自社株評価の考え方|非上場株式の評価方法と2026年の見直し議論
監修税理士法人Light UP 代表社員(税理士) 中村 清誉
「うちの株が一株いくらなのか、考えたこともなかった」「顧問税理士に試算してもらったら、想像の何倍もの金額が出てきて驚いた」――事業承継のご相談は、この2つのどちらかから始まることがほとんどです。
結論からお伝えすると、非上場会社の株式には市場価格がないため、相続税・贈与税の計算では国税庁の財産評価基本通達に沿って評価額を算定します。そして評価額は、会社の実力そのものよりも、株主の立場・会社の規模区分・資産の中身という3つの判定でほぼ決まります。
税理士法人Light UPでは、自社株評価は事業承継の準備というより、まず経営の現在地を測る作業だと考えています。評価額は毎期の決算の積み上げで動くため、承継を決めてから測り始めても、そのときにはもう手が限られているからです。
この記事では、評価の全体の流れ、3つの評価方式の中身、規模区分の判定基準、そして2026年に国税庁で進んでいる評価方式の見直し議論までを、通達と公表資料をたどりながら整理します。
自社株の評価額が経営に関わってくる場面
結論: 自社株の評価額が要るのは相続・贈与の申告のときだけではありません。納税資金の見積もり、株式の買い取り、後継者への移転方法の比較まで、経営判断の前提として必要になります。
相続・贈与の税額の基礎になる
後継者へ株式を移すとき、贈与税や相続税は移した株式の評価額をもとに計算されます。会社の業績がよいほど評価額は上がりやすいため、経営がうまくいっているほど承継時の負担が重くなるという構造があります。
これは制度の欠陥というより、株式が財産である以上避けられない性質です。ただし、この構造を承継の直前に知るのと、10年前に知っておくのとでは、打てる手の幅がまったく違います。
納税資金と換金性のずれ
自社株は、上場株式のように市場で売れません。相続で株式を取得した後継者は、現金化できない財産に対して現金で納税を求められる立場に置かれます。
「株はもらったけれど、税金を払うお金がない」というご相談は珍しくありません。評価額を早めに把握しておく意味は、税負担を軽くするためというより、この資金のずれを事前に見つけるためだと言えます。
買い取りや分散の整理でも要る。後継者を決める前でも測る意味
先代のきょうだいや、退職した役員が少数株を持ったままになっている会社は少なくありません。この株を会社や後継者が買い取るとき、価格の目安として税務上の評価額が使われます。
買い取る相手が誰かによって適用される評価方式が変わり、結果として価格の水準も変わります。同じ会社の同じ株式でも、誰から誰へ動くかで金額が変わるというのが、自社株評価のいちばん理解しにくい部分です。
後継者が決まっていないうちは評価しても仕方がない、と思われる方もいます。ただ実務では逆で、評価額が分かったことで承継の方法そのものが変わることがよくあります。
株式をそのまま渡すのか、持株会社をはさむのか、第三者への譲渡も選択肢に入れるのか。この判断の材料になるのが評価額です。
評価は3つの判定を順に通して決まる
結論: 自社株の評価は、①株式を取得した株主の立場 ②会社の規模区分 ③特定の評価会社に当たるかどうか、という3つの判定を順に通して評価方式が決まります。金額の計算はその後です。
判定1|株式を取得した株主の立場
最初に見るのは、その株式を取得した人が経営を支配する側の株主かどうかです。会社を支配する同族株主等が取得した株式は原則的評価方式で、配当を受け取ることが主な立場の少数株主が取得した株式は特例的評価方式(配当還元方式)で評価します。
ここで押さえておきたいのは、評価するのは会社ではなく、取得した株式だということです。同じ会社の株式でも、取得した人の立場が違えば評価方式が変わります。
判定2|会社の規模区分/判定3|特定の評価会社かどうか
原則的評価方式に進んだ場合、次に会社を大会社・中会社・小会社に区分します。区分は総資産価額・従業員数・取引金額で決まり、規模が大きいほど上場会社に近い評価方法が適用されます。
資産の保有状況が偏っている会社や、開業間もない会社は、規模区分にかかわらず別の扱いになります。株式や土地に著しく偏った会社は、上場会社と比べる前提を欠くと整理されているためです。
判定の順番を取り違えたときに起きること
実務で混乱が起きるのは、この順番を飛ばしたときです。規模区分から先に考えてしまい、実は配当還元方式が適用される株主だった、あるいは特定の評価会社に該当していた、という取り違えが起こります。
- 取得者の立場を確認する:株主名簿と議決権の状況を先に固める
