を超えない |
国外事業者は給与での判定ができない
同じ資料には、令和6年10月1日以後に開始する課税期間から、国外事業者については特定期間における1,000万円の判定を給与等支払額の合計額により行うことはできないとされた旨が示されています。
国内で事業をしている個人事業主には関係のない改正ですが、海外に居住しながら日本で事業を続けている方は扱いが変わります。
前年に開業した人の特定期間
国税庁のタックスアンサーNo.6531には、前年の3月1日に事業を開始した個人事業者の特定期間における課税売上高は、前年の3月1日から6月30日までの期間における課税売上高または給与等の金額となり、6か月分に換算する必要はないと示されています。
開業が7月以降であれば、そもそも特定期間に事業をしていません。この場合は特定期間の判定が入りません。
開業してすぐの2年間は基準期間がない
結論: 開業した年と翌年は基準期間がないため、原則として消費税の納税義務が免除されます。ただしインボイス発行事業者の登録を受けた場合は、開業初年度から納税義務が生じます。
1年目は判定する材料がない。2年目は特定期間の判定が入る
前々年に事業をしていなければ、基準期間の課税売上高は存在しません。国税庁のタックスアンサーNo.6531でも、新たに開業した個人事業者のように基準期間における課税売上高がないときは原則として納税義務が免除されるとされています。
初年度にいくら売り上げても、その年の納税義務は生まれません。
2年目は、前年(=開業した年)の1月1日から6月30日が特定期間にあたります。開業が7月以降なら特定期間の判定はありませんが、上半期から事業をしていて売上が1,000万円を超えていれば、2年目から課税事業者です。
初年度から勢いよく立ち上がった事業ほど、2年目に前倒しで納税義務が来ます。
3年目に初年度の売上が影響してくる
3年目の判定に使うのは、初年度の課税売上高です。初年度が1,000万円を超えていれば3年目から課税事業者になります。
開業から3年目は、所得税の負担も本格化する時期です。そこに消費税が重なると、手元の現金の減り方が急に変わります。
1年目の売上が1,000万円を超えていれば、3年目から課税事業者になります。開業の年の数字が2年後に響く形です。
インボイス登録をすると売上に関係なく納税義務が続く
結論: インボイス発行事業者の登録を受けている場合、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務は免除されません。登録を取りやめない限り、売上が小さくなった年も申告と納付が続きます。
登録が納税義務の分かれ目になる。年の途中で登録した年の扱い
国税庁のタックスアンサーNo.6501には、「課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合には、納税義務は免除されません」と明記されています。
1,000万円という基準は、登録していない人のための基準です。登録した時点で、その物差し自体が外れます。
同じ資料では、免税事業者が課税期間の途中で適格請求書発行事業者の登録を受けた場合には、その登録日からその課税期間の末日までに行った課税資産の譲渡等が消費税の申告の対象となるとされています。
10月1日に登録したなら、10月1日から12月31日までの取引だけを申告します。1年分ではありません。
取引先が事業者かどうかで判断が分かれる
登録するかどうかは、売上先の顔ぶれで決まります。売上先が課税事業者ばかりなら、インボイスを出せないことが取引条件に影響します。一般の消費者が相手なら、インボイスを求められる場面はほとんどありません。
「同業者がみんな登録したから」という理由だけで決めてしまい、あとから負担の重さに驚く方がいます。誰に請求書を出しているかを一度並べてみると、判断の材料が見えてきます。
課税売上高に入れないものがある
結論: 消費税の課税売上高には、非課税売上・不課税の収入は含めません。住宅の家賃、受け取った利子、補助金や助成金、雇用契約にもとづく給与は、いずれも1,000万円の判定から外れます。
事業の売上でも課税されないものがある
消費税は、国内で事業として行う資産の譲渡等にかかります。土地の譲渡や貸付け、住宅の貸付け、社会保険診療、預貯金の利子などは非課税とされており、課税売上高に含めません。
賃貸経営をしている方の場合、住宅として貸している部分の家賃は課税売上高に入りません。同じ家賃収入でも、事務所や店舗として貸している分は課税売上高に入ります。
補助金・助成金・保険金は対価ではない。給与は事業の売上ではない
補助金や助成金は、何かを売った対価ではありません。対価性がないため消費税の課税対象にならず、課税売上高にも含めません。
売上が800万円で補助金が300万円入った年でも、判定に使うのは800万円のほうです。
