免税事業者とは|判定の基準と取引への影響
「うちはまだ免税事業者のはずですが、確認の仕方が分かりません」。「取引先からインボイスの登録番号を聞かれて、どう答えるべきか困っています」――売上が1,000万円に近づいてきた事業者の方から、この2つはよくいただくご相談です。
結論からお伝えすると、免税事業者とは、消費税の納税義務が免除されている事業者のことです。判定の基本は基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下であること。ただし、インボイス発行事業者の登録を受けている場合は、売上規模にかかわらず課税事業者になります。
税理士法人Light UPでは、免税事業者かどうかの判断は税額の話ではなく、取引先との関係をどう置くかの話だと考えています。登録すれば納税が始まり、登録しなければ取引先の仕入税額控除が制限される。どちらにも影響があるため、数字だけでは決まりません。
この記事では、免税事業者の判定基準と免除されない場合、インボイス制度による影響、経過措置の現在地、そして登録するかどうかの考え方を、実際に事業者の消費税を担当している立場から整理します。
免税事業者は消費税の納税義務が免除された事業者
結論: 免税事業者とは、基準期間における課税売上高が1,000万円以下であることにより、消費税の納税義務が免除されている事業者です。個人事業主も法人も対象になります。
判定の基本は2年前の売上。今年の売上が伸びても今年は免税のまま
国税庁のタックスアンサーNo.6501「納税義務の免除」は、「その課税期間の基準期間(個人事業者の場合はその年の前々年、事業年度が1年である法人の場合はその事業年度の前々事業年度)における課税売上高が1,000万円以下である場合には、原則として、納税義務が免除されます」と説明しています。
今年の売上ではなく、2年前の売上で決まります。ここが最も誤解されやすい点です。
売上が急に伸びても、その年に課税事業者になるわけではありません。判定は2年前を見るため、影響が出るのは2年後です。
逆に言えば、2年前に1,000万円を超えていれば、今年の売上が小さくても課税事業者です。
課税売上高は税抜で数える。免除されるのは納税義務だけ
判定に使う課税売上高は、原則として消費税を除いた金額です。ただし免税事業者だった期間については、消費税を含んだ金額で判定します。
税込1,050万円の売上があった免税事業者は、1,050万円で判定されます。
免税事業者でも、売上に消費税相当額を上乗せして請求すること自体は妨げられません。禁止されているわけではないためです。
ただし、その分の納税義務がないため、受け取った消費税相当額は事業者の手元に残ります。
1,000万円以下でも免税にならない場合がある
結論: 基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、インボイス発行事業者として登録している場合、特定期間の課税売上高が1,000万円を超える場合、課税事業者選択届出書を出している場合には、納税義務は免除されません。
免除されない主な場合と、インボイス登録が最も強いこと
免税になるかどうかは、2年前の売上だけでは決まりません。売上が小さくても課税事業者になる場合がいくつかあります。まず該当する場面を並べておきます。
| 事由 | 内容 |
|---|---|
| インボイス登録 | 適格請求書発行事業者の登録を受けている |
| 特定期間の売上超過 | 特定期間の課税売上高が1,000万円超(給与等支払額での判定も可) |
| 課税事業者の選択 | 消費税課税事業者選択届出書を提出している |
| 新設法人の資本金 | 基準期間がない法人で、事業年度開始の日の資本金が1,000万円以上 |
| 特定新規設立法人 | 一定の要件に該当する新設法人 |
| 相続・合併・分割 | 承継した事業の課税売上高を含めて判定した結果、超える場合 |
同タックスアンサーは、「課税期間の基準期間における課税売上高が1,000万円以下であっても、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合には、納税義務は免除されません」と明記しています。
売上が100万円でも、登録していれば課税事業者です。登録と免税は両立しません。
特定期間は前年の上半期。給与でも判定できる
