消費税の還付|受けられる場合と手続き
「設備投資をした年は消費税が戻ると聞きました」。工場や店舗への投資を検討されている経営者の方から、いただくことの多いご質問です。ただ、還付を受けられるかどうかには前提があり、その前提を満たしていない会社が少なくありません。
結論からお伝えすると、還付を受けられるのは本則課税で申告する課税事業者に限られます。簡易課税を選んでいれば還付にはならず、免税事業者は申告をしないため還付もありません。そして、この状態を作るには期首までの届出が必要です。
税理士法人Light UPでは、設備投資のご相談をいただいたとき、投資の時期より先に現在の計算方法を確認しています。ここが合っていなければ、投資の意思決定そのものが変わることもあるためです。
この記事では、還付が生じる仕組み、還付を受けられる3つの条件、届出の期限、還付の手続と入金までの流れ、そして還付を受けた後に生じる制限までを整理します。
還付が生じる仕組み
結論: 売上に含まれる消費税より、仕入や経費に含まれる消費税のほうが大きいときに還付になります。
差額を納める仕組みの裏返し
消費税は、売上に含まれる消費税から仕入や経費に含まれる消費税を差し引いた差額を納めるものです。通常は売上のほうが大きいため納付になりますが、支出のほうが大きければ差額はマイナスになります。このマイナスの部分が還付されます。消費税法52条は、申告書に不足額の記載があるときは「当該不足額に相当する消費税を還付する」と定めています。制度として還付の仕組みが用意されているということです。損をしたから戻ってくるという性質のものではなく、計算の結果として生じるものです。
典型的な3つの場面
大きな設備投資を行った期、輸出が売上の中心である事業、そして開業初年度で支出が売上を上回る期。この3つが代表的です。設備投資では、建物や機械の取得価額に含まれる消費税がその期の控除の対象になります。輸出は消費税が免除されるため、売上に含まれる消費税がゼロになる一方、国内での仕入には消費税がかかります。構造的に還付になる事業と、その年だけ還付になる事業があるという違いは、課税期間の選択にも関わります。
還付にならない場合もある
支出が大きくても、その支出に消費税が含まれていなければ控除の対象になりません。人件費、社会保険料、支払利息、土地の購入。これらは課税仕入れに当たらないため、いくら支出しても還付の材料にはなりません。赤字だから還付になるわけではないという点は、最も誤解の多いところです。人件費の割合が高い事業では、赤字でも消費税は納付になります。
還付を受ける3つの条件
結論: 課税事業者であること、本則課税であること、そして申告をすること。この3つが揃わなければ還付はありません。
条件1:課税事業者であること
免税事業者は消費税の申告をしないため、還付も受けられません。基準期間の課税売上高が1,000万円以下で免税事業者になっている場合、大きな設備投資を予定していても還付は受けられません。課税事業者選択届出書を提出して、あえて課税事業者になるという選択があります。ただし、この届出は適用を受けようとする課税期間の開始の日の前日までが期限です。投資を決めてから提出しても、その期には間に合いません。
条件2:本則課税であること
簡易課税は、売上に含まれる消費税にみなし仕入率を掛けた額を控除する仕組みです。みなし仕入率は最も高い第一種事業でも90パーセントで、100パーセントを超えることはありません。したがって、控除額が預かった額を上回ることは構造上あり得ません。簡易課税を選んでいる限り、どれだけ投資をしても還付にはならないということです。2割特例や3割特例も同じ構造で、還付にはなりません。
条件3:申告をすること
還付は自動的に行われるものではなく、申告書を提出して初めて手続が始まります。還付になる期は納付がないため、申告を忘れやすい場面でもあります。申告をしなければ、還付を受ける権利があっても実現しません。還付を受けるための申告書には、還付を受けようとする金融機関の口座も記載します。口座の名義が申告する事業者と一致していないと、還付の処理が止まります。法人であれば法人名義、個人事業者であれば本人名義の口座を指定してください。屋号だけの口座は受け付けられないことがあります。