- 会社の規模を判定する:直前期末の決算書と従業員数を使う
- 特定の評価会社かどうかを見る:資産の中身の割合を確かめる
この順で通してはじめて、どの算式を使うかが決まります。
株主の立場で分かれる原則的評価と配当還元
結論: 同族株主等かどうかは議決権割合で判定します。基準は30%以上、支配的なグループがある会社では50%超です。この線の内側か外側かで、適用される評価方式そのものが変わります。
同族株主にあたる30%と50%超の線
国税庁の財産評価基本通達188は、同族株主を、株主の1人とその同族関係者の議決権の合計数が「その会社の議決権総数の30%以上(……最も多いグループの有する議決権の合計数が、その会社の議決権総数の50%超である会社にあっては、50%超)」である場合のその株主および同族関係者と定めています。
言い換えると、誰か1つのグループが過半数を握っている会社では、その過半数グループだけが同族株主です。そこまでの支配的なグループがない会社では、30%以上を持つグループが同族株主になります。
中心的な同族株主と5%未満の例外。同族株主のいない会社の15%の線
同族株主に該当しても、原則的評価方式にならない場合があります。中心的な同族株主がいる会社で、その中心から外れた同族株主が、取得後の議決権が5%未満で、かつ役員でもないときです。
中心的な同族株主は、本人・配偶者・直系血族・兄弟姉妹・1親等の姻族の議決権の合計が25%以上である株主を指します。おじ・おば・いとこは含まれない点が、家族の感覚とずれやすいところです。
創業から時間が経ち、株式が広く分散した会社では、30%以上を持つグループが存在しないことがあります。この場合は15%が基準になり、株主の1人と同族関係者の議決権の合計が15%未満であれば配当還元方式で評価します。
議決権を数えるときの落とし穴
判定は持株数ではなく議決権の数で行います。自己株式の議決権は0として数え、種類株式については株主総会の一部の事項について議決権を行使できない株式の議決権を含めて数えます。
種類株式を導入している会社では、この数え方ひとつで判定が動きます。定款と株主名簿を突き合わせないまま持株比率だけで判断すると、結論を誤ります。
会社規模の判定基準|大会社・中会社・小会社
結論: 規模区分は従業員数70人以上なら無条件で大会社、70人未満は総資産価額と従業員数の組み合わせ、または取引金額のいずれか上位の区分で判定します。業種は3つに分けて基準が変わります。
従業員数70人以上という一本の線
財産評価基本通達178は、大会社を「従業員数が70人以上の会社又は右のいずれかに該当する会社」と定めています。70人以上であれば、総資産や売上を見るまでもなく大会社です。
この70人という基準は平成29年の改正で100人から引き下げられたもので、それ以前は100人が線でした。古い解説記事が残っているため、実務では改正後の数字かどうかを確認する必要があります。
従業員数の数え方と、総資産価額・従業員数と取引金額による区分
従業員数は単純な頭数ではありません。直前期末以前1年間を通じて継続勤務していた従業員(週の所定労働時間が30時間未満の人を除く)の数に、それ以外の従業員の年間労働時間の合計を1,800時間で割った数を加えて求めます。
社長・理事長と一定の役員は従業員に含みません。パート比率の高い小売業やサービス業では、この計算で区分が変わることがあります。
70人未満の会社は、次の表で判定します。総資産価額と従業員数による区分と、取引金額による区分のいずれか上位のほうが採用されます。
| 区分 | 業種 | 総資産価額(帳簿価額)と従業員数 | 直前期末以前1年間の取引金額 |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 卸売業 | 20億円以上(従業員35人以下を除く) | 30億円以上 |
| 大会社 | 小売・サービス業 | 15億円以上(従業員35人以下を除く) | 20億円以上 |
| 大会社 | それ以外 | 15億円以上(従業員35人以下を除く) | 15億円以上 |
| 中会社 | 卸売業 | 7,000万円以上(従業員5人以下を除く) | 2億円以上30億円未満 |
| 中会社 | 小売・サービス業 | 4,000万円以上(従業員5人以下を除く) | 6,000万円以上20億円未満 |
| 中会社 | それ以外 | 5,000万円以上(従業員5人以下を除く) | 8,000万円以上15億円未満 |
| 小会社 | 卸売業 | 7,000万円未満または従業員5人以下 | 2億円未満 |
| 小会社 | 小売・サービス業 | 4,000万円未満または従業員5人以下 | 6,000万円未満 |