特定期間とは、個人事業者の場合はその年の前年1月1日から6月30日まで、法人の場合は原則としてその事業年度の前事業年度開始の日以後6か月の期間です。
この期間の課税売上高が1,000万円を超えると、翌期から課税事業者になります。2年前ではなく1年前を見る点が違います。
同タックスアンサーによれば、特定期間における1,000万円の判定は「課税売上高に代えて、給与等支払額の合計額により判定することができます。いずれの基準で判定するかは納税者の任意です」とされています。
売上が1,000万円を超えていても、その期間の給与等支払額が1,000万円以下であれば免税のままにできます。人を雇っていない事業者にとっては使いやすい規定です。
新設法人は資本金で分かれる
国税庁のタックスアンサーNo.6531「新規開業又は法人の新規設立のとき」は、基準期間がない法人でも「その事業年度開始の日における資本金の額または出資の金額が1,000万円以上であるとき」は納税義務が免除されないとしています。
設立時の資本金を1,000万円未満にしておく会社が多いのは、この規定があるためです。
開業・設立から2年は原則として免税になる
結論: 新たに開業した個人事業者や新設法人は、基準期間が存在しないため、原則として設立から2期は免税事業者です。ただし資本金や特定期間の要件に該当すると、この扱いは受けられません。
基準期間がない状態と、2期目は特定期間で判定されること
開業1年目と2年目は、2年前が存在しません。国税庁のタックスアンサーNo.6531は、「新たに開業した個人事業者または新たに設立された法人のように、その課税期間について基準期間における課税売上高がないときまたは基準期間がないときは、原則として納税義務が免除されます」としています。
1期目の上半期(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えると、2期目から課税事業者になります。給与等支払額での判定に切り替えれば、免税を維持できる場合があります。
「2年間は必ず免税」ではありません。
事業年度の設定で変わる。インボイス登録すると効果が消える
1期目を7か月以下にすると、特定期間の判定が適用されない場合があります。設立日と決算月の組み合わせによって扱いが変わります。
設立時の決算月の決め方には、この論点も含まれます。
免税の期間があっても、インボイス発行事業者として登録すればその時点から課税事業者です。設立当初の免税を活かしたいなら、登録の要否が先に来ます。
インボイス制度で免税事業者の位置づけが変わった
結論: インボイス制度では、原則としてインボイス発行事業者からの仕入れでなければ仕入税額控除ができません。免税事業者は登録できないため、取引先の税負担に影響します。
買い手の控除が制限される。影響は取引先の構成による
制度が始まって変わったのは、免税事業者の税負担ではありません。取引の相手が受ける控除のほうです。まず何が起きているかを見ます。
課税事業者である買い手は、免税事業者からの仕入れについて原則として仕入税額控除ができません。同じ金額を払っても、控除できる分だけ買い手の負担が変わります。
この構造が、免税事業者に登録を求める圧力を生んでいます。
| 主な取引先 | 登録しない場合の影響 |
|---|---|
| 一般消費者 | 影響はほぼない(相手が仕入税額控除をしない) |
| 免税事業者 | 影響はほぼない |
| 課税事業者(簡易課税を選択) | 影響はない(相手は仕入税額控除に請求書を要しない) |
| 課税事業者(本則課税) | 影響がある(相手の控除が制限される) |
自社の取引先がどこに当たるかを数えるところから始めます。
一方的な取引条件の変更はできない。登録は途中からでもできる
登録しないことを理由に、買い手が一方的に取引価格を引き下げたり取引を打ち切ったりすることは、独占禁止法や下請法の問題となる場合があります。公正取引委員会がこの点について考え方を示しています。
登録しない選択が、直ちに取引の喪失につながるものではありません。
免税事業者が課税期間の途中で登録を受けた場合、同タックスアンサーによれば「その登録日からその課税期間の末日までに行った課税資産の譲渡等が消費税の申告の対象となります」。
期の初めまで遡って課税されるわけではありません。
経過措置は令和8年10月から7・5・3割へ