雇用契約にもとづく給与は、事業として行う役務の提供にあたりません。会社に勤めながら副業で事業をしている方は、給与部分を除いた事業の売上だけで判定します。
一方、業務委託として受け取っている報酬は事業の対価です。契約の名前ではなく実態で分かれます。
事業用の資産を売った代金は入る
事業で使っていた車や機械を売った代金は、課税売上高に含めます。臨時の収入なので忘れやすいところです。
車両を1台売っただけで1,000万円を超えることは多くありませんが、設備の入れ替えが重なった年は数字が動きます。
| 課税売上高に含める | 課税売上高に含めない |
|---|---|
| 商品の販売代金・サービスの報酬 | 住宅の家賃・土地の譲渡や貸付け |
| 事務所や店舗として貸した家賃 | 受け取った利子・保険金 |
| 事業用の車両や機械を売った代金 | 補助金・助成金・給付金 |
| 業務委託として受け取った報酬 | 雇用契約にもとづく給与 |
車両や機械を手放したときの代金です。事業に使っていたものであれば、売上と同じように判定に含めます。
税額の計算方法は3つから選ぶ
結論: 消費税の納付税額を計算する方法は、原則的な方法(一般課税)、簡易課税、そして2割特例の3つです。使える条件が方法ごとに違い、届出が要るものと要らないものがあります。
原則は預かった税から支払った税を引く。簡易課税は売上だけで計算できる
一般課税は、売上で預かった消費税から、仕入れや経費で支払った消費税を差し引いて納める金額を出します。実際の取引をすべて記録する必要があるため、手間はいちばん大きくなります。
仕入税額を差し引くには、原則として帳簿と請求書等の保存が要件です。
簡易課税は、仕入側の集計をせず、売上の消費税額にみなし仕入率を掛けて仕入税額とみなす方法です。国税庁のタックスアンサーNo.6505によれば、消費税簡易課税制度選択届出書を提出した課税事業者で、基準期間における課税売上高が5,000万円以下の課税期間について適用できます。
経費が少ない業種ほど、簡易課税のほうが納付額が小さくなる傾向があります。
2割特例は登録した人だけの措置
インボイス発行事業者の登録を受けたことで免税事業者から課税事業者になった人には、納付税額を売上税額の2割とする特例が用意されています。売上の消費税額だけで計算が済み、届出も要りません。
適用できる期間には限りがあります。期限と、その後に用意されている措置については、経過措置をまとめた記事で詳しく整理しています。
| 計算方法 | 使える条件 | 計算のもとになるもの | 事前の届出 |
|---|---|---|---|
| 一般課税 | 条件なし | 売上と仕入・経費の両方 | 不要 |
| 簡易課税 | 基準期間の課税売上高5,000万円以下 | 売上のみ(みなし仕入率を使う) | 必要 |
| 2割特例 | 登録により免税事業者から課税事業者になった場合 | 売上のみ(売上税額の2割) | 不要 |
簡易課税のみなし仕入率は業種で決まる
結論: 簡易課税のみなし仕入率は、事業区分ごとに40%から90%の6段階で定められています。卸売業が90%、小売業が80%、サービス業が50%、不動産業が40%です。
6つの事業区分と、複数の事業をしているときの特例
国税庁のタックスアンサーNo.6505が示す事業区分とみなし仕入率は、次のとおりです。
| 事業区分 | 主な業種 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 卸売業 | 90% |
| 第2種事業 | 小売業、飲食料品の譲渡に係る農業・林業・漁業 | 80% |
| 第3種事業 | 農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業 | 70% |
| 第4種事業 | 第1種・第2種・第3種・第5種・第6種以外の事業 | 60% |
| 第5種事業 | 運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く) | 50% |
| 第6種事業 | 不動産業 | 40% |
同じ資料には、2種類以上の事業を営む事業者で1種類の事業の課税売上高が全体の75パーセント以上を占める場合には、その事業のみなし仕入率を全体の課税売上げに対して適用できるとする特例が示されています。
区分ごとに売上を分けるのが原則ですが、片方が大きく偏っている場合は集計を簡単にできます。
届出の期限は前年の12月31日。選んだら2年間は変えられない
簡易課税を選ぶには、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに届出書を提出します。個人事業主なら、その年の前年12月31日までです。
年が明けてから「今年は簡易課税で」と決めることはできません。年末が判断の期限になります。
簡易課税を選ぶと、原則として2年間は一般課税に戻せません。大きな設備投資を予定している年に簡易課税のままだと、支払った消費税を差し引けず、還付も受けられません。