| 小会社 | それ以外 | 5,000万円未満または従業員5人以下 | 8,000万円未満 |
出典:国税庁 財産評価基本通達178(取引相場のない株式の評価上の区分)
業種を3つに分ける判定
卸売業・小売サービス業・それ以外の判定は、直前期末以前1年間の取引金額で行います。複数の業種にまたがる場合は、取引金額がいちばん多い業種で判定します。
同じ規模でも卸売業は基準額が高く設定されています。売上に対して利益率が低い商流を織り込んだ設計だと考えてください。
卸売業、小売・サービス業、それ以外です。
規模区分ごとの評価方式とLの割合
結論: 大会社は類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両者の併用です。中会社のLの割合は0.90・0.75・0.60の3段階で、規模が大きいほど類似業種比準方式の比重が高くなります。
大会社と小会社の扱いと、中会社のLの割合
大会社の株式は類似業種比準価額で評価しますが、納税義務者の選択で純資産価額によることもできます。小会社は逆に純資産価額が原則で、選択によりLを0.50とした併用方式も使えます。
つまりどちらの規模でも、有利なほうを選べる余地があるという設計になっています。ただし選択できるのは方式であって、算定した数字ではありません。
中会社は、類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L)で計算します。Lは総資産価額と従業員数に応ずる割合、取引金額に応ずる割合のうち、いずれか大きいほうを使います。
| Lの割合 | 卸売業(取引金額) | 小売・サービス業(取引金額) | それ以外(取引金額) |
|---|---|---|---|
| 0.90 | 7億円以上30億円未満 | 5億円以上20億円未満 | 4億円以上15億円未満 |
| 0.75 | 3億5,000万円以上7億円未満 | 2億5,000万円以上5億円未満 | 2億円以上4億円未満 |
| 0.60 | 2億円以上3億5,000万円未満 | 6,000万円以上2億5,000万円未満 | 8,000万円以上2億円未満 |
出典:国税庁 財産評価基本通達179(取引相場のない株式の評価の原則)
規模がひとつ動くと評価額も動く。区分は年によって入れ替わる
Lが0.60から0.75に上がるということは、評価額のうち類似業種比準価額が占める部分が15ポイント増えるということです。一般に類似業種比準価額は純資産価額より低く算定されるため、区分がひとつ変わると評価額の水準も変わります。
この構造が、後で触れる制度見直しの議論で問題として指摘されている部分でもあります。
決算期末の総資産や、たまたま計上した売上によって区分が入れ替わることがあります。実務では、直前期の数字だけでなく数期分を並べて、区分の安定性を見ておくほうが安全です。
類似業種比準方式の中身
結論: 上場会社の平均株価に、自社の配当・利益・簿価純資産を比べた倍率を掛け、さらに規模別のしんしゃく率を掛けて算定します。しんしゃく率は大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5です。
3つの比準要素
比べるのは、1株当たりの配当金額・利益金額・簿価純資産価額の3つです。それぞれ類似業種の数字で割った倍率を出し、3つの平均をとります。
配当は直前期末以前2年間の平均で、将来毎期継続すると予想できない特別配当・記念配当は除きます。利益は直前期1年の法人税の課税所得金額を基礎とし、固定資産売却益や保険差益といった非経常的な利益は除きます。納税義務者の選択で2年平均によることもできます。
類似業種の株価の選び方と、しんしゃく率
類似業種の株価は、課税時期の属する月以前3か月間の各月の株価のうち最も低いものを使います。納税義務者の選択で、前年平均株価や課税時期の属する月以前2年間の平均株価を使うこともできます。
低いほうを選べる仕組みになっているのは、通達に求められる評価の安全性の考え方によるものです。国税庁は有識者会議の資料で、通達による評価額が時価を上回らないことが必要であり、その結果「やや固め(低め)になるような評価額とならざるを得ない」と説明しています。
3つの比準要素の平均に類似業種の平均株価を掛けたあと、最後にしんしゃく率を掛けます。大会社は0.7、中会社は0.6、小会社は0.5です。
上場会社と非上場会社では、株式の流通性も情報開示の水準も違います。その差を割り引く趣旨で置かれた係数だと理解してください。
業種目の判定