| 立場 | 還付の可否 | 必要な準備 |
|---|---|---|
| 本則課税の課税事業者 | 受けられる | 申告書の提出。付表の作成も必要 |
| 簡易課税を選択している | 受けられない | 2期前までに不適用届出書を提出する |
| 2割特例・3割特例を適用 | 受けられない | 申告のときに本則課税と比べて選ぶ |
| 免税事業者 | 受けられない | 前課税期間の末日までに課税事業者選択届出書 |
届出の期限が結論を決める
結論: 課税事業者選択届出書も、簡易課税制度選択不適用届出書も、適用を受ける課税期間の開始の日の前日が期限です。
期首を過ぎたら間に合わない
投資の話が具体化してから届出を出しても、その期には適用されません。3月決算の会社が翌期に投資をするなら、届出は3月31日までに提出する必要があります。投資の意思決定より、届出の期限のほうが先に来るという関係です。設備の見積りを取る段階で、税務の確認も並行して進めておく必要があります。投資の時期を1か月ずらすだけで、適用される課税期間が変わることもあります。決算期をまたぐ投資では、資産の取得の時期がどちらの期になるかも確認しておく必要があります。
簡易課税をやめるには2年かかることがある
簡易課税を選択した場合、2年間は不適用の届出を提出できません。したがって、簡易課税を選んだ直後に大きな投資が決まっても、すぐには本則課税に戻れないということが起こります。投資の計画があるなら、簡易課税を選ぶ判断そのものを見直す必要があります。届出を出す時点で、2年先までの投資計画を確認しておくことが実務上の備えになります。
新設法人には猶予がある
設立初年度など、基準期間がない事業者については、その課税期間中に届出を提出することが認められています。設立してから判断する時間があるということです。1期目に大きな投資をする予定があるなら、この扱いを使えます。ただし、資本金が1,000万円以上であれば設立初年度から課税事業者になるため、そもそも選択の届出は不要です。
還付の手続と入金まで
結論: 申告書に加えて、還付申告に関する明細書の添付が必要です。入金までには一定の期間がかかります。
添付書類
還付申告を行う場合、消費税の還付申告に関する明細書を添付します。この書類には、還付になった主な理由、課税売上げと課税仕入れの内訳、そして主な取引先などを記載します。還付の理由を説明する資料という位置づけです。設備投資が理由であれば、取得した資産の内容と金額を記載することになります。輸出が理由であれば、輸出取引の内容と相手先を記載します。記載する項目は決まっているので、申告の前に必要な情報を集めておくと作成が早くなります。国税庁のサイトに記載要領が公開されています。
入金までの期間
申告書を提出してから還付金が入金されるまでには、一定の期間がかかります。内容の確認に時間を要する場合はさらに長くなります。資金繰りの計画では、入金の時期に余裕を見ておく必要があります。金額が大きい還付や、初めての還付申告では、税務署から内容についての問い合わせがあることも珍しくありません。問い合わせに対応する期間も含めると、入金までにさらに時間がかかります。還付金を運転資金に組み込む計画は、入金の時期が読めないため避けたほうが安全です。
還付加算金
還付金には、一定の期間に応じた還付加算金が付く場合があります。国税通則法58条に基づくもので、計算の起算日は消費税法52条2項に定められています。還付加算金は雑収入として課税の対象になります。金額が大きくない場合が多いものの、計上を忘れないようにしてください。入金された金額が申告した還付額より多い場合、その差額が還付加算金です。通知書に内訳が記載されているので、そちらで確認できます。
質問を受けることがある
還付申告では、税務署から取引の内容について確認を受けることがあります。とくに金額が大きい場合や、事業の内容から見て還付が生じる理由が明らかでない場合です。契約書、請求書、支払の記録が揃っていれば、説明に時間はかかりません。設備投資の資料は、申告の前に整理しておくと対応が早くなります。問い合わせを受けること自体は珍しいことではなく、還付の内容を確認するための通常の手続です。資料が揃っていれば、実地の調査になることも通常はありません。