結論: インボイス発行事業者以外からの課税仕入れについては、一定割合の仕入税額控除が認められる経過措置があります。令和8年度税制改正により、令和8年10月1日以後に開始する課税期間から、割合は7割・5割・3割の3段階になりました。
令和8年10月1日から70パーセント、令和10年10月1日から50パーセント、令和12年10月1日から30パーセントです。令和13年10月1日以降は控除できません。
期限が2年延長された一方、控除できる金額には上限が設けられました。
経過措置がある間は、買い手の負担が全額ではありません。7割控除の期間であれば、買い手が負担する差額は消費税額の3割相当にとどまります。
この間に、登録するかどうかを判断する時間があるという見方もできます。
経過措置を適用するには、区分を分けて記帳する必要があります。割合が変わる時期に、会計ソフトの税区分を切り替える作業も発生します。
売り手が免税事業者のままだと、買い手にこの手間が残ります。金額だけでなく手間の面でも影響します。
登録するかどうかは取引先の構成で決まる
結論: インボイス発行事業者として登録するかどうかは、取引先に本則課税の課税事業者がどれだけいるかで判断します。一般消費者向けの事業であれば、登録しない選択も合理的です。
判断の順番と、登録すると2割特例が使える場合
- 取引先を、一般消費者・免税事業者・簡易課税の事業者・本則課税の事業者に分ける
- 本則課税の事業者からの売上が全体のどれくらいかを出す
- その割合が小さければ、登録しない選択が現実的になる
- 大きければ、登録した場合の納税額を試算する
免税事業者からインボイス発行事業者になった事業者は、一定期間、納付税額を売上税額の2割とする特例を適用できます。適用できる期間には限りがあります。
加えて令和8年度改正では、個人事業者を対象に納付税額を売上税額の3割とする特例が創設されました。対象は令和9年分と令和10年分です。
簡易課税という選択肢。一度登録するとすぐには戻れない
基準期間の課税売上高が5,000万円以下であれば、簡易課税制度を選べます。売上に業種ごとのみなし仕入率を掛けて仕入税額を計算する方法で、経費の集計が不要になります。
登録するかどうかと、どの計算方法を採るかは別の判断です。
登録を取りやめるには届出が必要で、効力が生じる時期にも決まりがあります。さらに、課税事業者選択届出書を出している場合は2年間の縛りがあります。
思いつきで登録すると、想定より長く課税事業者が続きます。
免税事業者に戻れる場合と戻れない場合
結論: 基準期間の課税売上高が1,000万円以下になれば免税事業者に戻れますが、インボイス登録を続けている限り戻れません。また、課税事業者選択届出書を出した場合には2年間の継続が求められます。
売上が下がっただけでは戻らない。登録の取消しには届出が要る
売上が1,000万円を下回っても、その効果が出るのは2年後です。基準期間で判定するためです。
戻るには、こちらから手続きが要ります。放っておいても自動では戻りません。売上と登録は別の話です。
インボイス発行事業者の登録を取りやめるには、登録取消届出書を提出します。提出の時期によって、効力が生じる課税期間が変わります。
選択届出書を出した場合は2年縛り。調整対象固定資産を買うとさらに延びる
国税庁のタックスアンサーNo.6501は、課税事業者選択届出書を提出した事業者について、事業を廃止した場合を除き「原則として、課税事業者となった日から2年を経過する日の属する」課税期間まで免税事業者に戻れない旨を示しています。
同タックスアンサーによれば、課税事業者となった日から2年を経過する日までの間に開始した課税期間中に調整対象固定資産の課税仕入れ等を行い、一般課税で申告した場合には、その課税期間の初日から原則3年間は免税事業者に戻れません。
調整対象固定資産とは、棚卸資産以外で一の取引単位の価額(税抜)が100万円以上のものを指します。設備投資のタイミングによって、縛りが延びます。
実務でつまずきやすい5つの場面
結論: 免税事業者に関するご相談で多いのは、判定時期の誤解・特定期間の見落とし・登録後の免税の思い込み・請求書の書き方・届出の期限の5つです。
今年の売上で判定してしまう/特定期間を見ていない
判定は2年前です。今年1,000万円を超えたから今年から納税、と考えて資金を用意していた事業者もいます。逆に、超えた年から2年後に納税が始まることを忘れているほうが問題になります。