比べる相手となる業種目は、大分類・中分類・小分類に区分されており、取引金額に基づいて判定します。国税庁が毎年、業種目別の1株当たりの配当金額・利益金額・簿価純資産価額と株価を法令解釈通達として公表しています。
複数の事業を持つ会社では判定がややこしくなります。ひとつの業種目の割合が50%を超えない場合の扱いまで通達に定めがあり、機械的に決まるわけではありません。
純資産価額方式の中身
結論: 会社の資産をすべて相続税評価額に洗い替え、負債と評価差額に対する法人税額等相当額を引いて発行済株式数で割ります。会社を清算したときに株主に残る金額に近い考え方です。
相続税評価額への洗い替えと、3年以内に取得した土地・建物の扱い
帳簿価額をそのまま使うのではなく、課税時期における各資産を相続税評価額に評価し直します。土地は路線価、上場株式は課税時期の最終価格といった具合に、資産の種類ごとに評価します。
長く保有している不動産があると、この洗い替えで含み益が表に出ます。帳簿では小さく見えていた会社が、評価してみると大きくなるのはこの段階です。
課税時期前3年以内に取得または新築した土地等・家屋等は、路線価等ではなく課税時期における通常の取引価額で評価します。取得直後の不動産で評価額を圧縮する動きを封じるための定めです。
帳簿価額が通常の取引価額に相当すると認められる場合は、帳簿価額によることもできます。
負債に入るもの・入らないもの
引当金と準備金の扱いは注意が要ります。貸倒引当金・退職給与引当金・納税引当金その他の引当金および準備金に相当する金額は、負債に含めません。
一方、課税時期の属する事業年度の法人税額・消費税額・事業税額・住民税額のうち期首から課税時期までに対応する未払分、課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税の未払分、被相続人の死亡により支給が確定した退職手当金は負債に含めます。
評価差額に対する法人税額等相当額と、議決権50%以下のグループの80%評価
相続税評価額による純資産と、帳簿価額による純資産との差額に38%を掛けた金額を控除します。この38%は、法人税(地方法人税および防衛特別法人税を含む)・事業税(特別法人事業税を含む)・道府県民税・市町村民税の税率の合計に相当する割合として定められているものです。
この38%は最近改められた数字です。令和7年度税制改正で防衛特別法人税が創設され、割合の根拠になる税率が変わったため、国税庁は37%から38%に引き上げました。37%が長く続いていたので、古い解説や過去に作った試算表がそのまま残っていることがあります。
適用は令和8年(2026年)4月1日以後です。この日以後に相続・遺贈・贈与で取得した取引相場のない株式等の評価から38%を使い、それより前に取得したものは37%で計算します。個別の税率を積み上げた合計は37.7316%で、これを38%に丸めた割合です。
出典:国税庁 資産評価企画官情報第1号・資産課税課情報第4号(令和8年3月25日)取引相場のない株式等の評価(純資産価額方式における法人税額等相当額)
含み益をそのまま株主の財産と見るのではなく、実際に売却すれば法人段階で課税される分を差し引くという考え方です。
株式の取得者とその同族関係者の議決権の合計数が、評価会社の議決権総数の50%以下である場合には、算定した1株当たりの純資産価額に100分の80を掛けた金額とします。
会社を自由に動かせない立場を織り込んだ調整です。中会社・小会社の併用方式の計算に組み込まれる純資産価額にも適用されます。
配当還元方式の中身
結論: 1年間の配当金額を10%の還元率で割り戻して評価します。少数株主にとっての株式の意味は配当を受け取ることにある、という考え方に立った特例的な評価方式です。
還元率10%という計算、無配でも2円50銭、原則的評価額の頭打ち
年配当金額を10%で割り、1株当たりの資本金等の額の50円に対する倍数を掛けます。この10%という還元率は、通達が制定された昭和39年当時の金利水準に安全率などを考慮して定められたものです。
配当を出していない会社でも、年配当金額は2円50銭として計算します。1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の金額としての下限です。
無配の同族会社が多いことを踏まえた割り切りですが、資本金が大きい会社ほど実態と離れた低い株価が出るという指摘もあります。
配当還元方式で計算した金額が、原則的評価方式で計算した金額を超える場合は、原則的評価方式の金額で評価します。特例が本則を上回ることはない、という設計です。
特定の評価会社に当たると結論が変わる