還付を受けた後の制限
結論: 課税事業者を選択した場合や、調整対象固定資産を取得した場合には、その後の期間について制限が生じます。
課税事業者選択の2年縛り
課税事業者選択届出書を提出した場合、原則として2年間は免税事業者に戻れません。1期目に還付を受けても、2期目は納付になることが通常です。還付額と2期目の納付額を通算して判断する必要があります。届出を出す前に、2期分の試算をしておくのが確実です。1期目の還付が2期目の納付を上回らなければ、届出を出さないほうがよかったという結果になります。投資の金額が小さい場合は、この逆転が起きやすくなります。
調整対象固定資産の3年縛り
税抜100万円以上の固定資産(調整対象固定資産)を取得し、その期に本則課税で申告した場合、取得した課税期間から3年間は免税事業者に戻れず、簡易課税も選べません。設備投資の還付を受けると、3年間は本則課税が続くということです。この期間の納付額も含めて、投資の判断をすることになります。簡易課税のほうが有利な事業では、3年分の差額が還付額を上回ることもあります。100万円という基準は税抜の金額で判定するため、税込経理でも税抜に直して確認してください。
課税売上割合が著しく変動した場合の調整
調整対象固定資産を取得した後、3年間の通算課税売上割合が取得した期の割合から著しく変動した場合、仕入税額控除の調整が必要になります。還付を受けた金額の一部を、後から納付することになる場合があるという仕組みです。土地の売却などで課税売上割合が大きく下がる予定があるなら、この点も確認しておく必要があります。
還付になる期の資金繰り
結論: 還付金の入金は申告の後になるため、投資の時点では自己資金か借入で賄うことになります。
立替えの期間が生じる
設備を購入した時点では、代金に含まれる消費税も支払っています。この分が戻ってくるのは、決算を終えて申告書を提出した後です。3月決算の会社が4月に投資をすれば、還付を受けるのは翌年の5月以降になります。1年以上の立替えが生じるということです。投資額が大きいほど、この立替えの負担も大きくなります。
借入の金額に織り込む
金融機関から設備資金を借りる場合、消費税相当額も含めた金額で借りるのが通常です。還付金が入金された時点で繰上返済に充てるという計画も立てられます。還付を前提に借入額を減らすと、入金までの期間に資金が不足します。融資の相談では、還付の見込みと入金の時期を説明できるようにしておくと話が早くなります。
課税期間を短縮する選択
立替えの期間を短くしたい場合、課税期間を3か月または1か月に短縮するという方法があります。申告の回数が増える代わりに、還付を受ける時期が早まります。投資の金額が大きく、資金繰りへの影響が明確な場合に検討する制度です。ただし2年間は元に戻せないため、1回限りの投資では負担のほうが大きくなることが多くなります。
還付を早く受けたい場合
結論: 課税期間を3か月または1か月に短縮すると、還付を受ける時期を早められます。ただし申告の回数が増えます。
課税期間の短縮
消費税法19条は、届出により課税期間を3か月ごとまたは1か月ごとに短縮できると定めています。年1回の申告では期末から2か月後にしか申告できませんが、短縮すれば早い時期に申告できます。輸出が中心の事業のように、継続して還付が生じる事業で使われる制度です。設備投資のように1回限りの還付では、事務の負担に見合わないことがほとんどです。
事務の負担が増える
年12回に短縮すれば、毎月申告することになります。集計と申告書の作成が毎月発生するため、経理の負担は確実に増えます。また、いったん短縮すると2年間は元に戻せません。還付を早く受ける利益と、事務の負担を比べるという判断になります。金額が大きく、資金繰りへの影響が明確な場合に検討する制度です。輸出の割合が高い事業では、毎期還付が続くため短縮の効果が積み上がります。逆に、単発の設備投資では1回の効果しかないため、2年分の事務負担に見合わないことがほとんどです。
誤解しやすい3つの点
結論: 赤字なら還付になる、消費税を多く払えば戻る、還付は必ず有利。この3つが典型的な誤解です。
赤字と還付は別のもの