2年前が1,000万円以下でも、前年の上半期が1,000万円を超えていれば課税事業者です。開業2年目や3年目で見落としが起こります。
登録したのに免税だと思っている/請求書に消費税額を書いてよいか迷う
インボイス登録をすれば、売上規模にかかわらず課税事業者です。登録した年から申告が必要になります。
登録の有無と、書き方の迷いは別の話です。
免税事業者でも、税込の総額を記載した請求書を出すこと自体は問題ありません。ただし、インボイスと誤認される様式(登録番号の記載など)は避けます。
登録番号がないのに番号らしきものを書くことは、当然できません。
届出の提出期限を逃す
課税事業者選択届出書も、簡易課税制度選択届出書も、適用を受けたい課税期間の初日の前日までが原則です。期限が過ぎると、適用を受けたかった課税期間の翌課税期間からになります。
期末が近づいたら、届出の要否を確認する習慣があると防げます。
選択届出書も、やめる届出も、課税期間の開始前日が期限です。年末に慌てないよう、判断の時期を秋に置いておくことです。期限を1日過ぎると、次の期は動かせません。
事例:登録しない判断をした個人事業者
雑貨のオンライン販売を営む個人事業主の方から、インボイスの登録について迷っているとご相談をいただきました。「取引先から番号を聞かれることがあって、登録しないと不利になるのではと不安で」というお話でした。
まず、売上の内訳を確認しました。全体の85%が一般消費者向けの直販、残りが小売店への卸売です。卸売先3社のうち2社は簡易課税を選択していました。
本則課税で仕入税額控除に影響が出るのは1社のみ、金額は年間の売上の5%程度でした。この規模であれば、登録して納税を始めるより、登録しないほうが手元に残る金額は大きい計算です。
その1社には、状況を説明したうえで経過措置の期間中は現状の取引条件を維持したいとお伝えしました。先方も了承しています。
現在は登録せずに事業を続けています。ご本人からは「番号を聞かれるたびに不安でしたが、自分の取引の中身で決めればよいと分かって落ち着きました」という言葉がありました。売上構成が変われば判断も変わるため、年に一度は見直す前提にしています。
よくある質問
売上が1,000万円を超えたら、いつから消費税を納めるのでしょうか?
免税事業者でも請求書に消費税を上乗せしてよいのですか?
インボイス登録をしたら、もう免税事業者には戻れませんか?
開業したばかりですが、インボイス登録はしたほうがよいですか?
特定期間の判定を給与で行う場合、どの金額を使いますか?
まとめ:判定は2年前、判断は取引先
- 免税事業者は、基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の事業者
- 1,000万円以下でも、インボイス登録・特定期間の売上超過・課税事業者選択・新設法人の資本金1,000万円以上では免除されない
- 特定期間の判定は、課税売上高に代えて給与等支払額でも行える
- 登録の要否は、取引先に本則課税の課税事業者がどれだけいるかで決まる
- 経過措置は令和8年10月1日以後に開始する課税期間から7割・5割・3割の3段階になった
先に手を付けるべきは、税額の試算ではなく取引先の分類です。誰に売っているかが分からないまま登録を決めると、必要のない納税が始まります。
やらなくてよいこともあります。取引先から番号を聞かれたことだけを理由に、急いで登録する必要はありません。経過措置の期間があるため、判断のための時間は残っています。
税理士法人Light UPでは、インボイス登録の要否と消費税の計算方法の選択について、無料相談をお受けしています。自社の取引構成でどちらが妥当か知りたい――そうしたご相談も、無料相談からお気軽にお寄せください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.6501「納税義務の免除」
- 国税庁 タックスアンサー No.6531「新規開業又は法人の新規設立のとき」
- 国税庁「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」
- 公正取引委員会「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A」
※本記事は2026年8月時点の法令等に基づいています。消費税の制度は改正が続いているため、適用にあたっては最新の情報をご確認ください。