翌年に何を買う予定があるかを、年末の判断の材料に含める価値があります。
申告と納付の期限は翌年3月31日
結論: 個人事業主の消費税の確定申告と納付の期限は、翌年3月31日です。所得税の確定申告期限である3月15日とは異なり、2週間ほど後ろになります。
所得税とは期限が違う。納付も同じ日が期限
国税庁のタックスアンサーNo.6137は、課税事業者は課税期間ごとに、原則として「その課税期間の終了の日の翌日から2か月以内(個人事業者の12月31日の属する課税期間は翌年3月31日まで)」に確定申告書を提出し、あわせて納付しなければならないとしています。
所得税を出して安心してしまい、消費税の申告が抜ける。この取りこぼしは、課税事業者になった最初の年に起きやすいものです。
申告書を出しただけでは終わりません。納付の期限も同じ3月31日です。
口座振替(振替納税)を利用している場合、引き落としは4月下旬になります。所得税の振替日とも違うため、両方を使っている方は残高の管理に注意が要ります。
期限を過ぎると加算税と延滞税がかかる。課税期間を短くする選択
期限までに申告しなかった場合は無申告加算税、納付が遅れた場合は延滞税の対象になります。所得税と同じ扱いです。
消費税は所得税と違い、赤字でも納税額が出ます。利益が出なかった年こそ、資金の準備が要ります。
同じNo.6137には、課税期間を事業者の選択により3か月ごとまたは1か月ごとに短縮できる特例が示されています。輸出が多く還付が続く事業では、還付を早く受けるためにこの特例を使うことがあります。
ただし、申告の回数がそのまま増えます。使う場面は限られます。
年税額が48万円を超えると中間申告が入る
結論: 前年の消費税の年税額が48万円を超えると、中間申告と中間納付が必要になります。48万円超で年1回、400万円超で年3回、4,800万円超で年11回です。
回数は前年の税額で決まる。出さなくても申告したことにされる
国税庁のタックスアンサーNo.6609によれば、中間申告書の提出が必要なのは、個人の場合は前年の消費税の年税額が48万円を超える事業者です。この48万円に地方消費税額は含みません。
| 直前の課税期間の確定消費税額 | 中間申告の回数 | 1回あたりの納付額 |
|---|---|---|
| 48万円以下 | 原則として不要(任意の中間申告制度あり) | ― |
| 48万円超〜400万円以下 | 年1回 | 前年の確定消費税額の6/12 |
| 400万円超〜4,800万円以下 | 年3回 | 前年の確定消費税額の3/12 |
| 4,800万円超 | 年11回 | 前年の確定消費税額の1/12 |
同じ資料には、中間申告書を提出すべき事業者がその中間申告書を提出期限までに提出しない場合には、中間申告書の提出があったものとみなされ、直前の課税期間の実績により計算した消費税額が直ちに確定することになると示されています。
書類を出さなければ納税が先送りになる、ということはありません。納付の義務だけが残ります。
仮決算による中間申告もある。中間納付は前払いにすぎない
前年より売上が大きく落ちている年は、中間申告の対象期間について仮決算を行い、実額で計算して納めることもできます。同じ資料では、仮決算により計算した税額がマイナスとなった場合でも還付は受けられないとされています。
手間はかかりますが、資金繰りが厳しい年には検討の余地があります。
中間で納めた分は、確定申告のときに精算されます。払いすぎていれば戻ってきます。
税額が増えるわけではなく、納めるタイミングが前に来るだけです。
課税事業者を自分から選ぶ場面もある
結論: 免税事業者でも、消費税課税事業者選択届出書を提出すれば課税事業者になれます。設備投資や輸出で支払った消費税のほうが多い年は、還付を受けるためにあえて選ぶことがあります。
還付を受けられるのは課税事業者だけ
免税事業者は、支払った消費税が多くても還付を受けられません。大きな設備を導入する年に還付を狙うなら、その前年までに届出が要ります。
国税庁のタックスアンサーNo.6501は、この届出書を提出した場合、原則として提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後から納税義務が免除されなくなるとしています。事業を開始した日の属する課税期間など一定の場合は、提出した課税期間から課税事業者になれます。
提出期限は年末で、延長されない
同じ資料には、当課税期間の末日が土曜日、日曜日および国民の祝日等にあたる場合でも、翌課税期間から課税事業者を選択したいときは当課税期間中に届出書を提出する必要があり、翌日等の平日に提出期限は延長されないと明記されています。
12月31日が日曜日でも、年内に出さなければ間に合いません。ここは一般的な期限のルールと違います。
選ぶと2年間は戻れない