会計上の赤字と、消費税の計算は別の話です。人件費が大きくて赤字になっている会社では、消費税は納付になります。人件費に消費税が含まれていないためです。赤字の理由が何かによって、消費税の結論は変わります。仕入や外注が大きくて赤字になっているなら、還付になることもあります。決算書の利益だけを見ても、消費税の見込みは立ちません。
支出を増やしても戻るわけではない
還付の材料になるのは、消費税がかかっている支出だけです。しかも、支出した消費税がそのまま戻るわけではなく、預かった消費税を差し引いた残りが還付されます。100万円の消費税を払っても、90万円を預かっていれば還付は10万円です。支出を増やせば増やすほど戻るという構造ではありません。設備投資で還付になるのは、その期だけ支出が突出して大きくなるためです。通常の営業活動の範囲で支出を増やしても、売上も一緒に動くため還付には届きません。
還付を受けると制限が続く
還付を受けるために課税事業者を選択したり、本則課税で申告したりすると、その後2年から3年の制限が生じます。この期間は免税に戻れず、簡易課税も選べません。1期目の還付だけを見ると、通算では不利になることがあります。判断には、制限の期間全体を通した試算が必要です。簡易課税のほうが有利な事業では、この逆転が起きやすくなります。投資の金額と、3年分の納付額の差を並べて比べてください。
事例:簡易課税のまま投資を進めていた会社
飲食業を営む会社から、2店舗目の出店についてご相談をいただきました。内装と厨房設備で約3,000万円の投資を予定されていました。
前々期に簡易課税を選択されていました。
投資の期も簡易課税が続く状態でした。
簡易課税では還付を受けられません。本則課税であれば、消費税相当額のうち一定額が還付の対象になり得た計算です。届出の期限は投資を決める前に過ぎていました。
対応として、出店の時期を翌々期に後ろ倒しすることも検討しましたが、物件の契約が先に進んでいたため変更できませんでした。結果として、この期は簡易課税のまま申告しています。
投資の意思決定より前に、消費税の計算方法を確認していれば結論が変わったという事例です。現在は、大きな支出の計画が出た段階で税務の確認を入れる運用にしています。設備の見積りを取る段階と同じタイミングで確認すれば、届出の期限にも間に合います。
よくある質問
消費税の還付はどんなときに受けられますか?
赤字なら還付になりますか?
簡易課税でも還付を受けられますか?
免税事業者が還付を受ける方法はありますか?
還付金はいつ入金されますか?
還付を受けた後に制限はありますか?
まとめ:投資を決める前に計算方法を確認する
消費税の還付を受けられるのは、本則課税で申告する課税事業者に限られます。簡易課税では構造上還付になりませんし、免税事業者は申告をしないため還付もありません。
そして、この状態を作るための届出は適用を受ける課税期間の開始の日の前日が期限です。投資の話が具体化してから動いても、その期には間に合いません。設備の見積りを取る段階で、税務の確認も並行して進めてください。
赤字だから還付になるわけではないという点も、押さえておく必要があります。人件費や社会保険料は課税仕入れに当たらないため、いくら支出しても控除の材料にはなりません。還付の材料になるのは、消費税がかかっている支出だけです。
還付を受けた後には制限が続きます。課税事業者を選択すれば原則2年間、調整対象固定資産を取得すれば3年間、免税に戻れず簡易課税も選べません。還付額だけを見ず、その後の納付額まで通算して判断することが必要です。
還付を早く受けたい場合は課税期間の短縮という制度もありますが、申告の回数が増え、2年間は元に戻せません。継続して還付が生じる事業以外では、事務の負担に見合わないことがほとんどです。
税理士法人Light UPでは、設備投資の前の消費税の確認と、還付申告の手続についてのご相談を承っています。お気軽にお問い合わせください。
出典
- e-Gov 法令検索「消費税法」(昭和六十三年法律第百八号)第9条、第19条、第30条、第33条、第37条、第52条
- e-Gov 法令検索「国税通則法」(昭和三十七年法律第六十六号)第58条
- 国税庁「消費税の還付申告に関する明細書の記載要領等」
- 国税庁「消費税のあらまし」