結論: 資産の中身が株式や土地に著しく偏った会社、開業後3年未満の会社などは、規模区分にかかわらず原則として純資産価額方式で評価します。類似業種比準方式の前提を欠くという整理です。
株式等保有特定会社と土地保有特定会社、比準要素数1の会社
総資産に占める株式等の割合が50%以上の会社は株式等保有特定会社、土地等の割合が大会社で70%以上・中会社で90%以上の会社は土地保有特定会社に当たります。
持株会社化や不動産管理会社の設立を検討する場面では、この基準に触れるかどうかが設計の分かれ目になります。
配当・利益・簿価純資産の3つの比準要素のうち、直前期末で2つがゼロであるなど、比べる材料が半分以上ない会社も特定の評価会社に含まれます。
赤字が続くと評価額が下がるとは限らないのはこのためです。利益がゼロになったことで比準要素数1の会社に該当し、かえって純資産価額での評価に寄る場合があります。
開業後3年未満の会社・休業中の会社
設立から日が浅い会社は、比べる材料となる配当や利益の実績が積み上がっていません。開業前や休業中の会社も同様で、清算中の会社は清算分配見込額の現在価値で評価します。
いずれも純資産価額方式で評価します。類似業種比準方式は使えません。設立して間もない会社を承継する場合は、この点を先に確かめることです。時期をずらすだけで結論が変わります。
評価額を動かす財務の要素
結論: 評価額を動かすのは利益・純資産・配当の3つです。どれも決算の積み上げで決まるため、承継の直前に急に動かせるものではありません。
利益の水準
類似業種比準方式の3要素のうち、利益は平成12年の改正で比重が高められた時期があり、平成29年の改正で3要素が同じ比重に戻りました。現行では配当・利益・簿価純資産を等しく扱います。
利益が伸びれば類似業種比準価額は上がります。業績のよい年に承継すると評価額も高くなる、という単純な事実は押さえておく必要があります。
純資産と含み益、配当の実績
純資産価額方式では、含み益がそのまま評価額に反映されます。長く保有してきた本社土地や社宅、値上がりした有価証券を持つ会社は、帳簿の印象と評価額が大きく離れます。
純資産と配当も、比準要素として結果に関わります。
配当は比準要素のひとつですが、実務では多くの同族会社が無配です。この点は後述する見直し議論でも取り上げられています。
あわせて考えたい役員退職金との関係
先代の退任にあわせて役員退職金を支給すると、その期の利益と純資産の双方が減ります。結果として評価額が下がる方向に働きますが、金額が過大と判断されれば損金算入が否認されるおそれがあります。
株価の水準そのものへの向き合い方は、別の記事で整理しています。
支給した期は利益と純資産の両方が下がります。評価が下がる年として使える場面です。
2026年に進んでいる評価方式の見直し議論
結論: 会計検査院の指摘を受け、国税庁は2026年4月から有識者会議で評価方式の見直しを検討しています。評価方式の一本化まで論点に上がっており、現行の枠組みが今後も前提とは限りません。
会計検査院が指摘したこと
会計検査院は令和5年度決算検査報告で、相続税・贈与税の申告から無作為抽出した1,600件を検査し、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の27.2%にとどまっていることを示しました。
そのうえで、規模の違う会社の株式を取得した人の間で「株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえない」と指摘しています。配当還元方式の還元率10%についても、金利が長期的に低下するなかで見直されていない点を挙げています。
国税庁の実態把握で分かったこと
国税庁は指摘を受け、令和4年分・令和5年分の申告から700社を抽出して同じ分析を行いました。類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の約26.1%となり、検査院の指摘と同じ傾向が確認されています。
規模別に見た純資産価額に対する申告評価額の割合の中央値は、大会社0.44倍・中会社0.50倍・小会社0.60倍でした。規模が大きい会社ほど評価額が相対的に低く出るという傾向です。
さらに、対象700社のうち577社(82.4%)が直前2期に配当をまったく支払っていませんでした。配当が比準要素として機能していないのではないか、という論点につながっています。
有識者会議で挙がっている論点
国税庁は2026年4月20日に第1回の有識者会議を開き、5月11日、6月4日、7月3日と会議を重ねています。第1回の資料では、複数の評価方式が併存する体系そのものについて「評価方式間における評価額のかい離が、異なる規模の評価会社間における相対的な不公平、評価額の恣意的な操作による租税回避スキームを招いている」と整理されました。