同じ資料は、消費税課税事業者選択届出書を提出した事業者は、事業を廃止した場合を除き、原則として課税事業者となった日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ不適用届出書を提出できず、2年間は免税事業者となることはできないとしています。
還付を受けた翌年に納税が出て、差し引きでは得にならなかった。そうならないよう、2年分を通して見積もる必要があります。
高額な資産を買うと3年間になる
同じ資料には、課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した各課税期間中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、その課税期間の確定申告を一般課税で行った場合、その課税期間の初日から原則として3年間は免税事業者となれず、2年間は簡易課税制度選択届出書も提出できないと示されています。調整対象固定資産とは、税抜きの取引単位の価額が100万円以上の建物・機械・車両などです。
還付を受けたあとすぐ免税に戻る動きを制限するための規定です。
免税事業者に戻れる年と戻れない年
結論: 前々年の課税売上高が1,000万円以下になれば、原則として免税事業者に戻ります。ただしインボイス登録を続けている場合や、課税事業者を選択して2年が経っていない場合は戻れません。
売上が下がっただけでは戻らない。登録している限りは戻らない
売上が1,000万円を下回った年ではなく、その2年後から免税に戻ります。判定に使うのが前々年だからです。
売上が落ちた年ほど納税が重く感じられるのは、この時間差のためです。
インボイス発行事業者の登録を受けている間は、課税売上高にかかわらず納税義務が続きます。免税に戻るには、登録の取消しを求める届出が必要です。
取消しには期限の定めがあり、出した時期によって効力が生じる日が変わります。
届出を出さないと課税事業者のまま
課税事業者を選択していた人が免税に戻るには、消費税課税事業者選択不適用届出書の提出が要ります。国税庁のタックスアンサーNo.6501によれば、この届出書を提出した場合、その提出があった日の属する課税期間の末日の翌日から効力が失われます。
放っておいて自動的に戻ることはありません。
| 状況 | 免税事業者に戻れるか |
|---|---|
| 前々年の課税売上高が1,000万円以下(登録も選択もしていない) | 戻る |
| インボイス発行事業者の登録を続けている | 戻らない。登録の取消しの届出が要る |
| 課税事業者を選択して2年を経過していない | 戻れない |
| 調整対象固定資産を買って一般課税で申告した | 原則として3年間は戻れない |
選択届出書を出した後は、やめる届出も別に要ります。
相続で事業を引き継いだ年は別の判定になる
結論: 相続により事業を承継した場合、自分の基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えていれば課税事業者になります。翌年と翌々年は2人分を合計して判定します。
引き継いだ年の判定と、翌年と翌々年は合算すること
国税庁のタックスアンサーNo.6531は、納税義務が免除されない場合として、相続により事業を承継した年に、その基準期間における課税売上高が1,000万円を超える被相続人の事業を承継したときを挙げています。
親の事業を引き継いだ子が、自分の売上は小さいのに初年度から課税事業者になる。よくある形です。
同じ資料では、その翌年および翌々年について、相続人の基準期間における課税売上高と被相続人の基準期間における課税売上高との合計が1,000万円を超えるときも納税義務は免除されないとされています。
3年間は、亡くなった方の売上が判定に残ります。
準確定申告とは別に消費税の申告がある
被相続人が課税事業者だった場合、相続人は被相続人の消費税についても申告する必要があります。所得税の準確定申告に気を取られ、消費税が抜けることがあります。
相続が起きた年は、判定と申告の両方で通常と違う手当てが必要になります。
所得税の準確定申告と期限も様式も違います。相続の手続きに追われて抜けやすい部分です。
消費税は資金繰りで詰まりやすい
結論: 消費税は、預かったお金を後からまとめて納める税金です。利益が出ていない年でも納税額が出るため、売上の入金と一緒に使ってしまうと、3月に資金が足りなくなります。
預かった消費税は自分のお金ではない。所得税と時期が重なる
売上に上乗せして受け取った消費税は、いったん預かっているだけです。通帳の残高には入っていても、いずれ出ていくお金になります。
「入金が増えた実感があったのに、3月に払えなくなった」というご相談は、課税事業者になった最初の年に集中します。
3月は、所得税の納付(3月15日)と消費税の納付(3月31日)が続きます。さらに事業税や住民税、国民健康保険料の支払いも年間で走っています。