第4回では、当局から次のような検討事項が示されています。
- 抜本的な見直しを視野に入れること:企業価値評価の学術研究やM&Aでの評価方法も参考にする
- 評価方式の一本化を検討すること:現在の3方式が併存する体系を改めるかどうか
- 純資産価額方式の位置づけ:基本的な評価方式として維持するのか、特定の評価会社向けに絞るのか
- 配当還元方式の整理:還元率だけでなく、適用される株主の範囲そのものを見直すか
委員からは、原則的評価方式をインカムアプローチに一本化すべきという意見と、類似業種比準方式は簡便性の点で優れ事業承継を支えてきた経緯があるため見直しには慎重であるべきという意見の両方が出ています。
背景にある評価通達6項の問題
現行では、行き過ぎた評価額の圧縮に対して財産評価基本通達6項で個別に対応せざるを得ない状況があります。6項は「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めるものです。
国税庁の資料によると、6項の適用件数は平成27年から令和6年までの10年間で27件、うち株式に関するものが14件でした。件数としては多くありませんが、どういう場合に適用されるのかが読みにくく、納税者の予測可能性を損なうという批判が業界団体から出ています。
いま経営者にできること
現時点で、見直しの結論も時期も公表されていません。したがって、将来の制度を前提に承継の時期を決めるのは現実的ではないと考えています。
一方で、次の2つはいま進めておいて損がありません。ひとつは現行方式での評価額を把握しておくこと。もうひとつは、株主構成や名義の乱れといった、どの方式になっても足を引っ張る論点を先に片づけておくことです。
評価の前に片づけておきたい実務の論点
結論: 名義株の未整理、株主名簿と登記の不一致、種類株式の設計は、評価そのものより前の問題です。ここが未整理のまま評価しても、その数字は使えません。
名義株が残っている場合と、株主名簿と登記・申告書の不一致
かつての商法で発起人が7人必要だった時代の名残で、実質はオーナー一族のものなのに、名義が他人のままになっている株式が残っている会社があります。
評価の前提となる株主構成が確定していないため、判定そのものが宙に浮きます。承継の直前に名義人の相続が発生すると、話し合いの相手が増えて解決が難しくなります。
株主名簿、法人税申告書別表二の同族会社等の判定に関する明細書、株主総会議事録の3つが食い違っている会社は珍しくありません。過去の贈与が名簿に反映されていない、といった例です。
評価を依頼する前に、この3つを突き合わせておくと作業が早く進みます。
種類株式と議決権の設計
無議決権株式や拒否権付株式を使えば、議決権と財産権を分けて承継できます。ただし議決権の割合は評価方式の判定に直結するため、設計次第で評価方式そのものが変わります。
有識者会議では、無議決権株式を使って配当還元方式の適用対象を作り出す動きが、対応すべき論点として取り上げられています。制度が見直される可能性を踏まえると、極端な設計は慎重に考えるほうがよいでしょう。
株式が分散したままの承継
株式が親族に広く分散したまま相続が起きると、後継者の議決権が過半数に届かず、経営の意思決定が滞ることがあります。遺留分の問題ともつながる論点です。
少数株主が残っていると、評価の方式そのものが分かれます。後継者に集めるのか、配当還元方式のまま残すのか。承継の設計と評価は、切り離せません。先に株主構成を決めることです。
評価を依頼するときに用意する資料
結論: 決算書・法人税申告書・株主名簿・資産の明細の4点が基本です。とくに土地と有価証券の明細、生命保険の解約返戻金の資料は、純資産価額の算定で必ず要ります。
決算書と法人税申告書、株主名簿と議決権の資料
直前期を含む3期分の決算書と法人税申告書を用意します。申告書は別表二(同族会社等の判定)、別表四、別表五(一)まで含めた一式が必要です。
比準要素の計算では、課税所得金額や利益積立金額といった申告書上の数字を直接使うためです。
株主名簿に加え、定款、株主総会議事録、種類株式を発行している場合はその内容が分かる資料をそろえます。
資産の明細
純資産価額の算定では、資産をひとつずつ相続税評価額に洗い替えます。土地の登記事項証明書と公図、建物の固定資産税評価額が分かる資料、有価証券の明細、生命保険の解約返戻金相当額の証明などが必要です。
見落とされやすいのは、簿価がゼロになっている資産です。償却が終わった機械や、古くから持っている借地権も評価の対象になります。
準備にかかる期間
資料が整っている会社なら数週間、名義株や資料の欠落がある会社では数か月かかることもあります。相続が起きてからでは、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月という相続税の申告期限に追われることになります。
資料がそろっていれば2週間ほど、そろっていなければ数か月かかります。早めに依頼しておくことです。
自社株評価にまつわるご相談事例
製造業|工場の土地で評価額が跳ね上がった例
「毎年ぎりぎりの利益でやってきたので、株の評価も大したことはないはず」というご相談をいただきました。ところが試算してみると、40年前に取得した工場用地の含み益が純資産価額を押し上げていました。
利益が小さいため類似業種比準価額は低く出ますが、規模区分が小会社だったため純資産価額の比重が高く、結果として評価額は経営者の想定を大きく上回りました。ここから、後継者への移転をどの時期にどの方法で行うかの検討を始めています。
不動産賃貸業|特定の評価会社に該当していた例
賃貸用不動産の保有比率が高く、土地保有特定会社に該当していたケースです。規模区分では中会社でしたが、類似業種比準方式は使えず純資産価額方式のみでの評価となりました。
進め方はこうです。
- 資産構成の割合を確認する:土地等が総資産に占める割合を直前期末で算定
- 判定の安定性を見る:数期分を並べ、割合が基準の前後で動いていないかを確認
- 選択肢を並べる:事業内容の見直しか、承継方法の変更か、どちらの筋があるかを比較
特定の評価会社に当たるかどうかは課税時期の一時点で見るため、判定が年によって動く会社では継続的な確認が必要になります。
調剤薬局|株主名簿の整理から始めた例
創業時に親族3名の名義で株式を発行し、そのままになっていた会社です。名義人のうち1名がすでに亡くなっており、相続人が誰なのかを確認するところから始まりました。
評価額の試算より先に、株主が誰かを確定させる作業に半年ほどかかりました。「株の値段を知りたかっただけなのに」と当初は驚かれましたが、この整理を先にしたことで、その後の承継の設計がぶれずに進んでいます。
建設業|業績のよい年に慌てて動かなかった例
大型工事が重なって利益が跳ねた期の直後にご相談をいただきました。この年の数字で評価すると類似業種比準価額が高く出ることが分かり、承継のタイミングを見直しています。
急いで対策商品に手を出すのではなく、まず数期分の推移を並べて自社の平常時の水準を確かめる。地味ですが、この順番を守るほうが結果として選択肢が広がります。
よくある質問
自社株の評価は誰が計算してくれますか?
評価額は毎年変わるものですか?
赤字なら評価額は下がりますか?
会社の規模区分は自分で調べられますか?
評価方式の見直しはいつ決まりますか?
評価額が高いと分かったら、まず何をすればよいですか?
まとめ:評価額は測ってはじめて選択肢になる
- 非上場株式には市場価格がないため、財産評価基本通達に沿って評価します。株主の立場・会社の規模区分・特定の評価会社に当たるかの3つの判定で方式が決まります
- 規模区分は従業員数70人以上なら大会社、それ未満は総資産価額と従業員数、または取引金額のいずれか上位の区分で判定します
- 類似業種比準方式は大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5のしんしゃく率を掛けます。純資産価額方式では評価差額に38%を掛けた法人税額等相当額を控除します。38%は令和8年4月1日以後に取得した株式からで、それより前は37%です
- 赤字でも評価額が下がるとは限りません。比準要素が欠けると特定の評価会社に該当し、純資産価額での評価に寄ることがあります
- 2026年4月から国税庁の有識者会議で評価方式の見直しが検討されています。評価方式の一本化まで論点に上がっており、結論は出ていません
優先順位をつけるなら、最初にやることは対策ではなく測定です。評価額と納税資金の見込みが数字で出てはじめて、どの手が自社に必要かを比べられるようになります。
逆に、やらないほうがよいこともあります。評価額を下げること自体を目的にして、事業に関係のない資産を買い込むような動きです。制度の見直しが議論されている局面では、なおさら慎重に考えたいところです。
自社株評価は、承継の話が具体化してから始めるとどうしても時間が足りません。税理士法人Light UPでは、後継者がまだ決まっていない段階からのご相談も承っています。まずは現在の評価額と、そこから見える課題を一緒に確認するところから始めませんか。