3月に2つの納税が重なるという構造を、前年のうちに把握しておくだけで身構え方が変わります。
別口座に取り分けると見通しが立つ。中間納付がある年はさらに分散する
実務でおすすめしているのは、消費税相当額を毎月別の口座へ移す方法です。手元の残高から消えるので、使ってしまう心配がなくなります。
やり方は単純ですが、これだけで3月の資金繰りの相談はかなり減ります。
年税額が48万円を超えると中間納付が入ります。1回で納める額は減りますが、支払いの回数が増えます。
年間のどこで納税があるかを一覧にしておくと、資金の谷が見えるようになります。
よくある相談事例
消費税のご相談は、免税から課税へ変わる前後に集中します。中でも多いのが次の3つです。
税込みで判定することを知らなかった
売上1,030万円(税込)で推移していた個人事業主の方から、「消費税は預かっていないので、税抜きに直せば1,000万円以下です」というお話がありました。
免税事業者だった期間の課税売上高は、税込みの金額で判定します。この方の場合、判定に使うのは1,030万円です。整理したのは2点。1つは過去3年分の売上を税込みで並べ直すこと。もう1つは、課税事業者になる年から請求書と帳簿をどう変えるかの段取りです。結果として、変わる年の前年のうちに準備を終えることができました。
インボイス登録をしたあとに売上が落ちた
「取引先に言われて登録したのですが、その後に売上が600万円まで下がりました。もう納めなくてよいですよね」。登録を続けている限り、課税売上高にかかわらず納税義務は残ります。
このケースでは、取引先の構成が変わっていました。登録した当時は法人向けが中心でしたが、直近では個人のお客様が大半になっていたのです。登録を続ける意味があるかどうかを、売上先の内訳から見直しました。取消しの届出には効力の生じる日の決まりがあるため、いつから外れるかの見通しも含めて整理しています。
還付を狙って課税事業者を選んだが、翌年に納税が出た
店舗の内装に大きく投資する年に、課税事業者選択届出書を出した方の例です。初年度は還付を受けられましたが、翌年は通常どおり納税が発生しました。
課税事業者を選ぶと2年間は免税に戻れません。担当した際に確認したのは、2年間を通した収支です。1年目の還付額と2年目の納税額を並べると、差し引きで手元に残る金額が見えてきます。「1年目だけを見て決めていた」という言葉がありました。
よくある質問
売上が1,000万円を超えた年から消費税を納めるのですか?
消費税を上乗せして請求していなければ、納めなくてよいのでしょうか?
簡易課税と2割特例は、どちらが有利ですか?
会社員をしながら副業で事業をしています。給与も1,000万円の判定に入りますか?
免税事業者に戻りたいのですが、どうすればよいですか?
まとめ:判定の材料は2年前にそろっている
- 個人事業主の消費税の納税義務は、前々年の課税売上高が1,000万円を超えているかどうかで決まる
- 前年1月1日から6月30日の課税売上高が1,000万円を超えると1年前倒しになる。給与等支払額で判定し直す道もある
- 免税事業者だった年の課税売上高は税込みで判定する。税抜きに直して1,000万円以下、とはならない
- インボイス登録をしていれば、課税売上高にかかわらず納税義務は免除されない
- 申告と納付の期限は翌年3月31日。所得税の3月15日とは別の日
先に確認すべきは今年の売上ではありません。2年前の確定申告書に載っている売上です。その数字を見れば、今年納めるかどうかは今日この場で分かります。
やらなくてよいこともあります。売上が1,000万円に近づくたびに請求のタイミングを調整する、といった動きは、判定が2年後に及ぶことを考えると意味が薄いでしょう。それより、課税事業者になる年を先に把握して、その年までに帳簿と請求書の形を整えておくほうが確実です。
税理士法人Light UPでは、個人事業主の記帳から消費税・所得税の申告までをまとめてお受けしています。登録するかどうか、簡易課税を選ぶかどうかといった判断は、事業の中身によって答えが変わります。迷っている段階でも、無料相談からお気軽にお寄せください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」
- 国税庁 タックスアンサー No.6531「新規開業等の場合の納税義務の免除」
- 国税庁 タックスアンサー No.6505「簡易課税制度」
- 国税庁 タックスアンサー No.6609「中間申告の方法」
- 国税庁 タックスアンサー No.6137「課税期間」
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。消費税の制度は改正が続いており、インボイス制度に関する経過措置は令和8年度税制改正で内容が見直されています。個別の判定や届出の要否については、税理士または所轄の税務署にご確認ください。




